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KroiをKroiたらしめる濃密な空間。ツアー“DUEL”、TURN END!

Kroi | 2021.04.06

 知れば知るほど、もっと知りたくなる――それはもうWWW Xのエントランスにたどり着いた段階で始まっていた。額装されたバンドの写真、物販コーナーの歯のようなオブジェ。そしてフロアに入ると目に飛び込んでくるのはボアを敷き詰めたステージや光り物の飾り付け。開演前には分からなかったが、電飾に囲まれたフレームの中央はバンドメンバー、左はオムレツ、右はカラフルなタピオカドリンク。ステージ上には巨大な観葉植物とお尻のオブジェ、壁には「Page」という楽曲のMVで使用されたパフジャケットとトラックパンツ(ご丁寧にKroiのロゴ入り)が飾られている。サービス精神を感じる以前に可笑しさでニヤニヤしてしまう。ライブ半ばの内田怜央(Vo)のMCで、最近のMVを手掛けているTakuto Shimpoが“ギャルのおなら”というテーマで作り上げたモノだと紹介していたが、デザインのユニークさだけでなく、例えば「risk」のMVでのちょっと時代がかったサイコサスペンス風のシュールさに通底するセンスを感じた。

 会場演出だけですでに脳の領域がかなりパツパツだが、この演出に負けない全員主役級のメンバーであることが、登場と演奏で明らかになってくる。あまりメンバーが動き回らない理由が本当にボアの毛が舞い上がるからなのかどうかは置いておいて、主にアクションするのは内田、他のメンバーは往年のソウルバンドよろしく定位置で演奏に集中。それでも5人5様すぎるキャラが濃い。ギターの長谷部悠生なんて、ポニーテールが似合いすぎていて存在しているだけでお得感満載。背中に龍でも背負っていそうな関将典(Ba)、お団子ヘアの益田英知(Dr)、シルバーヘアがクラシック作曲家のような千葉大樹(Key)、内田に至ってはトレードマークのマレットヘアのネオングリーンとレッドが眩しい。

 ここまで音楽のことに触れずに紙幅を費やしてしまったが、KroiをKroiたらしめているのは音楽だけじゃないと思うからだ。こんなビザールな空間と人間、日常でそうそう遭遇できない。ローリン・ヒルなどネオソウルやフューチャー・ファンクが会場BGMで流れ、心地よくも期待でざわつくフロア。若者を中心に存外、広い年齢層のファンが集まった。この日は3rd EP「STRUCTURE DECK」リリースツアー“DUEL”の追加公演で「TURN END」と題された実質ファイナル。早い段階でSoldoutし爆速で注目度が上昇していることが理解できる。

 のだが、暗転と同時に登場した5人は無言で割とヌルッとセッション的に「Noob」からスタート。熱い挨拶はない。1曲終えて、彼らのレパートリーの中でも最もナイトメアチックでトリッキーな「Finch」へ。生演奏でも“AOR版ディズニー”のようなあり得ない混交にじわじわ侵食される。というか、可笑しみが溢れる。「改めましてKroiちゃんです!」と曲中に内田が挨拶して、アウトロへ。曲中に喋るというパターンは何度かあったのだが、そこに長尺のP-FUNKのテイストと、それとはまた別の笑いのエンタテインメント性を同時に感じた。曲説明のためのMC、エモさを演出するMCは全くない。長谷部のループするコードカッティングから始まるワンコード調でじわじわ攻める「Monster Play」でも、曲中に「ほんとは“モーンスター・プレイ!”って(一緒に)やりたいんですけど、このご時世なんで、もうフックでもどこででも好きなように楽しんでください」と、促す内田。アウトロにワイルド・チェリーの「Play That Funky Music」を接続してエンディング。

 さらに千葉のクラビがスティーヴィー・ワンダーっぽいと思ったら、まさにスティーヴィーの「スーパースティション」のフレーズを弾くという荒技からスタートした「Suck a Lemmon」。それまでギター&ボーカルだった内田はハンドマイクで、比較的オーセンティックなラップとキャッチーなサビを歌う。基本、隙間の多いアンサンブルに差し込むように長谷部がブルージーな泣きのソロをぶっ込んでくるのも今、むしろ新鮮だ。いわゆる「顔で弾く」ソロが自己陶酔じゃなくキャッチーに映るのは一重に彼のキャラのせいだ。内田が「Kroiのライブ初めてって人?」と質問するとかなりの手が挙がり、いわゆる感動させるようなエモいライブじゃないので各々好きなように楽しむように、とさらっと意思表明。

 3rd EPの中でもロックもファンクもごった煮な「dart」では内田が歌いながらボンゴを叩くことでグルーヴにプリミティヴなニュアンスが追加。千葉のダサさ紙一重なフュージョンライクなソロ、長谷部もソロを突っ込み熱を増していく。続く「Mr.Foundation」はテンポを落としたファンク。音の隙間が多い演奏でより際立つのが益田の無駄のないドラミング。この人のビートの取捨選択はバンドのキモだと確信した。「flight」で、内田はボンゴに加えティンバレスも叩き、ラテン味を付けていくのだが、そこで偽物か本物かというベクトルじゃなく、より楽しい方向にステージが転がっていくのがKroiらしさだ。

