あれくんが結成したユニット「夜韻-Yoin-」とは? メジャーミニアルバム『青く冷たく』から迫る

夜韻-Yoin- | 2020.12.23

 「ばーか。」「好きにさせた癖に」がTikTokやサブスクで話題となったSNS発の人気シンガーソングライターながら、年末には幕張メッセで開催されるフェス「COUNTDOWN JAPAN20/21」への出演も決定した“あれくん”が、3人組のユニット“夜韻-Yoin-”を結成し、メジャーデビュー作となる1stミニアルバム『青く冷たく』をリリースした。ボーカル、アコースティックギターで作詞作曲を担当するあれくん。MAKE OWN LIFEというロックバンドのギタリストでアレンジャーの涼真。そして、音大卒でソロのピアニストとしても活動中の岩村美咲。「直感を大事にしている」と口を揃えて語る3人の出会いと、ユニット結成に至る経緯を訊いた。

――3人が出会ったのは、あれくんのソロ1stアルバム『白紙』の制作現場ですよね。
あれくん:そうですね。涼真君はアレンジの部分でお世話になってて、ギターのプレイにも惹かれて。美咲もアレンジ力もあるんですけど、ピアノのタッチに豊かな感性が強く出てて。アルバムの制作が終わった後に、一緒にやりたいなと思って、声をかけさせてもらったんですよね。
――お二人は『白紙』のレコーディングの際はどう感じてましたか。
涼真:その時はユニットを組むと思ってなかったので、あれくんはクライアントのボーカルの方で、僕は外注のギタリストっていう感じだったんですけど(笑)、メロディのセンスがいいなと思ってて。現場はみんな気さくだったし、ラフな雰囲気だったので、個人的には楽しかったし、思い出深いレコーディングでしたね。
岩村:私もサポートミュージシャンとして、お仕事として参加させていただいてて。まず、何より歌声が好きだったので、すごく魅力のある方だなって感じてました。しかも、かなりハードなハードなスケジュールだったんですけど、全然ピリピリしてなくて。人柄もいいし、馴染みやすくて、リラックスできたからこその作品だなと思ってましたね。
――一緒にユニットをやらないか?と声がかかった時は?
涼真:単純に嬉しかったですね。新しいものが作れるっていうワクワク感もあったし、自分の力を試せるっていうチャレンジ精神も出てきて。いろんな感情が出てきましたけど、一番強かったのは、やっぱり楽しそうだなってことですかね。
岩村:私はずっとユニット活動に対して無縁だったので、新しいことに挑戦するきっかけになるなと思ったし、こういう機会をいただいたことに素直に嬉しい気持ちでした。
――それぞれプロのミュージシャンとして既に活動されてますよね。ユニットとの違いをどう考えてますか。
涼真:僕は今も並行してバンド活動をしてるんですけど、バンドとユニットって似て非なるものだなと思ってて。バンドで培ってきたパッションとか熱量は、バンドをやってきたやつにしか出ないと思うんです。だから、このユニットでも、「あ、こいつバンドマンなんだな」っていうところを出したいし、アレンジ面でもライブ映えしそう曲には、ライブで盛り上がりそうなアレンジをしたい。僕の好みも入っちゃってるんですけど、自分の色を夜韻にさせたらなって思ってるし、バンドにとっても、僕が普段作らないような曲を作ったり、シンプルに技術や知識が上がったりするので、両方に貢献していけてるんじゃないかなっていう印象ですね。
岩村:ソロは一人なので自分らしさはいっぱい発揮するんですけど、ユニットでは型にはまりすぎずに3人の相乗効果が出せたらなと思ってて。あれくんの世界観をもとに私や涼真くんの色を合わせて、1つの作品を作れる場所かなって考えてますね。
あれくん:僕が個人で作る曲に関してはダイレクトな歌詞が多くて。それこそ、「ばーか。」や「好きにさせた癖に」のように、歌詞を見なくても聴いてるだけで思いが伝わるような曲を書いてるんですけど、夜韻に関しては抽象的と言いますか。聴いても、探ってみないとわからないようなのをイメージして作ってて。シンプルに伝わる個人の曲と、答えがない状態の夜韻。自分で答えを出す、探ってもらう音楽を作りたいなと思いながらやってますね。
――ユニットの音楽性などは3人で話し合ったりしましたか。
涼真:いや、方向性とかは話し合ってないですね。ただ、3人とも漠然と「いい曲を作ろう」っていう気持ちは共通してて。さっき美咲さんが、「型にはまらない」って言ってたけど、自由さが夜韻のいいところだなと思ってるんですね。「逆光」のように激しいロックな曲作っても、「Seafloor」のようにローファイなヒップホップを作っても、夜韻らしさがあるなって。
――その「夜韻らしさ」を言葉にすると?
岩村:しみるというか、浸れるというか。あれくんのソロの曲との差もありますけど、直接的に共感してもらえる曲というよりは、まさに夜に浸れるようなサウンドだなって思ってます。
――夜韻というユニット名が体を表してるんですね。このユニット名はどうやって決めたんですか。
涼真:僕とあれくんで、1曲目のメジャーシングル「Seafloor」をうちで作ってたんですよ。二人で何日か泊まり込んで作ってて。制作というよりは、うちに遊びに来て、曲を作ろうかっていうような軽いノリでやってて。「Seafloor」が半分くらいできた時に、ユニット名を決めてないことに気づいて、二人で考え始めて。いろいろ出てきたんですけど、あれくんがふと、「夜韻ってどうかな?」って言って。直感的にできたに近いけど、意味はちゃんとあるし、しっくりきてるし、僕も好きですね。

