唯一無二の存在感を放つエレクトロバンドgato、待望のファーストアルバム『BAECUL』完成

gato | 2020.10.27

 独特のバンドである。ハウスやテクノ、ベースミュージックやヒップホップまでをも盛り込んだハイブリッドなエレクトロバンドというフォーマット自体はこれまでもあったものだし、そこに叙情的なメロディを合わせるという手法も、それをエモーショナルにぶっ放すライブのスタイルも、決して彼らだけのものというわけではない。だがそれでもこのバンドの醸し出す、熱くなればなるほど芯が冷めていくような、高揚と孤独が背中合わせのような感覚は独特だ。2018年に結成されたgatoという5人組。洗練されたアートとしてのフォルムを持ちながら、どこまでも個人の精神に根付いた人間味溢れる音楽は、単に踊れるだけでも、エッジィなだけでもない奥行きをもっている。10月14日にリリースされたファーストアルバム『BAECUL』を機に、首謀者ageの背景と内面に迫った。

――このバンド、始めてどのぐらいですか?
age: 2018年に始めたんで、2年半ぐらいですかね。
――ここまでの歩みというのはイメージしていたのと較べてどうですか?
age:そうですね、バンドが浮き上がるのにだいたい2、3年かなって思ってて。なので、目標としてる期間のあいだにちゃんとファーストアルバムを出せて、事務所に所属できたというのは、堅調かなっていう感じですね。
――gatoを始める前はどんな音楽をやっていたんですか?
age:もともとはハードコアのバンドをやって、そのかたわらでジャズのベースをやってたりしてて。なんか全然、今のエレクトロ路線とは違うんです。それと同時にパソコンで音楽を作っていたんですけど、それをバンドでやってみようかっていうので始まったのがgatoですね。でも今の音楽性の中にももともと自分が持ってるエッセンシャルな部分は入れたかったんで、エモーショナルな部分とかジャズっぽい展開とかは結構、曲を作るときには意識してますね。
――もともとそういう、エレクトロニックな音楽も好きだったんですか?
age:中学の頃とか、TSUTAYAで「CD何枚でいくら」みたいなコーナーがあって、そこでダフト・パンクを知ったんですよね。それがきっかけで。それからオービタルとか、ああいう90年代後半のエレクトロシーンなんかを聴くようになっていって。そこから広がっていった感じですね。
――それをバンドでやろうと思ったのはどうしてですか?
age:個人的にはトラックメーカーとかもありだなと思ったんですけど、ただトラックメイクをするのって、なんて言うんすかね、自分、すごい天の邪鬼なんで。なんか人と違うことをやりたいなっていうのはずっと思ってたんですよ。そのときにジャスティン・ビーバーとかのライブ動画を観たら、楽曲的にはトラックで作っている感じなのに、ライブにはちゃんとバンドがいて、また別の形で表現していて。自分たちでもこういうことができるんじゃないかっていう。今のgatoでも、楽曲はトラックとして完結してるけど、ライブではまた別のベクトルであるという感じでアウトプットできてるんじゃないかなって思います。

――じゃあ、わりとバンドを立ち上げた時点で「こういうものにしたい」というビジョンははっきりとあったんですね。
age:イメージはあったかもしれないですけど、どうしていいかはわからなくて。周りにそもそもトラックを作ってる人がいなかったし、これ、どうやってやるんだろう?って手探りで探していって。僕ら東京でもないんで、こういう音楽をバンドに昇華してる人もいなかったんですよ。クラブはあるけどチャラ箱しかない、みたいな(笑)。だからプロセスを築いていくのに苦労しました。
――ハードコアからジャズ、エレクトロと音楽の振れ幅は大きいですけど、そのなかでageさんが音楽を作ったり聴いたりしていてグッと来るポイントって何かしら共通していたりしますか?
age:そうですね……メロディとリズム。そこはしっかりしていないといけないと思うんです。その比率っていうのはそれぞれ違うと思うんですけど、でも絶対にそこのバランスが必要だなっていう。日本は特にメロディ中心で聴くし、それが評価されてるところでもあるんで。そこに海外的なエッセンスを入れていくっていうか。そういうもののほうがグローバルに通用するのはやっぱり事実だと思うんで、その2つをなるべく意識してますね。

