前へ

次へ

結成10周年、ベストアルバムリリースツアー、約1年ぶりの有観客ワンマン――圧倒的多幸感で贈られた東名阪ツアー「BEST 2010-2020 TOUR」ファイナル公演を徹底レポート!

Czecho No Republic | 2021.03.24

 「メンバーの状況も含め、バンドがいい状態だから」。

 本編最後「好奇心」の前のMCで武井優心(Vo/Ba)はそう語ったのだが、この日のライブを観た誰もが同じことを思ったに違いない。なぜなら、Czecho No Republic(以下チェコ)はこの日、1曲目の「No Way」から大団円を飾った「ダイナソー」までの2時間ずっと観客を圧倒しつづけたのだから!

 「久々ですよね。東京でワンマンやるって。1年ぶりぐらいですよね」と砂川一黄(Gt)も語ったとおり、久しぶりのワンマンライブということで、この日、この空間が祝福されることは、すでに約束されていたとはいえ、チェコは僕ら観客の想像をはるかに超えるライブで、この日を待ち焦がれていた期待に見事に応えてくれたのだ。

 どんなライブだったのかと言えば、本当に圧倒的という言葉がふさわしいと思う。個人的には、メンバーがステージに出てきたときには、イスがあるにもかかわらずすでに全員が立ち上がっていたフロアを見た武井が「みんな立ってる! 素晴らしい!」と歓喜の声を上げてからなだれこんだ「No Way」のパワフルな演奏にいきなりガツンとやられ、うれしい再会に心の中で快哉を叫んだのだが、前述した本編最後のMCで圧倒的なライブの理由が明かされ、びっくりすることになるなんて、「No Way」からバンドがたたみかけるように繋げた「MUSIC」「Festival」――彼らの十八番であるアンセムを聴きながら、観客が声を出せないなら自分たちが!と全員で声を上げるバンドに求められるまま手拍子している時点では想像もしていなかった。

 チェコの結成10周年を記念して、全39曲をファン投票で選んだオールタイム・ベストアルバム『Czecho No Republic 2010-2020』をひっさげ、2月27日の名古屋・ell.FITS ALL、3月6日の大阪・Music Club JANUS、そして東京・渋谷TSUTAYA O-EASTと3ヵ所を回った「BEST 2010-2020 TOUR」のファイナル公演。「本日、東京ファイナルを迎えることができ、みなさんと会えてうれしいです。まだ、(新型コロナウイルス感染拡大防止のガイドラインに準じた)この状況は、俺らも慣れないけど、この状況の中で楽しいことをしたい。みんなも気持ちは同じだと思います。楽しい夜にしましょう!」。この日のライブに込めた思いをそんなふうに語った武井とタカハシマイ(Gt/Syn/Vo)のハーモニーを軸に、バンドがこの日演奏したのはベストアルバムからの24曲だ。

 「ここからまた始めようという気持ちを書いた曲」(武井)と曲のバックグラウンドを紹介した上でメンバー全員でシンガロングした「LALALA」、演奏したあとに「10年もやるとは思ってなかった」とバンド結成時の思いを蘇らせたポスト・パンク調のロックンロール「ショートバケーション」(2011年発表の1stシングル『Casually』収録曲)などなど、新旧のレパートリーを演奏しながら、武井をはじめ、メンバーたちの頭には思い出を含むさまざまな思いが過っていたことは想像に難くない。
 そうした思いをステージで語るのは主にフロントマンであると同時にメインのソングライターでもある武井だが、バンド結成から武井を支えてきた山崎正太郎(Dr)はもちろん、八木類(Gt)脱退後、キーボードに加え、エレキギターも弾くようになったタカハシ、そして八木が抜けた穴を埋めるため、ギタリストとして大きな役割を担うようになった砂川の胸にも、演奏しながらさまざまな感慨が去来していたんじゃないか。そう思うと、ステージの4人が奏でる一音一音が聴き逃せないと思えた。

 中盤では、「30分のライブではできない(=セットリストに入れられない)曲がチェコにはちょいちょいあるんで。チェコ好きな人以外にはわかりにくい感じの(笑)」(武井)、「そんなことないでしょ」(砂川)と、「エンドルフィン」「Everything」「DANCE」とチェコのレパートリーの中でもマニアックな魅力もあるエレクトロニックな3曲を披露。タカハシがリード・ボーカルを務めたR&B色濃い「Everything」は、この日のハイライトと言ってもいいインパクトを残した。
 ゆったりとしたテンポでバンドのスケールアップを印象づけた熱度満点の演奏もさることながら、ハンドマイクで堂々としたパフォーマンスを見せたタカハシの歌声は、まさに圧倒的の一言だった。観客の気持ちも含め会場全体を掌握していたと言っても全然大袈裟に聞こえないほどの迫力に度肝を抜かれたのは筆者だけではなかったはずだ。

 そして、「チェコには5人だった時期があって、5人でやってた頃の仲間が今日は助っ人に来てくれました」(武井)と2018年4月に脱退した八木を迎え、「Field Poppy」「Crazy Crazy Love」「MIKA」「ネバーランド」の4曲を、5人で演奏するというベストアルバムのリリースツアーならではの見どころも――と思いきや、「たまに5人でやろうよ」(タカハシ)、「ふらっと飛び入りしてもいいしね」(砂川)と何やら新たな展開の予感も!
 「バンドをやめた人間が同じステージで演奏するなんてことある? 10年後とかじゃなくて、3年ぐらいで(笑)。それができるすごいバンド、スタッフ、お客さんだと思います」と語った八木と一緒に演奏した「ネバーランド」からはラストスパートをかけるように一気にアンセムの数々をたたみかけた。

