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2枚組傑作アルバム『BBHF1 -南下する青年- 』の完全再現ライブ。豊かな音楽体験と映像美で魅了した一夜を徹底レポート!

BBHF | 2020.10.31

 なんといっても、傑作『BBHF1 -南下する青年- 』の完全再現ライブである。2枚組のコンセプチュアルな作品の世界を、どうライブの場に還元するのかという意味でも、そこに込められた種々の音楽的冒険をどう体現するのかという意味でも、とても楽しみにしていた。加えて前回の配信ライブでも配信ならではの演出で楽しませてくれた彼らだが、そういう点でもとても興味深い。……と、この「BBHF LIVE STREAMING -YOUNG MAN GOES SOUTH-」、期待値マックスで画面の前に陣取ったわけだが、眼前に広がったのは、その期待をはるかに超える、大胆で豊かな音楽体験だった。というか、これはもはや「アルバムの再現ライブ」などではない。アルバムをモチーフに大きな感情の動きを表現した、ひとつのアートだと思った。

 開演直前には、鳥のさえずりとアンビエントなサウンドが流れるなか、ステージ設営の様子や若者たちの群像を描いたムービーが映し出される。そして10分のカウントダウンの後、電源が入れられ、ミキシングコンソールが立ち上がる――そんなドラマティックな導入部を経て、パッとステージに立つ尾崎雄貴(Vo/Gt)の姿が目に入る頃には、すっかりその世界に没入していた。1曲目はもちろん、アルバムのオープニングナンバーである「流氷」だ。だだっ広い空間に離れ小島のような正六角形のステージが円を描くように並び、それぞれにメンバーが立ち、のっけから濃密なグルーヴを聴かせていく。尾崎和樹(Dr)の叩き出すリズムの力強さ、DAIKI(Gt)のギターの空間的な音の鳴り、きわめてハイクオリティな音像のなかで、いよいよ「青年」の旅が始まっていくのだ。

 と、「流氷」が終わると画面は暗転。一瞬の間があってスポットライトに照らし出された佐孝仁司(Ba)がコントラバスを弾き始めると「月の靴」へ。雄貴の向かい側、ひとつ空いていたステージに「青年」役の俳優・井上嵩之が登場した。この「空きステージ」がとても重要で、たとえば「Siva」ではサックスプレイヤー・高橋茅里が登場して曲のムードを盛り上げたり、「N30E17」では女性ダンサー(大渕水緒)が「人間性を取り戻す」という歌詞のとおり肉体を躍動させたり……ステージ間を絶え間なく動きながら展開していくカメラワークも含めて、映画的というか、オンラインライブだからこそ生み出せるドラマ性が、音楽に刻まれた情景をより鮮明に浮かび上がらせる。

 『BBHF1 -南下する青年- 』は、「維持しようとする力、変えたくない、変わりたくない、変わってほしくないっていう思いだったり、それを『続ける』っていう選択を取ることにフォーカスしたい」という思いから生まれたアルバムだと、インタビューで雄貴は語っていた。続いていく人生、続いていく生活。そのなかのさまざまな場面を切り取りながら進んでいくは、一見無関係なシーンをつなぎ合わせることで、「そんな連続が生きるということなんだ」と言っているように聞こえる。このライブもまた、まったくテイストも感触も違う楽曲たちが、滑らかな映像のスイッチングによってひとつの流れになっていく様子を記録している。

 スケールの大きなロックチューン「クレヨンミサイル」があり、続けてミニマルなループ感が気持ちいいラブソング「リテイク」があり、はたまた疾走感のあるギターロック「1988」が繰り出される――アルバムの中盤を担う力強い楽曲たちが、それぞれの色を帯びて鳴り響き、一続きの絵巻のように広がっていく。そのなかでメンバーはむしろ淡々と音を鳴らしているように見える。音楽と物語、そしてそこに込められた思いが真ん中にあって、それを届けるべくあらゆるものが組み上げられているという感じがするのだ。

 「青年」によるアルバムDisc1<上>のラストを飾る「南下する青年」のポエトリーリーディングを経て、ライブはDisc2<下>を再現する後半戦へ。ここから、アルバム同様、ライブもどんどん音楽的になっていく。

