ニューアルバム『synonym』を軸に新旧の楽曲が溶け合った一夜限りのスペシャルなワンマンライブ「synonium」徹底レポート!
パスピエ | 2020.12.31
12月9日にリリースしたニューアルバム『synonim』を引っさげて初の実演となったパスピエのワンマンライブ。会場となったLINE CUBE SHIBUYAに観客を入れつつ、同時に配信も行うという形で開催したこのライブ、彼らにとって久しぶりのワンマンライブであるという意味でもとてもエモーショナルなものになったのはもちろんのこと、バンドにとってはきわめて困難な状況に直面した2020年のなかで作られた『synonim』というアルバムがライブの場で過去の曲たちと混ざり合ってひとつの物語を作っていく――という光景自体がとても感動的で頼もしいものだった。
アグレッシヴな「Q」でキックオフすると、成田ハネダが客席のほうを見て笑顔を浮かべる。そして大胡田なつきのタイトルコールから「トキノワ」へ。配信の画面には成田の弾く鍵盤を真上から映した映像が映る。広いステージの上、踊るように身体を大きく動かしながら歌う大胡田、三澤勝洸のギターが唸りを上げ、露崎義邦のベースとサポートメンバー佐藤謙介のドラムが太いグルーヴを生み出す。
「12月25日を私たちのためにくれてありがとう。パスピエの『synonium』へようこそ!」。大胡田の挨拶を経て「まだら」のゆったりとしたリズムとメランコリックなムードがLINE CUBE SHIBUYAを包み込む。さらに不思議なループ感のある「人間合格」を披露すると、続けて「とおりゃんせ」へ。リヴァーブの効いた三澤のギターと成田のキーボードがノスタルジックな雰囲気を醸し出す。聴けば聴くほど複雑な構造をもった「oto」でオーディエンスを圧倒すると、今度はタイトなリズムで疾走する「名前のない鳥」の伸びやかなメロディが広がる。そしてメンバー個々のスキルが光る「現代」へ。最新のパスピエとこれまでの歴史、その両面を交互に見せるような序盤の展開である。曲の世界にどっぷりと浸かって歌を編む大胡田のボーカルが、その両面をつないでいる。
「さあ、始まってますよ、『synonium』。今年出したアルバムを、こうして今年披露できているのをありがたく思っています。この時間をいっそう大切に今日は使わせていただこうと思っています」。2020年という激動の1年を潜り抜けてこの日にたどり着けた喜びをそう口にする大胡田。「ライブって、アルバムの曲に昔の曲を組み合わせるわけじゃん。その醍醐味を楽しんでもらえたら」と成田もこのライブへの思いを語る。「みなさんの思うように楽しんでもらえたら」という成田の一言から披露されたのは「メーデー」! アグレッシヴなサウンドに客席からも手拍子が巻き起こる。髪を振り乱しながらキーボードソロを決めた成田が、楽器の前を離れてカメラに近づき手拍子を煽る。「真昼の夜」を経てテクノポップな名曲「R138」へ。露崎がキャスター付きのスタンドに乗せたシンセベースを押してステージの中央に出てきて見せ場を作り、客席から大きな拍手を浴びる。そしてこれぞパスピエの王道といっていいポップチューン「プラットホーム」をみずみずしく表現すると、重厚なオルガンの音色が印象的なクラシックの意匠をパスピエ一流のセンスでセンチメンタルなポップスへと昇華した「Anemone」へ。『synonim』でさらに新たなフェーズに突入したパスピエの姿をまざまざと見せつける。
と、舞台が暗転し、再び点灯したスポットライトが照らし出したのはマイクの前の大胡田の両脇に佐藤を含めた4人が立つというフォーメーション。その4人がサンプラーを操りながら演奏したのは「くだらないことばかり」だ。初めてだという新鮮なビジュアルで楽曲を届けると、今度は三澤のギターがコードをかき鳴らして「ワールドエンド」へ。軽やかにステップを踏みながら歌い終えると、ステージには大量のスモークが流れ込んでくる。イントロの民族的とも日本的ともいえる音色が特徴的な「tika」だ。大胡田は天を指差しながらジャンプしたり、腰を振ったり、全身で歌を表現している。そして成田の流麗な鍵盤さばきからアルバムの最後を飾っている「つむぎ」へ。大胡田いわくパスピエ自身のことを書いたというこの曲が優しさを帯びて響き渡る。マーチングドラムのような二拍子がさらに未来へと進むバンドを後押しするようだ。
