ゆびィンタビュー vol.23 eill

ゆびィンタビュー | 2020.05.27

 パフォーマンスでクールな表情を見せ、MCで等身大な言葉を紡ぐeill。並大抵ではない音楽センスを持っているのに、一方ではどこにでもいそうな少女っぽさも身にまとう。普通の女の子と同じように、恋をして悩んで未来を見据えて。だからこそ彼女は、同世代の代弁者になりえるのではないだろうか。
 この1年はeillにとって、アーティストとしてもひとりの女性としても、“成長期“と呼べる年だったらしい。その心中を語ってもらうとともに、さらなる彼女の魅力に触れられる新曲「FAKE LOVE/」について話を聞いてきた。

PROFILE

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eill


 東京出身。SOUL/R&B/K-POPをルーツに持つシンガーソングライター。  15歳からJazz Barで歌い始め、同時にPCで作曲も始める。2017年12月、韓国ヒップホップアーティスト・RheehabとOceanと制作した音源「721」をSoundCloudに公開。2018年6月のデビューシングル「MAKUAKE」に続き、10月にミニアルバム『MAKUAKE』を発表。Apple Music「今週のNEW ARTIST」、SPACE SHOWER「NEW FORCE」、Spincoaster「BREAKOUT 2019」、HMV「エイチオシ」に選出。2019年11月にリリースした1stアルバム『SPOTLIGHT』でTOWER RECORDS「タワレコメン」に選出されたほか、収録曲「SPOTLIGHT」が全国30局以上の放送局でパワープレイとなり、ラジオ・オンエアチャート2週連続1位となった。またMusic VideoもSSTV「POWER PUSH!」、M-ON!「Recommend」に選出されるなど1stアルバムとして異例なほど話題を集めた。また、韓国の人気5人組ガールズグループ・EXIDやNEWSに楽曲を提供しているほか、SKY-HI、m-flo、さなりをはじめ客演オファーも絶えず、各所より注目を集めている。

  • eillさんの代表曲ともいえる「20」のリリースから1年、来月には誕生日を迎えて22歳になられますが、この1年間いかがでしたか。
  • eill

    「20」を出したのが21歳になる直前だったんですけど、私にとってハタチっていろんなことをすごく考えた年だったんですよ。将来のビジョンとか10年後の理想像とか。でも、考えていても答えが出ないことってあるじゃないですか。そんな自分を否定せずに認めてあげたいと思ってできたのが「20」。21歳は「20」で見つけた「自分を認めてあげよう」「無理に強くなろうとしないで自分を愛してあげよう」というテーマと向き合った1年でした。
  • eill

  • 以前、インタビューで「21歳は成長期にしたい」ともお話されてましたよね。
  • eill

    実際に成長期でしかなかったです。楽曲提供やツアーなど、初めてやることがたくさんありましたし。緊張やプレッシャーもありましたけど、毎日が刺激的で楽しかったですね。
  • 作家・eillとしてはEXIDとNEWSへ楽曲提供をされていましたが、それぞれの曲を作るうえで意識したことはなんでしょう。
  • eill

    EXIDはもともと好きなアイドルだったので、愛を込めて作った作品って感じです。とにかく自分が曲を書けることがうれしすぎて! 「日本語と韓国語と英語が交ざった曲にしたい」という要望があったので、各言語のキュンとする言葉を入れてみました。韓国語だったら「오(オッパー=おにいさん)」とか。あとは、EXIDの皆さんが得意な歌い方が活きるようにしました。私のルーツの中でもK-POPって濃い部分なので、「Bad Girl For You」はスルッと聴けるK-POPでありJ-POPでもある曲に仕上がったと思います。
  • NEWSの「STAY WITH ME」については、いかがですか。
  • eill

    あの曲はデモの段階で、ずっと温めてた曲だったんです。自分の部屋でピアノを弾いてたら歌詞とメロディが一緒に降りてきて。いい曲だし気に入ってたんですけど、曲の主人公が男性なので、「誰かに歌ってもらったほうがいいかな」っていうのは最初に作ったときから思ってて。そしたらNEWSさんが歌ってくださることになったので、びっくりしました。デモは1番しかなかったので、2番はNEWSさんに歌ってほしいなと思う歌詞を考えて書かせてもらいました。小さい頃から知ってる声の方が、自分の曲を歌ってるのは不思議な感覚でした。
  • 楽曲提供をしたことにより、作家としての意欲も増しそうですね。
  • eill

