「人間性」を追い求めて北から南へ――2ndフルアルバムで向き合った「続けること」の真意とは。

BBHF | 2020.09.02

 2枚組、全17曲というボリュームで完成したBBHFの新作『BBHF1 -南下する青年-』。2枚組のコンセプトアルバムというと、壮大な叙事詩が展開する一大ストーリーアルバムというイメージをしがちだが、このアルバムはそういう作品ではないと思う。ここに収められた様々な楽曲は、様々な人生の様々な場面を切り取り、そこに生まれる感情を繊細に汲み取っていく。人生という長い旅は、どんなふうに続いていくのか。僕たちはなぜそれを続けるのか。そんな根源的な問いかけが、音楽を通して浮かび上がってくる。わかりやすい意味でのカタルシスはないかもしれないが、歌詞と密接に結びつき、終盤に向けて徐々に温度を上げていくサウンドデザインが、最後の「太陽」までたどり着いたときに大きな感動を呼ぶ。この作品はどのように生まれたのか、尾崎雄貴(Vo/Gt)に訊いた。


――2枚組17曲という形、そして北から南へ旅をしていく物語というコンセプトというのはいつ頃固まっていったんですか?
尾崎:去年のツアーの途中ぐらいから、実は1曲も出来てなかったんですけど(笑)、「アイデアを考えてる、ツアー中もいいアイデアが浮かんでる」とかってお客さんに向けて言ってて。10何曲かの2枚組のアルバムを出すっていうことを言ってたんですよね。だから、そういうアルバムを作るっていうのは心に決めてました。今回のアルバムのテーマでもあるんですけど、自分の安全地帯から抜け出して冒険してみたいなっていう思いもあって。そのなかで、自分を追い込むというか、安全地帯から自分を追い出すような感覚で、自分への信頼のもと言ってましたね。
――「北から南に向かう」というテーマはどの段階で?
尾崎:ツアーが終わって北海道に帰ってきてすぐに思いついた感じですね。バンドとしてデビューして、東京に1年いましたけど、戻ってきてからはずっと北海道で暮らしてるので、必然的に北からのスタートになったんだと思うんですけど。そういう自分のベーシックなイメージがあって、そのうえで、実際自分がその個人的な人生の中で馴れ親しんだコミュニティだったり、誰かとの関係だったりに対して疲れたり、疑問を感じたり、はたまたすごくそれが愛しいから続けたいと思ったり、自分が今まで継続してきたことに対して改めて見つめ直す機会があって。そのタイミングで「続ける」っていうことをテーマに、ひとりの青年が住み慣れた町を離れて南に下っていく――それが衝動的なものなのか、ずっと考えてきた計画だったのかっていうのは聴く人に任せたいなと思うんですけど、誰しもが感じる、どこか自分が知らないところに行ってみたい、離れたところから自分がいたところを見てみたい、そういうところに訴えかけるような作品にしたいなって思いました。
――そういう思いに至ったきっかけというのはあったんですか?
尾崎:なんだろうな……『Family』っていうアルバムを、自分としてはある程度広く受け入れてもらえるだろうっていう気持ちを込めて作ったんですけど、自分たちが王道だと感じているもの、直球だと感じているものが今の日本の世間にとってはそうじゃないんだなっていうような感覚を、ツアーを回りながら感じたんですよね。お客さんに対してというよりは、お客さん以外の世間に対して。たぶん、そのギャップが自分の心を動かしたような気はします、いい意味で。ギャップがあるのはもうわかったから、それを受け入れて、じゃあ思いっきり違うところに行こうっていうような感じ。ふてくされてるとかではなくて、「もう別にそこじゃなくていいかな」っていうような感覚で作りました。
――なるほど。たしかにこのアルバムはすごく自由というか、やりたいことを思いっきり詰め込んでいる感じはありますね。
尾崎:やってみて何が見えてくるか、自分としてもそうですし、メンバーも含めて「まあ見てみよう」っていうような。偶然何か面白いことが生まれるんじゃないかっていう期待をしながら制作をしてたんで。で、実際制作の中でそういう素敵な出来事がたくさん起こったんですよ。それがたぶん、自分たちにとっていちばん合ってる制作の仕方だなと思いました。何かが起こるのを待つ、自分たちの中で何かが爆発するのを待つっていう、そういう日々。
――今回制作にGalileo Galileiのメンバーでもあった岩井(郁人)さんが参加していますよね。ライブにサポートメンバーとして参加したりというのはありましたけど、今回はどういう経緯で一緒にやることになったんですか?
尾崎:岩井くん、今も後ろにいて映像編集してくれてるんです(笑)。しばらく会ってなかったんですけど、Galileo Galileiを終了してすぐぐらいかな……その頃にはわりと会うようにはなってて、「一緒にやりたいね」なんて話を普通に友達としてしてたんですよ。それがこのタイミングで実現したという。彼とは、音楽を作ったり、一緒に研究したり、勉強したりだとかする情熱をお互いに焚きつけ合える存在なんですよね。僕にとっては、彼がいると自分が2倍3倍にブーストされていくような存在で。お互い立ち位置というか、得意不得意だったりっていうのが理解できてなかったからあのときは彼がバンドを抜けるということになったけど、今は自分たちがどう関わっていくべきなのかっていうところが見えてきてるので、かなり素敵な距離感でやれました。Galileo Galileiを一緒にやっていた頃の話とかをよくするんですけど、今はまったく違う関係だなと思いますね。それは僕以外のメンバーも同じだと思います。
――今はどういう関係で音楽を作れているんですか?
尾崎:岩井くんがプロデューサーとして素晴らしいなと思うところが、例えばメンバーだったりはあまりにも近い位置にいたので、僕が作る楽曲とかテーマに対して、もちろん踏み込んでも来なければ、どちらかといえば無関心を貫くんです。でも岩井くんは、踏み荒らしはしないですけど、しっかり踏み込んできてキャッチしてくれる。僕が感じている感情とか考えとかをそうやって引き出して、「こういうこと考えてたよね、じゃあこうできるんじゃない?」みたいな。そういうキャッチボールの相手になってくれるので、それが今回すごくでかかったなと思います。だからぶっちゃけ、今後も一緒に関わっていってほしいなと僕は思っていますね。
――アルバムの序盤に「N30E17」という曲がありますよね。この曲が前半のポイントだなと思うんです。この曲で歌われていることっていうのがまさにアルバムのテーマを象徴しているという。この曲はどういうふうに出来たんですか?

