ドミコ、全曲入魂――濃密なステージとなったツアーファイナル
ドミコ | 2020.11.18
暗幕に投影されるさかしたひかる(Vo/Gt)のシルエットと、意外なことに淡々とした「地動説」を1曲目に持ってきたことで、むしろ自分が“ドミコ不足”に陥っていることに気づく――そんなハッとさせられっぱなしのライブだった。
4月にリリースしたミニアルバム『VOO DOO?』に伴うツアーが幾たびかの延期を経て、現在の新型コロナウイルスの状況下で出来うる対策を講じ、全国6ヵ所、各会場2部制のツアーとしてようやく実現。今回はファイナルとなった東京・渋谷TSUTAYA O-EAST公演の2部をレポートする。すでにライブの翌日、1部、2部共にセットリストがSpotifyで公開されたので、曲順の違いでライブの運びや流れが違ったことは推察されるだろう。だが、新作である『VOO DOO?』収録曲ですら、すでに音源とはアレンジが違う。そしてライブを楽しんでいることが演奏から滲み出す。ポーカーフェイスのドミコでもこればっかりは隠しようがない。
フロアは意外なことに椅子席で前後の間隔に余裕を持たせている。2部制ライブの恩恵と言ってはなんだけれど、ワンマンでは過去最大キャパだ。広いステージを生かして、冒頭に書いたように暗幕にツアータイトルが投影されている。着席しているファンの興奮が立ち上ってくるようだ。そこにさかしたの横顔。幕の向こうの映像であることを察知して、それが開くと「地動説」に聴き入る。星を思わせるフレージングに素朴な感じの星のアニメーションがハマる。広いステージの背景を端から端まで目一杯使った映像と溶け合う演出。が、何より耳目を引いたのはさかしたのボーカルの自由度。アウトロに向けて長谷川啓太(Dr)が怒涛のドラミングで、ここからの90分一本勝負の狼煙を上げた感じだ。フロアも一気に立ち上がる。
リフをループステーションで重ねて、長めのイントロをとった「問題発生です」は脳のCTスキャン映像をバックに、淡々としてるようでブルージーでヘヴィなソロが空間を塗りこめていく。一瞬のブレイクからドライヴするロックンロール「びりびりしびれる」に突入。ジェンダーレスな歌声がねちっこく絡みつつ、ラスサビ前の転調でストンと落下するような体感が快感に変わっていく。さらに分厚くてクランチなリフがハードロック味満点の「噛むほど苦い」に突入。個人的にちょっとCharを思い出させるトレモロアーム使いも織り交ぜた“ザ・エレキギター”なプレイと、手数は多いが抜けのいい長谷川のヒップホップを経由したドラミングのバランスが、若いリスナーにぶっ刺さっている状態が楽しい。ここまで全て『VOO DOO?』から連続しての披露。ドミコの曲に凡庸な展開はないが、『VOO DOO?』収録曲はさらに展開が練られている印象を受けた。
大きめの「センキュー!」に応える拍手に被せるように、ワウの効いたいわゆるワカチコカッティングからヘヴィロックまで、イントロを大量に追加した「まどろまない」。曲中の足を踏み外すような“崩壊”箇所も明快にしかも端的に表現され、ドミコにとってイントロが足されようが音の太さが増そうが、曲の構成は絶対なんだと感じ入る。そして8ビートがさらに研ぎ澄まされたことを実感したのが「My Body is Dead」。加えて歌を前に、さらに遠くに向けて歌っているからか、さかしたの発語が明快だ。こんなにグラムな歌メロなのに。もうこの曲の頃にはフロアは椅子席だが、自由に体を揺らす人が頻出。思わず体が動くビートも然り、ザクザク刻まれるギターの音然り。思うまま自分のノリで過ごせる彼らのライブを1月25日以来見ていなかったのだ。そりゃドミコ不足にもなるというものだ。ガラッとムードが変わって、ピッチが揺らぐエキゾチックかつサイケデリックな単音が、蝶へと羽化する映像とともに不思議な感覚を残す「さなぎのそと」で折り返し。