――まさにgatoの音楽ってそこで生まれている感じですよね。クラブミュージック的な機能性だとか高揚感みたいな部分と、メロディが持ってる叙情性とか物語性みたいな部分がすごくうまくミックスされてるっていうか。今回のアルバムなんてまさにそれを凝縮したような作品だと思います。今作についてはどんな手応えを感じていますか?
age:もともと、パソコンで曲を作っていたときから、聴きたい音楽がないから自分で作っちゃおうっていうのがコンセプトだったんです。それは今までも、たぶんこれからもそうだと思うんですけど、それがやっと実現したっていう。自分が聴きたい曲をちゃんとアウトプットできたなあと思ってます。だから、作曲者でもあるんですけど、リスナーとしても聴けるなっていうアルバムになりましたね。そうやって作り手と聴き手、両方の自分の聴感で作れたかなと。
――その「聴きたい音楽」っていうのは、言葉で説明するとどういうものなんですか?
age:なんだろう、すごく端的な感じでいうと、ハウスとかテクノを聴いてて気持ちが乗ってくる瞬間、多分曲聞いてたらあると思うんですけど、そのすげえ盛り上がってるっていう感覚をもっと誇張していくっていうか。それと同時に、逆にもっとダークにしたいとか、リズムをなくして何もない状態にしたいっていうのもあって、その抑揚というか……。
――だから、gatoの音楽っていびつですよね。おっしゃったようにその静と動の落差、抑揚がすごくダイナミックで両極に振れている感じ。そういうものを求めるのはどうしてなんでしょう?
age:ストーリー性があるものがすごい好きなんですよね。ポストロックとか、あと作曲者で言うと菅野よう子さんとか好きだし、ジブリもめっちゃ好きだったんで、久石譲さんとか。だからストーリー的なものは自分の中にもあるし、それを意識してるのはあるんですよ。曲がミニマルでも展開としては、淡々と終わらないようにするし、起承転結みたいのはハッキリつけたいっていう。それが表れているのかなと。

――なるほどね。とくに日本だと、そういう物語性みたいな部分って歌詞に依存しがちじゃないですか。でもgatoの場合は音楽の展開とか構成そのもので物語を生み出すという。
age:そうですね。これもルーツの話になってくると思うんですけど、ポストロックとかもそうだし、たとえばピンク・フロイドとか、抽象的な言葉を投げる曲の方が好きだったりするんで。歌詞で何かを伝えるというよりは、曲の雰囲気を形容するために歌詞を使うみたいな感じで。ボーカルもリード楽器として捉えたときに、その語感とかリズムを活かすためのものっていう捉え方をしてるんで。それが自分らしさなのかなと思います。
――曲はどうやって作るんですか?
age:ギターから作るのがほとんどなんですよ。それで弾き語りっていうか宇宙語みたいな感じでメロディをつけていくっていう。
――へえ、意外ですね。てっきりPCでトラックを作っていくところからスタートするのかと思っていました。
age:ボーカルが中心にいるというところからは乖離しないように、というのは考えていますね。
――音楽的に、今作でチャレンジしたことでいうと?
age:「miss u」とか「the girl」の、ストリングスというかオーケストレーション的なところですね。このアルバムを出す前のEPとかシングルでは、もっとミニマルな、耳にすごく近いところで鳴る音を突き詰めてたんですけど、今回はそういう部分でスケール感をしっかり出せたかなと。音と耳の間にちゃんと空気を入れる、みたいな作業っていうのはすごく意識しました。端的になりすぎず、でも音も増やしすぎずっていう、そこの塩梅を意識して作っていました。

――確かに前の作品はもっとストイックだった気もしますね。その変化はなぜ起きたんでしょうか?
age:単純に……知識とか技術が上がったっていうのはもちろんなんですけど、より原点に戻っていこうっていうときに、昔聴いてた曲とかを1回聴き直して――僕、毎年プレイリストを自分で作ってるんですけど、それを聴き直して、昔の方が全然センスいいなって思ったりとか、でも今聴いている楽曲の良さもあるなとか。なんかそういうところで、ポストロックとかを聴いてたときのバンドのマインドと、あとは今のクラブミュージックとかの要素を自分の中でちゃんとまとめた上で、楽曲に差し込んでいくっていう作業に進んでいったんですよね。
――じゃあ、自分たちが今までやってきたことを、振り返るとまでは言わないまでも見渡しながら作ってた感覚っていうのはどこかにあると。
age:そうですね。なんかわりと人生単位で向き合ったみたいな感じはあります。アルバムを出すっていうのがずっと夢だったし、そういうのもあって初期衝動的になって、結果としてこういう形になったのかもしれないです。親に対しても自信を持てるものになったんじゃないかなっていう。
――gatoの音楽って、マニアックかそうじゃないかでいったら、やっぱりマニアックなものだと思うんです。
age:はい、そうですね。
――でもこのアルバムは、そこから扉を開いて一歩踏み出そうとしているのかなとも感じました。すごく人間っぽい音になっているし、エモーショナルだし。刺さりやすいと思うんですよね、いろいろな人に。
age:メロディとか、ポップな部分は絶対楽曲に入れたいなって思ってるんですよね。歌えるフレーズだったりとか、歌えるドラムのリズムだったりとか。キャッチーだけどポップになりすぎないギリギリを攻めたいと思ってて。アンダーグラウンドのハウスやテクノっていうところからエッセンスを持ってきてるんで、そこはちゃんとリスペクトを払いつつ、でもそれを歌モノっていうか、聴きやすいものに昇華したい。それにはどうしたらいいんだろうなっていうのをすごく考えてるんで。それを組み合わせた結果がこれですね。

