開演時刻になると、画面が楽屋の鏡の前に座る白いポロシャツ姿の向井太一を映し出す。そして立ち上がり、歩いてステージへ。そこにはバンドメンバーがグルーヴィーなサウンドを鳴らしている――そんな、舞台裏を映したシーンからスタートした向井太一のオンラインライブ「Release Live -Supplement-」。天井を見上げ集中力を高めると、最初に歌われたのは最新EP『Supplement』から「僕のままで」だ。目一杯力を込めながら歌い上げる視線の先には無人のフロア。だがその迫力と熱量は、画面越しに確かに伝わってくる。ストリングスにコーラス、厚みのあるサウンドがスケール大きく広がり、楽曲に込められたポジティブなメッセージをますます力強く届けてくる。歌い終えると深々と一礼。「向井太一です、楽しんでいきましょう！」と短い挨拶を済ませると、EPの曲順どおり、「Comin’ up」へ。セクシーで滑らかなグルーヴがZepp Hanedaの空気を気持ちよく揺らしていくのが見えるようだ。

　そこから「FLY」。高音と低音を自在に行き来しながら、リズムに心地よさそうに体を委ねる向井。久々にステージに立って歌うということもあり、その表情はなによりもこうして歌うことができる喜びに満ちている。額や首筋に光る汗が、このライブにかける彼の思いを物語るようだ。コシのあるグルーヴに乗せたメロウなラブソング「Ooh Baby」をムーディに歌い終えると、続く「Just Friends」ではカメラに向かって語りかけるように歌う。

　ここまでで新作の楽曲をすべて披露したことになるが、「改めましてこんばんは、向井太一です！　まだまだ続きますので最後まで楽しんでいってください！」と画面の向こうに語りかける向井。「Clap your hands！」と手拍子をいざなう。腰をくねらせながらパワフルに歌うソウルナンバー「YELLOW」からアーバンなジャズファンクチューン「Great Yard」へとシームレスにつなげ、一気にテンションを高めると、一転してオレンジ色の背景の前に移動して静かに歌い始めたのは「Blue」。しっとりとしたパーソナルな空気を醸し出すと、そのまま親密な雰囲気とともに歌いかける「Gimme」へ。向井太一という表現者の振れ幅の広さと懐の深さ、つまりハイパーでカッティングエッジなポップアーティストとしての姿と、自分自身と向き合い楽曲を紡ぎ続けるシンガーソングライターとしての姿が、こうした演出によって普通のライブ以上に浮かび上がってくるような気がする。

　今回のオンラインライブは新作のリリースパーティということで、「本当はイベントをやりたかったんですけど……」と悔しさをにじませながらも、「何か特別なことができないかなということで、新曲を持ってきました」という言葉ととともに披露されたのは「Love Is Life」という楽曲。ホーンが高らかに鳴り響くイントロから、明るく伸びやかなメロディがとても気持ちいい曲だ。歌詞に描かれるのはタイトルからもわかるとおり恋心だが、そこにも希望が溢れている。間違いなく、アルバム『SAVAGE』とそのツアー、そしてそのリアクションとしての『Supplement』を経た、今の向井だからこそ生み出せたニューモードの1曲だ。そこから流れ込んだ「FREER」でさらにドープなファンクネスをぶち上げると、暗闇のなか青白いスポットライトに照らされて「Break up」へ。流れるようなグルーヴに乗せて体を揺らし、ファルセットを響かせる。

　「眠らない街」を経て、いよいよライブはクライマックスへ。ここで投下されたのがライブの鉄板ナンバーであり、シンガロングを巻き起こす「I Like It」である。表現者としての自負と信念がブライトなメロディに形を変えて広がっていく。「みなさん、まだまだついてきてくれますか？」という向井の言葉に、コメント欄は大盛りあがり。コール＆レスポンスにも文字で応える人が続出。ライブは向井太一とファンのコミュニケーションの場だが、オンラインライブでもその絆はしっかりとつながっていることが、目に見えてわかる。これまで数々のライブで向井自身が体感したその“つながり”が、今無観客の会場でバンドとともに音楽を奏でる彼の背骨となっている。伝わっている、届いているという実感と自信が、この堂々としたパフォーマンスを生んでいるのだろう。

　そして「リセット」から、こちらもライブのハイライトとなり続けてきた楽曲「空」へ。アーティストとしての向井自身の強い思いが込められたこの曲のメッセージが、距離を越えて届いてくる。「everything’s gonna be alright」――ボブ・マーリィから脈々と受け継がれる希望のメッセージ。今だからこそその言葉は一層強く響くのだ。歌い終えて「ありがとう」と一言。そして「みなさんが画面越しに歌ってくれたのが伝わりました。ありがとうございます」と、新譜について語り始める。アルバム『SAVAGE』を作っていた時期に彼を苦しめた悩み、そしてそのアルバムを引っさげてのツアーで受け取ったファンからの思い。そのファンの思いに返すために『Supplement』を作ったこと。コロナの影響でリリースがずれてしまったが、その期間があったことによって作品の持つ意味がより強くなったこと。さまざまな巡り合わせのなかで産み落とされた『Supplement』が向井太一にとってどういう作品になったのか、彼は滔々と語った。

　「心はつながっていて、僕が届けることは変わらない。また会う日まで」――そうして披露されたもうひとつの新曲「We Are」。アコースティックギターのストロークと歌だけで始まったこの曲には、こうして会えない状況でも変わることのない向井とファンの関係性、そしてその状況を乗り越えていくという意志が込められてるように感じた。シンプルで堂々としたアレンジ、ひとつひとつ噛み締めるようにして歌われる言葉。笑顔を見せながら全身全霊で歌う向井の姿に勇気づけられた視聴者も多かったはずだ。シンガロングパートもあるこの曲を一緒に歌える日がいつかきっと来るはず。そんな希望を胸に灯して、向井太一初の配信ライブは終わりを告げた。