シンプルながら激情的なプレイで画面越しに浮かび上がった情景――おいしくるメロンパン初のオンラインライブをレポート!
おいしくるメロンパン | 2020.10.23
「僕ら含めて、皆さんひとりひとり違った事情があると思うんだけれども、僕らはこうやって音楽を続けています。今日も、いつもと違った形ではあるけれど、ライブをしにきました。なので……ライブをします。あなたも自由に楽しんでいってください」。MCで峯岸翔雪(Ba)はそんなことを話していた。その言葉どおり、おいしくるメロンパン初のオンラインライブ「配信 邁進 カプサイシン、売り込み熱心 母感心。」は、ひたすらシンプルに、そしてまっすぐに音楽とそこから浮かび上がる情景を届けるという、彼ららしいパフォーマンスを見せつけるものとなった。
開演時間になった頃、楽屋のナカシマ(Vo/Gt)、峯岸、原駿太郎(Dr)が映し出される。「ぼちぼち行くか~」とリラックスしてるんだか緊張してるんだか、よくわからないムードだが、そんなユルいスタートとは裏腹に、いざステージに現れて楽器を手にしてポジションを取ると、そこには凛とした緊張感が流れ始めるから不思議だ。ナカシマのカッティングから始まった1曲目は「epilogue」。峯岸の動きの多いベースライン、原のメロディアスなドラム、そしてナカシマの透明な歌を静かに支えるふたりのコーラスが、徐々に空気を温めていくのがわかる。そしてそのまま「色水」へ。タイトなビートと何かに急き立てられるように走るメロディが、過ぎ去った夏の記憶を蘇らせていく。
このバンドの魅力は歌詞の世界観と密接にリンクした音の連なり、つまり楽曲全体で描き出すイメージの豊かさだ。季節、感情、温度、そこにある空気の手触りまでをも、彼らの音楽は描き出してみせる。こうして画面越しに少し冷静に観ているからかもしれないが、そのイメージがますます鮮明に浮かび上がってくるようだ。「look at the sea」では軽やかなリズムに乗って3人の奏でる音がいっそう伸びやかに鳴り響き、ようやく肩の力が抜けてきたのか、峯岸も好き勝手踊っている。そして、そこからぐっと熱を高めて前のめりに突っ込んでいった「命日」までの序盤4曲をノンストップで駆け抜けた。
とにかく、冒頭の峯岸の言葉を除いてはMCはほとんどなし。この日のおいしくるメロンパンはひたすらストイックに音楽を鳴らし続けた。「caramel city」で笑顔を交わしながらぴったりと息の合ったグルーヴを聴かせると、「泡と魔女」では緩急を緻密にコントロールしながら歌詞に込められた嵐のように吹き荒れる切ない感情を解き放っていく。そして力強いナカシマのギターストロークと原のドラムが推し進める物語がクライマックスで一気に弾けていく「dry flower」……曲ごとにまったく異なるさまざまな色を描き出しながら、それがつながって1枚の大きな絵になっていくような感覚を覚える。かと思えばメンバーの気合一閃とともに流れ込んだ「紫陽花」から「シュガーサーフ」の流れではその絵を上から激しいリフで塗りつぶし、原の“地獄太鼓”(by峯岸)なるドラムソロを経てズタズタに切り裂いていくような激しさを見せつける。スピード感と焦燥感。観る者によそ見する暇を与えない、怒涛の展開である。ロックバンドとして4作のミニアルバムを通して培ってきた進化と充実ぶりが、初期の曲をもぐっとアップデートしてみせている。
そこから一転、浮遊感のあるギターとマレットで叩かれるシンバルの音がまるで深い海の底にいるような感覚を喚起する――そうして始まった「水葬」を楽曲の終盤に向けて盛り上げると、続いてそのまま流れ込んだ「candle tower」が圧巻だった。激情と静寂がかわるがわる訪れるような展開を乗りこなしながら叫ぶナカシマの声、変拍子で心をかき乱しながら一気に楽曲のスケールを押し広げていく峯岸のベースと原のドラム。ぴったりと呼吸の合った、このバンドにしか鳴らせないアンサンブルが両耳に襲いかかってくる。オレンジ色の光が点滅するなかアイコンタクトを取りながら鳴らした「走馬灯」では、久しぶりのライブということで気持ちが入り過ぎたのか、ナカシマの声が裏返る場面もあったりしたが、そんな危うさも含めていつの間にか彼らの描き出す世界に心を連れ去られている自分がいることに気づく。
あっけにとられていると、「最後」と峯岸がつぶやき、9月16日にリリースされた最新配信シングル「架空船」へ。複雑に折り重なる曲の展開は、音源で聴く以上に圧倒的だ。長い間奏から、ナカシマのポエトリー・リーディング的なパートを経て、アッパーなリズムで突っ走るサビへ。息を呑む5分間を駆け抜けると、ナカシマが一言「ありがとうございました」と言ってライブは終わった。1時間、息をつく間もないほどの密度で畳み掛けられた楽曲たちの余韻に浸っていると、その直後に画面に映ったのは、3人が歌う「蜂蜜」(原によるラップのパートもあり)が流れるなか、バンドの5周年のヒストリーを振り返るという脱力映像。予告されていたものの、さっきまでのライブのテンションとのあまりの落差になんだこれはと思っていたら、その最後で新たなワンマンツアーが発表された。全国をまわり、ファイナルは5月13日、東京・Zepp DiverCity。彼らにとっては史上最大規模のワンマンライブとなる。オンラインライブでも彼らの良さは堪能できたが、やっぱり「やるよ」と言われるとリアルで観たくなる。すでに今年出した「透明造花」「架空船」の2曲でかなりの進化ぶりを見せつけているおいしくるメロンパンである。この先どんな姿を見せてくれるのか、楽しみでしかたない。
【取材・文:小川智宏】
セットリスト
オンラインライブ「配信 邁進 カプサイシン、売り込み熱心 母感心。」
2020.09.26
- 01.epilogue
- 02.色水
- 03.look at the sea
- 04.命日
- 05.caramel city
- 06.泡と魔女
- 07.dry flower
- 08.紫陽花
- 09.シュガーサーフ
- 10.水葬
- 11.candle tower
- 12.走馬灯
- 13.架空船
お知らせ
おいしくるメロンパン ワンマンツアー2021
2021/01/31(日) 神奈川 F.A.D YOKOHAMA
2021/02/07(日) 宮城 仙台Rensa
2021/02/11(木・祝) 兵庫 神戸チキンジョージ
2021/02/13(土) 山口 LIVE rise SHUNAN
2021/02/26(金) 石川 金沢vanvanV4
2021/02/28(日) 長野 松本ALECX
2021/03/13(土) 静岡 LiveHouse浜松窓枠
2021/03/20(土・祝) 群馬 高崎clubFLEEZ
2021/03/26(金) 新潟 GOLDEN PIGS RED STAGE
2021/03/28(日) 北海道 札幌Sound lab mole
2021/04/10(土) 沖縄 Output
2021/04/16(金) 大阪 心斎橋BIGCAT
2021/04/17(土) 香川 高松DIME
2021/04/24(土) 福岡 DRUM LOGOS
2021/04/25(日) 熊本 B.9 V2
2021/05/08(土) 愛知 名古屋THE BOTTOM LINE
2021/05/13(木) 東京 Zepp DiverCity
JAPAN ONLINE FESTIVAL 2020
2020/11/06(金) 〜11/08(日)
※おいしくるメロンパンは11/06(金) に出演