――アジアっぽい音もたくさん使われていますよね。そのへんは?
age:そこは意識的に自分の中で今回のアルバムから入れようと思ってたもので。気持ちが変わった転機っていうのが、写真家のHideya Ishimaと展覧会をやったとき(IshimaとアーティストKenya Yoshinariによる作品展「Ether」)それの会場音楽を作ったんですよ。で、セクシュアリティがテーマの展示だったんですけど、それについてすごい考えて。何かになりたいと思ってやってきたけど、自分は音楽を作って何になりたいんだろうって思ったんです。たとえば自分は結構北欧の音楽が好きでそういう音楽を目指してたりもしてきたけど、じゃあ自分が白人になりたいのかって言われるとそうでもないですし。自分が日本人としてできることって、やっぱりアジアの代表になって、それをちゃんと発信できる、カルチャーの中心にいるバンドになるっていうことだと思って。それでこういう音になっていきましたね。

――さっき「人生単位で向き合った」っていう話もしていましたけど、もっと深い根っこみたいなところにも向き合っていったんですね。自分は何者なのかっていう。
age:そうですね。だから制作が終わってすごく思うんですけど、なんか結構憑依的っていうか、おかしいぐらい自分に対して向き合って作ってましたね。
――だから、めちゃくちゃアッパーな曲もあるし、パーティー的な盛り上がりもあるんだけど、このアルバムの曲の風景ってすごく孤独ですし、切ないですよね。「切ない」って言われるとちょっと違うと思うかもしれないですが。
age:いや、至極真っ当な感じ方だと思います。個人的には、何かが生まれる瞬間よりも終わり、その最後にすごく感情的なものがあるなっていうのがあって、いちばんわかりやすい例だと思うんですけど。お付き合いをしていた人とお別れをする瞬間とか、生きる死ぬみたいなこともその瞬間に感じられるっていう。終わりがあるからこそ、それまでのことが価値を持つというか。そういう瞬間を表現したいんですよ。バッドエンドの映画とかも結構好きなんですよ、その中にも幸せを感じられるから。その逆説的なところに自分の中で、何か受け取るものがあるっていう。
――それを音楽にするというのは、その感情を分かち合いたいということなんですか? それとも吐き出したいっていう感じ?
age:どっちかっていうと吐き出したいっていうほうが近いのかな。やっぱり自分に対して曲を作ってる。普通の形として、曲を作る人と聴く人っていうのがあると思うんですけど、自分はその作品として作ってるんで。歌詞も別に説明してないですしね。だからこれは「作ったから評価してくれ」っていう感じですね。もちろん共感してくれる、評価してくれる状態っていうのはすごくいいんですけど、でも個人的には「そうなんだ」ぐらいな感じではあるんで。いいなって言ってくれればもちろん嬉しいですけど、ダメって言われても、そういう受け取り方もある。そこに寄せていく作業っていうのは全然するつもりはないですね。それを超えるいい作品を作っていけば、ちゃんと評価の対象にはなると思うし、受け止めてくれる人もより真摯に向き合ってくれるんじゃないかなと思ってるんです。
――なるほどね。
age:なので、自分の芯を太くしていくことが、これからの課題だなと思ってます。
――わかりました。これがファーストアルバムで、ここからというところでいうと、どんなビジョンを持っていますか?
age:そうですね、バンドとして決まってるわけではないんですけど……よりポップでもありたいし、よりディープでもありたい。それを、どのレンジまで広げられるのかなあみたいな。そこにどこまで挑戦できるのかなっていうのは考えてますね。

【取材・文:小川智宏】

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リリース情報

BAECUL

BAECUL

2020年10月14日

ビクターミュージックアーツ

01.G0
02.ame
03.dada
04.babygirl
05.miss u
06.orb -interlude-
07.9
08.luvsick
09.C U L8er
10.middle
11.males -interlude-
12.throughout
13.natsu
14.the girl

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

gato 1st Album “BAECUL” Release Party
11/27(金)渋谷WWW
w) No Buses


First Finder vol.2 (配信ライブ)
11/01(日)20:00~ UNDER-OVER
w) Mr.ふぉるて / (sic)boy / クレナズム

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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