最新作「HELLO EP」に収録されている4曲の内、3曲は大型タイアップ。これだけ各方面から声がかかることが示している通り、Official髭男dismは、タイアップに非常に長けているバンドだ。曲が流れる作品、CM、番組などのイメージを的確に捉えつつ、自分たちが奏でたいサウンド、届けたいメッセージとシンクロさせることができるからこそ、彼らはタイアップの機会を重ねる毎にリスナー層を広げて、ファンにもますます愛されながら進んでこられたのだろう。そして、このような姿に触れる度に、インディーズの頃に彼らが言っていた「あなたの人生とタイアップ」という言葉を思い出さずにはいられない。

　「あなたの人生とタイアップ」は、リスナーの人生に寄り添い、日々の営みに潤いを与える音楽でありたいという姿勢を端的に言い表していたので、今でもよく覚えているのだと思う。そして、大型タイアップがたくさん決定するようになった最近のヒゲダンではあるが、根本は全く変わっていないように感じる。いや、「変わっていない」どころか、「あなたの人生とタイアップ」という揺るぎない指針が自ずと辿り着いているのが「大型タイアップ」である――というのが、より正確なところなのだろう。「HELLO EP」は、そういうことを感じさせてくれる作品だ。

　理不尽だらけのこの世界の美しさを一緒に浮き彫りにしていくことができるパートナーへの愛情を映し出す「HELLO」（フジテレビ系『めざましテレビ』テーマソング）。誰よりも自分自身に対して胸を張れる生き方をしたいと決意した者の鼓動を伝えてくれる「Laughter」（映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』主題歌）。新生活を始めた者の中で渦巻く希望と不安、未来へと放たれる理想が描く放物線をイメージできる「パラボラ」（「カルピスウォーター」CMソング）。どの曲も、大型タイアップにふさわしいスケール、精緻に構築されたサウンド、深いメッセージに満ちた曲たちだ。そして、4曲目に収録されているノンタイアップの曲「夏模様の猫」を聴くと、「HELLO」「Laughter」「パラボラ」の源にあるものに気づくことができる。

　ピアノの弾き語りによる「夏模様の猫」。猫と一緒に海が見える街へと向かう早朝の風景を、2分ちょっとの尺で描いているこの曲は、とても素朴な仕上がりだ。「ドラマチックな体験を夢見つつも、主人公はすぐに見慣れた日常へと戻っていくのかもしれないなあ」ということも感じさせるくらいのさり気なさが全体に脈打っている。束の間の非日常への憧れが香るこの曲は、様々なしがらみに縛られながらも懸命に日々を重ねている我々と完全に地続きだ。そして、この曲の中に広がる穏やかな物語、温かなメロディは、「HELLO」「Laughter」「パラボラ」が等しく願っている「人生が素晴らしいものであってほしい」という気持ちの源流とでも言うべきものだろう。ヒゲダンのあらゆる音楽の中にあるこういう息吹は、とても瑞々しい活力を我々に授けてくれる。彼らの音楽の信条である「あなたの人生とタイアップ」は、今作でも見事に実現されているのだ。

【文：田中 大】

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Official髭男dism - パラボラ［Official Video］


Official髭男dism - Laughter［Official Video］


［Teaser］Official髭男dism - HELLO