 「Amazing Parade」「Oh Yeah!!!!!!!」ともに普段なら観客も一緒にシンガロングするところだが、この日は観客の代わりにメンバー全員が歌い、観客が手拍子で応える。

 「聴こえるぞ! 心で一緒に!」。

 武井が観客に声をかけると、「Oh Yeah!!!!!!!」のダンス・ビートに合わせ、観客全員が飛び跳ねる。そこから山崎がバスドラをキックする4つ打ちのビートで繋げたエモーショナルな「Fireworks」では、大きな一体感が生まれたフロアを、ミラーボールが放つキラキラとした光が照らしたのだった。

 本編の最後は前述したとおり「好奇心」。起死回生に懸ける思いや、改めて自らが音楽に取り組む気持ちを正直に言葉にしたこのロック・ナンバーを歌う前に武井が語ったのは、コロナ禍の影響で思うようにライブができなくなってしまい、これまでお客さんの「楽しかった」という言葉をガソリンに続けていた自分は心が折れ、もうバンドはやれないかも――というあまりにも正直すぎる思いだった。
 突然の告白に面食らいつつ、そんな素振りはこれっぽっちも見せなかったじゃないかと思いながら、武井の言葉が胸に刺さった。しかし、彼はこう言葉を続けたのだった。
 「メンバーの状況も含め、バンドがいい状態だからやめるのは悔しかった。このツアーでやめるのか、続けるのか考えようと思って、蓋を開けたら楽しかった。未来はわからないですけど、今日、勇気をもらったので、好奇心旺盛に生きていきたい。音楽で知り合った方々にまた会いたいので、しれっとやっていくと思います。楽しいことやって生きていきましょう!」。

 気迫に満ちた演奏の理由がわかったような気がした。やめるのか、続けるのか考えたのではなく、ステージに立ったときに続けよう、続けたいと思っていたに違いない。それにはどうすればいいのか? その答えがこの日の演奏に表れたんじゃないかと筆者は勝手に想像している。

 鳴りやまない拍手に応え、同期でホーンを鳴らした「For You」から始めたアンコールは、「音楽を通して、出会ったすべての仲間たちに捧げます」(武井)とニュー・ウェーブなター・ロック・ナンバー「Melody」に繋げ、演奏の熱をぐっと高めると、最後はライブをやるたび必ずと言っていいほど観客と歌ってきた「ダイナソー」で締めくくった。

 「みんな、心で一緒に歌ってください!」(武井)

 メンバー全員がシンガロングの声を重ねると、眩い照明が客席を照らす中、観客全員が全身を使って表現したのは特大の歓喜だった。

【取材・文:山口智男】
【撮影:山川哲矢】

tag一覧 J-POP ライブ Czecho No Republic

リリース情報

BEST ALBUM『Czecho No Republic 2010-2020』

BEST ALBUM『Czecho No Republic 2010-2020』

2020年12月09日

日本コロムビア

[DISC1]
01.好奇心
02.MUSIC
03.Festival
04.No Way
05.Amazing Parade
06.ファインデイ
07.Firework
08.Melody
09.For You
10.ショートバケーション
11.Baby Baby Baby Baby
12.ダイナソー
13.幽霊船
14.ネバーランド
15.レインボー
16.Electric Girl
17.1人のワルツ
18.MIKA
19.Heart Beat
20.Oh Yeah!!!!!!!

[DISC2]
01.Everything
02.Forever Summer
03.Crazy Crazy Love
04.Field Poppy
05.タイムトラベリング
06.テレパシー
07.エンドルフィン
08.愛を
09.LALALA
10.Hi Ho
11.アイボリー
12.Call Her
13.旅に出る準備
14.Sunshine
15.Dream Beach Sunset
16.DANCE
17.Summer Love
18.Hello, My Friend Sophie
19.Beautiful Days

セットリスト

BEST 2010-2020 TOUR
2021.03.16@渋谷TSUTAYA O-EAST

  1. 01.No Way
  2. 02.MUSIC
  3. 03.Festival
  4. 04.レインボー
  5. 05.幽霊船
  6. 06.Call Her
  7. 07.ファインディ
  8. 08.LALALA
  9. 09.Electric Girl
  10. 10.ショートバケーション
  11. 11.エンドルフィン
  12. 12.Everything
  13. 13.DANCE
  14. 14.Field Poppy
  15. 15.Crazy Crazy Love
  16. 16.MIKA
  17. 17.ネバーランド
  18. 18.Amazing Parade
  19. 19.Oh Yeah!!!!!!!
  20. 20.Firework
  21. 21.好奇心
【ENCORE】
  1. EN1.For You
  2. EN2.Melody
  3. EN3.ダイナソー

お知らせ

■ライブ情報

「BEST 2010-2020 TOUR」@渋谷TSUTAYA O-EAST
配信期間:~03/27(土)23:59
詳細→https://eplus.jp/cnr0320st/

《ランドネオンライン2021春》(オンライン配信ライブ)
03/28(日)19:00~
w/ Keishi Tanaka
詳細→https://funq.jp/randonnee/article/676550/

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る