意欲作『上々』のリリースパーティーは「上々々」! 洗練されたフィジカルで魅了した一夜を徹底レポート!
ポップしなないで | 2021.01.07
初のフルアルバム『上々』は5年のバンド活動の総決算でもあり、最近のリスナーにとっては入門編。これからさらに広いフィールドに打って出る、でも肩に力の入っていない覚悟のアルバムだ。本作を携えての久々の有観客ライブである「上々々」が下北沢BASEMENTBARで開催された。同時にオンラインでの配信も行われ、モニターの向こうにもアピール。筆者は幸運にも会場で観ることができたのだが、制限された人数のファンは年齢層も幅広く、しかし比較的大人な客層で、小さな目印に沿ってソーシャルディスタンスを保って開演を待っている。特定のカルチャーというより、ポップしなないでが描く、集団からちょっと浮いたりすることを許容するマインドや、タイトな2ピースでありつつ最小編成だからこそ生み出されるスリル、メンバーふたりのキャラクターなどなど、惹かれるポイントが様々なポしなそのものを反映したファンが集う。そのこと自体、居心地がいい。そしてこの居心地を5年かけてふたりは作り上げてきたのだと思う。
ドーンと置かれたドラムセットとキーボードのみのステージがすでに意思表示のようで、生で目にすると改めてグッとくる。そこにかわむら(Dr/Cho)のルーツのひとつであるビースティ・ポーイズの「Ch-Check It Out」が出囃子として流れ、ふたりが登場。拍手に包まれるなか、一瞬の静寂が生まれ、かめがいあやこ(Key/Vo)が音源とはアレンジを変えて、ピアノのフレーズにボーカルを重ねる形で「フルーツサンドとポテサラ」からスタート。<世界平和と、君のいる街>を希求するこのナンバーがオープナーなのは今のポしなにしっくりくる。間髪入れず、タイトな四つ打ちのビートが走り出し、ピアノリフの上を途轍もない言葉数のトーキングで畳み掛ける「救われ升」。さらに早口かつ、メロディもハイトーンまで上昇する「砂漠の惑星」をノンストップで披露。また、この曲でのかわむらのハウスミュージックにおけるサンプリングかと思うほどの正確無比なハイハットワークも冴えていた。歌が喚起する情景とダンスミュージックとしての機能。鳴ってる音はピアノとドラムと歌なのに、いや、選び抜かれた音だからこそこんなに心も身体も躍るのだろう。
「今日は久しぶりだから、最後まで楽しく過ごしましょう。よろしくお願いします!」とかめがいが短くMCをして、淡々としたリズムが夜の街をひとり歩く心地よさを想起させる「Life is walking」。生音ヒップホップの感触もあり、いつまでも浸っていたい。一転、BPMを上げて「オシマイノリティ」。歌い出しからハイトーンで突き抜けるかめがいのピッチの確かさが、ガラッと1曲ごとの世界を立ち上げる。あどけなさを残した声で張り上げるパートの破壊力たるや。彼女のボーカルは一体何人分のキャラクターを演じ分けているのだろう。そしてこれが、最小編成がむしろ生きるポイントでもあると実感する。立て続けに、最近の代表曲でありアッパーな「おやすみシューゲイザー」。ストイックに人力でドラムンベースにも似たAメロ部分のビートを刻むかわむら。頭拍の1打とピアノリフが思いの外フックになって、曲に集中させるトリガーになっている。さらにジャズ的なコード進行に、それとリンクしないようなメロディを乗せる難易度の高そうな「Bedroom sound system」を披露。
曲間のMCでは配信のカメラ越しに手を振るふたり。かわむらはコメントを拾おうとスマホを取り出すが、かめがいが「かわむらくん、出る前に『ダメだ、(配信画面に)入れない!』って、もうSE流れてて」とバラしてフロアから笑いが起こる。かわむらが「なんと会場チケットは60倍の倍率で……嘘です。60倍なら次、Zeppできるよ」と嘘と言いつつも、「ヤバいじゃん! Zeppでライブできるじゃん!……嘘だよ! 嘘、嘘」と否定しながらもはしゃぐかめがい。そして、「今回は『上々』のリリパですが、新曲を作ってきました!」と言い、かわむらが「こういうとき、お客さん的には『新曲か……』ってなることが多いんだけど。皆さんも時間あったと思うんですが、我々も相当時間があったんで曲作ったんですよ」と弁明。かめがいの「申し訳ないけど聴いてもらいましょうか(笑)」というやりとりに笑いが起こる。
