ツユ、ストイックなパフォーマンスで最強の音楽を証明した2ndワンマン
ツユ | 2021.04.02
足りない部分は曲で補完していくというコンポーザー・ぷすの思想は、劣等感を原動力に生まれるツユの作品やメンバーの本領を発揮するライブパフォーマンスに通ずるものだった。2020年8月3日に東京・TSUTAYA O-EAST、8月11日に大阪・梅田 CLUB QUATTROで予定されていた2ndワンマンライブ『それでも雨は降るんだね』は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により延期、2021年3月7日には、一都三県の緊急事態宣言の延長を踏まえて急遽、1日2部構成へと変更の上、約7ヵ月越しに実現。今回は、ツユの作品を形作る上で欠かせない5人のメンバーのうち、ピアノ担当のmiro、イラスト/デザイン担当のおむたつが初めてステージへとあがった2021年3月23日、東京・TSUTAYA O-EASTにておこなわれた1年ぶりのワンマンライブ、2部公演の模様をお届けする。
サポートバンドメンバー・樋口 幸佑/ぐー(Dr)、Kei Nakamura(Ba)の前に、ぷす(Gt)、礼衣(Vo)、miro(Piano)の3人がオンステージすると、ツユのライブがスタート。小雨のような静かな登場から、ツユのデビュー曲「やっぱり雨は降るんだね」。ステージ中央のスクリーンに映るアニメーションMVをバックにダイナミズム全開の演奏を繰り広げていく。礼衣の揺らぐことのない芯の通ったボーカルワーク、バンドサウンドが起こす重厚感に魅せられた1曲目。突然、ぷすが流麗なギターソロを聴かせるターンへと切り込むなど、ギリギリまで生命力に満ちた飽きの来ない演出で、次々とファンの目を動かすツユ。個性が光っているのが一目でわかるステージングだ。インストゥルメント楽曲「夏浅し」を経て、礼衣がステージへ戻ると、ストリングスから始まる優雅な楽曲かと思わせて、実はジェットコースター級の温度感の激しい展開が待っている「風薫る空の下」へ。ここでは、miroの奏でるメロディアスなピアノの音色が響いた。ステージから一旦姿を消したぷすがサビで姿を現し、ギターの色鮮やかな音を残した「梅雨明けの」からは、以前ぷすが、じっぷす名義で作詞作曲を手がけたセンチメンタルなミディアムバラードナンバー「ナツノカゼ御来光」、「アサガオの散る頃に」を。ツユのオリジナル楽曲を越えて、ぷすのボカロ曲を礼衣が改めて歌唱するところから窺えるのは、ユニットとしての自由度の高さ。バンドサウンドにピアノが彩りを添える一方でスクラッチも入り込む「雨を浴びる」まで思い思いに飛ばしたところで、やっとMCを挟む流れになると思いきや、miroの加入が発表された2020年2月28日にMVが公開された「太陽になれるかな」へ突入。ツユは、ないものに時間をかけるのではなく、もともと持っている自分たちの能力を伸ばそうとストイック。だからこそ、伝えたい音楽性も一貫している。
「どうもツユです! コロナだからあんまり声出しちゃダメなんだけど、結構ハードな曲が多いから拍手してもらえたほうがこっちもテンションが上がる。いける? きっとそっちのほうが楽しいと思う。ここからは、ツユの真骨頂って言える曲の連続なので、マジでノッてください! 本気出します!」そんなふうにぷすが声を投げた後には、歓声はもちろん、動きがやや控え目だったファンに、右肩上がりの自然な熱が生まれた。疾走感あるドラムのキックが空間を揺らした「ルーザーガール」、miroによるジャジーなピアノソロのインストゥルメント楽曲に続いた「あの世行きのバスに乗ってさらば。」、リズミカルなギターロックに心が弾んだ「ロックな君とはお別れだ」、映像制作チーム・Hurray!がMVを制作したことで話題となった「過去に囚われている」――。歌を盛り上げるひとつの楽器ともなる満場の拍手に包まれた楽曲は、より深みを増していく。
<お先真っ暗な人生 最早、どうでもいいや>と、ふとした瞬間、思わず呟きたくなるような言葉が冒頭に置かれている「ナミカレ」、ぷすによる闊達なギター音が中心の「善望」からシームレスにつながった「くらべられっ子」を難なく歌い上げる礼衣。MVの主人公の声を再現したかのようなその歌声には、まるで誰もがその楽曲の主人公に自分を重ねやすくなる魔法がかかっているよう。
ぷすが「楽しい! めっちゃ盛り上げてくれてみんなありがとう!」と感謝の気持ちを投げかけると、2020年3月1日の1stワンマンライブ『やっぱり雨は降るんだね』では先に録画されていた動画を流す形での登場となったおむたつが、ステージへあがり、ライブを観ての感想を述べた。「MCはうちらの課題なんですよ」という礼衣の言葉に応えるようにして、「そうなんですよ。全然喋れないんですよ(笑)。でもその分音楽で返す自信はある。曲でカバーします!!」と力強く返したぷす。劣等感を原動力に奮闘し続け、ほかには真似できない色を奏でるツユらしい言葉だ。「最後の曲、頑張って歌います。聴いてください!(礼衣)」本編のラストは、ライバルに対する嫉妬心が爆発する「泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて」だった。
急ぎ足で駆け抜けた本編と対称的にアコースティック編成でゆったりと聴かせたアンコール。礼衣とぷすが横並びになり椅子に腰を下ろしながら演奏した「ひとりぼっちと未来」では、礼衣による感情のこもった微妙な声色の変化に、ぷすによるアコースティックギターから零れるフィンガーノイズが儚げに重なる。次にmiroを呼び込むと、3人で「あの世行きのバスに乗ってさらば。」を披露。終演後には、今後近々発表されるだろうトリッキーな世界観の未発表曲が流れた。1stワンマンに比べて増えたセトリ数に加え、ソロを交えたオープンな演奏、常に限界を突破していく礼衣の歌声。メンバーがそれぞれに底力を発揮し、足りない部分を補い合う最強な音楽が、ここには存在するのだと証明された一夜だった。この先もジャンルを横断しながら、ツユは革新的なサウンドを鳴らしていくことだろう。
【取材・文:小町碧音】
【Photo by 森好弘】
リリース情報
かくれんぼっち
2021年02月01日
TUYU Records
セットリスト
2ndワンマンLIVE
『それでも雨は降るんだね』
2021.03.23@O-EAST
- 01.やっぱり雨は降るんだね
- 02.夏浅し(inst)
- 03.風薫る空の下
- 雨SE
- 04.梅雨明けの
- 05.ナツノカゼ御来光
- 06.アサガオの散る頃に
- 07.雨を浴びる
- 08.太陽になれるかな
- 09.ルーザーガール
- 10.inst
- 11.あの世行きのバスに乗ってさらば。
- 12.inst
- 13.ロックな君とはお別れだ
- 14.inst
- 15.過去に囚われている
- 16.ナミカレ
- 17.かくれんぼっち
- 18.善望(inst)
- 19.くらべられっ子
- 20.泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて
- EN1.ひとりぼっちと未来
- EN2.あの世行きのバスに乗ってさらば。