『flask』リリースツアーから最新曲「架空船」まで、変化の1年を振り返る。

おいしくるメロンパン | 2020.09.25

 昨年9月の4thミニアルバム『flask』からちょうど1年。そのあいだに新型コロナウイルスによるパンデミックの影響を受けてツアーが中止になるなど不測の事態に見舞われながらも、おいしくるメロンパンは前に進んできた。今年に入ってリリースされた配信シングル「透明造花」、そして最新曲「架空船」を聴くとそれがはっきりとわかる。迷いながらバンドとしての新たなステップを踏んだ『flask』を経て、彼らは彼らにしか描けない世界を、より強い確信を持って鳴らしているのだ。とくに「架空船」。5分超えというスケールの大きな楽曲だが、その中には初期のストレートさとそこから発展して手に入れた緻密さの両方が共存している。実験的な面もあるにはあるが、おいしくるメロンパンの新たなスタンダードとしての力強さがここにはある。『flask』リリースツアー、初のアコースティックワンマンライブ、そしてコロナの状況下で考えていたことまで、この1年を3人に振り返ってもらった。

――前回『flask』についてインタビューさせてもらったときに、ナカシマくんと翔雪くんはちょっと煮え切らないというか、「うーん」っていう感じだったんですけど(笑)。その後、リリースしてレコ発ツアーもやって、今はどうですか?
峯岸翔雪(Ba):最近あまり『flask』に向き合うみたいなことしてないんですけど、当時みたいなちょっともやっとした感じは今はないですね。「透明造花」と「架空船」へのいいステップになってたのかなあって。なんか思ったのは、『flask』で行きそうだなって思ってたところに来たみたいな。こういう曲が出るためには『flask』を通ってなかったら出来てなかったんじゃないかなって思います。
ナカシマ(Vo/Gt):やっぱり『flask』はそれまでになかったストレスがすごくかかってる作品だなって思います。開放感があんまりないというか。前回話したとおり、3枚目の『hameln』でやりたいことができたっていうのがあって、どこ行けばいいのかわかんないっていう感じで『flask』は作り出したんで、今聴いても迷いがある感じではある。でもそれがバンドにとってはいい期間だったのかなっていうのも最近では思ったりもしますね。最近出来てきた曲は翔雪が言ったとおり、『flask』を通らないと出来ないようなものだし、そういうのがやりたいなっていうのはあったんで。
峯岸:ライブでやるとやっぱりいいんですよね。1曲1曲本当に強いなあって。「candle tower」とか、めちゃくちゃすごかったし、あそこがハイライトみたいになりましたし。
――お客さんの反応はどうでしたか?
峯岸:シーンっていう感じ(笑)。まあ、今までも盛り上げる曲を作ってきたわけじゃないけどな。
ナカシマ:そうだね。でもそれで決意が固まったっていうのはあるかも。もうそういうバンドだからっていう。「candle tower」で本当に硬直状態になっているフロアを見て、こういうのが僕らのあり方なんだろうなってちゃんと確認できたというか。
――『flask』とツアーを経て、バンドとして向かうべき方向とかって変わってきました?
ナカシマ:方向性はあんまり変わってないかな。
峯岸:変わってないけど、あまり口に出さなくなった。「俺らこういう感じのバンドで、こういう曲を作ります」みたいなのを自分たちで言わなくなってきて。なんか強迫観念的なものがちょっと緩くなってきた……というか、たぶん今までが強かったんですよね。「こういう曲を作らねばならぬ」っていうのが。
ナカシマ:そうだね。
峯岸:それが、ツアーが終わってから全然言わなくなった。ナカシマも「次の作品はこうしたい」っていうのを毎回言ってたんですけど、今回全然言ってなくて。それで曲が上がってきてるので、すごく自然になったなって。
――そうか、前は言葉にあえてすることによって――。
峯岸:ある種縛ってたのかなって。
ナカシマ:その感覚はまだありますけど、前よりはたしかに緩くなったなっていう感じがあって。縛られてる感じは作品を出すごとに強くなっていって、『flask』はがんじがらめ状態っていう感じで作ってたんです。でもその縛りにもうまくはまらなくてっていうストレスもあって。それがこのコロナで、なんか気が緩んだのかなっていうのもちょっとあって(笑)、ちょっと1回フラットに見ることができて、解放されたかなっていうのはあります。
