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メジャーデビュー前夜、かけつけた“人生の主人公”を魅了した新世代ポップアイコン・eillのワンマンライブを徹底レポート!

eill | 2021.03.30

 シンガーソングライターのeill(エイル)が、メジャーデビューを間近に控えた3月21日(日)に、ワンマンライブ「eill the show 2021」を渋谷WWW Xにて開催した。eillといえば、ソウルやファンク、ディスコやR&Bなどのブラックミュージックをベースにしたグルーヴィーなサウンドが特徴的であることは間違いないのだが、甘く艶やかで、時に繊細で切ない歌声から放たれる言葉にも強く惹かれるものがある。

 この日のライブは、暗闇の中のアカペラでスタートした。彼女が歌ったのは、TVドラマ『女子グルメバーガー部』の主題歌「踊らせないで」のサビの部分だ。<誰かのステップで/決まったリズムで/踊らせないで>というフレーズ。自分と誰かを比較して悩んだり、周りの意見に惑わされて自分を見失うことなく、本当の自分のままで自由に踊ろう(生きよう)というのは、彼女の音楽の根底に流れている共通のメッセージである。それは、カーディーBやミーガン・ザ・スタリオン、Lizzoやホールジー、ビリー・アイリッシュやMAMAMOOなどの海外アーティストが発信している価値観や生き方とも共通しており、生成りのジャケット&パンツルックというスタイルも意識的なものではないかと思う。

 やがてバンドが加わり、フロアにミラーボールも周ると、eillは笑顔で歌い、踊りながらグルーヴと熱気を上げていき、春の嵐に負けじと集まった満員のオーディエンスは手をあげて応戦した。「今日は楽しんでいきましょう! よろしくね」という挨拶を挟み、1stミニアルバム『MAKUAKE』に収録されていた「FUTURE WAVE」では、観客は立ち位置指定のスペースを守りながらその場でジャンプ。90’S R&Bナンバーの「HUSH」では、会場全体がひとつとなって作り出したクラップによるグルーヴにのせてスイートなラブストーリーを展開し、<Gee Gee 時代のGIRLISM>というK-POPを経由した独特の言語感覚が盛り込まれた「20」では<忘れないで どんな時も/物語の主人公は私自身ってこと>と高らかに歌いあげ、どこまでも飛んでいけそうな明るい開放感も味わわせてくれた。

 「こんな嵐の日に来てくれて本当にありがとうございます。これから先、今日を思い出して元気になるような日になったらいいなと思います。楽しんでいこうね。じゃあ、久々にワガママガールの曲をお届けしようかなと思います」というMCのあとからは、2019年11月にリリースされて大きな話題を集めたインディーズ1stアルバム『SPOTLIGHT』の収録曲を続けた。

 オートチューンをかけたラップからダークなバラッド「Ma boy」、EDMのドロップを挟んで、<卍なher>が登場するセクシーなサマーソング「Succubus」をミックスのように1コーラスで繋ぎ、最新ミニアルバム『LOVE/LIKE/HATE』収録曲で、Kan Sanoプロデュースによるブギーファンク「into your dream」ではソウルフルな歌声を響かせ、バンドによるカオティックなインストの演奏中に舞台袖に消えて早着替え。TVアニメ『東京リベンジャーズ』に登場する“東京卍會”の特攻服を羽織って再登場し、同作のEDテーマで、4月9日にリリースされるメジャー第1弾シングル「ここで息をして」を配信より先にフルサイズで初披露。ジャジーなピアノのループとモータウン調のブラスがフィーチャーされた音源よりもバンドサウンドが際立つアレンジで、“今、ここ”という瞬間をパワフルに表現すると、「忙しい……」と苦笑いしながら、最初の衣装に着替えてカムバック。「FAKE LOVE/」ではオーディエンスと一緒にサイドステップを踏んでフロアを盛り上げ、「1曲前に歌ったのは新曲なんです。4月9日に、私、ポニーキャニオンからメジャーデビューします!」と改めてうれしいニュースを発表。祝福の拍手が沸き起こる中、「これからもeillらしい音楽を届けていきたいな」と自然体で抱負を語っていたのが印象的だった。

