前へ

次へ

日本全国のライブハウスを繋いだ日本最大級のオンラインサーキットフェス 「NIPPON CALLING 2020」レポート第3弾!

NIPPON CALLING 2020 | 2020.10.10

 毎年9月に新宿・渋谷・下北沢の3エリアで開催されている「TOKYO CALLING」が、今年はコロナ禍を受けて無観客オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING」として開催。日本全国どこでも視聴できるという意味だけでなく、開催会場も全国のライブハウス全51ヵ所という、公演タイトルどおり「日本」を舞台にしたイベントとなった。制限の多いこの状況下で音楽人として出来る限りのことをしたい――そんな強い思いを持って、2日間で全国のライブハウスとスタッフ、計204組のアーティストが生配信、もしくは収録で参加。その生配信が行われている2日目の渋谷の現地へ足を運んだ。

【Bentham】
 渋谷O-WEST 2組目となるBenthamは、早い段階から無観客配信ライブを開催していたバンドのひとつ。見放題2020が開催予定だった次の日である3月8日に初の配信ライブを開催し、NIPPON CALLINGは7回目となった。
 開演前のメンバー4人はリラックスしたムードで、有観客で開催できないことを嘆いているというよりは、「この状況でもできることをやりきろう」というポジティブなムードをごくごく自然なものとして身にまとっていたのが印象的だった。「FUN」をオープナーにしたライブ本編も軽やかかつ安定感があり、丁寧に演奏を繰り広げていく。ダンスナンバー「MIRROR BALL」は情熱とロマンチシズムが通った音色で、複雑なリズムで繰り広げる「ASOBI」はユーモラスとシリアスのコントラストで魅了。楽曲の精神性を音や歌だけでなく、個々の表情や佇まいでも伝えていた。
 MCで来年結成10周年を迎えることに触れたオゼキ タツヤ(Vo/Gt)は「10年あっという間だけど、(10年で出会ってきた)いろんな人の顔が浮かぶ」と告げる。続けて彼は、コロナ禍で各国の人々の生活が変わったことに触れ「音楽をやればやるほど音楽の力を感じる」「なにをやれるかと考えると、もう自分は歌うしかない」と落ち着いた様子で語った。
 その後、特にラスト2曲は、その決意を色濃く表現していたように思う。彼らが最も演奏を重ねてきたであろう「パブリック」は、バンドの9年間がさらに楽曲を艶やかに磨き上げたと痛感するしなやかさ。「問うてる」では、歌詞に綴られた想いに現在の心境を重ねていくオゼキと、それを呼応するようにダイナミズムを増していくサウンドスケープに引き込まれる。激情的であり晴れやかなステージは、バンドが荒波と対峙し、それを乗り越えながらレベルアップしてきたからこそ成し得たものだ。

【Ivy to Fraudulent Game】
 NIPPON CALLINGのジングルのあと、ゆったりとギターの音が薄暗いO-EASTの空間をたゆたう。「徒労」で幕を開けたIvy to Fraudulent Gameのステージ。楽器の一音一音と、寺口宣明(Vo/Gt)の息づかいを含めた歌声が、こちらの身体にじわじわと這うように絡みつき、彼らの作り出す別世界へと引き込んでいった。繊細な残響を破壊音で掻き消すと「青写真」へ。獰猛でありながらも滑らかに繰り広げられる音像は、曲のなかに血が駆け巡っていく様子と酷似し、間髪入れず投じた「blue blue blue」では轟音で駆け抜けながら光を熾していくいくようだ。
 彼らが配信ライブを行うのは3回目。寺口は「配信ライブをやったことがなかったから最初はドキドキしてたけど……目の前に君がいないとドキドキしないものですね」「自分が好きでやっている音楽だからこそ早く会いたい、目の前で届けたいという気持ちでいっぱいです」と凛としたなかで微かに物憂げな表情を浮かべながら観客を思う。そして「こんな時代でも演奏を始めてしまえば、いつも以上のエネルギーで歌えている気がする。負けるわけにはいかないなと思いながら日々生きています」とまっすぐ語った。そのあと披露された新曲「旅人」は、爽快な激情が眩しいギターロック。オチサビの<今日もあなたのことを思って生きるのさ>という歌詞が、なによりも希望として響いていた。
 寺口は抱えているギターをかき鳴らしながら、自分の気持ちを一つひとつ言葉にし、カメラの向こうにいる視聴者へと語り掛ける。「会えるその日まで、さぼらず、素晴らしい音楽を作ろうと思ってIvy to Fraudulent Gameは生きています。また、絶対、必ず会いましょう」と言うと、ラストは「Memento Mori」。寺口が歌い始めた瞬間、がらんどうのフロアに、静かに拳を高くつき上げた大勢の観客の姿が見えたような気がした。過去を回想し未来を夢見て今という時間を愚直に生きる4人は、非情に勇敢だった。

