まるで短編映画のような物語性で届けた配信ライブ「君に出会うための物語」。vivid undressが画面を通して伝えたかった想いとは。
vivid undress | 2020.12.29
木立、茂る葉、陽光、川面、水しぶき……自然の風景を捉えたイメージ映像の連なりが、kiila(Vo/Gt)のアップに切り替わる。曇天の下、目の前に広がる海を見つめて砂浜にひとり佇むkiila。重なるナレーションも彼女の声だ。未来への希望、未知の世界への興味、明るい昂揚感を滲ませたその声が「さあ、始めよう。新しい私を」と告げる。それが物語、すなわちvivid undressがメジャーデビュー1周年を記念して12月4日に行った配信ライブ「君に出会うための物語」の始まりだった。なんらかのストーリーを予感させる、メッセージ性を帯びた異色のオープニング映像からも、この「君に出会うための物語」が単なる“ライブの配信”とは趣を異にしていることは、画面の前のあんズ(※vivid undressファンの呼称)にもれなく伝わったことだろう。同時に期待のメーターも一気に振り切れたに違いない。次の瞬間、ギターを抱えてマイクに向かうkiilaの凛々しい立ち姿が映し出され、<さぁ新しい私を始めよう>と歌い出された「主演舞台」。オープニング映像と待ちに待ったvivid undressのステージが1本の線となって繋がる。5人が意図したこと、伝えようとしていることが、まだ朧げながらも確信を携えてストンと腑に落ちてきたような感覚だ。
それにしてもなんと揚々とした幕開けだろう。最新作『変身コンプレックス』の1曲目を飾っているのもこの曲だが、こうしてライブの1曲目に置かれれば、なおいっそうの推進力を発揮するのだと改めて知らされる。ギターをかき鳴らしながらまっすぐに前だけを見据えて放たれるkiilaの伸びやかな歌声に、tomoki(Dr)の誠実なビートとsyunn(Ba)の指先から繰り出されるタフなベースラインがしっかりと寄り添い、yu-ya(Gt)とrio(Key)がそれぞれに紡ぎ上げた旋律が軽快に絡み合って生まれる躍動感。会場となった東京・渋谷CLUB QUATTROにようやくバンドセットで立てたという喜びも大きかったのではないかと想像するが、なにより全員の表情がいい。本来ならば初のワンマンツアーファイナルとして3月21日に行われるはずだった渋谷CLUB QUATTRO公演。その後、「vivid undress presents 変身コンプレックスTOUR ?何が何でもQUATTROで出会いたかったんだ?」として10月5日に振替公演が予定されるも、新型コロナウイルスの収束は見込めず「変身コンプレックスTOUR」自体が中止。それに伴って急遽、渋谷CLUB QUATTRO公演実施予定日に同会場から無観客アコースティックミニライブ&トーク生配信が決行されたことは記憶にも新しい。そのときに発表されたのが今回の「君に出会うための物語」開催だったというわけだ。何かの代替策ではなく、はなから配信するためにvivid undressのすべてを注いで構築された彼らならではのステージ。歌い進むにつれ、kiilaの瞳はみるみると輝きを増し、Woo...と男衆4人が重ねるコーラスも頼もしく、画面を越えた一体感が加速度的に膨らむ。続く「シーラカンスダンス」ではダンサブルなアンサンブルに乗って、演奏する5人の間をシーラカンスが気ままに泳ぎ回るというCGを駆使した演出も。カメラ目線でポーズをキメたり、ジャンプをしたり、「あぁん」とハートマーク付きの吐息を漏らすrioのパフォーマンスもいいアクセントとなって、観る者を楽しませてくれる。ファンキーなグルーヴにメンバーと一緒になって心地よく体を揺らした「Make Magic」、四つ打ちのリズムと艶めいたシンセの音色が印象的な「ファンファーレ行進曲」ではkiilaがギターを置き、登場した男女のダンサーに挟まれながらダンスを披露するという驚きの展開。しかもなかなかキレが良く、堂に入っているところに彼女のこのライブに懸ける本気を見る。「パラレルワ」のイントロではyu-yaとsyunnが向かい合って互いの音をぶつけ合うようにセッション、そのままバンドのアンサンブルへとなだれ込んでいく一連のダイナミズムからは、ロックバンドとしての喜びと矜持が手に取るように伝わった。