    そうですね。自分が歌うのも楽しいんですけど、作家として誰かの一部になるのもひとつの夢です。私、坂詰美紗子さんにすごく憧れてて。自分がいいと思う作品を、別の誰かが歌ってくれるのもかっこいいですよね。
  • 人生初めてのツアー「BLUE ROSE 2019」は、いかがでしたか。
  • eill

    「自分の存在が誰かの心を救えているのかな?」って感じです。ちょっと大きく聞こえちゃうかもしれないんですけど……。私がステージで話すことに耳を傾けて、涙を流してくださる方がいるわけですよ。そういう方にたくさん出会って、自分が傷ついてきたことや考えてきたことは無駄じゃなかったんだと思えました。あとは、ライブを純粋に楽しめるようになりましたね。以前は「どんなふうに見られているか」を気にし過ぎていたんですけど、最近は「またステージに立ちたい! みんなとライブを楽しみたい!」っていう気持ちのほうが大きいです。
  • 21歳のテーマで掲げていた「自分を認めてあげよう」を実現できてる感じがしますね。
  • eill

    そうですね。いつもポジティブな言葉を、思ってなくても口にするようにしてるんですけど、その効果があったかもしれないですね(笑)。例えば、電車のガラスに映る自分を見て「イケてる気がする」って思ってみたり、友達と「ウチらイケてない?」って話したり。そうやって日常からマインドを変えていったら、ライブのMCで「今日を最高に生きよう」とか「自分を愛していこう」って自然と言えるようになりました。言葉にすると変わっていけるんだなって。
  • Rude-αさんやSASUKEさん、さなりさんと回った「フロムニューエイジツアー」も昨年でしたね。
  • eill

    SASUKE君とさなり君は、もう末恐ろしいです(笑)。私よりも年下なのに、自分で音楽を作って、ファンのこともちゃんと考えてる。さなり君とは「Nights」でフィーチャリングもしたんですけど、台湾からØZI君を迎えて国境を越えた作品を作るポテンシャルもすごいし……。お姉さん、頑張らなきゃなって(笑)。
  • eill

  • 「大人びてるな」みたいな……。
  • eill

    いや! 楽屋で騒いでる姿は、まだ子どもだなって思うので(笑)。
  • (笑)。仲がいいですよね。さなりさんのワンマンで「エディ君は、eillちゃんがめっちゃ好き!」と、さなりさんがバラシていたのをすごく覚えてます。
  • eill

    マイナビBLITZ赤坂の公演ですよね? 私もあの場にいたんですよ。めっちゃ言ってましたよね(笑)。あのエディ君が私より年上だなんて、今でも信じられないです。
  • さなりさんと関わると若返るのかも……(笑)。
  • eill

    それは、絶対にあると思います(笑)。
  • ほかのアーティストさんとの関わりでいくと、m-flo lovesとしてリリースされた「tell me tell me」も特大トピックでしたね。
  • eill

    m-flo lovesで選ばれるってすごいことだと思うので、本当にびっくりしました。☆Takuさんが「復帰後、第1弾はeillちゃんがいいと思うんだよね」と誘ってくださったのは、すごくうれしかったです。
  • 制作期間で印象的だったことってありますか。
  • eill

    スタジオの時間の半分くらいが、タピオカの話と恋バナで終わったことですね(笑)。☆Takuさんと向井さんと3人でデモを作ったんですけど、すごくラフな雰囲気で。一緒に観た映像や会話からインスピレーションを得て、自然と出てくるメロディーや表現をすごく大事にされてるんだと感じました。あとは、☆Takuさんがフィーリングで伝わる方だったこと。私は音のイメージを伝えるときに、「み゛―!」みたいに音で表現するんですけど、それをすごくわかってくださるんですよ。
  • いつもと違う過程で制作すると、表現の幅も増えそうですね。
  • eill

    そうですね。「tell me tell me」以降、アニメや映画を観て、それをテーマにも曲を書くようになりました。今までは基本的に自分の体験か友達から聞いた話だったので、制作するうえでまた違う新たな世界が広がった気がします。
  • eillさんはアニメや映画など創作物が好きなイメージだったので、そういった曲が今までなかったのは意外です。
  • eill