【なきごと】
 コロナ禍に打撃を受けている人々は多かれど、若いバンドにとって最も大きな出会いの場であり表現の場であるライブの機会を奪われているのは特に無念でならない。結成2周年を迎えたばかりの、WWWの3番目に登場したなきごとも、このご時世でなければ今年全国のライブハウスでさらに耳目を集めていたはずのバンドのひとつだ。
 7ヵ月振りとなる彼女たちのステージは、ライブが満足に行えない悔しさや怒りが溢れていた。それは自分たちだけでなく、ライブハウスで出会った仲間たちが様々なことを断念せざるを得ない状況に陥ったことから生まれるものだった。その素直で青い感情を直で浴び、ライブハウスという「ロックバンドが育つ場所」の匂いを明確に思い出した。
 サポートベーシストとサポートドラマーを迎えた4人編成。1曲1曲で異なる音楽性を見せるだけでなく、水上えみり(Vo/Gt)のボーカルもそれに合わせてナチュラルかつ巧みに表情を変える。切ないミディアムロック「癖」では可憐ななかに憂いを感じさせる歌声で引きつけ、シリアスなファストナンバー「忘却炉」ではどこか倦怠感のある声が挑発的だ。ポップソング「メトロポリタン」では甘い声を響かせる。岡田安未(Gt/Cho)の硬派な佇まいや、楽曲ごとにカラフルかつ丁寧に重ねられた音色も、楽曲制作へのポリシーを如実表現。その振れ幅の大きさは、生演奏だとより魅力的に映った。彼女たちの生演奏は、音楽家としての魅力をより鮮明に浮き上がらせていた。
 新曲「春中夢」では静と動で心情の深淵を克明に表現する。特に1番のサビで音が抜けて水上の声だけになり、バンドメンバーが心を重ねるように優しく音を奏でるシーンと、拍子が変わり感情を解放するように音を繰り出していくシーンは、対照的ながらに自分たちの作る音楽を心から信じていることが強く伝わる象徴的な2シーンだった。
 ギターを鳴らしながら気持ちを言葉にしていく水上。落ち着いた語り口ながらも、奏でるギターの音はどんどん鋭さを増していく。「悔しい気持ち、全部背負いますから。最後のこの曲に込めます」という言葉のあと演奏された「深夜2時とハイボール」は、彼女たちの感情すべてがこちらの肌へ火傷のように焼き付いた。

【アシュラシンドローム】
 あたりが薄暗くなったころ、duo MUSIC EXCHANGEに現れたのはアシュラシンドローム。彼らの出番後に同会場へ出演予定だったHalo at 四畳半が急遽出演キャンセルとなり、その枠も彼らが出演することとなった。だがこれまで熱い男気でフロアを沸かし続けてきたアシュラシンドローム、2ステージの1枠目だからと言って、そこに余力を残すわけはない。
 サポートキーボーディストを迎えた5人編成でステージに現れ、今年4月にリリースされたミニアルバム『ENCOUNTER』の表題曲でライブをスタート。ストライプの襟付きシャツに赤いネクタイを締めた青木亞一人(Vo)は両手でしっかりとマイクを握り、華のあるボーカルを響かせる。ポジティブで力強い楽曲にひりひりとした空気感が心地いい。
 スカやパンクなど様々なジャンルのロックを取り込んだ「絶対彼氏以上」は、巧妙に組み合う各楽器のリズムがスリリング。すべてが打楽器のようで、その気魄は只ならぬものだった。導入を挟んで「山の男は夢を見た」へとなだれ込み、見目ともに派手なプレイで魅了。どんなに爆音でも青木の声は埋もれることなく、歌謡曲然としたメロディとともにロマンチックに輝く。青木がカメラに近付いて歌唱するシーンも多く、カメラの向こうにいる視聴者に訴え続けていた。
 3曲演奏し、MCで少しずつ有観客でのライブ開催が増えてきていることに触れた青木は「うれしいことです。ただ、みなさん、どうか気を抜かぬように。ここまで頑張ってきたことが全部ぶっ壊れちまうから、気を抜かないでいきましょう。そしてまた来年、この場所でお会いしましょう」と呼びかける。そのあと披露された「月はメランコリックに揺れ」にはその真摯で切実な気持ちが通っていた。
 曲の途中、彼は「個人的にいろいろあってさ、しんどい気持ちで2ヵ月ぶりに東京に帰ってきたんだけど。やっぱメンバーで音を出すと楽しいわ」と笑う。バンドの楽曲でも作詞に参加するなど縁の深い“JP青木”こと彼の父親である青木昭徳氏が、持病と闘病を続けるも今年の7月に容態が急変し、9月8日に還らぬ人となった。青木は「画面の向こうのみなさんも楽しんでくれてますか? ブチぎれるまで今日はやりたいと思います」と言い、リズム隊をバックにサビを歌い上げる。その歌声はとても痛烈で、とても大きい優しさを持っていて、彼のいちボーカリストとしての、いち人間としての生き様を目の当たりにしたようだった。楽器隊も彼の想いに演奏で応え、「Over the Sun」のラスト一音まで熱く鋭いステージを絶やさなかった。

