「マカロニえんぴつという音楽」と繋がるということ――メジャーデビューも発表された無観客生配信ライブ
マカロニえんぴつ | 2020.09.08
4月に約2年半ぶりとなるフルアルバム『hope』をリリースしたマカロニえんぴつ。「レモンパイ」や「ブルーベリー・ナイツ」「ヤングアダルト」といった人気曲が収録された本作は、全14曲中8曲にタイアップがついた。タイアップに特別な意味合いを見出そうとは思わないが、それでもこの多さは、2018年~2020年にかけての、このバンドの躍進を物語るに十分な要素だろう。つまり、マカロニえんぴつは、それだけ求められ、広く世の中に浸透し始めていたのだ。
『hope』を携えた全国ワンマンツアー「マカロックツアーvol.10 ~わずかな希望を探し求める者たちよ篇~」が決まっていたが、コロナ渦により開催を見合わせる決断をした。本来であれば、彼らにとって最大規模となるライブハウス、東京・豊洲PITでツアーファイナルを迎えるはずだった。あれから春が走り去り、猛暑も残暑と呼ばれる時期になった。季節を感じることも間々ならないまま、月日が重ねられていく。しかしマカロニえんぴつは、ただ月日を重ねただけじゃなかった。“この日”へ向けて、様々な感情を抱えながら、葛藤と向き合いながら、経験を重ねてきたのだ。2020年9月3日、木曜日。マカロニえんぴつは、豊洲PITのステージに立った。無料の無観客生配信ライブ「マカロックONLINEワンマン?豊洲から愛を込めて?」を開催したのである。
20時。配信画面が豊洲PITからのリアル映像に切り替わる。ステージ袖。薄闇の中、メンバー4人が向き合って集まり、気合いを入れる。それぞれがステージへ。メンバーの背中を追うカメラには、誰もいないフロアの様子も映っていた。スタンバイする。ステージ後方からのバックライト。浮かび上がる4人のシルエット。オープニングを飾ったのは、ストリングスを思わせる抒情的なイントロが心を打つ「hope」だった。曲終わりで、はっとり(Vo/Gt)が「よろしく、マカロニえんぴつです」と言った後、ミディアムアップチューンの「遠心」へ。続いて、鍵盤のフレーズと言葉を刻むようなボーカルアプローチがファンキーな「トリコになれ」。歌詞の<ずっと歌えるように これからそうゆう時代になるように>というワンフレーズが、心に楔を打つ。これだけ突き刺さったのは、たぶん、“今”だからなのだろう。心の底にしまい込もうとうしている檻のような“切望”を掬い上げてもらったようで、少し気が軽くなった。
4曲終わったところで、この日、最初のMC。「盛り上がってますか? 歓声が聴こえてくるよね」と言うはっとりの言葉に、笑顔で頷く、高野賢也(Ba/Cho)、田辺由明(Gt/Cho)、長谷川大喜(Key/Cho)と、サポートドラムの高浦充孝。再び話し始めたはっとりは、こう締め括った。
「後半には、この大きな会場ならではの演出もありますので楽しみにしていてください。画面の向こうでも、きっと盛り上がって観ていてくれているでしょう。でも、音漏れだけ注意して(笑)。最後までよろしくお願いします」
なんとも大胆。これからの内容を予告するなんて、ある意味、ネタばらしに近い。配信を想定したゆえの言葉だと思うが、それだけ、彼らがこの日の配信ライブに真剣に向き合い、アイデアを出し合った証拠だとも思った。
そして予告どおり、ハイライトシーンがやってくる。
8曲目。コメント欄に「この曲聴きたかったぁ」「やったぁ、嬉しい」「大好きな曲」という言葉が並んだ「恋人ごっこ」の後、再びMCへ。ステージバックを覆った巨大なスクリーンに、リアルな配信映像が映し出される。もちろん、視聴者のコメント欄も一緒だ。そのコメントを見て、「うわ、(コメントの流れが)速すぎるなー」「嬉しいなぁ」「すごいね」と、口々に感想を述べるメンバーたち。しばらく見入っていた中、はっとりがマイクをとった。
「さっきも言いましたが、今日は、特別な楽器を用意してます。無観客を逆手にとってこんなことをしちゃいました。ドドーン! グランドピアノです!」
誰もいないフロアには、グランドピアノが待っていた。フロアに降り、スタンバイしながらも、コメント欄から眼が離せないメンバーたち。「最高」「泣いています」「大好きです」……と、思うままにコメントを読み上げ始めた。まるで楽屋みたいな雰囲気は、観客の力が、彼らの“素”を呼び出した瞬間だった。「無観客だから、本当に聴いてくれているのかなって不安もあったけど、コメント観てると本当に聴いてくれてるんだなって。やって良かった」と、はっとりから本音が漏れた。