あれくん:ほんとに思いつきです。夜型なので、夜っていう言葉を使いたいなっていうのと、音楽やライブは余韻に浸ることが必ずあるので、夜に浸れるような音楽を作りたいなっていう意味でつけましたね。
――制作はどのように進めてるんですか。
涼真:基本は全曲、あれくんの弾き語りがあるんですけど、「Seafloor」に関しては、あれくんが歌詞を描いてる隣で僕が打ち込んでて。コードも弾き語りに合わせて、ほぼ直感的に作っていって。合宿して作るっていう、高校生みたいな作り方をしてました。
――(笑)。アコギとエレキという違いはありますけど、ギタリスト二人が集まって作った、ユニットのはじまりの曲がピアノと打ち込みメインの曲というのが意外でした。
涼真:楽曲の世界観として、海に沈んでいくっていうのがあったので、ギターがじゃんじゃかはおかしいなって。必然的にローファイなチルっぽいアレンジになったオケを美咲さんに丸投げした感じです。
岩村:丸投げされました(笑)。でも、テンポ、コード感、雰囲気、メロディ、世界観がとても好きだったので、丸投げされても、全く困らなくて。逆に自由に弾かせてもらおうと思って、好きなように弾いて、丸投げで返しました(笑)。
涼真:思いっきり投げ返されましたね(笑)。あとは、最後に、ピアノを邪魔しないように効果音を入れてって。海に落ちる感覚を音で表現するためにリバーブとか、コーラスとか、空間系が大事になってくるから。でも、メインは歌とピアノ。ほんとに世界観を重視して、みんなで作っていった感じですね。
――ミニアルバムは全体として、海の底に沈んでいく曲から始まるストーリーになっていますが、このコンセプトが先にあったんですか。
あれくん:いや、全然なかったんです。「Seafloor」を作った時は、アルバムのような繋がりもなくて。作るときは単曲として、いいのができたから出そうっていう感覚でいたんですけど、その流れで2曲目に「花の片隅で」を作った時に、つながるんじゃないかと思って。アルバムとして、コンセプトを作ったら面白いんじゃないかなと思って。
――それは、どんなコンセプトと言えばいいですか。
あれくん:大元になってるのは、男の子と女の子の恋愛ですね。ただ、ほんとに直感で作ってるので、繋がりとか、奥の深い部分までは、あんまり意識してなくて。作ったあとに、繋げてみたら、こういうことになってるっていう……。
――8月5日に1stシングル「Seafloor」が配信リリースされた時は、“僕”が海に身を投げたんだと思ったんですよ。でも、実はそれだけじゃなくて……。
あれくん:いろいろな視点で見れますよね。音楽って答えがないじゃないですか。それと一緒で、聴き手に答えを求めてしまうと、あんまり良くないと思ってて。聴き手によって感じ方は違うから、答えがいくつあってもいいと思う。そのいろんな解釈に寄り添う感じで音で伝えたいなと思って。それは意識してましたね。
――続く、11月11日リリースの2ndシングル「花の片隅で」では“僕”=男の子目線で、“君”=女の子との思い出が描かれてました。