    「この映画について書こう」みたいなのは、これまでなかったので。今制作してる曲は、片思いが切ない1本の映画が元になってるので楽しみにしててください。妄想はたまにするんですけどね……。
  • そういえば、過去のツイートに「好きな人と深夜にゲーセン行ってマリオカートでアイス賭けて勝負して、勝っても負けても、最近よく頑張ってるね。って頭ぽんぽんからのハーゲンダッツ頭に乗せて欲しい。たまらん。」っていうものがありましたね。
  • eill

    何それ、やばい!(笑)。自分で考えてる分にはキュンキュンするんでしょうけど、人から言われるとちょっと恥ずかしいですね(笑)。
  • 全女子が共感する妄想だと思いますよ。
  • eill

    深夜にただの友達とゲームしてるときに考えてたんだろうな……。
  • 最近、何か感化されそうになったアニメや映画ってありましたか。
  • eill

    今期やってる『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』がめっちゃ好きです。女の子がたくさんの男の子に囲まれて好意を受けるという作品を今まで見てこなかったんですけど、逆ハーレムの主人公を見て「私もモテたい!」って思いました(笑)。イケメンの王子様に囲まれたくなって、そういうゲームをすごく調べましたし……。新しい領域に足を突っ込んじゃいそうな感じです(笑)。
  • 作品に還元されていきそうですよね。
  • eill

    やばいですね。すごく長いタイトルの曲ができるかもしれないです(笑)。
  • (笑)。新曲の「FAKE LOVE/」もeillさんの想像力が活きた作品かと思うのですが、この曲はどのように生まれたんですか。
  • eill

    デモ自体は、『SPOTLIGHT』のタイミングで宮田“レフティ”リョウさんとセッションしたときに出来てたんです。そのときに「攻撃的な曲だな」という印象があって。今年は恋愛でもそういう曲をやってみたいと思ったときに、ちょうどいいなと。そこから生まれたテーマが「見返しソング」。もともと主人公が成長していく物語は好きなので、『プリティ・ウーマン』とかを観返して感じたことを曲に落とし込みました。フラれた悲しみや怒りをパワーに変えて強く生きようって。
  • 今までのeillさん以上に、気高い感じがありますよね。
  • eill

    性格悪そうですよね(笑)。でも、その意地悪な感じすら愛しいというか。勝気な雰囲気に可愛さを見出してくれる曲になったらうれしいです。
  • MVからも、“意地悪な感じすら愛しい”はすごく伝わると思います。
  • eill

    撮影の日に雨が降っちゃって、超大変だったんですよ。最初の中指を立てるシーンもなかなか苦戦して……。監督に「角度が違う!」と言われて、何回もやりました。最終的にはレーベルの方に立ってもらって、その人に向かってやるみたいな(笑)。
  • 理想の中指があったわけですね。
  • eill

    結構あったみたいです。
  • ビンタのシーンも鮮烈でした。
  • eill

    あれも何回も叩きました(笑)。一緒に曲を作ってる友人がビンタされる役だったので、あまり叩きたくなかったんですけど、「こういうときはちゃんと叩かないと意味ないから」と本人に言われて。最終的にはちゃんと叩きました(笑)。
  • プールに落ちたり、シャワーを浴びたり。印象的な場面が多いMVですよね。
  • eill

    気温が9℃くらいの日だったので、水の中に後ろから飛び込むのは恐怖でした(笑)。そのままお風呂のシーンを撮ったら、今度はお湯が熱くて手がふやけるし。でも、すごく楽しかったです。ひとつのMVの中で、あそこまで衣装チェンジしたこともなかったですし、セットもとても可愛かったので。
  • 衣装は私服ですか。
  • eill

    私物と、用意してもらったもの半々ですね。デビューからずっと一緒にやってきたスタイリストさんと、「このシーンはこんな服!」っていうやりとりを前日まで考えて決めました。
  • アーティスト写真のファッションも強めでかっこいいですよね。
  • eill