「これまで1回もやったことのないアレンジでやります」と、次の曲へ。グランドピアノを弾きはじめる長谷川。バイエルのような、優しくシンプルな和音を丁寧に刻んでいく、「春の嵐」。温かい光が4人のシルエットを映し出す。抒情的で包容力あるバラードが、この日は聴き手に寄り添うように温かく繊細に響いていく。最後の ♪ラララ~オオオオオ~♪のリフレインが、強く真っ直ぐ向かって来る。それはまるで、一筋の光のように感じられた。一転して、アップチューンへ。ホンキートンクな鍵盤が痛快に駆け抜けていく、カントリーやロカビリーの影響を色濃く感じる「ハートロッカー」へ。配信用のカメラを肩に背負ったカメラマンが、4人を追う。テンポよく切り替わる画面。向き合って、バンドサウンドをかき鳴らす4人を、否、マカロニえんぴつという音楽を、懸命に追いかけて、なんとか捕まえようとしているカメラワーク。非常にスリリングで臨場感溢れる、まさにハイライトシーンだったと思う。そして、こうやって模索しながら、配信ライブは成長していくのかなと思わせる希望のシーンでもあった。
しかし、本当のハイライトシーンは、次へつながる希望は、最後の最後にあったのである。
12曲目「洗濯機と君とラヂオ」を披露した後、今回の配信ライブについて、「これはこれでいいと思うし、(自分たちの音楽が)生きている証だ」と言いながらも、「やっぱりみんなの前がいい、ワンマンがこういう形でやっぱり悔しい」と本音を吐露したはっとり。さらには、「落ち込んでも、どうしようも無い時でも、音楽が助けてくれることがある」「自分たちも音楽に助けられてきた」「だからどうか音楽に委ねてください、音楽を信じてください」と続けた。だんだん早口になっていく様子に、想いが飽和状態になっているのが画面越しからでも見て取れる。最後はこう締め括った。
「伝えたいことはたくさんありますけど、今日も音楽で繋がれた気がします。だから大事な曲を置いていきます。絶望の裏側にある希望をあなたが見つけてください」
この言葉を受け、放たれたのは「ヤングアダルト」。清々しくフレッシュでありながらエモーショナル。このバンドの“強さ”が凝縮されたような1曲だ。メンバーのボルテージもマックスだろう。映し出されるパフォーマンスや表情から熱量が伝わってきた。エネルギッシュな演奏が終わった後、「どうもありがとうございました」と挨拶をしたはっとり。こう続けた。
「ここでお知らせ、重大発表があります。映像をご覧ください、どうぞ」
画面が切り替わる。ライブ映像やライブ写真を中心に、マカロニえんぴつのヒストリーを彷彿させる映像が流れる。その写真の中には、両手を上げ、彼らの歌にレスポンスする満員の観客の姿もあった。ヒストリーが終わると、レーベルのロゴや、リリース情報などが順番に映し出され、メジャーデビューが発表された。
マカロニえんぴつの新作は、トイズファクトリーから、2020年11月4日にリリースされる。タイトルは『愛を知らずに魔法は使えない』。詳細はまだ明かされていないが、6曲入りの1st E.P.だそうだ。
配信映像が豊洲PITの映像に切り替わる。ステージ上で笑顔で両手を挙げている4人。「ずっとずっとこれからも、マカロッカーたちには、(自分たちを)追いかけて欲しいなという思いを込めてこの曲をやります」と、アンコールとして「OKKAKE」を披露。こんな言葉を残して、ステージを後にした。
「マカロニえんぴつという音楽でした! ありがとう。また逢おう、また逢おう、また逢おう! 何回でもやろう、何回でも逢おう! またやろう、ありがとう!」
【取材・文:伊藤亜希】
【撮影:ヤオタケシ】
リリース情報
愛を知らずに魔法は使えない
2020年11月04日
TOY’S FACTORY
02.ノンシュガー
03.溶けない
04.カーペット夜想曲
05.ルート16
06.mother
セットリスト
マカロックONLINEワンマン〜豊洲から愛を込めて〜
2020.09.03@豊洲PIT
- 1.hope
- 2.遠心
- 3.トリコになれ
- 4. girl my friend
- 5.ワンルームデイト
- 6.溶けない
- 7.ブルーベリー・ナイツ
- 8.恋人ごっこ
- 9.春の嵐
- 10.ハートロッカー
- 11.愛のレンタル
- 12.洗濯機と君とラヂオ
- 13.ヤングアダルト 【ENCORE】
- EN1.OKKAKE
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