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まるで大作映画のごとく壮大に描かれたコンセプトワンマンライブ、「かたちのないばけもの」徹底レポート!

Halo at 四畳半 | 2020.10.21

 最後の演奏曲が鳴り止んでから、しばし茫然とする。ライブの重いテーマを受け止めながら、しかしどこか清々しい余韻も味わう、優れた大作映画を観ているような配信だった。Halo at 四畳半が10月13日に開催した無観客生配信のコンセプトワンマンライブ「かたちのないばけもの」。配信ライブとしては3ヵ月ぶり、会場となるZepp DiverCity(TOKYO)は、新型コロナウイルスの影響により多くの公演が中止となった「Halo at 四畳半 ワンマンツアー“無垢なる祈りの宿し方”」のファイナルに予定されていた場所だ。

 配信が始まると、大ぶりな防毒マスクを装着した渡井翔汰(Vo/Gt)が椅子に腰掛け、俯いている。立ち上がった彼はゆっくりと歩き出し、扉を開けるとそのマスクを投げ捨て、その先の齋木孝平(Gt/Cho)、白井將人(Ba)、片山僚(Dr/Cho)が待ち構えるステージへ。互いに向き合って立つ4人の真ん中には、花が飾られている。するとここで画面が切り替わり、「かたちのないばけもの 第一章」と告げて渡井によるモノローグが始まった。絵本のようなタッチのアニメーションで描かれるのは、海を越えてやってきた「かたちのないばけもの」の物語だ。馴染みのない名前を与えられたそのばけものは、人の言葉を嗅ぎつけてやってくるのだという。

 Halo at 四畳半の演奏は、最新アルバム『ANATOMIES』に収録された「ナラク」から始まる。「千葉県佐倉市、Halo at 四畳半、始めます!」とお決まりの挨拶を挟み込み、4人のタイトなコンビネーションがメロディアスな楽曲を運ぶ。次第に力強くドライブし始める白井のベースラインといい、熱い火花を散らす間奏といい、スリリングなロックアンサンブルの手応えをもって齋木の作詞・作曲による「疾走」へと繋いでいった。<描けストーリー/望む未来へ/結末は迎えに来ないぜ>。それは、生身の4人の息遣いと卓越したストーリーテリングでキャリアを築き上げてきたHalo at 四畳半の姿勢そのものだ。最後には渡井が「小さくとも明かりを灯そう」と語りかけた。

 新曲「フィラメント」は、今春に歌詞フレーズやコーラス音源、歌詞画像をファンから募り、メンバーがリモートワークでレコーディング、Twitterにてミュージックビデオを公開したナンバーだ。コロナ禍の不安の中でもたしかに脈動する生命を、人々の絆によって描き出している。無観客配信ライブであることも厭わず「歌おう!!」と呼びかける渡井の言葉には、この楽曲に託した思いの強さが表われていた。

 第二章のアニメーションでは、ばけものへの対抗手段として、政府が人々に接触禁止令を発令した世界が描かれる。姿かたちのないばけものは、至る所で言葉や季節、約束、心、そして命といった姿かたちのないものを食らい、人々をさらに息苦しい生活へと追い込んでゆく。そんな物語の直後に、ひしゃげた爆音で放たれるナンバーは「百鬼夜行」だ。控えめな照明は、影や模様を作り上げておどろおどろしい闇の時間を演出している。

 モノラルフィルムのように加工された映像が伝う「レプリカ」、そして切々とフォーキーなタッチで披露される「月と獣」では、心の蠢きを共有するハーモニーコーラスや齋木のギターソロが、雄弁な感情表現をじっくりと押し広げていった。幻想的で美しい空間系ギターワークの中で歌われる「マグとメル」では、悪夢の中から覚醒して現実とまっすぐに向き合う心模様が、クレッシェンドするバンドサウンドによって後押しされるのだった。

 第三章では、接触禁止令が解除され、ばけものと共存する新しい日々が始まる。街ゆく人々は、ばけものを目視するための空間解析スコープで顔面を覆っており、その異様な光景は新しい「当たり前」になっていった。生まれ変わる、新世界だ。その物語をなぞるように届けられたのは、深くどっしりとしたサウンドスケープの「リバース・デイ」。白井はイントロでシンセベースを駆使し、この楽曲も以前とはまた異なる意味をもたらすように響く。思いを込め丹念に歌う合間に、渡井は「力を貸してくれ!」と叫んでいた。

