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Omoinotake、全力で生の音を浴びせたツアー初日

Omoinotake | 2021.03.04

 「ワンマンライブをやるのは2020年の1月31日ぶりで。しかもその時はフロアライブだったので、こんなに客席にお客さんがいるのを見るのは本当に久しぶりです」――最初のMCで藤井レオ(Vo/Key)が感極まったようにそう話すと、会場からは大きな拍手が、なかなか鳴り止まないほどに響き渡った。「待ってました!」という声にならない声が、その音になってステージにいるOmoinotakeの3人に届けられていた。「延期や中止になってしまったツアーの分も、今日は存分に、生の音を浴びて楽しんでもらえたらと思っています」と意気込む。序盤からパーカッションやサックスのサポートメンバーを加えたサウンドを丁寧かつダイナミックに届けていったこの日のライブ。冨田洋之進/ドラゲ(Dr/Cho)のリズム楽器と思えないほど繊細で表情豊かなドラムも、福島智朗/エモアキ(Ba/Cho)の体にずっしりと響くベースの音も、絶好調。「So Far So Good」では心地良いビートの中に、レオがひとつひとつの言葉を噛みしめるように歌い放った。

 昨年11月にリリースされた4枚目のミニアルバム『Long for』に収録された曲を中心に組まれたセットリスト。昨年12月に行われた配信ライブでは、オンラインならではの演出でも魅了してくれたが、目の前で音が生まれる瞬間に立ち会い、体で感じることができる臨場感はやっぱり格別。更にこの日は会場が渋谷WWW Xということで、こんなMCも。「ここ渋谷は僕たちにとってすごく大事な場所。2017年ぐらいから何度も何度も路上ライブをしてきました。なかなかお客さんが足を止めてくれないもどかしさとか、色んな思いでもがきながらこの街で、東京で活動してきました。弱音を吐きながらも東京でやってやるんだって、頑張ってきたからこそこうしてたくさんの人の前で演奏ができています。僕らはみんな島根で育って、東京とは全然違う街ですけど、これからも島根のことを思いながら、東京で暮らして行こうと思ってます」と、思いを込めて「東京」を披露。10年前の彼らと同じように東京で孤軍奮闘している人も、かつての自分がそうだった人も、思いを重ねるようにして聴いているのがわかる会場の一体感。それを生み出す集中力の高い繊細な演奏力は、3人が時間をかけて磨き上げてきたものだ。

 ステージから観るOmoinotakeの佇まいは、いわゆるスリーピースバンドの密な結束力みたいなものとは少し違っていて、真ん中でレオが鍵盤を弾きながら真正面を向いて歌を懸命に届けようとする姿にこそ、両サイドにいるエモアキとドラゲへの信頼を感じる。またこの二人が演奏中にレオのことをすごく気にしているかと言うと割とそうでもないのも面白くて、エモアキはアンプに向かって自分が出す音に集中していたり、ドラゲは楽しそうに巧妙な技を繰り広げていたりするのだけれど、3人の音がブレることはない。島根の同じ景色を見て、東京で苦楽を味わって、そんな経験と時間が積み重なって今のOmoinotakeがある。

 会場のみんなの心の大合唱が聴こえてくるような盛り上がりになったのは終盤の「Never Let You Go」。華やかなサウンドを体に浴びるのが心地良く、チャッチャッと手拍子を入れながら鮮やかなメロディと音に身を委ねると、何とも言えない楽しさと高揚感が沸き起こってきて、ライブというもの本来の喜びを受け取った。「中止や延期になったツアーの分も」と意気込んでいた通り、常に120~130%くらいの全力出し過ぎ感が高感度大だったこの日のライブ。お客さんはお客さんで久しぶりの生音を全力で浴びようとする姿勢があり、その相乗効果が大きな熱気を生み出していた。お客さんからの拍手をたくさんもらって再び登場したアンコールでは、「いや~生のクラップの音はいいね」とレオが言い、エモアキが「ずっと聴いていたいね」と返したやり取りに、何だかほっこり。コロナ禍で境地に立たされたライブやエンタメ界だけれど、こうして再び出会えた時に、これまでには感じられなかった新しい価値が生まれていくはずだ。「音楽業界の色んな灯火を絶やさないように。ライブハウスやスタッフや来てくれるお客さんのことも守りたいと強く思っています」という決意もレオが口にしていた。渋谷の路上で培ったタフなマインドと、コロナ禍でのもどかしさや悔しさも全部詰め込んでポップに昇華した渾身のミニアルバム『Long for』をひっさげ、今後もOmoinotakeはこのツアーの1本1本を勇敢に慣らしていくだろう。

【取材・文:上野三樹】

tag一覧 J-POP ライブ 男性ボーカル Omoinotake

リリース情報

Long for

Long for

2020年11月18日

NEON RECORDS

01.産声
02.One Day
03.欠伸
04.夏の幻
05.東京
06.One Day (JQ from Nulbarich Remix)

セットリスト

Omoinotake「Long for」Release One Man Tour 2021

02.07@東京・WWWX
  1. 01.欠伸
  2. 02.fake me
  3. 03.So Far So Good
  4. 04.夏の幻
  5. 05.Blanco
  6. 06.mei
  7. 07.東京
  8. 08.惑星
  9. 09.モラトリアム
  10. 10.One Day
  11. 11.Never Let You Go
  12. 12.産声
  13. 【ENCORE】
  14. EN1. Hit It Up
  15. EN2. トニカ

02.13@名古屋・Electric Lady Land
  1. 01.欠伸
  2. 02.fake me
  3. 03.So Far So Good
  4. 04.夏の幻
  5. 05.Blanco
  6. 06.Stand Alone
  7. 07.東京
  8. 08.惑星
  9. 09.モラトリアム
  10. 10.One Day
  11. 11.Never Let You Go
  12. 12.産声
  13. 【ENCORE】
  14. EN1.Ride on
  15. EN2.トニカ

02.20@大阪 MUSE
  1. 01.欠伸
  2. 02.fake me
  3. 03.So Far So Good
  4. 04.夏の幻
  5. 05.Blanco
  6. 06.雨と喪失
  7. 07.東京
  8. 08.惑星
  9. 09.モラトリアム
  10. 10.One Day
  11. 11.Never Let You Go
  12. 12.産声
  13. 【ENCORE】
  14. EN1.Hit It Up
  15. EN2.トニカ

02.23@島根・松江B1
  1. 01.欠伸
  2. 02.fake me
  3. 03.So Far So Good
  4. 04.夏の幻
  5. 05.Blanco
  6. 06.Still
  7. 07.東京
  8. 08.惑星
  9. 09.モラトリアム
  10. 10.One Day
  11. 11.Never Let You Go
  12. 12.産声
  13. 【ENCORE】
  14. EN1.雨と喪失
  15. EN2.Ride on
  16. EN3.トニカ

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