眉村ちあき、初の日本武道館公演はファンと作り上げた最高の空間
眉村ちあき | 2020.12.21
ついに来た日本武道館公演! 当日を迎えて会場に到着すると一際ワクワクが高まる。夜空の下で金色に輝いている屋根の擬宝珠、通称「たまねぎ」がとても綺麗! どんどん集まってくるマユムラー(眉村ちあきファンの呼称)も嬉しくて仕方ないのだろう。入口に飾られている『日本元気女歌手 ~夢だけど夢じゃなかった~』という看板をスマホで撮影しつつ、はしゃいだ笑顔を浮かべている。会場入りすると、おとぎの国のようなステージが目に飛び込んできた。緑の葉っぱが生い茂る巨木、大きな水晶の結晶、古代ギリシアの遺跡のような円柱がかっこいい。スクリーンでは、お馴染みの谷さんと一緒に物販紹介をしている眉村ちあき(以下、愛称の“ちちゃん”とする)の映像が流れていた。
「マユムラーに全然会えないから、耳から何か出そう!」という非常に深刻な悩みを抱えているちちゃん。偶然出会った謎の男の話によると「ゴストファーのへそのごま」「ペロリンポコの根っこ」「黄金のひまわり」を手に入れれば、症状が治るらしい。この3つを探す冒険の旅へ! ……というRPG風の映像を経て、ステージに登場したちちゃん。1曲目は「冒険隊 ~森の勇者~」だった。フードを被り、マントの裾をなびかせながら歌う姿が凛々しくて雄々しい。「勇者」が武道館に降臨したオープニングだった。
「すごい! すごい!」と痺れていると、「早速トロッコに乗っちゃおうかな。あれ? トロッコない。どこ? 私が乗るんだけど!」という声が会場内に響き渡った。舞台袖で何かが起こっている? すると「顔ドン」がスタート。トロッコがアリーナ内でパレードを始めた。エレガントに手を振っている女性は、ちちゃんのお母さん……。「歌う娘/トロッコに乗る母」というシュールな展開が炸裂! 大がかりなイタズラを仕掛ける姿を観て、胸が熱くなったマユムラーがたくさんいたはずだ。ライブの現場で毎回ユーモアに満ちた何かを用意してくれる彼女は、大舞台でも無邪気なエンターテイナーぶりを発揮していた。
ワイヤーで宙吊りになりながら「ナックルセンス」を歌い、スクリーンに現れた魚風の謎の生物「ゴストファー」を剣で鮮やかに成敗。今回の冒険の旅の目的にひとつである「ゴストファーのへそのごま」を見事にゲットしたちちゃんは、その後、地上に降りて、ギターを弾きながら「リアル不協和音」と「マーメイドボーイ」を披露。幻想的なライティングと表現力豊かな歌声が一体となる様に、とても引き付けられた。モノクロの映像がスクリーンに流れる中で届けられた「夕顔バラード」も、美しい場面として印象に残っている。彼女の歌声に包まれる至福にじっくり浸ることができた。
……という、しみじみとさせられるひと時の後、タイトルも歌詞もぶっ飛んでいるダンスチューン「おばあちゃんがサイドスロー」がスタート。ステージ上のパネルの表面に浮かび上がったダンサーたちのグラフィックと一緒に踊るちちゃんは、猛烈にノリノリであった。そして、「最近恋してる? 最近ときめきが足りないから壁ドンをしてほしいの」というMCが始まり、「えっ?」という感じでざわついていたマユムラー。飛沫感染防止のため声を出すことはできないが、周囲のムードで気持ちが伝わってくるのがなんか面白い。次の曲の落ちサビで壁ドン(設定は“電車の中”だから、振動を表現するために手をプルプルさせなくてはいけない)のポーズをしてほしい……というのがこの唐突な発言の主旨であった。そしてスタートした「シュビデュバ・オブ・クラティー」。ピアノソロを披露して喝采を浴びてから辿り着いた落ちサビでは、会場中のマユムラーが一斉に手を前方に差し出して壁ドン。事情がわからない人から見たら完全にどうかしている群衆なのだろうが、当事者の我々にとっては楽しくて仕方がない風景だった。
マユムラーが軽快に身体を揺らして高鳴る胸の内を示した「壁見てる」の後、ステージの下手側に現れた謎の植物「ペロリンポコ」。マユムラーから送られたパワーを借りつつ引っこ抜こうとしたのだが、力が足りないらしい。すると4人のキッズダンサーがお手伝いで登場。先ほど倒されたはずのゴストファーも加勢し、ついに引っこ抜くことができた瞬間、ちちゃんは大喜び。「ペロリンポコの根っこ」も、ようやくゲットすることができた。そして「手を取り合うからね」がスタート。今年の春先の自粛期間中にマユムラーから寄せられた歌声や生活音を使って完成させたこの曲を、キッズダンサーたちと仲良く踊りながら歌っていた姿は、とても胸に迫るものがあった。ライブ会場でマユムラーと大合唱することはまだできない。しかし、いつか戻ってくるはずの空間を想像させてくれた。
