『スピッツ コンサート 2020 “猫ちぐらの夕べ”』ライブレポート
スピッツ | 2021.01.15
11月26日、東京ガーデンシアターにて、スピッツ一夜限りのコンサート『スピッツ コンサート2020“猫 ちぐらの夕べ”』が開催された。
このコンサートは、3月から開始予定だった全国ツアー『SPITZ JAMBOREE TOUR 2019-2020 "MIKKE"』のホール公演が延期となっているなか、開催が決定したもの。スピッツにとって、コロナ禍以降初のライヴとなった。タイトルである“猫ちぐらの夕べ”は、スピッツが7月に配信リリースしたセルフプロデュースかつリモート制作による新曲「猫ちぐら」に由来している。「猫ちぐら」とは、新潟県に古くから伝わる工芸品で、稲わらで編まれた猫用の寝床のこと。地元の方言で「ゆりかご」を「ちぐら(または、つぐら)」ということから、この名がついたようだ。想像するだけでとても温かそうな、幸せそうな画が浮かぶモチーフだが、この「猫ちぐら」という言葉を掲げているところに、スピッツがこのコロナ禍に音楽を通してどんな景色を描き、久しぶりのライヴとなったこの夜にどんな空間を作りたいと願ったのかが伝わってくるようだ。
当日は、入場口で検温とアルコール消毒、新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」のインストール確認など、事前に公開されていたガイドラインを通して念入りに感染対策を施したうえでの開催となった。オール着席、セットリストも「ほぼ全体がゆったりとしたもの」で構成されると、これも事前にアナウンスされており、通常とは違う、本当に「一夜限り」の特別なライヴだ。
開演時間の19時、草野マサムネ(Vo / Gt)、三輪テツヤ(Gt)、田村明浩(Ba)、﨑山龍男(Dr)、そしてサポートメンバーのクジヒロコ(Key)の5人がステージに登場し、演奏が始まる。「ゆったりとしたもの」という予告通り、穏やかな曲調の楽曲を中心に演奏されていくが、しかし、バンドのアンサンブルは決して弱弱しいものではなく、むしろゆったりとした曲調だからこそ、バンドが生み出す熱気とダイナミズムが、体の芯からじんわりと、たしかな感触を持って伝わってくる。オーディエンスはマスク着用のうえスタンディングNG、歓声や指笛も禁止と場内アナウンスされていたが、座りながらも上半身を揺らすなどして、バンドの演奏にノッている人も多い。制限された空間の中で、それぞれがそれぞれの心の赴くままに演奏と歌声に身を浸している。スピッツが描く包容力のあるグルーヴ、柔らかなメロディが、11月の終わりの寒空のなか東京ガーデンシアターに集まった人々の心と体を暖める。バンドの演奏だけでなく、草野の歌声も、深く、力強い響き方をしていて、特に序盤に演奏された「空も飛べるはず」では、その囁くような歌声の奥にあるふくよかさ、芯の強さをひしひしと感じることができた。
やはり、普段はあまり見られない特別なセットリストだったこの夜、草野が「久々に演奏する曲です」といって演奏に入るなどレア曲も演奏される中、もちろん、新曲「猫ちぐら」も披露された。草野はMCで、会場の様子を「猫ちぐらっぽい」と語っていたが、実際の猫ちぐらは、時間をかけて、丹念に稲わらを編んで作られるという。各楽器が絡み合い、支え合いながら音楽を生み出していく「バンド」の在り様、また鳴らす人がいて、聴く人がいる、そんな「人と人」の関係によって場が形成されていく「ライヴ」という空間の在り様――そういったものすべてが、「猫ちぐら」というモチーフを通して祝福されているようでもあった。その後も、「楓」や「魔法のコトバ」などを披露。優しくて、悲しくて、美しくて、逞しい、そんなスピッツの音世界で、会場を溢れさせた。
終盤のMCで三輪は、「声援もいいけど、心のこもった拍手ってすごく伝わるんだと改めて思いました」と語った。人も音楽も、今までのような接し方、繋がり方が困難になってしまったこのコロナ禍。そばにいることが難しくても、それでも、言葉にならない「なにか」が人から人へ伝わっていく幸福があるのだと、この幸福は失われてはいけないのだと、この日、スピッツの音楽を通して改めて感じさせられた。同時にスピッツ自身もまた、久しぶりのライヴを通して、改めてオーディエンスに気づかされたことがあったのかもしれない。三輪の発言からは、そんなことを感じさせられた。
