ボーカルのageいわく「お腹が痛くなりながら」作り上げた渾身のファーストアルバム『BAECUL』をひっさげてのリリースパーティを、ずっと立ちたかったという渋谷WWWで開催したgato。対バンも含め、カオティックで、モダンで、カッティングエッジでありながらじつはめちゃくちゃエンターテインメントな、彼らの個性がはっきりと伝わってくる一夜となった。

　この日のゲストとして最初にステージに立ったのはgatoと同世代でもあるロックバンド、No Busesだ。音楽性的にはgatoとはまったく違うタイプだが、こうして続けてライブを観ると、なるほど、そこには確かに共通点があるようにも思えた。それはあえて言葉にするならば、健全で大胆なストイシズムとでもいうようなもの。「Medicine」の軽快なコードでキックオフすると、刻まれるハイハットとともに疾走する「Sleepswimming」へ。そのままポップなメロディが弾けるギターポップチューンである4曲目「Girl」までを駆け抜けると、ここでようやく近藤大彗（Vo/Gt）が「どうもこんばんは」と挨拶。gatoへの感謝を述べる。

　いつも思うことなのだが、近藤のMCは本当に何を言っているのかわからないくらいボソボソとしている。でもなんとなく言わんとしていることは伝わるが、そもそもMCでそんなに喋る必要ないと本人も思っているのだろう。それはgatoのageも同様なのだが、そのぶん曲のパフォーマンスで伝わるべきものは伝わるはずだという確信が、彼らのライブにはよく表れている。いろんなものを削ぎ落として、音楽のダイナミズムと切れ味にすべてを懸ける、かっこつけていうならそんな意思をノーバシのパフォーマンスからは感じるのだ。

　ギターと歌が並走しながら気持ちいいフレーズを繰り出す「Prepare」、クールなリフからスタートした「Tic」を経て、ここで唐突にもうひとりのギタリストがステージに登場、5人編成で新曲を披露する。フロア全員が「誰？」となっているところに、近藤が「彼は和田くんといいます。どこの誰というわけでもない、和田くんです」と紹介になっていない紹介をする。みんな「……で、誰？」となった状態のまま、もう2曲披露すると「和田くん」はギターを置いて舞台袖へ去っていった。そして4人はそのまま何事もなかったかのようにラストの「Number Four or Five」を披露し、あっさりとステージを降りていった。

　セットチェンジを経て、いよいよ本日の主役gatoの出番だ。メンバーがステージに立つと、sadatakaの生み出す映像がバックのスクリーンに映し出される。SEがわりの「orb」から、セットアップの中にロサンゼルス・ドジャースのユニフォームを着たageが静かに歌い出したのは「9」だ。hirokiの叩き出すビート、kaiとtakahiroが操るサンプラーから繰り出されるサウンドのレイヤーが、一気にWWWの空気を変えていく。そのままシームレスに「natsu」へ。生き物のようにうごめく映像とシンクロするかのように、ageは身体を動かして歌う。ハイパーで未来的、でもどこか太古の昔から連綿と連なる人間と音楽の営みも感じさせる、そんなgatoの世界が、またたく間に広がっていく。「WWW、調子どうよ？　踊れるやつ、踊っていけよ！」。ageがそうフロアに語りかけると、オーディエンスは拳を突き上げ、頭を振り、それに応えていく。

　それにしても圧巻なのは、彼らのステージのすさまじい肉体性だ。デジタルなサウンドが中心にあるにもかかわらず、彼らのパフォーマンスには衝動に突き動かされるようなフィジカルなパワーがある。静かな歌のパートがあると思えば、「G0」や「middle」ではリズムに合わせてhiroki以外の4人が同じ動きを繰り出したり、あるいはそれぞれ思い思いに暴れまわったり。もちろんそれに合わせてフロアのテンションもジェットコースターのような上下動を繰り返す。コロナウィルスの影響がなければ、もっとすさまじい空間が生まれていたんだろうなと思うとこのご時世がちょっと残念だが、それでも会場を包む熱量にはすさまじいものがあった。

　「ame」ではゲストとしてMVにも出演したダンサー、KosukeとRen Konnoをステージに招き入れ、楽曲に秘められた切ないエモーションを詳らかにしていくようなアーティスティックなパフォーマンス。「luvsick」ではageの繊細な歌声がその場にいる全員の鼓膜と心を震わせていく。歌詞には抽象的な表現も多い彼らだが、ステージで描き出される風景は、それ以上に饒舌だ。サウンド、映像、そして身体表現。すべてが相まって、gatoの音楽は完成する。音源だけを聴いていては絶対に伝わりきらないものが、次々とさらけ出されていくような、圧倒的な体験である。

　ここでMCだが、ageは少しはにかみながら「俺のMCを聞きに来たわけじゃないんと思うんで……最後まで踊って帰りましょう」と語り、再び音楽へと身を投じていく。「C U L8er」から「miss u」をつなぎ、「babygirl」のエキゾチックな音色がオーディエンスを別世界に連れていく。「dada」ではダンサー・清水舞手とコラボレーションして妖しげなムードを演出し、「males」ではhirokiのドラムソロを経てageもスティックを持ってタムを乱打。ライブはクライマックスに向けてどんどん熱を帯びていった。

　「これだけ人がいるとめっちゃ楽しいわ」と笑顔を見せるage。共演したノーバシ、スタッフ、そして観客への感謝を口にして、本編の最後を飾る「the girl」を繰り出した。スケールの大きなサウンドスケープが狂乱のパーティから僕らを現実に引き戻すように鳴り響いた。アンコールではメンバー全員グッズのTシャツに着替えて、いくぶんリラックスした表情で「dawn」を披露。ageは改めてアルバムへの思いとその集大成であるこのライブへの思いを口にし、集まったファンに感謝を伝えた。最後に鳴らされたのはメロウな「creep」。最後まで名残惜しそうにしながら、gatoの5人はこの記念すべきステージから去っていった。