カントリータッチの「怪獣たちは」からセンチメンタルな気持ちを加速させ、「ロースト・ビーチ・ベイベー」ではあらゆる日本の夏休みらしい人々の日常が次々に映し出されていく。VJのセレクトなのだと思うけれど、何にも夏らしいことができなかった今年。だけど、永遠に今みたいなことが続くとは思いたくない。ずっとおちゃらけていたいし、どこの何者でもない気分なら、夏休みがやっぱりいい。取り返せはしないけど、この曲と続く「WHAT’S UP SUMMER」のゆるく踊れるビートとエコーがかったボーカルが、行ったことはないけどベガスのショーみたいなムードを醸し出し、架空のリゾート感に浸る。少しは夏を回収した気分だ。ところが、だ。お祭りっぽいビートのアウトロから出現したのは震えるような生々しいギターサウンド。これまで披露されたことはあるようだが、自分は初めて聴いた、ニール・ヤングの「Hey Hey,My My」のイントロ、そして<Hey hey,my my Rock and roll can never die>の歌唱。深い意味はないのかもしれない。でも、そこからのザクザク刻まれるリフに乗せてじっくり展開していく「深海旅行にて」はこれまでのこの曲の演奏を圧倒的に凌駕していた。叫びとイマジネーションが増幅していくギターソロ、そして何かの祭祀か祈祷のように地鳴りを起こすドラムソロ。そういえば今回ほど二人が向き合うシーンが多いライブもなかったように思う。不謹慎だが叫びたかった。
空間ごと嵐で吹っ飛んだようなタームのあとは、SEにエフェクティブなギターがかぶる「おばけ」から、シームレスにあの奇怪なアルペジエーターが生むフレーズがループする「化けよ」へ。しかしずいぶんこのフレーズも整理された印象だ。1月に初聴きしたときより、音源よりさらに長谷川の人力ブレイクビーツの精度が上がっている。二連キックや一拍の長さが作り出すダブっぽい感覚。タイトさと間の心地よさが同時にくる。ツボというツボ全部を押された気分のまま、本編ラストは痛快に「ペーパーロールスター」。フロアからは腕も上がるし、頭上でクラップする人もいて、バラバラな動きの中にも、いや、バラバラだからこそ各々の自由が爆発。リフもコードカッティングも最高の音で、キャッチーな構成を再認識させて潔く終了。長谷川のXXL(ぐらいと思しき)大きすぎるTシャツがべったり体に張り付いているが、大きめの「ありがとう!」の一声で、二人ともステージを後にした。
アンコールでは予定していなかったが、スタッフの要望でと「アーノルド・フランク&ブラウニー」が追加され、トータル90分をいい緊張感を保ったままやり終えた二人。1部終了から2時間のスパンでこの濃度。1曲入魂で次々に情景を変えていくドミコのライブ・スタイルは長さより濃度だ。ずっとこれを続けるのは厳しいかもしれないが、少なくとも彼らには合うスタイルだと思う。何より、言葉より演奏。ステージ立ったらただやるのみ。いつも通りのドミコだが、今、より頼もしく見えたのは確かだ。
【撮影:小杉歩】
リリース情報
VOO DOO?
2020年04月15日
EMI Records
02.化けよ
03.びりびりしびれる
04.噛むほど苦い
05.問題発生です
06.さなぎのそと
07.地動説
*タワーレコード&FLAKE RECORDS 専売商品
セットリスト
VOO DOO TOUR?
2020.11.14@TSUTAYA O-EAST(PART2)
- 01.地動説
- 02.問題発生です
- 03.びりびりしびれる
- 04.噛むほど苦い
- 05.まどろまない
- 06.My Body is Dead
- 07.さなぎのそと
- 08.怪獣たちは
- 09.ロースト・ビーチ・ベイベー
- 10.WHAT’S UP SUMMER
- 11.深海旅行にて
- 12.おばけ
- 13.化けよ
- 14.ペーパーロールスター
- EN1.アーノルド・フランク&ブラウニー
- EN2.くじらの巣
- EN3.こんなのおかしくない?
お知らせ
BAYCAMP 2020
11/22(日)神奈川 ぴあアリーナMM
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。