――2月にはアコースティックワンマンライブ「おいしくるメロンパン アコースティックレジェンド」をやって。これも新しい挑戦だったと思うんですが。
峯岸:あれは「やってみよう」ってマネージャーが言い出したんですよ。それで「楽しそうだしやっとくか」っていう感じでしたね、発端は。
原駿太郎(Dr):タワーレコードのインストアとかでアコースティックのライブをやったりしてて。元の曲をそのまんまやってもつまらないから、構成を変えたり、アレンジを加えたりしてたんです。それが結構好評という、「良かった」って言ってる人が多かったので、それを受けてマネージャーのほうから「やってみない?」っていう。
ナカシマ:僕たちアレンジすること自体がすごい好きなんで。1曲で2度おいしいというか、またアレンジできるっていう楽しさもあるし。
峯岸:でも本番はド緊張……とんでもなかったですよ。「初ライブじゃねえか」ぐらいの緊張で(笑)、本当にちょっとつらいぐらいっていう。楽しかったですけどね、もちろん。
ナカシマ:お客さんの温度感がいつもと違ったというか、「見られてる」っていう意識が結構強くて。それが緊張に繋がったのかなって思ったりしたんですけど。
――自分たちの楽曲をそうやってリアレンジして演奏することで、新たに見えたものもありました?
峯岸:ありましたね。「走馬灯」なんかガラッと変えてやったんですけど、全然成立しちゃってね。
ナカシマ:そうだね。
峯岸:アレンジ自体は全部軽い気持ちでやってたんですよ。でも変えたアレンジが本チャンのライブで採用されたりもして。「こうやってもこの曲たちはいいんだな」みたいな。ガッチガチに固めて作ったアレンジだったはずなんですけど、違った形になってもいいっていうのは、「何だったんだろう俺らの努力は」っていう――。
――いやいや(笑)。
峯岸:それは冗談ですけど、新しい面が見えて単純に楽しかった。
――でもその後すぐに外出自粛期間に入っちゃったじゃないですか。世の中の人みんな、すごくストレスを感じながら生活する期間っていうのが続いたんですけど、3人はどうでした?
峯岸:僕は本当に外に出なくて、スーパーと家の往復だったんですけど、全然ストレスとかなくて。自分でも薄々わかっていたんですけど、こういうのでストレス感じないほうなんだなあって。3ヵ月ぐらいずっといけましたね。7月8月に入ってようやく「もうちょっと羽伸ばしたいな」と思うようになったぐらいで。
原:僕も全然ひとりが苦じゃないタイプなので。なんか夏休みが来たぐらいの。のんびりできちゃうなって思って、Amazonプライムとか観るっていう(笑)。みんなが止まっちゃってるからもうどうしようもないじゃないですか。悩んでもしょうがないし。
ナカシマ:僕も全然支障はなかったです。そもそもあんまり家から出ないんで、そんなに生活は変わらないなって。
――でもバンドの活動としてはスケジュールがぽっかり空いちゃったわけですよね。
原:そうですね。ライブも全部飛んで「どうしようかね?」みたいな。
峯岸:それでWEBラジオ(『おいしくるメロンパンの「群青雨宿」』)とか始めてね。
――あれ、おもしろいですね。ユルくて。
原:のんびりやってます。
ナカシマ:あとは「色水」のリモートバージョンもやりましたね。それぞれ演奏して映像撮って、それをくっつけてひとつの動画にして。
峯岸:でもあんまりそういうのをいっぱいやっちゃうのも俺らは違うなって思って、だんだんやることがなくなって。「ライブやりたいな」って思ったし、モチベーションはだいぶ下がりましたよね。2ヵ月くらい本当に集まりもしなかったから、もうひたすらパスタを茹でる日々(笑)。最近ですよ、やっと「やらなきゃ」っていう感じになってきて。
――そのなかで配信で2曲をリリースしたわけですが、そこに何かこのコロナの状況って影響していると思います?
ナカシマ:意識して入れてるつもりはないんですけど、自分から鳴らしたい音っていうのが出てきてる時点で結局自分の生活とかが反映されてるなって最近思って。「架空線」もそういう感じがありますね。なんかにじみ出ちゃってる。
峯岸:歌詞の鬱々としたところとか? でもそれは前からあったよな。
