結成30周年を記念したシングル・コレクション・アルバム『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』。「ヒバリのこころ」から「みなと」まで、全シングルのタイトル曲を網羅し、配信限定シングル「愛のことば-2014mix-」と「雪風」、新曲×3も収録している濃密極まりない作品だ。

　長年に亘って愛されているスピッツだが、大人気となるまでに数年を要したという事実は、知っている人が少なくなっているようなので、この場で足跡をざっと振り返ってみるとしよう。まず、スピッツが結成されたのは1987年。この頃は、いわゆる「バンドブーム」の真っ只中であり、原宿の歩行者天国での「ホコ天ライヴ」にたくさんの観客が集まったり、ライヴハウスの動員記録が次々塗り替えられたりと、国内のロックシーン全体に熱い追い風が吹いていた。当時の主流はビートパンクなどと呼ばれるタテノリのサウンドであり、スピッツもまさにそういう音楽性だったというのは、意外に思う人が多いかもしれない。その頃の香りは、今作のDISC 3に収録された新曲「1987→」に反映されている。軽快なビート、パンキッシュな各楽器のプレイ、パンチの利いた歌声が、とても印象的な仕上がりだ。昔の彼らの曲のアレンジやフレーズのアイディアを引用しつつレコーディングを行ったそうなのだが、スピッツの原点を感じ取れる曲として、ぜひ注目して頂きたい。

　やがて彼らはアコースティックギターのサウンドを積極的に採り入れるようになり、アルペジオや繊細なコードの響きを活かした作風を追求するようになる。そして、フォークロック、パワーポップ、ニューウェイヴなど、洋楽のエッセンスを吸収しつつ、瑞々しいメロディを際立たせる音楽性へと移行していき、1991年3月にメジャーデビュー。しかし……「ヒバリのこころ」や「夏の魔物」など、文句なしの名曲があったにも拘らず、ヒットになかなか恵まれなかったのは、今となってはとても不思議だ。そんな彼らが最初の突破口へと辿り着いたのは、1993年10月にリリースした7thシングル「君が思い出になる前に」。その後はリリースを重ねる毎に着々と人気と高めていき、1995年には「ロビンソン」や「涙がキラリ☆」がスマッシュヒット。1996年にはテレビドラマ『白線流し』の主題歌として「空も飛べるはず」が起用されて大評判となり、この直後に13thシングル「チェリー」をリリース。今尚愛される不朽のナンバーを立て続けに世に送り出しながら幅広い層に支持されるようになり、メンバー編成不動のまま今日まで歩んできた。

　活動を重ねる毎に深みを増しているアンサンブル、永遠に色褪せない瑞々しいメロディ＆ハーモニーの圧倒的な魅力は、今作の各曲を辿ればよく分かるだろう。そして、先述の「1987→」、『2017 めざましテレビ テーマソング』の「ヘビーメロウ」、映画『先生！』の主題歌「歌ウサギ」――新曲×3が、彼らの音楽に対する尽きない情熱を鮮やかに示しているのも、堪らなく嬉しい聴き処だ。フレッシュであり続けているスピッツは、今後もたくさんのファンの心を温かく包み込むに違いない。

【文：田中 大】