LAMP IN TERREN「この時期に止まらなくてよかった」――心を解放したツアーファイナル
LAMP IN TERREN | 2020.12.18
また初めてのLAMP IN TERRENに出会うライブだった。ここ最近の作品では、リリースをするたびに、ソングライティングを手がける松本大(Vo/Gt)が偽りのない裸の自分を曝け出し、その生々しい叫びが圧倒的なリアリティをもって聴き手の心を揺さぶってきたLAMP IN TERREN。そんな彼らがバンド史上もっとも自然体な作品として、10月にリリースしたアルバム『FRAGILE』を引っ提げたツアー「Progress Report」のファイナル公演だ。
コロナ禍に制作された『FRAGILE』というアルバムを聴いたとき、こんなご時世でも、いや、こんなご時世だからこそ、テレンの音楽を求めるリスナーには、できるだけ早く、手渡しで、生で届けるべき音楽だと思った。それほどまでに、『FRAGILE』という作品は、「当たり前」が揺らぎ、何を信じていいのかわからなくなった、2020年の私たちの心に肉薄していたからだ。テレンはそれを実行してくれた。ファイナルとなった恵比寿リキッドルームのMCで、松本は「こんな時期にまわっていいのかなって迷っていた」とツアーへの葛藤を口にしつつ、「俺の、俺個人に見えている世界の話をしますけど」と前置きをして、「ツアー20本、どこに行っても、“ありがとう”って言われました」と伝える場面があった。いまのライブハウスは、お客さんが声を出せず、動員も本来のキャパには満たない。外側からの批判も少なくはないだろう。それでもきっと、LAMP IN TERRENの音楽は、ライブハウスという場所で鳴らし続ける意味がある。この日のツアーファイナルは、そんな確信を得たライブだった。
ステージに設置された複数のブラウン管が無秩序なイメージを映し出すなか、ピアノの伴奏にのせて、松本が歌いはじめた。1曲目は、アルバム『FRAGILE』ではラストを飾ったタイトルトラック「Fragile」。光のない薄暗いステージ。“生きる意味”を摸索する切実な歌詞。ざらついたボーカル。そこにバンドサウンドが加わると、一気に会場はLAMP IN TERRENの世界に染まっていく。ホーリーなキーボードを合図に開放感のあるメロディが広がった「宇宙船六畳間号」。ブラウン管に心電図がハート型を描き、生命力を湛えた性急なリズムが加速した「heartbeat」では、フロアから手拍子が起こると、中原健仁(Ba)が親指を立て、“たしかに伝わっている”とでも言うように、自分の胸を叩いた。
「ツアーファイナル!」。最初のMCで、大きく万歳をした松本。「声を出せないと思いますので、身振り手振りで表現してくださいね」と言うと、「この時期に20本もツアーをしたことで、まだ誰も知らない4人でこのステージに立っていると思ってます。はじめまして、LAMP IN TERRENです」と、続く「Enchanté」のタイトル訳を引き合いに出して曲へとつないだ。ここからの流れは息を呑む瞬間の連続だった。稲妻のように激しく明滅する光のなか、シーケンスを交えた音像に振り絞るようなシャウトを聴かせた「Beautiful」と、初期作『silver lining』の収録曲であり、激しい緩急を描く「balloon」の2曲で歌うのは、自分の“居場所”を希求する切実な想いだ。胸に迫る熱い演奏。その渦巻く葛藤を救い上げるように、同じく“風船”をモチーフにした「風と船」、さらに「BABY STEP」へとつなぐ。松本は一部マイクを通さず、体を震わせながらアカペラで歌った。<僕が僕として生きることこそが 偉大な一歩目だから>。自分に言い聞かせるように紡ぐメロディは、この曲が発表された直後のツアーで、野音で、いつも大切な曲として歌い続けてきた曲だが、この日、ここに辿りつくまでの数曲が、「BABY STEP」という曲にかつてない説得力を与えていた。この日のテレンのライブは1曲1曲がとても重かった。
「よく来たな」(大屋真太郎/Gt)、「本当だよ」(中原)。前半の緊張感のあるムードを和ませたのは、中盤のMC。20本にわたるツアーを振り返った。序盤の高松公演の前日に淡路島のパーキングエリアで大屋が財布を落としたこと、終盤の旭川公演では、ライブ終演直後に松本の腰が悲鳴を上げたこと。思い出を語ればキリがない。「ここからは大人の包容力を見せていきますよ」という松本の言葉から、ライブは折り返しへ。穏やかなミディアムテンポ「おまじない」では、「照明さん、お客さんのほうも照らしてもらっていいですか?」と、明るくなったフロアに向けて、お客さん一人ひとりに語りかけるような歌を届けた。ピアノとアコースティックギターが繊細に絡み合った「チョコレート」から、深いグルーヴに揺れた「ベランダ」へ。このタームの曲たちは、たわいのない日常の匂いがする“生活”に近い曲たちだった。
「ただの人間です。音楽を選んだだけのただの人間です」。終盤、そう切り出した松本が、自分自身が歌う意味について語りかけた。もう背伸びをしないと決めたこと。孤独だからこそ、音楽を通して、たくさんの人たちとつながりたいという感情。いまこの瞬間に生きていて楽しいと感じるために、一生懸命苦しみたいと思っていること。そんな自身の考えを、できる限り誤解なく伝えるために言葉を尽くした松本は、そんな歌い手としての感情を、続くフォーキーな味わいのナンバー「いつものこと」へと託した。車のエンジンを合図にフロアが手拍子で一体になった「ワーカホリック」から、川口大喜(Dr)の軽快なドラムが楽曲をリードした「ホワイトライクミー」、メンバー全員の演奏がひときわ荒々しさを増した「New Clothes」へと、ライブは熱量を上げながらクライマックスに向かう。繊細で透明度の高いサウンドに生々しい孤独を綴った「Water Lily」に差し掛かるころ、いよいよライブは収束に向かう。
