あれくんのユニット・夜韻-Yoin-、1stライブで紡いだ“君”と“僕”の物語
夜韻-Yoin- | 2020.12.24
シンガーソングライターのあれくん、ギタリストでアレンジャーの涼真、ピアニストの岩村美咲による新ユニット、夜韻-Yoin-が12月14日に1stライブを無観客という形で開催し、生配信を行った。TikTokやサブスクを始めたとしたSNSで中高生を中心に高い共感を集めているあれくんの音楽の中心には、いつだって「愛ってなんだろう?」「人を好きになるってなんだろう?」という問いがある。それは、夜韻でも変わらない。よりロックさを増したバンドサウンドの中で展開される“君”と“僕”のラブストーリー。その主人公たちはいつかの自分の感情と重なることがあるかもしれないし、たとえ自分の経験と違っていても、恋について、人との繋がりについて考える契機をくれるだろう。それが、あまり救いようのない悲恋だとしても。
開演時間になると、人が歩く音とともに道路を走る車の音が聞こえてきた。SEが流れる中、脳裏には、夜遅くに海岸沿いの道を歩く少年が浮かんだ。オープニングナンバーは、涼真がのちのMCで「ライブの1曲目はこれがやりたかった」と語っていたダンスロック「逆光」だ。“僕”を置き去りにして海に呑み込まれた“君”への怒りや苛立ちにも似た思いを抱きながら、“僕”も海に呑み込まれていこうとしている様が描かれている。“圧倒的な癒し声”と称されたあれくんのソロ曲のイメージからはもっと遠く離れた、エモーショナルな楽曲だ。顔から下だけが映し出されたあれくんはマイクスタンドを強く握り、熱く荒い歌声を響かせる。
そして、暗転。岩村がピアノのソロ演奏で“僕”が海へ沈んでいく過程を表現。続くローファイなR&Bポップ「Seafloor」で、タイトル通り、海の底に落ちていった。水が落ちるような効果音の間で、岩村が美しいフレーズを奏で、涼真はエレキギターではなくアコギで優しく支える。あれくんは“僕”の記憶を泡にして水中に発するかのように訥々と歌い語り、<もっともっと、生きていたかったのに>と“僕”の悲痛な叫びをあげ、画面の前にいるオーディエンスの心を震わせた。
「ほんとは生で皆さんにお会いしたかったんですが、このご時世で初ライブが配信ライブになってしまって。でも、ライブハウス、いいね。感動するね」(あれくん)
「しますね。実際に合わせるのは初ですもんね。めちゃめちゃオンラインで活動してきたので。なかなか外に出ないですからね、我々」(涼真)
「インドア派だから」(岩村)
「陰キャの集いみたいなね(笑)」(あれくん)
3人の普段の親密なムードが伝わってくるリラックスしたMCを経て、未発表の新曲「解けて解けて(とけてほどけて)」を初披露。恋がもたらす息苦しさに焦点を当てながら、“あなたと超えた夜”の意味を探す疾走感のあるピアノロックに続き、3人の出会いの場となった、あれくんの1stアルバム『白紙』の収録曲である名バラード「青」を夜韻アレンジでプレイ。ボーカルとスナップから始まるR&Bナンバーと思いきや、静と動がダイナミックに展開していき、アウトロでは涼真のギターがいななくロックへと変化。胸に手を置いて歌うあれくんの心地いいファルセットの中で語られたのは“私”と“僕”の間に彷徨う“君”という存在。三角関係なのだろうか。夜韻の1stミニアルバム『青く冷たく』ともリンクする色の名前がついているが、更なる前述譚なのだろうか。しかし、この曲の歌詞に<答えのない先に何かを求めて>とあり、「Seafloor」でも<答えも正解も意味も>海に沈んでいったと歌っている。あれくんは、インタビューでも「音楽には答えも正解もない」と言っていたように、全ては聴き手の想像力に委ねたいということなのだろう。筆者としては、この日のライブに限っては、「青」の“君”が海に沈んだ“君”の面影と繋がって感じた。
ライブの後半にはあれくんがアコースティックギターを持ち、ピアノの岩村と二人で弾き語りコーナーへと突入。あれくんが「ピアノと一緒にやるのは初めて」と語った「好きにさせた癖に」ではチャット欄に「泣く」「癒される」の声が多数上がり、代表曲「ばーか。」ではピアノの演奏のみで、愛情がある故の男女のすれ違いを切なく、情感たっぷりに歌い上げた。
ここで、サポートメンバーの直井弦太(Dr)とIgo(Ba)を紹介。そして、夜韻の3人が出会った1年前を振り返り、「めちゃめちゃ誰にも見えないスピードで進んでるかなと思います」と話すと、涼真は「夜韻は本当にこれからもどんどんいろんなことに挑戦していきたいと思いますし、皆さんの人生、生活の隣に寄り添っていける音楽を作っていきます」と意気込み、すぐに「いいこと言ったぜ、俺」と自画自賛してメンバーを笑わせた。最後に、あれくんが「このご時世なので、騒ぐこととか、発散することとかは難しいと思うんですけど、音楽を通して、心の中に溜まってる邪念みたいなものが外に出せたらなと思います」というメッセージを投げかけ、ラストナンバーとして「花の片隅で」を届けた。“君”が亡くなってから気づいた“僕”の気持ちを歌ったロックバラード。岩村のピアノのよるイントロからあれくんの歌とアコギで始まり、2番でバンドが勢いよく入ってくる。グロッケンやトイピアノも聴こえ、あれくんの語りもあり、アウトロ前にはエレキギターのソロもある。夜韻らしさが凝縮された楽曲を持って幕を閉じた約1時間弱の1stライブで紡がれた“君”と“僕”の物語は、いい恋愛小説を読んだ後のような余韻を残していった。こんな結末を迎える前にどうにかすることはできなかったのか――。「ばーか。」のようにお互いの想いを伝え合い、二人の時計の針を重ねることも答えの1つだろう。たとえそれが正解ではないとしても、そうして、一人一人が自分と照らし合わせて考えてみる時間が、人生を少しだけ豊かにしてくれるのではないかと思う。
【取材・文:永堀アツオ】
リリース情報
青く冷たく
2020年12月23日
ユニバーサルミュージック
01. 君泳ぐ
02. 走馬灯
03. Seafloor
04. 花の片隅で
05. 逆行
06. 青く冷たく
07. ボーナストラック
セットリスト
1st LIVE 2020
2020.12.14
- 01.逆行
- 02.走馬灯
- 03.Seafloor
- 04.溶けて、解けて
- 05.青
- 06.好きにさせた癖に
- 07.ばーか。
- 08.花の片隅で