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YAJICO GIRL、穏やかに、エモーショナルにバンドの存在感を見せた東京初ワンマン

YAJICO GIRL | 2021.03.22

 昨年大阪から東京に拠点を移して活動を始めたYAJICO GIRLの、東京での初ワンマンがついに実現した。本来であればもっと早く開催されるはずだったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響でこのタイミングに。だが結果的にはよかったんじゃないか、とステージを観ていてすごく思った。「ヤジヤジしようぜ!Vol.5 “Outdoor Release Party“」と題されたこのライブ、ニューアルバム『アウトドア』のムードだけでなく、その前の『インドア』も、さらに前の楽曲たちも、文字通りひと続きの物語として伝わってきたからだ。去年の段階だったら、そうはならなかったかもしれない。YAJICO GIRLというバンドの存在感を遺憾なく発揮した1時間半をレポートする。

 ステージ上のキーボードの「Indoor Newtown Collective」のロゴに光が灯り、ゆったりとしたグルーヴの「ニケ」から始まったライブ。「適当に、ユルく、今日は楽しんでいけたらなと思います」という四方颯人(Vo)の挨拶から「2019」へ。美しいハーモニーが気持ちよく広がり、四方は軽やかにステップを踏んでいる。そしてここで披露されたのが『アウトドア』の出発点となった楽曲「街の中で」だ。配信リリースされた当初から、時代の空気にバッチリハマっていたこの曲が、ここWWWでも一際のリアリティをもって響く。

 「WAV」ではエフェクトのかかったボーカルが浮遊感を演出し、古谷駿(Dr)の4カウントから入った「Futura」では小気味よいタテのリズムと榎本陸(Gt)の弾くギターの音色が晴れやかに鳴り響き……1曲ごとに描き出す景色を変えながら、ステージは徐々に熱を帯びていく。ここで短めのMC。「久しぶりにライブハウスで音を聴くという人も多いんじゃないかな。その喜びをシェアしながらやっていけたらいい」と四方がいいことを言ったかと思えば、榎本は「最初間違えてアンプの電源入れてなかった」といきなりの反省モード。「今から本気出していくんで」と宣言するとフロアから拍手が巻き起こる。

 『アウトドア』は一言でいえばYAJICO GIRLが再びバンドとして音を鳴らすことの楽しさと喜びに向き合ったアルバムだ。四方のイメージをひたすらに具現化していった『インドア』とは対照的に、メンバーやスタッフの意見を取り入れながらチーム全員で作品を作り上げるという経験を経たからかなのか、あるいはもともとそうなのかもしれないが、ステージ上には常に「バンド」ならではのファミリアな空気が漂っている。その空気がグルーヴとなり、音の重なりとなり、温かな温度を連れてくる。「Surfing」では武志綜真(Ba)のベースラインが絶妙なうねりを生み出し、同期で聴こえてくるコーラスが白昼夢のような雰囲気を演出。かと思えば一転、『インドア』からの「汽水域」では淡々と続くリズムと遠くから聴こえてくるような吉見和起(Gt)のギターが夜の孤独を引っ張り出してくる。

 眩い光がフロアを照らし出すなか、手拍子とホーンセクション、ピアノが華やかに鳴り響いた「熱が醒めるまで」から、初期曲「PARK LIGHT」へ。ロックバンド然としたアンサンブルのなかで、榎本のレスポールが鳴らすギターのサウンドが楽曲のスケールをグングン押し広げていく。それにしても、アコギとエレキの2本を使い分けつつ、シンセやサンプラーも駆使する榎本の忙しさよ。忙しいだけじゃなくて、彼の鳴らす音がリズムもグルーヴも司っていることが、こうして観ているとよくわかる。いや、彼だけではない。ドラムがリズム担当、ベースがグルーヴ担当というような安直なイメージを軽々と乗り越えながら、YAJICOは全員でリズムを紡ぎ、グルーヴを織り上げていく。もちろん真ん中にあるのは四方の歌だが、その歌を支えるように、あるいは歌と一緒になってエモーションを生み出していくように、バンドのアンサンブル全体でひとつの風景を浮かび上がらせていくさまには圧倒され、引き込まれる。『インドア』の曲、『アウトドア』の曲、さらにはそれ以前の曲とどれもが明らかに違うのだが、その性質の違う楽曲たちを他ならぬバンドの結びつきがひとつの物語につなぎ合わせていくのだ。

 グッズ紹介のMCを挟んで、微妙に緊張感が途切れたところで榎本が「そろそろええ感じの空気感にして次の曲つなげていこうや」とぶっちゃけ、重厚なシンセのシーケンスから「東京」という言葉にさまざまな思いを込めた「NIGHTS」へ。この曲がついに東京でのワンマンライブで披露されたというのがなんとも感慨深い。スムースな四方の歌が、ポジティブともネガティブとも言い切れない微妙な感情のさざなみを引き起こしていく。そして、彼の個人的な思いをバンド全員で盛り上げていくようなバラード「ただいま」の感動的なシーンを経て「セゾン」へ。個人的には、この曲の穏やかで晴れやかなアンサンブルの美しさはこの日のハイライトのひとつだった。刻まれるハイハット、伸び伸びとしたギターのリフ、生々しいベースに<なにもない>のリフレイン。続いていく日常と(タイトルどおり)めぐる季節を反復するフレーズが表現するなか、四方のエモーショナルな歌がそれを打ち破っていく。歌詞がエモいとか、メロがエモいとかではない、バンド全体で鳴って音と慣らしている姿がすでにエモいとでもいうような、すばらしいパフォーマンスだった。

 そしてもうひとつのハイライトとなったのが、四方の「メンバー5人について作った曲です。すごく大事な曲になったなと思っているので、大切に演奏したいと思います」という言葉から披露された「FIVE」だ。シンプルなリズムとアコースティックギターの優しい音色とハーモニーの上で歌う四方が見せたはにかむような笑顔。別に何かあったわけではないけれど、改めてバンドが続いていること、そして続いていくことの奇跡性と美しさを感じる。この曲を終え、「やっぱりライブって楽しいですね」と口を突いて出たように話した四方。「セゾン」でコードをミスった吉見をイジるくだりも、なんだか愛に溢れている。「そういうミスも、『これもひとつの思い出になるし、共有できてる』っていうこと自体も嬉しいっていう心持ちなんですよ、僕は」と言う彼の表情はどこまでも穏やかだ。

 いよいよライブは最終盤。「わかったよ / PARASITE」、「黒い海」というフルスケールのロックソング2連発でさらなるピークを描き出すと、彼らの原点を思い起こさせる「ニュータウン」から、最後の曲「Better」へ。『アウトドア』の最後に収められたこれこそ、今のYAJICO GIRLが生み出す音楽の粋が凝縮された曲だ。ダビーで肉体的なリズムワークに空間的なギターが重なり、四方のエモーショナルなボーカルが感情を彩っていく。『アウトドア』を経てタフになったバンドの現在地をこれでもかと見せつけ、<まだ音は続いてる>というフレーズとともに、東京で初めてのワンマンライブは幕を閉じた。

【取材・文:小川智宏】
【撮影:山川哲矢】

tag一覧 J-POP ライブ 男性ボーカル YAJICO GIRL

リリース情報

アウトドア

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2021年02月17日

MASH A&R

01.Futura
02.WAV
03.街の中で
04.Surfing
05.FIVE
06.ただいま
07.今夜眠らないで
08.セゾン
09.わかったよ / PARASITE
10.Better

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