ナカシマ:なんか、こういう世界を描きたいっていうのが出てきて、それをどうやったら音になるかって探して、その音で出来た世界の解像度を歌詞でさらに上げていくっていう作業なんですけど、その世界が出来るのは僕の環境があってこそというか、心情があってこそなんで。自分のことを全然書いてないよって今まで言ってたんですけど、結局ちょっとは書いてしまっている部分はあるんだなって。
――なるほど。「透明造花」のほうは聴いた瞬間にそのソリッド感がすごく新鮮だったんですけど。あの曲はどういうふうに出来たんですか?
ナカシマ:どういうふうだったっけなあ。書いたときの記憶があんまりないから。
原:あれ録ったのは3月とかだったね。
ナカシマ:何も思い出せない(笑)。
――思い出せないっていうことは、そんなに特殊な何かがあったわけじゃないってことだよね。
峯岸:でも『flask』明けで1発目の曲だったし、「どうしよっかな」はあったはずなんですよね。
ナカシマ:あったね。速い曲がどんどん少なくなってるなって思ってて。でも速い曲やりたいなっていうのはやっぱりあるんですよ。ライブでも。やっぱり速い曲のほうが盛り上がるというか……こっちがね。楽しいし、そういう曲をもっと増やしてガンガンライブでやりたいなっていう気持ちがあって。それで速い曲が出来てよかったっていうのは思った(笑)。
峯岸:アレンジは揉んだよ、かなり。間奏とかも揉んで揉んで、最終的にあの突っ走る感じになった。でも俺のベースソロのところとか「やっちゃえ」みたいな感じで、揉みはしたけど練ったっていう感じがあんましなくて、出来上がりを聴いたら「これでいいのかな?」みたいな。すって通り抜けていくような感じがありましたね。
――『flask』からしばらく時間が経って、あんなにモヤっとしてたけど(笑)、そこをちゃんと突破してるじゃんっていう鮮烈さがありましたけどね。
ナカシマ:今聴くとめちゃくちゃあるなって思うんですけど、作ったときはファーストの『thirsty』みたいな曲が出来たっていう感じだったんです。でもいびつだし、たしかに帰ってきてはいないから、進んでるなって今では思います。
――トラック1周したはずなんだけど、全然違う場所に着いたっていう。その感覚を、今回の「架空船」を聴いてより強く感じたんですよね。イントロから入っていくと、わりとおいしくるメロンパンの初期っぽい感じで「なるほどね」って思ってたら、後半になればなるほど、裏切られていくっていうか。それで気がついたら5分経ってるみたいな面白い曲だなと思って。
峯岸:間奏からは結構こだわりが詰まってますね。
ナカシマ:構成にこだわったね。今回は時間経過による効果みたいなのが肝だなって思ってて。このセクションだけ伸ばすかとか、これじゃ長いんじゃないか、短いんじゃないかっていう、そういう議論はめちゃくちゃやったね。
峯岸:具体的に言うと、間奏をこれだけ長くするから、ポエトリーに戻った瞬間がぐっとくる――あそこが短いとダメなんですよ。それを何度も何度も試してみて、あそこに落ち着いたら5分超えてたっていう。
――「時間経過による効果が肝」って、もう少し詳しく話してもらうとどういうことですか?
ナカシマ:今まではどんどん展開するのがおいしくるメロンパンだなって思ってて。同じセクションをずっと続けててもつまらないし、なんか損だなっていうのがあったんです。どんどん変わってったほうが情報も増えるし、曲というかその世界に対する説明がたくさんできるし。でも音楽って時間の上にずっとあるから、時間が経過するということそのものに意味があるなって思って。今まではブロックとして考えてたんだけど、ひとつの波として考えてみようっていう。
――うん。
ナカシマ:っていうのも、曲にすごく陰鬱とした感じがあって、孤独とかそういうのをテーマにしていて。なんか「何も起きないじゃん」っていうのがたぶん僕の中にもあったんですよね。「生きてても何も起きなくね?」っていう。だからそういう曲があってもいいかなっていう。間奏でずっと同じアルペジオを弾いてるんですけど、「ここはつまらないほうがいいな」って思ってました。つまらないところがあるから、次展開したときに爆発力が増すというか。そのコントラストが時間経過によって生まれるっていうのを今回試せたかな。だからちょっと実験的なんですよね。
峯岸:ナカシマが、同じビートがずっと続くところをライブでも聴かせたいんだって言ってたんですよね。歌詞も乗ってない、メロディーも入ってないけど、このビートが音楽なんだというのを聴かせたいんだって。だから僕のベースも本当は動きたいんですけど、ずっとルート弾きで。
――ドラムはどうですか?