「こんなに目の前に人がいるなんて、まるで夢みたいだわ! ずっとこの時間が続けばいいのに」と言いつつ歌い始めた「夢だけど夢じゃなかった」。制約はありつつも、こうして武道館でライブができる喜びを歌い上げる中で発せられた<だけどウチらはルールの中で最高を作れる!>という言葉は、臨機応変に楽しみながら最高なライブを一緒に作れるマユムラーに対するちちゃんの信頼が表れていて、とても感動的だった。声を出すことはできないが、「楽しい!」という想いで満ち溢れていた武道館。この曲が披露された後、場内換気のための休憩時間が挟まれた。
ライブ後半は、花道の先端のセンターステージでの演奏からスタート。アコースティックギターを激しくストロークしながら歌い始めた「顔面ファラウェイ」が「ツクツクボウシ」「チャーリー」「荻窪選手権」「I was born in Australia.」「東京留守番電話ップ」「緑のハイヒール」などに次々と変化していくマッシュアップのパフォーマンスが、スリリングでかっこよかった。マユムラーは大喜びして拍手喝采。続いて「Dear My Family」「本気のラブソング」「音楽と結婚ちよ」もセンターステージから届けられたが、感極まった様子で床に座ったり、バミリのテープを剥がそうとしながら泣くのを堪えたりもしつつ歌声を響かせる様は、我々の涙腺も決壊させかねない情感に満ちていた。
「ウチら拳で繋がってんじゃん? 今日、試合だからね。わかってんの?」と挑発されたので、足で床を「ドン!」と踏み鳴らして返事をしたマユムラー。「おーい! やる気あんのか?」「ドン!」「後半戦だからな。盛り上がっていけるか?」「ドン!」「力足りてるか?」「ドン!」。非常に息の合っている奇妙なやり取りを経て、当然アッパーな曲が始まると思ったのだが……しっとりとアコースティックギターを弾き始めたのを聴いて、静かに笑う他なかった。届けられた「36.8°C」は、清らかで美しいラブソング。床の上を漂う白いスモーク、終盤に差し掛かったところで降ってきた粉雪が綺麗だった。
ステージの中央に置かれた切り株に座り、両脚をブラブラさせつつアコースティックギターを弾いて歌う姿が、森で遊ぶ女の子みたいだった「やさいせいかつ」の後、「それにしても黄金のひまわりだけが見つけらない」とぼやいたちちゃん。先ほどからステージ上のあちこちにひまわりが現れているのに、全然気づかない彼女を見かねて、客席にいるちびっ子のマユムラーが「あっち!」という声を上げる。「えっ? あった? こっち?」とウロチョロ……公開生放送だった昭和の某コント番組のような寸劇を経て、ついに黄金のひまわりを発見。「これさえ手に入れれば、私は最強になれる!」と言って歌い始めた「偏差値2ダンス」は、掲げた腕を動かして踊るマユムラーの偏差値2な盛り上がり方が壮観だった。すると、学ラン姿の玉屋2060%(Wienners)が黄金のひまわりを手にしながら登場。ちちゃんにスカジャンを渡したのに、「これが欲しいのか? あげません!」と、ひまわりは決して譲ってくれない。歌いながらちちゃん&玉屋2060%が繰り広げた手に汗握るバトル。「あんなところにたこ焼き落ちてる!」という言葉に気を取られているところで、見事に奪ってみせた黄金のひまわり……という結末を迎えるまで、マユムラーは大はしゃぎしながら見守っていた。
「ひまわり見せびらかしに行こう!」と言ってトロッコに乗り込み、アリーナ席の通路を巡りながら歌った「ビバ☆青春☆カメ☆トマト」の後、約3年前に武道館で行われた物販主体の某アイドルイベントに参加した際のことを語ったちちゃん。「あの時は3平方メートルセンチメートルしか使っていいスペースがなかったんだけど、今はこーんなにある!」と喜びを露わにしながら、苦難の日々を振り返った。心無い言葉を浴びて、自分をあまり出さないようにした時期もあったのだという。「でも……それだと魅力が減るなと思って。やっぱり私、勇者じゃん? 一番魅力的だなと思う自分は、この情緒不安定な状態なわけ。この等身大の眉村ちあきが、私は一番魅力的だと思うの。みんなが明日から“今日よりちょっと頑張って冒険してみようかな”って思えるように、全員を勇者にして終わらせようと思います。全身全霊、心を込めて曲を歌います」という言葉を添えて、本編ラストに歌った「大丈夫」。エレキギターを弾きながら歌う声が、マユムラーの心を温かく鼓舞しているのを感じた。