 ライブの後半は、椅子に座ってしっとりと歌ったラヴァーズロック「((FULLMOON))」、TVドラマ『あの子が生まれる…』の主題歌に起用されたサスペンスフルなフューチャーディスコ「Night D」、エレキギターの演奏のみで歌い始め、エレクトロR&Bへと展開してピアノで終わる「この夜が明けるまで」と、多彩な音楽性を持つeillと夜のドライブに出かけたような構成。そして、忘れられない君との痛く甘い思い出が描かれたバラード「片っぽ」は、自分自身でキーボードを弾きながら切々と歌い上げると、「もうすぐはじまりの季節ですね。私も春からメジャーデビュー1年生。初めてライブをした日、懐かしいね。あの時は真っ暗で、自分が何になりたいんだろうとか、自分の夢なんか正直なかった。そんな自分が嫌だなって思ってたけど、こうやって前を向いて歩いていくうちにたくさんのことに気づいて」と過去を振り返りながら、彼女を支えるバンドメンバーやスタッフ、目の前で応援してくれているファンの姿を再確認した。
 続いて、「自分の夢とか、やりたいことがなかった私が、今は誰かの心を私の声で照らしたいと本気で思っている。そう思わせてくれたのはここにいるみんなです。ありがとう」と感謝の気持ちを伝え、「頑張れない自分に腹が立った。自分のこと大嫌いになる日もある。今もある! でもね、そんなダメな私でも、あなたも、どうしたってこの人生の主人公なんだ。みんなの人生はあなただけのものってことを忘れないでほしい。明日がある保証はない。明日世界が終わるかも。でもね、また明日ねって会う約束はできる。だから、約束してほしい。これから先、ひとりぼっちだって思った時。誰かに助けてもらいたいって思った時。前を向けなくなった時。自分のことが信じられなくなった時。そんな時はいつでも私に会いに来てほしい。私を呼んでほしい。みんなの日々の中で、私はいつもみんなのそばにいるよ。みんなのことを照らしてるよ。だから、大丈夫。私は大きな世界を変えたいんじゃない。ここにいる、みんなのこと、一人ひとりのことを照らしていきたいの。これから先もずっと照らし続けます」と決意を表明。オーディエンスとの約束を交わした彼女は、眩い光を背に、彼女自身が“本当の私”に出会えた曲である「SPOTLIGHT」へ。一人ひとりに手を差し伸べながら語りかけるかのように歌唱し、今一度、「人生の主人公は私だよ! あなただよ!」というメッセージを真っ直ぐに伝え、メジャーデビュー前、最後のワンマンライブを締めくくった。

 アンコールではファンの要望に応えて、急遽、予定になかった「special girl」をキュートに歌い、「2025」もエレキギターの伴奏のみで1コーラスだけ披露。この声があなたの力になるなら私は歌い続けるという意思と覚悟を込めたバラードを歌った彼女は、「さよならや最後は、何かの始まりという気持ちを込めて」と語り、2018年6月にリリースしたインディーズ1stシングルで、eillのはじまりの曲でもあるブギーファンク「MAKUAKE」を飛び跳ねながら笑顔でパフォーマンス。タイトル通り、自身のメジャーアーティストとしての幕開けを華々しく飾った彼女が、これからどんなメッセージを発信し、どんなショウを見せてくれるのか、もはや期待しかない。

【取材・文:永堀アツオ】
【撮影:吉場正和】

tag一覧 J-POP ライブ 女性ボーカル eill

セットリスト

eill the show 2021
2021.03.21@渋谷WWW X

  1. 01.踊らせないで
  2. 02.FUTURE WAVE
  3. 03.HUSH
  4. 04.20
  5. 05.Ma boy
  6. 06.Fly me 2
  7. 07.Succubus(Remix)
  8. 08.into your dream
  9. 09.ここで息をして
  10. 10.FAKE LOVE/
  11. 11.((FULLMOON))
  12. 12.Night D
  13. 13.この夜が明けるまで
  14. 14.片っぽ
  15. 15.SPOTLIGHT
  16. 【ENCORE】
  17. EN1.special girl〜2025
  18. EN2.MAKUAKE

お知らせ

■ライブ情報

FOREST CAMP KOKURA -グランピング福岡- オープニングパーティー「Hiraodai Townsheep Camp」
05/05(火・祝)福岡 平尾台自然の郷 野外音楽堂
出演:SIRUP / eill
公式ウェブサイト→https://www.forestcamp-kokura.com/

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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