そんな前振りからの新曲。後日Twitterで「でも暮らし」とタイトルを発表してくれたこの曲。柔らかなメロディからどんどん上昇して、サビで語り調のリフレインを配置したのが新しい印象だ。これもあとでわかったのだが、<しないで、多数決>なんだそう。早く歌詞の全容が知りたい。そしてドラマを感じる「SG」。ポしな流バンドマン讃歌と言えそうな胸に迫る曲がグッとアップグレードされていた。
そこから一転、芝居がかった調子で年末のご挨拶から、「年末というだけで忙しいというのは悲しいことです。貧しい心です」とかめがいが挑発し、かわむらが「もっと言ってやれ」と煽り、「みんなは哀れな存在です! みんなは日々飯を食うだけの存在です! そんな皆さんを癒すべく用意した曲があるんだよっ!」というMCからの「前頭葉」。途中、サンバ的なタムの連打も盛り込んで緩急をつけ、エンディングはスパッと決める。人間なんてそんなもんだと笑い飛ばす「前頭葉」から、人間が嫌いだったと歌う「暗いね、ナハトムジーク」への流れも面白い。でも、この曲も言わば人生なんて喜劇だという内容で、聴きながら肩の力が抜けていくのが自分でもわかった。生ならではの印象としては、かめがいの左手が弾く低音の和音の効果。浮遊するメロディにしっかりボトムを与え、立体感が増す。
中盤を過ぎ、かわむらが再びコメントをチェックしつつ、なかなかライブもできないなか、配信ライブなどで直接リスナーの声を聞けたのは良かったといい、アルバムを出す意味があるのかとか、「意味わかんない時間もあとあと楽しかったなと思えるのかなと。いい時期に出せたアルバムだったのかな」とかわむらが言う。「『売れそう!』とか言ってくれるけど、回り道もしがちで、ほんとに地道にやるしかないバンドで。でもこういう(ライブの)コミュニケーションのなかで言いたいことが言えたと思う曲がありますのでお聴きください」と、じっくり聴かせる儚い「2人のサマー」へ。ポツリポツリ鳴らすピアノから加速して怒涛の言葉数を独白のように熱を帯びた声で吐き出す「言うとおり、神さま」。ブレイクからの<ワン、ツー、さん、しー>で再び加速する展開が痛快。さらに規則正しい四つ打ちとハイハットワークが心地いい「Creation」。回り出すミラーボール、ドスの効いたトーンから遠くまで届くロングトーンへの変化も強い。ふたりだけで鳴らす楽曲の魅力を詰め込んだこの曲でエモーションのピークへ到達。
ここで、アルバムにも参加したミツビシテツロウがマニピュレーターとして加わる。のだが、こんなことあるのか?というタイミングでかわむらのモニターイヤホンのケーブルが絡まり、見かねたかめがいが直してあげるという一幕も。かめがいが、「何やってんだよー」と言いつつヘルプする。ふたりとも基本、自分の言いたいことを話してばかりだが、それで成立するあたりもナイスコンビだ。
空間系SEとギターサウンドが同期で浮遊感を演出した「UFO surf」、この曲がいい意味で夢遊病っぽいとしたら、続く「夢見る熱帯夜」は大人しそうな女の子が変身するようなドラマチックな印象。ドラムだけの間奏でくるくる回りながら踊るかめがいに“変身”を感じたのかもしれない。この曲でもギターの同期が効いている。ここまで16曲、起伏の激しいメロディを歌い、怒涛の文字数のセリフも盛り込んできたかめがいの声の表現者としてのパワーを実感したのが、<パーパーパーパラッパッパッ>と小気味よくリフレインする「ミラーボールはいらない」の、この冒頭の破裂音の強さとスムーズさ。そして精緻さを失わないハイハットワークで、再びダンスへ突入。人力ダンスバンドとしてのポしなの筋力は生だと何倍も強力に感じられるのだ。