尾崎:この曲がアルバムの中でいちばん最初に出来たんです。ツアーから帰ってきて「2枚組作りますか」って、鍵盤をぽろぽろ弾きながら出来ていった曲で。だから探り探りなところはありました。曲の中で何回かテンションが変化するんですけど、あれも自分たちが今どういう感じなのか探りながら作っていった結果、ああいうアコースティックなものになっていって。そこで、このアルバムは自分の内面を歌う、個人的なものになっていくんじゃないかっていう予感がしたんですよね。だからこの曲が自分たちにヒントを与えてくれた感じですね。
――この曲で<人間性を僕は取り戻す>って歌っているじゃないですか。この「人間性」っていう言葉がすごく強いなと思うんですけど、これはどんなイメージだったんですか?
尾崎:僕自身が音楽を通して、人間性っていうものを形にすることを求めてるので、今どういうものなのかっていうのは説明できないですけど……ただ僕が今いちばん追い求めているものではあるっていうか。単純に優しさとか愛とかっていうわけではない人間性っていうものを、楽曲を書くことを通して自分は知りたいんだろうなって思います。
――その「N30E17」を皮切りに曲を作っていくなかで、歌詞に込めたいテーマみたいなものはどういうふうに定まっていったんですか? 資料には「変化をするということではなく、維持し続けること、それに費やすエネルギーと時間について考える」と書かれていましたが。
尾崎:日本人の心の底には、「物事終わっていくものだ」っていう感覚だったり、「変化していくっていうのは自分たちで変えていくんじゃなくて勝手に変わっていってしまうことだ」っていうような感覚があると思っていて。だから僕は変わっていくこととか変わってしまったことについての楽曲も書いてきたけど、今回はそうじゃなくて、維持しようとする力、変えたくない、変わりたくない、変わってほしくないっていう思いだったり、それを「続ける」っていう選択を取ることにフォーカスしたいなっていう。僕らの人生とか生活って映画でもドラマでもなくて、どこかで話が終わるわけじゃない。どんなに嫌な展開でも、どんなに間抜けな人生でも続いていく。僕も年齢的にもうすぐ30歳になるんですけど、そこに来たときに、やっぱり続けてきたことだったりこれからも続けていくであろうことをいったん清算したかったんだろうなと思うんです。そのうえで、目の前に続いている道を漠然と見ているようなイメージっていうか、とぼとぼと歩きながらずっと続く道を見つめ続けるっていう。
――「僕らの生活」でも「リテイク」でも、いろいろな気持ちや状況が訪れながら続いていく日常を、肯定的に見ようとしているんだなというのは伝わってきます。


尾崎:そうですね。でも僕自身もそうだけど、人間ってそうそう何かを悟ったりすることってなくて。今日これが答えだと思ったことが1週間後には全然違う答えを出したりするもので、「僕の人生って何なんだろう」っていう問いに対してもそうなんですよね。ハッピーエンドだって思った1週間があったとしても次の月にはなんて言ってるかわからない。完結はないと思うんですよね。最近何かで見たんですけど、イギリスかどこかの研究で、人間の本質って一生変わらないと思われてたんですけど、調べた結果長い人生の中で子どもの時代から60歳とか70歳までの間に物事の考え方の本質、人格っていうのは変わっていくらしいんです。だから答えはないんですけどね。
――「続けること」「維持していくこと」っていうテーマでいうと、「疲れてく」っていう曲では<愛するほど 疲れていく>とも歌っていますね。