 グリーンの光に包まれるなか「鳥と熊と野兎と魚」、そして一転してオレンジのライトに照らされて「夕日」へ。再びダンサーが登場し、楽曲の世界を雄弁に表現し、DAIKIの弾くシンセフレーズが寂寥感を醸し出すと、今度は雄貴の印象的なギターフレーズから「僕らの生活」。「空きステージ」にはシンガーソングライター・Furui Rihoが登場してコーラスを重ねていく。雄貴が楽器を置いてマイクのみで歌った「疲れてく」の、歌詞とは裏腹の温かさを感じさせるアンサンブルと歌がじんわりと広がると、佐孝のふくよかなベースサウンドがどこまでも人間的な「君はさせてくれる」へ。青年の旅のクライマックスに向けて、いっそう豊かな音が鳴り響いた。

 その「君はさせてくれる」がフェードアウトすると、ちょっとトロピカルなリズムワークが心を弾ませる「フリントストーン」に切り替わる。軽く身体を揺らしながら歌う雄貴の表情も少し柔らかくなったような気がする。曲の終盤に向けてリズムが速くなり、ステージが青い光に包まれると、そのまま「YoHoHiHo」へ。4人の鳴らす音がひとつのリズムに重なり、にわかに演奏がダイナミックになっていく。北から始まった旅も、気がつけばずいぶん南まで来た。空気の暖かさをそのまま音に封じ込めたような熱感が、音からも伝わってくる。

 そしていよいよ、フィナーレを飾る「太陽」だ。和樹のドラムがタイトなビートを打ち鳴らし、クールなギターリフに乗せて<僕らは太陽 だってさ>という歌詞を雄貴が高らかに歌い上げる。頭上にはミラーボールが輝き、会場中をまるで星空のような光の欠片で覆い尽くす。まばゆい光に包まれながら、この日いちばんかもしれないテンションの高いアンサンブルが轟き、ついにここまでたどり着いた「青年」の姿を映し出して、ライブは終わった。

 ライブ終了後のエンドロールまで含めて、文字どおり映画のようだった「BBHF LIVE STREAMING -YOUNG MAN GOES SOUTH-」。改めてBBHFというバンドの、そして尾崎雄貴というミュージシャンのイマジネーションの豊かさに恐れ入った。このライブを観たあとだと、アルバムの感じ方もまた違ってくるだろう。もう一度『BBHF1 -南下する青年- 』をじっくり聴き直したいと思う。

【取材・文:小川智宏】

tag一覧 男性ボーカル ライブ BBHF

リリース情報

BBHF1 -南下する青年-

BBHF1 -南下する青年-

2020年09月02日

Beacon LABEL

<上>
01.流氷
02.月の靴
03.Siva
04.N30E17
05.クレヨンミサイル
06.リテイク
07.とけない魔法
08.1988
09.南下する青年

<下>
10.鳥と熊と野兎と魚
11.夕日
12.僕らの生活
13.疲れてく
14.君はさせてくれる
15.フリントストーン
16.YoHoHiHo
17.太陽

<初回限定盤DVD収録内容>
「2019.12.16 BBHF ONE MAN TOUR 2019
“FAM!FAM!FAM!” 恵比寿LIQUIDROOM」ライブ映像
01. Mirror Mirror(Instrumental)
02. リビドー
03. だいすき
04. 友達へ
05. バック
06. Torch
07. Mirror Mirror
08. なにもしらない
09. あこがれ
10. シンプル
11. 涙の階段

セットリスト

BBHF LIVE STREAMING -YOUNG MAN GOES SOUTH-
2020.10.25

  1. 01.流氷
  2. 02.月の靴
  3. 03.Siva
  4. 04.N30E17
  5. 05.クレヨンミサイル
  6. 06.リテイク
  7. 07.とけない魔法
  8. 08.1988
  9. 09.南下する青年
  10. 10.鳥と熊と野兎と魚
  11. 11.夕日
  12. 12.僕らの生活
  13. 13.疲れてく
  14. 14.君はさせてくれる
  15. 15.フリントストーン
  16. 16.YoHoHiHo
  17. 17.太陽

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