ここでようやく一息。「R138」でのパフォーマンスについて「ツユさんすごかったでしょ」と成田が客席に問いかけると、大きな拍手が起こる。「くだらないことばかり」のサンプラーも含め、「こういう場で、どういうふうに音のおもしろさを伝えられるかなって考えた」と成田。状況によって変わらなきゃいけないこともある、と大胡田も言っていたが、まさにこの状況だからこその挑戦やアイディアが詰め込まれたライブだった。いうまでもなくパスピエは作品ごとに新たな挑戦を自分たちに課し、進化し続けてきたバンドだ。『synonim』というアルバムもそう。ここには2020年だからこそ鳴らせた、そして10年以上の月日を重ねてきた彼らだからこそ鳴らせたポップミュージックの形がある。そしてそのマインドが、このライブでのパフォーマンスにも確かに表れていた。
最後は4つ打ちのリズムが軽やかに走る「正しいままではいられない」と、客席からの手拍子に乗せて成田のシンセリフが鳴り渡ったアーバンなポップチューン「SYNTHESIZE」を連打。大胡田のしぐさに合わせて観客の手が揺れる。「またね!」。再会を誓う大胡田の言葉とともに、『synonium』は終わりを迎えた。ライブ終了後の配信画面には、この日までのリハーサルの模様を記録したドキュメンタリーが流れた。音作りの様子から、新たなアイディアを生み出す様子まで、普段は見ることのできない(というか、パスピエというバンドがどちらかといえば見せてこなかった)部分を見せるということ自体、この2020年を生きてきた証明のように思えた。
【取材・文:小川智宏】
【撮影:井手康郎】
リリース情報
synonym
2020年12月09日
NEHAN RECORDS
02.Q.
03.現代
04.SYNTHESIZE
05.プラットホーム
06.oto
07.真昼の夜
08.Anemone
09.人間合格
10.tika
11.つむぎ
<初回限定盤Blu-ray収録内容>
2020年2月に人見記念講堂で開催した結成十周年特別公演“EYE”のアンコール含む全22曲の映像を収録。
01.あかつき
02.始まりはいつも
03.ハレとケ
04.永すぎた春
05.トリップ
06.ネオンと虎
07.DISTANCE
08.瞑想
09.あの青と青と青
10.resonance
11.チャイナタウン
12.マッカメッカ
13.グラフィティー
14.MATATABISTEP
15.つくり囃子
16.シネマ
17.正しいままではいられない
18.真夜中のランデブー
19.ONE
20.まだら
21.トロイメライ
22.贅沢ないいわけ
セットリスト
one man live“synonium”
2020.12.25@LINE CUBE SHIBUYA
- 01.Q.
- 02.トキノワ
- 03.まだら
- 04.人間合格
- 05.とおりゃんせ
- 06.oto
- 07.名前のない鳥
- 08.現代
- 09.メーデー
- 10.真昼の夜
- 11.R138
- 12.プラットホーム
- 13.Anemone
- 14.くだらないことばかり
- 15.ワールドエンド
- 16.tika
- 17.つむぎ
- 18.正しいままではいられない
- 19.SYNTHESIZE
- EN1.つくり囃子
- EN2.マイフィクション
お知らせ
one man live“synonium”
※アーカイブ配信:2021/01/06(水)18:00まで
https://passepied.info/news/p/detail/s_id/3/d_c_id/1/id/10001243