あれくん:女の子が亡くなってしまって、その後に男の子がどう思ってるかっていう感情の部分を書き出してます。ストーリーの中で、何がどう動いていくかが一番わかる、メインの部分なんじゃないかと思いますね。
涼真:この曲では攻めたことをやろうかなと思って。あれくんの良さと、一人一人の良さも出したかったので、インターまではあえてアコギと歌一本であれくんの良さを前面に出しておいて、いきなりバンドがインした方がカッコいいし、めちゃくちゃ驚くだろうなと思って。あと、歌詞は超ハッピーじゃないけど、僕は悲しい歌詞を明るくするのが好きなんですよ。逆張りというか。悲しい曲だからこそ、超ハッピーなトラックにして、深く聴いたら悲しくない?っていう。だから、豪華に盛大に、壮大にハレルヤしてみました。
――<どうにでも>から一気に広がっていきますよね。
あれくん:花が咲いてるよね。
涼真:大勝利でしたね、あれは。
――そして、11月25日に3rdシングル「逆光」がリリースされました。これも作り方としては?
あれくん:全部、何も考えずに降りてくるんですよ。直感で作って、それが、後々紐づくので、奥まではほんとに自分でも理解できてなくて。
涼真:この曲は楽しかったですね。テンポが速かったので。
岩村:涼真くんらしさが一番出てる曲ですね。「花の片隅で」以降は、あれくんが作詞作曲したものを、私がコードとガイドメロデイを打ち込んだベーシックのデータを作って、涼真くんにアレンジしてもらうっていう流れになってるんですけど、この曲の後半はライブ感をイメージして。ここ、ドラム頑張ってほしいねって思ったところを涼真くんが頑張ってくれて。
涼真:譜面に「カッコいいドラム」って書いてありました(笑)。しっちゃかめっちゃかにして欲しいんだなって思ったので、そこはもう、ライブできるようになった時に盛り上がるようにしたし、ドラムの音作りは一番いかついですよね(笑)。リズムパターンもこだわってるし、リズムトラックだけでも聴けるやんってくらいまで仕上がったんですよ(笑)。
岩村:ほんとにそうだった。
涼真:めっちゃカッケーじゃんって。僕的にも新しい試みをしようっていうのがあったので、ひと世代前のEDMロックみたいなサウンドにしたくて。さらに、劇伴っぽくしたいっていうのがあったので、壮大なところにたくさんの人がいるみたいなのを意識したくて。そこにどこまで挑戦できるかっていうのはありましたね。カッコよさに全振りさせてもらいましたね。
あれくん:差がすごいんですよね。弾き語りで渡したものが1週間くらいでめちゃめちゃ変わってくるので。何?みたいな。
涼真:サプライズで出すの好きなんですよ。3人で出かけた時に聴かせて、驚かせて。いちばん組んでて楽しかった曲ですね。直感でこれだなと思ったのが全部ハマったし、ストレスフリーって感じです。
岩村:車の中で両手を上げて喜びました。「カッコイイ!」って。
あれくん:毎回、期待値を大幅に超えてくるので楽しいですね。
涼真:俺は褒めてもらえるので嬉しいですね(笑)。
――(笑)。ミニアルバムのリード曲「青く冷たく」はどんなところから生まれましたか? この曲は終わりの始まりですよね。女の子の方の気持ちが語られてます。
あれくん:レコーディング最中の隙間時間に作ったんですよ。これも急に歌詞が降りてきたので、スタジオにあったピアノを美咲に弾いてもらいながら作っていって。
岩村:このミニアルバムのストーリーのいちばん最後に来るのかなって思うような歌詞で、サビの<待っていたんだよ/ただ、待っていたんだよ>っていうフレーズとメロディがすごい好きで。
涼真:僕的にテンションがいちばん上がるのはサビですね。この曲だけはラスサビが全部持っていく意識があって。これはアニメ映画のオープニングにしようと思ったので、これから始まるよっていうのを出すためにマーチングっぽいやつを入れて。そこのストリングスは時間かけて組んだんですけど、天才になりましたね。
あれくん:天才でした(笑)。
――(笑)。この曲名をミニアルバムのタイトルにしたのはどうしてですか。