【ネクライトーキー】
 O-EASTのトリ前を務めるのはネクライトーキー。「ようこそ」という台詞を交えた軽快なSEに乗せてメンバーがひとりずつステージに登場するも、元気いっぱいな様子を見せるメンバーもいれば、カーテシーのように華麗な佇まいを見せるメンバー、愛想を見せることもなく楽器を手に取るメンバーもいるなど、掴みから「個性がばらばらな5人です」を見せつける。SEが止まった瞬間、朝日(Gt)がギターでもって金属音を鳴らし、1曲目は「めっちゃかわいいうた」。いきなりアッパーなムードに引き上げ、登場シーンのイメージを凌駕するほどの5人の異なる個性が爆発したアンサンブルが展開する。そのハイテンションっぷりに、脳みそをぐるぐるにかき回されるような感覚だ。
 疾走感のあるギターロック「きらいな人」、効果音が多数盛り込まれたおもちゃ箱的展開の「夢みるドブネズミ」と、そのジェットコースターサウンドは止まらない。それは無邪気な子どもに振り回されるような、トムとジェリーの世界に迷い込んだような、非常にパワフルで目まぐるしい空間だ。緩急が効いた「渋谷ハチ公口前もふもふ動物大行進」ではもっさ(Vo/Gt)の大人びたボーカルが聴き手に食らいつく。泣き叫ぶように力の入った歌と音。大人たちの心のなかに秘められた童心がむき出しになっていた。
 MCでコロナ禍や配信ライブ、現在の自分の心境について触れるバンドが多いなか、彼らはそんなことは関係なし。いつもどおりのスタンスを崩すことなくライブを進めていく。O-EASTは完全に、どこを切り取ってもネクライトーキーの音楽しか存在していなかった。「北上のススメ」、「オシャレ大作戦」とユニークなサウンドを繰り広げると、ラストは「遠吠えのサンセット」。ハングリー精神がもたらす陽のパワーが炸裂に炸裂を重ね、あっという間にライブは終了。ひたすらカラフルな嵐に巻き込まれたような30分だった。