手拍子と「ドン!」という足踏みに応えて行われたアンコールは、本編で手に入れた「ゴストファーのへそのごま」「ペロリンポコの根っこ」「黄金のひまわり」で薬を作る様子の映像からスタート。鍋で煮詰めた薬を飲んだものの全然効果が現れず、傍らにいた謎の男に詰め寄ったちちゃん。どうやらマユムラーの応援の声も鍋に加えないと、薬は完成しないらしい。「心の声で想いを届けてください!」ということになり、流れ始めた<奇跡・神の子・天才犬>という音声に合わせた手拍子、足踏みが武道館を震わせた。そして完成した薬を鍋から直接飲んで回復したちちゃんは、ステージ中央に開いた穴からポップアップで勢いよく飛び出してきた。そのまま曲が始まるのかと思ったが、ポップアップでの登場が楽しかったので「もう1回!」ということに……。ジェットコースターにもう1回乗るかのような自由奔放さも交えながら「奇跡・神の子・天才犬!」を全力で歌った彼女を、マユムラーが突き上げた拳が心から讃えていた。
即興のラップを交えつつ歌い始めた「ピッコロ虫」。「これやって!」と、両手のメロイックサインを合わせて作った6角形を頭上に掲げることをいきなり求められたが……これは一体何なんだろう? 「これが今日の冒険の印です(笑)。私たちはこうやってその場しのぎで生きていくことを誓います!」――なんかよくわからないが妙に説得力のあった宣言の後、「ヒューマン! ヒューヒューマーン! ヒューヒューヒューヒューマーン!」という呪文のような言葉を経て突入した本編は、武道館を人類愛に満ちたエネルギーで包んでいた。無我夢中で頭上に掲げた「冒険の印」を揺らしていたマユムラー。このポーズが何を意味しているのか発案者の当人もよくわかっていないはずだが、突発的な流れに身を任せるのが楽しくて堪らない。天才的な対応力の持ち主ばかりのマユムラーと理想郷を作り続けてきた歴史と言っても過言ではないちちゃんのライブの魅力が、華麗に炸裂したラストの曲であった。
元気いっぱいに走り回り、手を振って挨拶をしたちちゃんがステージから去った後、スクリーンで流れ始めたエンディング映像。スタッフのクレジットが映し出されていく中、「謎の男」がちちゃんのお父さんであることが判明したのは、最後の微笑ましいサプライズだった。こうして終演を迎えた武道館公演。最高の遊び場をマユムラーと作っている彼女の姿が本当に頼もしくてかっこよかった。従来の形でライブができる日が戻ってきたら、また武道館のステージに立つ姿を観たい。そして、今後、他の様々な会場でも彼女は素晴らしい空間を生み出し続けるはず。そんな期待と確信を余韻として噛み締めることができた。
【取材・文:田中大】
【撮影:Ryo Higuchi】
リリース情報
日本元気女歌手
2020年12月09日
TOY’S FACTORY
02.手を取り合うからね
03.教習所
04.偏差値2ダンス feat.玉屋2060%(Wienners)
05.ジュビデュバ・オブ・クラティー
06.夕顔バラード
07.フリフリスイスイニッコニコ
08.マーメイドボーイ
09.顔ドン
10.ニーゼロニーゼロ / 眉村ちあき&Creepy Nuts
11.冒険隊 ~森の勇者~
12.クリスマスソング
13.昼だがな! ~逆襲ver.~
14.36.8℃
15.やさいせいかつ
Special Track(CD Only Track)
夢だけど夢じゃなかった -20.9.18 ver.
夢だけど夢じゃなかった -20.10.11 ver.-
セットリスト
日本元気女歌手 ~夢だけど夢じゃなかった~
2020.12.14@日本武道館
- 01. 冒険隊 〜森の勇者〜
- 02. 顔ドン
- 03. ナックルセンス
- 04. リアル不協和音
- 05. マーメイドボーイ
- 06. 夕顔バラード
- 07. おばあちゃんがサイドスロー
- 08. シュビデュバ・オブ・クラティー
- 09. 壁見てる
- 10. 手を取り合うからね
- 11. 夢だけど夢じゃなかった
- 12. アコギマッシュアップ
- 13. Dear My Family
- 14. 本気のラブソング
- 15. 音楽と結婚ちよ
- 16. 36.8°C
- 17. やさいせいかつ
- 18. 偏差値2ダンス feat.玉屋2060%(Wienners)
- 19. ビバ☆青春☆カメ☆トマト
- 20. 大丈夫 【ENCORE】
- EN01. 奇跡・神の子・天才犬!
- EN02. ピッコロ虫