温かくて、興奮と安心があって、なにより、いい音楽に満ちていて。スピッツと一緒だったからこそ過ごせた夜だった。
【撮影:中野敬久】
Comments from Artists
今回、スピッツにゆかりのあるアーティストの方々にお声がけをしたところ、たくさんのアーティストがスピッツの思い入れたっぷりの楽曲をセレクトしてくれました! コメントとあわせて、ぜひチェックしてみてください!(Fanplus Music編集部)
セレクト楽曲「春の歌」
高い声が出なくて全然歌えませんでしたが(笑)バンドに憧れを抱かせてくれた大切な思い出の曲です。
the quiet room
セレクト楽曲「夜を駆ける」
数年後、"FESTIVARENA" 公演のオープニング1曲目がこの曲でした。
暗闇に響くイントロの鍵盤とアコースティックギターの音が美しくて儚くてまた衝撃を受けて忘れられず、それ以来この曲の虜です。
歌詞の、少し危うい空気感に聴くたびゾクゾクさせられます。この曲の中の2人は、素敵な夜を過ごせたんだろうか?と思わずいつも考えてしまいます。
アルバムでも1曲目に配置されていて、スピッツの世界観が凝縮されている曲だと思います。
Dizzy Sunfist
セレクト楽曲「空も飛べるはず」
私が小学生の頃、7つ上の姉が高校の文化祭でコピーバンドで歌を歌うステージがあり、母と2人で見に行きました。そこで、姉がスピッツの"空も飛べるはず"をカバーしていました。その時の「えみりが好きな曲だから歌ったんだよ。」と言った姉の顔は今でも忘れられません。
あの日の演奏を見てからバンドに強い憧れを持ち、私もバンドをやりたいと思いました。
何年も経った今でもバンドを続けられているのは、あの日大好きな姉が大好きなスピッツの曲を歌ってくれたからです。
なきごと
セレクト楽曲「けもの道」
ちなみに実家の今の車は「青い車」で「8823」ナンバーです。
ハンブレッダーズ
セレクト楽曲「スピカ」
それから歌詞というものを熟読するようになりました。その中で「スピカ」の中の<やたらマジメな夜なぜだか泣きそうになる>という歌詞がとても好きでした。恥ずかしかったので親友には言えずにいましたが、その時からずっと特別な歌詞です。そして今聴くと14歳の時の解釈とまた違った解釈が出来る事が嬉しくもなります。
楽曲にトキメキ、その後でまた言葉に再度トキメクという経験を教えてくれたのは間違いなくスピッツです。それから私の中で歌を作る時、語形で自分がトキメキを持てるか。という指針が生まれたと思います。
FINLANDS
セレクト楽曲「君が思い出になる前に」
むぎ(猫)
セレクト楽曲「君が思い出になる前に」
キャンプに行く道中も勿論ずっと流れていて、今でもこのアルバムを聞くと父の運転する車やキャンプを思い出します。
もうあまり記憶もないくらい幼かったですが、幼いながらに感覚でメロディーや空気感や言葉がすきだったのを覚えてます。
その中でも特に、聞くと車の中を思い出しゾワゾワするのが「君が思い出になる前に」です。
ミドル位のテンポで少し切ないようなでも希望があるような絶妙なこの曲が小さい頃からずっと好きで印象に残っています。サビの<君が思い出になる前に>の部分のメロディなど流れると息を止める位に好きなメロディーです。
車というと「青い車」じゃないのかという感じですが、青い車はどちらかというとテントを立て終わりタープの下で休憩しながら何して遊ぼうか考えてる時を思い出す曲ですね…あれ、なんだかキャンプの話ばかりしてしまってる…。というわけで、スピッツさんの曲は私の中で、お父さんとキャンプと山道と思い出と共にある大事な大好きな曲ばかりなのです。ありがとうございます。
湯木慧
<映画『スピッツ コンサート 2020 “猫ちぐらの夕べ”』>
~2021年1月31日(日) まで
▼Stream Pass 上映チケット販売
https://tixplus.jp/feature/spitz_online_2020/
視聴券:1,500円(税込)
リリース情報
猫ちぐら
2020年06月26日
Universal Music LLC
お知らせ
▼Stream Pass 上映チケット販売
https://tixplus.jp/feature/spitz_online_2020/
2021年1月31日(日) まで