 「まだ何もきっと潰えちゃいない!」という言葉に導かれる“イノセント・プレイ”には、祈りを重ねるようにピアノの音色や同期コーラスが加わる。そして、滑空するように歌い出される“花飾りのうた”では、力強いエネルギーを振りまく4人の姿をアクティブなライティングが照らし、多彩なアングルでカメラが追いかける。「かたちのないばけもの」の物語が描かれるよりも前に生まれていたはずの楽曲たちはしかし、訪れた未曾有の闇と新たな希望を刻みつけるために鳴り響いているかのようだ。

 物語の最終章。ここまでの章ではモノローグの日付がノイズに掻き消されていたが、ここでは明瞭に「2020年10月13日」と伝えられる。画面は、Zepp DiverCity(TOKYO)のフロアを用いたライブ配信のステージ上へと切り替わり、渡井は「かたちのないばけものが現れてから半年以上の月日が経過して、俺自身も例に漏れず、たくさんのかたちのないものを奪われてしまって。絶望という言葉が本当にぴったりの日々でした」と語り出す。そう、今を生きる我々は、かたちのないばけものが訪れた世界を知っている。

 「たったひとりで音楽を生んでいたのであれば、作っていたのであれば、歌っていたのであれば、挫けてしまっていたのかもしれない。今ごろ音楽に向き合うこともできなくなってしまっていたと思います」。
 「誰かがいてくれないことには、自分という存在はまったくかたちのないものだったんだということに気がついて。俺にはこの3人がいて、俺たちの周りにはたくさんの人がいてくれるおかげで、渡井翔汰という人間は、Halo at 四畳半というバンドは、すごく誇らしいかたちをもらえているんだと思います」。
 「今日は精一杯この場所から、間違いなくあなたという存在に向けて、音楽を残して帰ろうと思います。また必ず、元気な姿でお会いしましょう」。

 そう語って披露される最終ナンバー「蘇生」では、純白の衣装を纏い、目を覆い隠して前衛舞踏のように踊るダンサー=松本多映子が、音楽の中で命の躍動を視覚的に伝えてくれる。<息を吹き込んで/噎せ返るような世界で/再び目を覚ますよ/ひび割れた今日が/煌めいて見えたのは/きっと君のせいだろう>。Halo at 四畳半の音楽に、多くのスタッフが思いを重ね、持てるアイデアと技術を注ぎ込む。そうして生み出された映像は今の世界そのものであり、それはとても美しかった。これは、2020年を生きる我々の大切な記録だ。映像作品化を切に望む、そんなライブ生配信であった。

【取材・文:小池宏和】
【撮影:オチアイユカ】

tag一覧 配信ライブ 男性ボーカル Halo at 四畳半

リリース情報

ANATOMIES

ANATOMIES

2020年01月29日

日本コロムビア

01.イノセント・プレイ
02.ナラク
03.クレイドル
04.Ghost Apple
05.百鬼夜行
06.レプリカ
07.月と獣
08.疾走
09.アンチ・グラヴィティーズ
10.花飾りのうた
11.ヘヴン
12.蘇生

セットリスト

無観客&生配信コンセプトワンマンライブ
「かたちのないばけもの」
2020.10.13@Zepp DiverCity(TOKYO)

    ~第一章~
  1. 01.ナラク
  2. 02.疾走
  3. 03.フィラメント
  4. ~第二章~
  5. 04.百鬼夜行
  6. 05.レプリカ
  7. 06.月と獣
  8. 07.マグとメル
  9. ~第三章~
  10. 08.リバース・デイ
  11. 09.イノセント・プレイ
  12. 10.花飾りのうた
  13. ~最終章~
  14. 11.蘇生

お知らせ

■ライブ情報

日本工学院専門学校 presents
Palette~ミライの軌跡~
meets SPACE SHOWER TV

10/31(土)
w/ Half time Old / クアイフ / sachi.

SAKURA NIGHT FESTIVAL Vol.0
11/01(日)千葉 佐倉城址公園 本丸広場
※渡井&齋木のアコースティック出演

ムロフェス×見放題「ムロホウダイ」
11/30(月)東京 渋谷TSUTAYA O-Crest
w/ アイビーカラー / Half time Old / アメノイロ。(O.A)

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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