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ステージを待ちわびたフロアと再会を果たした一夜、成長と涙のリキッドルーム公演を徹底レポート!

eill | 2021.02.01

 11月21日、恵比寿LIQUIDROOMにて開催された「eill Live Tour 2020」は、ひとりの人間の成長をそのまま映し出したようなライブだった。頭の中では「無理に強くならなくてもいい」とわかっていても、実際に誰かへ身を委ねたり自分の弱さを受け入れたりするのは難しいもの。この日の彼女は、とても弱くとても強かった。オーディエンスの前で「自分を責めた時期もあった」と本音をこぼすeillは、<私を誰も止められはしないの>と決死に奮い立たせていたあの頃とは違う。弱い自分を認め、孤独さえも愛しいと抱きしめ、次なるステップへと歩みを進めたのだ。

 約1時間半のライブは、適宜MCを挟みながら4つのセクションで展開。言うならば出だしの3曲は、オープニングの位置づけだろう。2020年のスタートを飾った「FAKE LOVE/」でステージを封切ると、一気に会場の空気を掌握した。登場して早々、オーディエンスを驚かせたのは、圧倒的な成長を遂げた歌い方である。色っぽい低音の響きにパンっと抜ける高音、華やかさの増した声色。喉を壊して歌えなくなった期間を超えた彼女は、原状回復以上のパワーアップを果たしたのだ。

「『eill Live Tour』へ、ようこそ! 最後まで一緒に楽しんでいこう!」と声をかけると、キャリアの始まりを彩った「MAKUAKE」へ。フロアには自然とクラップが湧き、すでに観客と一体になっていることを感じさせる。一呼吸をおいて、『SPOTLIGHT』の起点になった「20」が導かれる頃には、すでに会場は温まりきっていた。

 2つ目のセクションは、夜が進み夢の中へと潜っていくターン。たっぷりの吐息で歌い上げられる「この夜が明けるまで」は飛び切りにロマンティックで、心地よいビートに思わず体がゆらりふわり。<さよならしよう>と前を見据える視線は切なくも凛々しく、憂いを帯びた眼差しに胸が締め付けられた。

 映像配信ならではの旨味を感じさせたのは、次の2曲だろう。手振れ感が強く荒い加工の「Night D」、淡い色合いにぼやけたピントを活かした「Into your dream」と、それぞれが80’や“夢のなか”を彷彿させる。間髪入れずに「夢の続き」へ誘うことで、没入感はそのまま継続。竹内まりやがオリジナルであるナンバーも、eillが歌うとただのカバーではなく、しっかりと彼女の歌になる。それは、ただ歌詞をなぞるだけではなく、音楽に実体験がガチッと乗っているからなのだろう。聴く・歌うで満足して消費していくのではなく、感情もメロディーも知識も取り込み、eillらしさをアドオンして昇華していく。だからこそ、彼女は自身の楽曲でなくても彼女の色を失わずにいられるのである。

 第3のセクションは、GANMIと作るパーティーパートだ。さっきまでのメロウな雰囲気はどこへやら。キラキラとした笑顔で「with U」を歌い踊る姿は、“楽しい”を体中で表現しているよう。「HUSH」ではフロアが一斉にハンズアップし、eillに合わせてひらひらと揺れた。

 ライブも後半戦へと差し掛かっていく。ラストスパートの前にパイプの役割を担ったのは、愛しさを濃縮した「special girl」。切なく響くギターにやさしく重なる柔らかな歌声。この時間を噛みしめるように歌うさまは、「今日という日に捧げようと思います。みんなにとって大切な人を想像しながら聴いてください」と告げた言葉が心から述べられたものだということを強く実感させた。

 今までのeillだったら、「楽しい時間は、あっという間だね。ありがとう」で終わっていたかもしれない。しかし、この日の彼女はひと味違った。これまであまり見せてこなかった弱い部分を、最後のパートを前に語り始めたのである。