原:すごい冷たい曲だなっていうのがあって。真っ暗な海みたいな印象があったので、その雰囲気が出たらいいなって。叩き方とかで、なんか明るい楽しいとかではなく、切羽詰まった感じが出たらいいなと思ってやってましたね。
――時間の経過ということで言うと、主題となる気持ちとか景色の流れみたいなものがあって、それを曲にしていこうというときには通常「ここがおいしい」っていうところをカットアップしていくわけですよね。それはそのほうが商品性が上がると思ってやるわけじゃないですか。でも今回はそれを無視してるっていうか。
ナカシマ:そうですね。
――それって、ある意味エゴイスティックな作り方じゃないですか。今回はそっちのほうが勝ったっていうことですよね。
ナカシマ:でもそこはせめぎ合いがありました。間奏も本当だったら3分ぐらいあれで行ってやりたいぐらい。でもやっぱり聴く側に立ったときに、「さすがにこれは長いから縮めなきゃね」っていうのがあったり。音楽的にも、ちゃんと作品としての体を保つためにも、ちょうどいいところっていうのはせめぎ合いの中で作った感じがありましたね。
――その「ちょうど良さ」のバランスが変わってきたのかなっていう気がするんですよね。もうちょっと出していいのかなっていうところに来たのかなって。
ナカシマ:どうなんだろう。結構、ずっとエゴでやってるつもりではあるんですけどね。でも今回はちゃんとわかったうえでエゴを通したって感じだったね。わけもわからず「これやりたいんだ」ってやってたんじゃなくて。
――だから、前回のインタビューでも話してくれましたが、『flask』のときにはどんどん複雑な曲になっていって、これ以上この先に行っちゃうとわけがわからなくなるからって、いわば自分たちで立ち入り禁止の看板を置いたわけですよね。
ナカシマ:はい。
――この「架空船」はその看板を自分たちで蹴飛ばしているところがあると思うんですよ。でもむやみに突き進んでいるわけでもなくて、ちゃんとわかった上でその先に行ってるっていう。
峯岸:なるほど、たしかに。なんか僕は、ふたりよりはカオスのほうに行かないようにしてた気持ちはあるんですよね。『flask』のときも。ナカシマが「これやろう」って言って、原も「それいいじゃん」って言ってるけど、俺は「それやったらヤバいぞ」って言って。ナカシマたちも今はそれを言わなくなった。
――バランスを取るのがうまくなったというか、バランスが良くなったっていう感じなのかもしれない。
峯岸:そうですね。だからわざわざ立ち入り禁止の看板を立てずともうまくいくようになったのかなって。「ここまでは大丈夫」っていう。
ナカシマ:うん。商品としてはないけど、作品としては前よりはちょっと自信はありますね。作品として美しいっていうのはなんとなくわかるんで、そこの考え方が鮮明になってきているかなって感じです。
――わかりました。そしてもうすぐオンラインライブ「配信 邁進 カプサイシン、売り込み熱心 母感心。」もあります。
原:うん。普段どおりの感じでやれればいいですね。
峯岸:でも雰囲気も違うし、お客さんもいないし、演奏するのも久しぶりだし。
ナカシマ:スタジオで練習しているときはそんなに感じなかったけど、長尺なのでスタミナが心配ですね(笑)。リハビリが必要かも……。

【取材・文:小川智宏】

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リリース情報

架空船

架空船

2020年09月16日

RO JAPAN RECORDS

01.架空船

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透明造花

透明造花

2020年04月22日

RO JAPAN RECORDS

01.透明造花

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オンラインライブ「配信 邁進 カプサイシン、売り込み熱心 母感心。」
09/26(土)20:00~
※10/03(土)23:59までアーカイブ配信あり



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11/01(日)大阪 大阪産業大学 中庭特設ステージ

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