【バックドロップシンデレラ】
 そしてNIPPON CALLING 2020の大トリを務めるのはバックドロップシンデレラ。まず楽器隊のみがステージにいるところに、豊島”ペリー来航”渉(Gt/Vo)が「およげ!たいやきくん」のメロディに乗せてNIPPON CALLING開催と自分たちが大トリを務めることになった経緯を伝えると、でんでけあゆみ(Vo)がセンターに登場。ラテンテイストのある情熱のナンバー「太陽とウンザウンザを踊る」を1曲目に届ける。
 バックドロップシンデレラの配信ライブ経験はこの日が3回目。彼らの普段のライブは、バンドを超えるのではないかと思うくらいの観客の熱量も名物であるが、無観客ならばそのぶん4人の作る巧妙なアンサンブルをじっくり楽しむことができる。やはり4人全員歌えるのは強みで、観客参加度合いの強い「フェスだして」も、楽器隊のコーラスがあれば充分だ――と思いきや、メンバーはカメラの奥で見ているスタッフ陣に「おねがいヘドバン」を促すわ、いつもどおり曲中に余興(?)のコーナーを入れるわで、あ、これは有観客だとか無観客だとかにとらわれることがナンセンスだな、と気付いた。そういう概念すら全部吹っ飛ばすパワーを持っているバンドなのだ。
 「夜遅くに観てますか? ようこそようこそ、O-EASTへ! 遊ぼうぜ」とカメラに向かって呼びかけるでんでけあゆみ。続いて豊島が再度今回の開催の経緯を語り、「普段どおりやるだけっすね」と笑うと、でんでけあゆみも笑顔で頷く。とはいえ続いての「祝え!朝が来るので」にある<どうしてこんなに貴女に貴方にまた会いたいんだろう>という歌詞は無観客ライブだとまた新しい意味が生まれていた。
 そのあとは高速ナンバー「本気でウンザウンザを踊る」、キラーチューン「月あかりウンザウンザを踊る」を畳みかけ、でんでけあゆみはフロアに降りて、視聴者にも語り掛けながら、かつ距離を保ちながらスタッフ陣をカメラの前に呼び込む。どんなときだって、観客がどんな場所にいたって、バックドロップシンデレラのライブは踊るヤツがエラいのだ。
 エモーショナルな空間からさらに「さらば青春のパンク」で爽快に駆け抜けて本編は終了。アンコールとして再びステージに登場した彼らは、初回から参加していたイベントであり、日本全国を舞台にしたNIPPON CALLINGの大トリを務められた喜びをあらわにする。そして未曽有の事態のなか挑戦を続け開催にこじつけたCALLINGチームをねぎらい、あらためて感謝を告げた。
 「来年はどうなっているかわからないけれど、願わくばたくさんのお客さんの前でライブをやらせていただけたらなと思っております」と豊島が告げ、NIPPON CALLINGを締めくくる1曲となったのは「サンタマリアに乗って」。ポップで明朗ながらに一抹の感傷性を含む同曲は、運営チーム、出演者、そして視聴者という、NIPPON CALLINGに関わるミュージックラバーたちの緊張を解してくれたように思う。
 全国を舞台にしたこの挑戦は、ライブハウスシーンに新しい道を切り拓いた大きな第一歩と言っていい。音楽にできることはまだまだたくさんある、そんな確信を得た1日だった。

【取材・文:沖さやこ】

tag一覧 ライブ NIPPON CALLING 2020 Bentham Ivy to Fraudulent Game なきごと アシュラシンドローム ネクライトーキー バックドロップシンデレラ

セットリスト

NIPPON CALLING 2020
2020.09.22

    <Bentham>
  1. 01.FUN
  2. 02.MIRROR BALL
  3. 03.ASOBI
  4. 04.僕から君へ
  5. 05.パブリック
  6. 06.問うてる
    <Ivy to Fraudulent Game>
  1. 01.徒労
  2. 02.青写真
  3. 03.blue blue blue
  4. 04.旅人
  5. 05.Memento Mori
    <なきごと>
  1. 01.癖
  2. 02.忘却炉
  3. 03.メトロポリタン
  4. 04.春中夢
  5. 05.のらりくらり
  6. 06.深夜2時とハイボール
    <アシュラシンドローム>
  1. 01.ENCOUNTER
  2. 02.絶対彼氏以上
  3. 03.山の男は夢を見た
  4. 04.月はメランコリックに揺れ
  5. 05.Over the Sun
    <ネクライトーキー>
  1. 01.めっちゃかわいいうた
  2. 02.きらいな人
  3. 03.夢みるドブネズミ
  4. 04.渋谷ハチ公口前もふもふ動物大行進
  5. 05.北上のススメ
  6. 06.オシャレ大作戦
  7. 07.遠吠えのサンセット
    <バックドロップシンデレラ>
  1. 01.およげたいやきくん
  2. 02.太陽とウンザウンザを踊る
  3. 03.フェスだして
  4. 04.バズらせない天才
  5. 05.祝え!朝が来るまで
  6. 06.本気でウンザウンザを踊る
  7. 07.月あかりウンザウンザを踊る
  8. 08.さらば青春のパンク/en
  9. 09.サンタマリアに乗って

トップに戻る