尾崎:僕、書きながらお酒を飲むことがあって、次の日「何だこれは」っていう歌詞が出来ていることもあれば、「なんて自分の胸に刺さるものなんだ」っていうこともあるんですけど、「疲れてく」はわりとそういう感じで書いた曲(笑)。だからどういうふうに自分が書いたか覚えてないんですけど、ただ書き終えてとても気に入ったんですよね。例えばバンドのメンバー内でも、友達とか恋人同士でもそうだと思うんですけど、関係に慣れていくことで相手を傷つけてしまう、日々の当たり前になることによって自分の大事なものを傷つけてしまうっていうことってあるなって。そうやって失ってしまったものを取り戻すことがいいということではなくて、それを維持しようとする力、取り戻そうとする意思を、僕は今回大事に思ってるので。良くなくなってしまったものをもう一度良くしようとする、修復しようとするっていう意思。そこに何かを感じてもらえればすごくうれしいなって思いますね。
――そしてラストの「太陽」が、いわばいちばん南で、このアルバムにおけるひとつの結末のようになっているわけですけど、この曲の<ススキ畑のすぐ隣 高速道路の騒音で/歌ったり踊ったり したいね いつだって できるんだ>っていう歌詞が素晴らしいなと思いました。

尾崎:ああ、そうですか? なんか不思議な気持ちですね(笑)。「太陽」は僕らの生活とちょっと近くて。僕自身がツアーで高速道路を走りながら外を見てるときによく考えてることがあるんですけど。子どものころ、旅行先に行くために、もしくは実家に帰るために、親の運転する車の後ろでぼうっと外を見てたときに目に映っていたものと同じものを、今も視界に入れてるなって思うことがあって。なぜそれに惹かれるのかはわからないですけど。ススキじゃないんだけどススキみたいな謎の植物、あるじゃないですか。高速道路の脇によくあるあれを僕は結構よく見るんですよね。たぶんそういうところに何かを感じたんだと思うんですよ。高速道路の横にススキみたいなものが生えていて、そこに引っ掛かってるポリ袋とかの画が頭の中でループして。自分が聴いている音楽とかにも絡めて、それが変わらないっていうのは面白いことだなっていう。この頃から惹かれるものって変わってないんだなと思って。
――うん。だから長い旅をしてきた結果としてそこにたどり着くっていうのがすごくいいですよね。ここではないどこかに行くんじゃなくて、やっぱりここに帰ってきて続けるんだっていう。
尾崎:その続いていく推進力を最後の曲では表現したかったっていうのがあって。並べたときにこの「太陽」がいちばん推進力を感じられたんですよね。続いていくっていう希望もあったし。どうせなら、音楽を作るうえで僕は希望のほうを歌いたいなと思うので。

【取材・文:小川智宏】





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リリース情報

BBHF1 -南下する青年-

BBHF1 -南下する青年-

2020年09月02日

Beacon LABEL

<上>
01.流氷
02.月の靴
03.Siva
04.N30E17
05.クレヨンミサイル
06.リテイク
07.とけない魔法
08.1988
09.南下する青年

<下>
10.鳥と熊と野兎と魚
11.夕日
12.僕らの生活
13.疲れてく
14.君はさせてくれる
15.フリントストーン
16.YoHoHiHo
17.太陽

<初回限定盤DVD収録内容>
「2019.12.16 BBHF ONE MAN TOUR 2019
“FAM!FAM!FAM!” 恵比寿LIQUIDROOM」ライブ映像
01. Mirror Mirror(Instrumental)
02. リビドー
03. だいすき
04. 友達へ
05. バック
06. Torch
07. Mirror Mirror
08. なにもしらない
09. あこがれ
10. シンプル
11. 涙の階段

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『BBHF1 -南下する青年-』
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ぬか漬け
最近ぬか漬けを作ってて、全然料理とかするほうじゃないんですけど、日々起きてぬかをかき混ぜたりするっていうルーティーンを楽しんでます。ぬかに漬けたらおいしいものを検索してて、意外なものをぬかに漬けるとおいしくて。無理やり繋げるわけじゃないんですけど、音楽に近いものがあるなっていう。ぬかの中の菌を調整しなきゃいけなくて、増え過ぎてもダメなんで、唐辛子だったり、殺菌作用があるニンニクとかを入れるんですよね。そういうところにも惹かれるというか。今のところ漬けていちばんおいしかったのはカボッコリーです。



■ライブ情報

BBHF LIVE STREAMING
-YOUNG MAN GOES SOUTH-

10/25(日)19:30~

アーカイブ視聴期間:10/28(水)23:59まで
オフィシャルファンクラブ先行期間:09/04(金)19:00 ~ 09/13(日)23:59

LIVEWIRE URL:https://livewire.jp
BBHFモバイルファンクラブURL:https://sp.lastrum.co.jp/bbhf/

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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