オープニングムービーを経て、いよいよ開演。ステージを覆っていた幕が上がり、藤原聡（Vo/Pf）、小笹大輔（Gt）、楢﨑誠（Ba/Sax）、松浦匡希（Dr）、サポートのメンバーたちが奏でるサウンドが、一気に広がっていった。オープニングを飾ったのは「HELLO」。広い空間に向かって音を響かせる喜びに満ちた4人の様子が、浮かべている表情からありありと窺われる。続いて「宿命」がスタートすると、弾いていたピアノから離れて、ハンドマイクでステージの前方へと飛び出した藤原。トランペット、トロンボーン、サックスによるホーンセクションに彩られたバンドサウンドが気持ちいい。晴れ渡った青空の下にいるような解放感を味わうことができた。そして、3曲目「ノーダウト」は、エネルギッシュなサウンドが全開で躍動。イントロで銀テープが発射された瞬間、ステージ上のメンバーたちのテンションが一際高まっているのを感じた。臨場感溢れる音が、とにかく快感だった序盤の3曲――この時点で、オンラインライブを心待ちにしていた視聴者は、完全に心を掴まれていたはずだ。

　「お久しぶりでございます！　こうやってステージを組んで、オンラインライブだからこそ楽しんでいただける工夫をちょっと混ぜて1本のライブを作りました。とにかく全員に音楽の楽しさをしっかり伝えられるように。そして、自分たち自身も久しぶりのライブを全力で楽しんで、その音楽を共有して、素晴らしい時間を作れたらいいなあと思っております。今日は最後までよろしくお願いします！」という藤原の挨拶の後、「パラボラ」がスタート。メンバー同士で時折嬉しそうにアイコンタクトを交わしているのがわかる。映像を通じて細かな表情を捉えられるのは、やはり楽しい。そして、ライティング、映像が各曲の世界を豊かに浮き彫りにしていたのも、今回のオンラインライブならではの見どころであった。映像美に圧倒された場面としてまず思い出されるのは「ビンテージ」。会場の天井から吊るされたたくさんの電飾によって、星空のような空間が生み出された中で演奏していたメンバーたちを遠景で捉えた映像が美しかった。あの瞬間のステージの印象は、「無数の星々の間に浮かぶ星雲」とでも表現すればいいのだろうか？　ロマンチックな光景を通じてこの曲に耳を傾けるのは、とても幸福な体験であった。

　ステージがセピア調の色合いの照明で染まり、昔の映画のフィルムのような画質やエフェクトも映像に加えられながら届けられた「Rowan」。柔らかなスポットライトを浴びた藤原がピアノの弾き語りで瑞々しく歌い上げた「夏模様の猫」。ミラーボールから放たれたたくさんの光の粒子が、幻想的な空間を作り上げていた「イエスタデイ」……ヒゲダンの美メロを素敵な映像と共に噛み締められる場面が続いた。そして、バイオリンも加わった豊かな響きを届けてくれた「Laughter」、トーキングモジュレーターを駆使しながら艶めかしいサウンドを躍動させていた「たかがアイラブユー」の後に迎えたMCタイム。「ライブ久しぶりなので、楽しい気持ちでやらせてもらっています。アリーナツアーができなくなって、ライブができなくなって、“その代わり”みたいになるのは健全じゃないって思って。“オンラインライブだからこそ楽しめることってなんだろう？”って、みんなで話して作っていって、前半が終了した感じです。やっぱ映像とかにこだわれたのが嬉しかった」（藤原）。「楽しみだね。俺たちは後で観ることになるから」（楢﨑）と話し合っていたふたりはもちろん、彼らのやり取りを見つめる小笹、松浦もとても明るい表情を浮かべていた。