MCタイムではかめがいが「真面目なこと言っていい?」とかわむらに尋ねたうえで、「このライブハウスに行けない期間、バンドマンが自分たちでこの場所を守るって言ってたけど、私の場合、居場所って言うのもおこがましいって気持ちがあったのね。だけど今日こうやってみんなに会えて、ここが居場所でもいいのかなって思った」と自分自身に拍手し、フロアからも拍手が起きた。そして、かわむらは「勘違いされそうなんですが、『自分たちが好きな音楽やってればいいでしょ』っていう。でも我々としては音楽でコミュニケーションしたいっていうのがあるんですよ。今日、ここに応募してきてくれて、配信でも見てくれて、凄まじいことだと思っています」と感謝を述べた。
本編ラストはふたりのスタイルの原点でもある「魔法使いのマキちゃん」を披露。ポップさの中に切なさが滲むコード感、淡々としたビートがむしろどんな人生もやさしく見つめているような印象。演奏がどんどん大きなうねりを持ち、サビの<優柔不断な僕らは>が、序盤の諦めのニュアンスからちょっと前を向いて歩き出すムードに変わっていく。見事なアレンジだ。その抑揚もふたりだからこそちょっとした変化をビビッドに受け取れる。大袈裟になることなく、小さな灯を残す感じで演奏をフィニッシュ。つくづく楽曲至上主義なバンドだと思う。
アンコールでは2月、3月に東名阪ツアーを行うことを発表。東京は神田明神ホールで、かわむらが「こればっかりは言っときますけど、広いから買ってください。申し込んでくれたら幸せになれる!」としっかりセールストークしていた。
そしてアリア進行でかめがいが朗々と歌う「エレ樫」、マイナージャズ調の踊れる「丑三キャットウォーク」というお馴染みナンバーで2020年の最後を締めくくった。ふたりならではの自由度と緊張感、遠慮知らずのコミュニケーション。ライブバンド、ポップしなないでの総合力の高さを思い知ると同時に、痒いところに手が届く機微のある音楽として信用できる広がりを見せる予感を残したのだった。
【取材・文:石角友香】
【撮影:Kazma Kobayashi】
リリース情報
上々
2020年11月11日
KINGAN RECORDS
02.夢見る熱帯夜
03.救われ升[album mix]
04.Creation
05.UFO surf
06.おやすみシューゲイザー[album mix]
07.2人のサマー
08.オシマイノリティ[album mix]
09.前頭葉
10.Life is walking
11.エレ樫[new recording]
12.ミラーボールはいらない
セットリスト
リリースパーティー『上々々』
2020.12.13@下北沢BASEMENT BAR
- 01.フルーツサンドとポテサラ
- 02.救われ升
- 03.砂漠の惑星
- 04.Life is walking
- 05.オシマイノリティ
- 06.おやすみシューゲイザー
- 07.Bedroom sound system
- 08.でも暮らし(新曲)
- 09.SG
- 10.前頭葉
- 11.暗いね、ナハトムジーク
- 12.2人のサマー
- 13.言うとおり、神さま
- 14.Creation
- 15.UFO surf
- 16.夢見る熱帯夜
- 17.ミラーボールはいらない
- 18.魔法使いのマキちゃん 【ENCORE】
- EN1.エレ樫
- EN2.丑三キャットウォーク
お知らせ
ポップしなないで レコ発ツアー
「神頼みツアー」
2021/02/27(土)大阪 アメリカ村DROP
2021/02/28(日)愛知 名古屋RAD SEVEN
2021/03/20(土)東京 神田明神ホール
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。