    ちょっとイカれてて強い、“いかつい女”にしたかったんです(笑)。それこそ、「FAKE LOVE/」の曲に出てくる、意地悪そうだけど可愛い女に。これもテーマを元にスタイリストさんと相談して決めました。本当はバットを持った写真にしたくて、地元の野球部で甲子園を目指してた友達からわざわざ借りたんですけど、撮影のときにデザイナーさんに隠されちゃって。私がバットを持たないようにするために、事件が起きてました(笑)。
  • 『SPOTLIGHT』の時とはまた違う、新たなかっこよさが発揮されたように感じます。eillさんがデビュー当時から大切にされている“堂々とした女性像”が、より磨かれたというか。
  • eill

    K-POPのアイドルやビヨンセ、クリスティーナ・アギレラみたいな存在になりたいという気持ちが、ずっと心の中にあるからかもしれませんね。女の人が女の人だけに与えられるパワーに、私自身がすごく助けられてきたので。
  • “女の人が女の人だけに与えられるパワー”ですか……。
  • eill

    女子同士だからこそ理解できることって、きっとあると思うんです。トランスジェンダーの方もいるので一括りにはできないんですけど、根本的に男女では心が違ってると思ってて。性別が違うだけで、いくら言っても伝わらないときってあるじゃないですか。同性だから分かち合える、見えないフィルターみたいなものがあるのかなって。ビヨンセって「男も女もひっくるめて私が王者」みたいなオーラが出てると思うんですよ。女性としての美しさを保ちつつ、周りに媚びることなく人として堂々としてる。そういう女性でありながら佇まいがかっこいい方は、とてもパワーがあると思いますし、多くの人が惹かれるのは必然な気がします。
  • なるほど。たしかに何にも媚びることなく自分らしくいるって、すごく難しい気がします。
  • eill

    そもそも自分を客観的に見ることが、めっちゃ難しいことですよね。歴代のディーバって“ロングヘア”みたいな象徴的なシルエットがあるんですけど、それを自分に置き換えたらパッと出てこなくて。自分のことって、自分ではわからないものだなあと。
  • 女の子の言い分で「言わなくても気持ちをわかってよ」ってありがちですけど、実際は自分ですら自分のことを把握しきれてなかったりしますからね……。
  • eill

    話してる間に話題がころころ変わっていって、よくわからないところに着地して終わるのは、ガールズトークの定番な気がします(笑)。話しながら答えを見つけていくのは、女の子特有だなって。
  • そういう意味でいくと、eillさんはすごく女性らしい気も……。
  • eill

    そうかもしれないですね(笑)。
  • では、最後に22歳の抱負を伺ってもいいですか。
  • eill

    音楽は今までどおり作りたいと思ったものを届けるというか、自分から溢れてくるものをそのまま伝えたいなって思います。はっちゃけたいですね! 22歳って大学に通ってたら、学生として最後の年だし。もっと大人になりたくて、服装に変なルールを作ってた時期もあるんですけど、今は自分が惹かれた服を着たい。もっともっと自分に素直に生きていきたいです。
  • 21歳で「自分を認めてあげよう」というテーマを経たからこそ、次のフェーズへ進んだのかもしれないですね。
  • eill

    たしかに! 本当の自分を見てあげようっていう気持ちになってきたような気がします。以前は自分の丸顔がコンプレックスで、顔がシュッとしてる韓国のアイドルのメイクを真似してたんですけど、それじゃ意味がないと気づいて。最近は丸顔だからこそできるメイクを研究してます。ありのままの自分と向き合うって大切ですよね。

【取材・文:坂井彩花】

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リリース情報

Digital single「FAKE LOVE/」

Digital single「FAKE LOVE/」

2020年05月20日

SPACE SHOWER MUSIC

01.FAKE LOVE/

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■配信リンク

「FAKE LOVE/」
https://ssm.lnk.to/fakelove



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#聞いてよフラれた
ツイッターでググってみると、いろんな人の失恋エピソードが出てきます。今回のテーマが“見返しソング”なので、失恋エピソードでも、ツイートした人がスカッとするような、内容です。 インタビューでも話しましたが、私は言葉にするだけで、気持ちが少し楽になったり、自分に自信を持つきっかけになると思ってます。なので、この企画を通して、サヨナラしたあの人を見返せるような自分になる――そんなチャンスになればなと思います。



■ライブ情報

eill Live Tour 2020
11/06(金)愛知 名古屋ell.FITS ALL
11/07(土)大阪 梅田Shangri-La
11/15(日)福岡 Early Believers
11/21(土)東京 恵比寿LIQUIDROOM

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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