「お客さんとして、今、一番観たいオンラインライブをやれてる自信があります。今日はとにかく曲を聴いてもらおうと思っていて。より音楽の楽しさをみんなと共有できるようにいろんな準備してきました。心ゆくまで楽しんでいってください！」という藤原の言葉を経て、後半戦がスタート。「オンラインという形でみんなが音楽を受け取ってくれたら、それはこのバンドとみんなのひとつの思い出になるんじゃないかなと思ってます」という言葉が添えられた「115万キロのフィルム」。仲良くサイドステップを踏みながら演奏する藤原、楢﨑、小笹の姿を通じて、ヒゲダンのアンサンブルの根底にある和やかさを再確認させられた「異端なスター」。メンバー各々の歌のソロパートが盛り込まれていて、サックスを吹き鳴らしながらホーン隊と一緒にステージ上をパレードした楢﨑の姿が伸び伸びとしたムードを醸し出していた「旅は道連れ」。楢﨑も含む4人のホーン隊で彩りながら、ジャジーなサウンドを華麗に響かせた「夕暮れ沿い」……柔軟で多彩なライブパフォーマンスが冴え渡っていた。

　真っ白なスモークを噴き上げながらリフターで上昇した小笹。「コロナウイルスを燃やし尽くしてやろうぜ！」という彼の言葉を合図にスタートした「FIRE GROUND」は、骨太なロックサウンドと、火柱が何本も立ち上る演出に痺れた。ショルダーキーボードを手にした藤原と、エレキギターを構えた小笹が向かい合い、ツインソロを奏でた場面は、まるでハードロックバンドのようだった。この興奮を爽やかに高めてくれたのが「Stand By You」。ステージの周囲のスクリーンに過去のライブの観客の姿が映し出され、エネルギッシュな手拍子、大合唱の声を会場内に響かせた様は、胸に迫るものがあった。そして、永遠の名曲とも言うべき圧倒的な輝きを示していた「Pretender」。壮大なメロディとグルーヴィーな演奏の併せ技が素晴らしかった「I LOVE…」……ヒゲダンはやはりグッドミュージックの宝庫であった。

「ライブができない日が続いて、自分たちが何をやってる人間なのかわからなくなりそうな時もあったけど、そういう時もみなさんの存在が自分にとって光だったし、“その光に向かって何を返していけるかな？”って思った時、“どんどん新しい曲を作って、いいライブを作るというのをしっかりやっていこう”と思いました。このメンバー、チームが大好きだし、みんなと一緒に音楽と時間を共有するのが人生にとって大事。作ったものを日々の糧に少しでもしてもらえているのならば、バンドとしてこんなに幸せなことはないと思っております」という藤原のMCの後に披露された「ラストソング」。別れ際の寂しさが滲みつつも、再会できる未来を穏やかにイメージさせてくれるこの曲は、とても清らかに迫ってきた。演奏の終盤で画面に映し出されたスタンド席。無観客の空間で、たくさんの光がゆっくりと揺れている様が壮観だった。満員のライブ会場のような輝きで彩られた風景を、とても愛しそうに見つめていたメンバーたち。今回の配信ライブを美しく締め括る幻想的な風景であった。そして、幕がゆっくりと下りて、「絶対にまた元気で会いましょう！」という藤原の言葉と共に迎えた終演。とても爽やかな余韻が漂うエンディングであった。

　心を込めて音楽を届けるヒゲダンの姿勢が貫かれていたと同時に、新鮮な演出や遊び心も光っていた今回のオンラインライブ。リアルタイムの視聴者は12万人とのこと。この公演は10月3日（土）23時59分までアーカイブ映像が配信される。チケットは10月3日18時まで購入可能。チケット購入者は、見逃し配信やメンバーによるオーディオコメンタリーも楽しむことができる。リアルタイムで視聴していた人も、改めて鑑賞すると新しい発見がいろいろあるだろう。そして、まだ観ていない人もぜひ！　ヒゲダンの音楽の深い魅力と、じっくり向き合えるはずだ。

【取材・文：田中大】
【撮影：溝口元海(be stupid)】