 熱を帯びた演奏から白日夢的な「侵攻」へ。益田の抜群のハイハットワークだけで白米お代わり行けます!的なおいしさと言えば、グルーヴミュージック好きには伝わるだろうか。好きなものを自分たちのフィルターを通して表現するKroiだが、ライブだとジャンルを飛び越えていく破壊力が一段と増す。

 音数を絞り込んでタメを効かせることで滲み出るセクシーさが印象的な「Never Ending Story」はソウルの定石でありつつ、途中でリズムチェンジも。「MAMA」「Polyester」も異なるスローのアレンジで、特にセルフボーストが切ない「Polyester」での内田のラップがしっかり届くことで、面白がるだけじゃない彼の内面的なフィロソフィが共有されていく。

 クラップを要求しつつ、どうしても早くなってしまうことに益田が苦言を呈しつつ、自身のテンポで整えていく「risk」。内田のファルセットで聴かせるメロウなこの曲、シリアスに展開するのかと思いきや、<湯気立つ網膜だけに 君を>に続く<押し込めて~>を長谷部が唱歌のごとき真っ直ぐなロングトーンで熱唱。良い曲が一瞬にして脱臼する感じはこのバンドの照れなのだろうか。カッコいいと思えばハズされ、笑った後には熱い演奏に巻き込まれる、その繰り返しだ。

 ラップからソウルフルな濃い歌唱まで飛躍する「Custard」の後半は関と益田のソロ回しを盛り込みつつ、懐かしさを感じるシンセリフからKroi流のディスコサウンドでフロアをぶち上げる「Page」へ。曲間にEW&Fの「Let’s Groove」をブチ込み、ラストは内田のボコーダーボイスに繋げるのもやることが細かい。さらに8ビートの感覚にも似た“走る”リズムの「HORN」が文字通りライブを疾走させ、決められたスペースの中でも好きなように体を動かすオーディエンスとどんどんバイブスがシンクロしていく。続く「Network」も滑るようなウワモノのせいで「HORN」と地続きのグルーヴが連なった印象だ。

 プレイ中のブレイクと展開の読めなさに引き込まれる「Fire Brain」で濃厚なファンクネスと抜けの良さを併走させ、熱量MAXなところで「どうでした? このタラタラしたしたライブ」と言ってしまう内田のセンス。いや、演奏は全くタラタラしていないのだが、きっと彼は台本があるような、オーディエンスを泣かせにいくようなライブが徹底して嫌いなのだろう。ライブ中盤で「コロナで気づいたのは、お客さんあっての俺たち」に続いて、「でもお客さんも俺らあってじゃない?」と笑いながら真実をさらっと述べた。これがKroiのスタンスだ。本編ラストはチルアウトのために用意したような「Shincha」で締めたのも、盛り上げきって終わる定石にとらわれない彼ららしさなのだろう。

 アンコールでは6月にメジャー1stアルバムとなる『LENS』のリリースとそのツアー、そして4月30日にデジタルシングル「shift command」をリリースすることをアナウンスし、同曲を早速披露してくれた。ドライブ感に加えてドリーミーなニュアンスがこれまでの濃いミクスチャーとも、間の多いソウルとも異なる印象で、早く歌詞も含めた全貌を音源で確認したくなった。それにしても高度にハイブリッドしたアレンジや構成を一切、難しい顔で表現しないKroiのアウトプットのキャッチーさはなんて潔いのだろう。時代もジャンルも違うが、往年のユニコーンの“井戸の深さ”を思い出したりもした(ビジュアルでふざけるところも)。今後もっと、しれっと革新的なアプローチを見せてくれるのではないだろうか。

【取材・文:石角友香】
【撮影:Momo Angela】

tag一覧 J-POP ライブ 男性ボーカル Kroi

リリース情報

STRUCTURE DECK

STRUCTURE DECK

2021年01月27日

Kroi

01.Page
02.dart
03.Finch
04.risk
05.marmalade
06.HORN

セットリスト

3rd EP STRUCTURE DECK Release Tour “DUEL”-TURN END-
2021.03.27@Shibuya WWW X

  1. 01.Noob
  2. 02.Finch
  3. 03.Monster Play
  4. 04.Suck a Lemmon
  5. 05.dart
  6. 06.Mr.Foundation
  7. 07.fligh
  8. 08.侵攻
  9. 09.Never Ending Story
  10. 10.MAMA
  11. 11.Polyester
  12. 12.risk
  13. 13.Custard
  14. 14.Page
  15. 15.HORN
  16. 16.Network
  17. 17.Fire Brain
  18. 18.Shincha
  19. 【ENCORE】
  20. EN1.shift command

お知らせ

■リリース情報

4月30日(金) New Digital Single「shift command」配信
6月 Major 1st Album「LENS」



■ライブ情報

3rd EP 『STRUCTURE DECK』Release Tour
"DUEL”LIVEWIRE

04/10(土)OPEN 19:30 / START 20:00


Major 1st Album『LENS』リリース記念全国ツアー『凹凸(オウトツ)』
07/04(日)北海道 PLANT
07/10(土)神奈川 横浜FAD
07/11(日)千葉 LOOK
07/16(金)大阪 バナナホール
07/18(日)愛知 名古屋SPADEBOX
07/30(金)福岡 DRUM Be-1
08/01(日)京都 KYOTO MUSE
08/06(金)東京 CLUB QUATTRO

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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