ぐんぐんと高まりゆく興奮。だが、物語はここで一変する。再び海に臨むkiilaの映像がインサート、オープニングでも手にしていたバラの花びらは青ざめ、kiila自身も砂浜に倒れ込む衝撃の場面からライブに戻ると、先ほどまで思い思いの衣装だった5人が揃って黒衣に身を包んでいるのだから、ただならない。途端に立ちこめる不穏、「My Real」に綴られた切実な叫びがkiilaの声を通してヒリヒリと胸に迫る。思い通りにいかない現実のなか、弱さを受け入れ、弱者のまま前に進んでいくと誓う「コンキスタドールの現実闘争」。変わっていく自分と消すことのできない過去とのせめぎ合いが描かれた「感情戦争」。前者は1stフルアルバム『混在ニューウェーブ』のリード曲であり、後者は『変身コンプレックス』の2曲目に位置する、ともに作品きってのアグレッシブチューンだが、ライブとなればその破壊力は音源をはるかにしのぐほど。yu-yaの手による扇情的なギターフレーズにも掻きむしられてしまう。「さよならジレンマ」では降りしきる雨と稲妻のCGが、「ララ、バイバイ。」ではメンバーと同様の黒装束で無人のフロアに再度現われたダンサー2人の渾身のパフォーマンスが、曲に込められた激しい感情をひときわエモーショナルに増幅させ、いっそうの重みとともに聴き手に手渡される。前半戦で見せたはじけるような笑顔はメンバーの表情から消え、ひたすらシリアスに展開されたこの中盤ブロック。切々とした語りで始まる「例えばもしも私が今死んだとしても」の救いようもなく、けれど最後に射し込む一条の光のごとき希望から、kiilaの独白を挟んでスタートした「シンガーソングライター」への流れはとりわけ白眉だった。はじめは嗚咽をこらえているかのように儚くか細かった歌声が、次第に熱をはらみ、ついには太くエネルギッシュにほとばしる、その瞬間のカタルシス。呼応して演奏もたちまち生命力に満ちて朗々と鳴り渡る。中盤ブロックの間中、ずっと暗く落とされていた照明が一斉に点され、5人をまばゆく照らした最初のサビの光景にも心躍ったが、ラストのサビで<もう逃げない 負けない 後悔しない/覚悟は出来てる>ときっぱり歌った直後に、全員の衣装が今度は真っ白のそれに替わるという見事な大仕掛けには快哉を叫ばずにはいられなかった。配信ライブだからこそできた演出であり、今のvivid undressの気概を明快に示した美しくもたくましい意志表明と受け取って間違いはないだろう。最後のフレーズ<本物になってやる>がなんと力強く響いたことか。
「もう何も信じない。自分の未来は自分で決める!」。
kiilaはそう高らかに宣言してタイトルコール、「劣等者の逆襲」が後半戦の口火を切った。炸裂するsyunnのスラッピング、追随するメンバー一人ひとりのプレイも心なしか解放感に溢れ、これまでにも増して生き生きと弾んで感じられる。それぞれに存在を主張し合いながらも絶妙に調和する「ラストスタート」の抜き差しも実にスリリングで快い。「出会えたんだ」のイントロでは三たびダンサーが登場、長尺にアレンジされた演奏をバックにメタファーに満ちたダンスでたっぷりと魅せ、kiilaにバトンを渡す。これこそ今回の配信ライブで彼らが画面の向こうへいちばんに届けたかった楽曲だろう。会いたくても会えず、やりたいこともなかなかできない、理不尽な生活を強いられてばかりのコロナ禍で、それでも自分たちの音楽に出会い、いつでも待っていてくれるあんズへの感謝、親愛、信頼……言葉にできない想いが音になり、歌になって放たれる。画面のあちらとこちらはたしかに繋がっていることをつくづくと実感できるくらい、それはとても温かだ。誰かに出会うことのかけがえのなさ、君に出会えたという奇跡。出会ったからこその苦しさや寂しさ、孤独を味わうこともあるけれど、その味はきっと生きる醍醐味とも言えるのではないか。続けて披露されたバラード「ワンルームミッドナイト」、切なくも甘やかな思慕に溢れたこの曲にそんなことを思う。たとえもう会えなくても、記憶している限り思い出はなくならない。「ウララ」に歌われているように<今更だけど私たち/いい恋をしてたなぁ>と思えたなら、きっとその先も歩いていける、なんてことも。