あれくん:「青」や「海」という言葉がアルバムを通して多く使われてるんですけど、ほんとにどっちも幸せにならないんですよ。それを比喩したら、冷たくなるになるし、恋愛的に言ったら、冷めるとか、そういう言い回してて。冷たくっていう意味と、青にはブルーな気持ちもあるので、青く冷たくっていう言葉に落とし込んだ感じですね。
――どうしてこんな悲恋になりましたかね。
あれくん:僕の抱えてる……僕が曲を作る時って、病んでる時なんですよね。マイナスになってる時の方が言葉に出やすくて。「Seafloor」の歌詞の大元になった部分は、元々、僕が一人の時に書き込んでいたものを軸に作っていて。僕の曲自体、あんまりハッピーな曲はないし、失恋ソングを描きやすい特徴があるので、その流れで夜韻の曲もマイナスな曲になったのかなって。
――マイナスというか、どうしてこうなってしまったんだろうって思わせるストーリーですよね。ミニアルバムにはさらに、あれくんの語りと美咲さんのピアノ、涼真さんのギターが入った「君泳ぐ」と、ピアノによるインストナンバー「走馬灯」が収録されています。
涼真:1曲目はフリーテンポで、美咲さんの伴奏にあれくんがセリフを入れてくっていう感じだったんですけど、これもアルバムのオープニングぽくしたいなと思って。ギターは少しだけ(笑)。二人の世界観を100パー出してもらって。あれくんの力が入るところ、美咲さんのフレーズが目立つところにちょっと添えてあげるだけ、みたいなイメージでしたね。
岩村:「走馬灯」も丸投げされたので、部屋で一人こもって、男の子が海に落ちていく時に見る景色をイメージして。ぼやけてるよねとか、波があるよねとか、海の中で見てる景色をほんとに直感で弾いて。テイク2もいってないんですけど、二人に聴かせたら、「それです。正解」って言われました。
あれくん:ここに全部が詰まってるって思います。
――男の子と女の子、二人とも海に落ちてるんですよね。
あれくん:詳しくは描いていないんですけど、先に女の子が、いろんな思いを抱えて自殺してしまって。男の子はそれを知らされずにいたんですね。お互いに好意があったけど、いろいろとすれ違っていく中で起きてしまった。二人は昔からの仲という繋がりはあったので、世間からバッシングを受けて。男の子が世間や世界を嫌になって、同じところに行く、みたいな流れがあります。
涼真:悲しいですね。
あれくん:そうなる前に何かできなかったか。自分たちも含めて、伝えることが苦手な人が多いと思うんですよ。心に思ってるだけで口から発しない人が多い中で、自分の想いを伝える勇気というか、必要性というか、大事なんだよっていうことを皆さんに感じてってもらえたら嬉しいっていう思いを込めてますね。
――ミニアルバムが完成して、今後はどう考えてますか。
涼真:ライブやりたいですよね。インターネットから出てきた曲を作るのが上手い人たちっていうよりは、アーティストとして、夜韻を確立できたらいいなって思う。そのためにはライブは必要不可欠だと思うし、演出もこだわっていきたい。日本の中で異質な存在になっていきたいと思います。
あれくん:イレギュラーな感じにね。
涼真:楽しく。ストレスフリーな職場を目指して!
あれくん:あははは。ほんとに自由に楽しくやらせてもらってて。結成から1年経ってないスピードでミニアルバムが発売できて。本当に濃密な時間を過ごさせてもらっているし、この自由さが、しっかりと作品に昇華できるなって思います。
岩村:私は夜韻で世界制覇を目指してます。日本のアニメが人気なように、夜韻の世界観も、広がっていけばいいなって思ってます。

【取材・文:永堀アツオ】



夜韻-Yoin- 青く冷たく(OFFICIAL VIDEO)short ver.

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リリース情報

青く冷たく

青く冷たく

2020年12月23日

ユニバーサルミュージック

※全曲ノンストップMIX
01. 君泳ぐ
02. 走馬灯
03. Seafloor
04. 花の片隅で
05. 逆行
06. 青く冷たく
07. ボーナストラック

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