ラスト1曲を残したところで、松本は「俺はね、いろいろあったけど、この時期に止まらなくてよかったなと思ってます」と言った。ツアー中、最後のMCはマイクを通さずに地声で話していたというが、この日は配信ライブでも声が拾えるように低い位置でマイクを持ったまま話しかけた。「こんな状況、一生に一度かもしれないから、これはこれでありなんじゃないかと思えるぐらいのものをやりたかった」と。さらに、「衣食住のどれでもない音楽だけど、これが必要なんだってくらいものをやりたいと思って、ここまで全力でやってきました。だから、いままでにないぐらいの感謝の気持ちです」と、深く頭を下げた。最後に「死に物狂いで歌って帰ります」と言い、大きく息を吐いてから、ピアノの伴奏で歌いはじめたのは「EYE」。ステージに美しい光が降り注ぎ、おおらかなリズムのなかでうねる雄大なバンドサウンド。途中からハンドマイクで届けた松本の歌は、必死で、がむしゃらで、初めて目の当たりにする死に物狂いのボーカルだった。歌われるのは、本当の意味で人とのつながりを求めたいという感情だ。それは、生きる意味を求め、居場所を探し続けたこの日のライブをとおして、LAMP IN TERRENが導き出したひとつの答えだった。
再び4人がステージに戻ったアンコール。今回のツアーでは、本編ですべてを出し切るため、アンコールが起こらない前提で、曲は決めずに臨んでいるという。そんな流れもあり、「やっぱりいるんだね、アンコール(笑)」と笑った松本。たしかにやり切った本編だったけれど、少しでも長くテレンの音楽を聴いていたい。1曲目にダーティな演奏に不敵な笑い声が重なった「ほむらの果て」のあと、ステージ上で、次の曲を話し合うメンバー。「本当はあと1曲だったけど、2曲やるわ」ということで、「オーバーフロー」、さらに「最後にいっちょ踊り狂っときますか!」という景気のいい言葉を合図に「地球儀」で一斉にお客さんがジャンプして、ライブは終演。思いきり心を解放して、いまこの瞬間の“楽しい”を全身で表現したフィナーレは、まさにライブハウスの、音楽の、バンドの存在意義そのものだった。「マジで頼むよ、風邪とかひくなよ、健康に過ごせよ、生きろよ!」と、松本は最後に言葉をかけた。音楽には人を生かす力がある。それはきっと綺麗事じゃない。そう信じられるライブだった。
【撮影:(C)小杉歩】
リリース情報
FRAGILE
2020年10月14日
A-Sketch
02.Enchante
03.ワーカホリック
04.EYE
05.風と船
06.チョコレート
07.ベランダ
08.いつものこと
09.ホワイトライクミー
10.Fragile
セットリスト
LAMP IN TERREN ワンマンツアー2020
「Progress Report」
2020.12.13@恵比寿LIQUIDROOM
- 01.Fragile
- 02.宇宙船六畳間号
- 03.heartbeat
- 04.Enchanté
- 05.Beautiful
- 06.balloon
- 07.風と船
- 08.BABY STEP
- 09.おまじない
- 10.チョコレート
- 11.ベランダ
- 12.いつものこと
- 13.ワーカホリック
- 14.ホワイトライクミー
- 15.New Clothes
- 16.Water Lily
- 17.EYE
- EN1.ほむらの果て
- EN2.オーバーフロー
- EN3.地球儀
お知らせ
LAMP IN TERREN
定期公演ワンマンライブ「SEARCH #023」
2020/12/26(土)東京 渋谷Star lounge
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『Mashroom 2021 ~Hello new wind~』
2021/01/05(火)東京 LIQUIDROOM ebisu
2021/01/23(土)大阪 BIGCAT
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定期公演ワンマンライブ「SEARCH #024」
2021/01/26(火)東京 渋谷Star lounge
Dai Matsumoto presents 『FRAME』
2021/02/16(火)東京 渋谷WWW
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定期公演ワンマンライブ「SEARCH #025」
2021/02/26(金)東京 渋谷Star lounge
FM802 ROCK FESTIVAL
『RADIO CRAZY』
2020/12/28(月)大阪 インテックス大阪
rockin’ on presents
『COUNTDOWN JAPAN 20/21』
2020/12/31(木)千葉 幕張メッセ国際展示場1~11ホール、イベントホール
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2021/03/31(水)大阪 なんばHatch
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2021/04/10(土)、11(日)群馬 伊勢崎市文化会館
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。