「2020年は怒涛の年にするぞと意気込んでいたのですが、怒涛どころかほとんど身動きが取れず、会いたい人にも会えず、たくさん頭を悩まされた1年になりました」。
ラスト1曲を残して、率直な心情を口にするkiila。本当に、こんなにも思いどおりにならないデビュー1年目を過ごすことになろうとは予想だにしなかっただろう。おそらく幾度となく無念に襲われ、無力感に苛まれた1年だったはずだ。だが、画面の向こうに語りかけるkiilaの口調は意外なくらい穏やかで、微笑みさえ浮かべながら「それでも執念深く私たちが存在していられるのは、あなたたちと出会って、あなたたちとともに過ごした過去がずっとそばで一緒に生きていてくれるからです。本当にありがとうございます」と感謝を告げる。そうして「不器用でいいから、強くなくていいから、あなたがあなたらしく生きていけますように」と願って「yours」へ。vivid undressが結成されて最初に完成したという、バンドにとってとても大切な1曲が、同じく大切なこの物語の締めくくりになろうとは、最後の最後までなんというエモさか。<大切なものを両手に持ったら/自分を傷つける手はもう無い/これから守り抜く強さだけ/ちゃんと抱きしめてもう離さないで/この世界はすべて/君のものだ>とどこまでも歌声を飛ばし、まっすぐに両手を差し伸ばすkiilaは神々しくさえあった。
5人揃って演奏をフィニッシュすると、映像はまた海辺のkiilaに。無事、赤さを取り戻したバラの花びらを愛しげに風に放ち、確かな足取りで歩き去るというエンディングが待っていた。
メジャーデビュー以降にリリースされた楽曲を軸にしつつも、インディーズ時代の作品からもほぼまんべんなくピックアップして構築されたこの日のセットリストを振り返るに、無邪気な躍動感に満ちた前半戦は「音楽は楽しい!」という、ある種、揺るぎない原点を表現していたのではないだろうか。やがて、楽しいだけではいられなくなり、葛藤や対立にあがき、過去にのたうち、見失いそうな自身を必至で模索する。それがシリアスな中盤のパートで、それでも未来を掴むため覚悟を決めて前を向き、一歩を踏み出したのが後半戦??という解釈もできそうだ。当然ながら物語の読み解き方はこのライブを観た人それぞれ、十人十色でいい。1曲1曲、丁寧に愛情を込めて演奏された音楽に、vivid undressの名の下に奇跡みたいな出会いを果たした5人の歴史を重ねてもいいのだろうし、あるいはkiilaという稀有なボーカリストにして未曾有のポテンシャルを秘めた表現者の内なる想いの変遷を想像してみるのもいいかもしれない。どんな過去も困難もしっかりと抱きしめて、前進しようとする5人の物語はこれからも続いていく、それだけは確かだ。そして、その物語には“君”もいて、未知なる世界をともに旅していく。それが希望でなくてなんと呼ぼう。
なお、本公演は枚数限定DVDにて販売を開始している。この物語を体験し、vivid undressに出会ってほしい。
【取材・文:本間夕子】
セットリスト
メジャーデビュー1周年記念ライブ配信
「君に出会うための物語」
2020.12.04@渋谷CLUB QUATTRO
- 01.主演舞台
- 02.シーラカンスダンス
- 03.Make Magic
- 04.ファンファーレ行進曲
- 05.パラレルワ
- 06.My Real
- 07.コンキスタドールの現実闘争
- 08.感情戦争
- 09.さよならジレンマ
- 10.ララ・ララバイ。
- 11.例えばもしも私が今死んだとしても
- 12.シンガーソングライター
- 13.劣等者の逆襲
- 14.ラストスタート
- -To meet you- (instrumental)
- 15.出会えたんだ
- 16.ワンルームミッドナイト
- 17.ウララ
- 18.yours
お知らせ
PROGRESS PROGRAM vol.22
〜ONE MAN やっと出会えたんだ〜
2021/01/17(日)東京 新宿LOFTT
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。