 声を壊した状態で2020年がスタートしたこと、1ヵ月の休みから自粛期間に突入してしまったこと、また歌えるようになるのか不安だったこと、思うように曲を作れず苦しんだこと、そんな自分を責めてしまったこと……。ファンからすると、強くてかっこいい前向きな人物というイメージが強かったeill。しかし、本当の彼女は誰よりも強がって、誰よりも自分の歌で自身を奮い立たせてきていたのだ。そして、自粛中の曲が作れない期間を経て、弱い自分を受け入れるようになったのである。「ダメなときもいいときも、感じることは全部曲の魂になる」と。eillの歌が進化したのは、単純に技術が表現したいことに追いついたからだけではない。心の成熟が、より豊潤な表現を可能にしたのだ。

 最終セクションは、成長したeillで魅せるクライマックスと呼ぶにふさわしい。先ほどまでの涙をスッと押さえこみ、「SPOTLIGHT」に入るときにはシンガーの顔になるものだから、彼女のプロ魂を感じずにはいられない。リリース時にもパワフルなメッセージを放っていたナンバーは、より言葉の説得力が増し、<私を誰も止められはしないの>は確信めいた約束のように響く。<守りたい正義は他の誰かじゃ替えは効かない 私の人生だ><強くなろうとしなくていいよ>というリリックも、自身の経験が重なったからこそ一直線に胸を打つ。

 歌い終わるとピアノの前に移動し、2020年のeillにとってキーソングとなる「片っぽ」へ。大切な人を抱きしめるかのように、力強くもやさしいタッチで弾かれる鍵盤。言葉の一つひとつをマイクへ落とすさまは、“届かぬ想いだとしても伝えたい”というピュアな想いが反映されているよう。痛くて甘い自分を歌で抱きしめると、「躍らせないで」で本編を結びにかかる。自ら光を放ち次のステージに進むのだと、誰かのステップではなく自分のステップを刻んで進んでいくのだと、全13曲を通して証明する一夜となった。

 アンコールでは、「2025」と「FUTURE WAVE」を披露することにより、“2025年に向かって進んでいく”という決意を歌で誇示してみせた。アコギの伴奏でしっとりと「2025」を聴かせ、クールなクラブナンバーの「FUTURE WAVE」では盛り上げきる。フロアからも自然に手が掲げられ、大団円のなか終幕を迎えたのだった。

『MAKUAKE』により鮮烈なデビューを飾り、『SPOTLIGHT』で自分自身と向き合い、『LOVE/LIKE/HATE』でさらなる高みへと歩みを進めたeill。喉の不調やスランプに陥った期間は、シンガーソングライターとして、そしてひとりの人間として、彼女をより魅力的に成長させたのだ。<私はこの声を枯らすことはない>と約束してくれたeillが、今後どのような曲を私たちに届けてくれるのか。楽しみは増すばかりである。

【取材・文:坂井彩花】
【撮影:Tetsuya Yamakawa】

tag一覧 J-POP ライブ eill

リリース情報

LOVE/LIKE/HATE

LOVE/LIKE/HATE

2020年11月04日

SPACE SHOWER MUSIC

01.踊らせないで
02.片っぽ
03.Into your dream
04.Night D
05.FAKE LOVE/
06.夢の続き
07.2025
08.SPOTLIGHT - Kan Inoue (WONK) Remix -
09.with U

セットリスト

eill Live Tour 2020 2020.11.21@恵比寿LIQUIDROOM

  1. 01.FAKE LOVE/
  2. 02.MAKUAKE
  3. 03.20
  4. 04.この夜が明けるまで
  5. 05.Night D
  6. 06.Into your dream
  7. 07.夢の続き
  8. 08.with U
  9. 09.HUSH
  10. 10.special girl
  11. 11.SPOTLIGHT
  12. 12.片っぽ
  13. 13.踊らせないで
【ENCORE】
  1. EN1.2025
  2. EN2.FUTURE WAVE

お知らせ

■お知らせ

「eill Live Tour 2020 at LIQUIDROOM」配信情報
02/05(金)23:30~25:00
LINE LIVE視聴予約はこちら→https://live.line.me/channels/52/upcoming/15909648

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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