THE PINBALLSが逆境を打ち破り、主戦場としてきたライブハウスで新旧キラーチューンが炸裂! バンドの充実ぶりをいかんなく見せつけた歓喜の「millions of memories」ツアーファイナルを徹底レポート!
THE PINBALLS | 2021.04.15
会心のメジャー2ndフルアルバム『millions of oblivion』を引っさげて2月から始まった全国11ヵ所を回るツアーもいよいよファイナル。定刻になると、The Sonicsの「Have Love, Will Travel」をSEにメンバーが登場し、石原天(Dr)の合図で全員がジャーンと音を出す。そして、ヘビーなリズムと荒々しいテンションでぶちかます「ニードルノット」で豪快にショウがスタート。森下拓貴(Ba)が早くもフロアに手拍子を煽り、古川貴之(Vo/Gt)の歌はグングン熱を帯び、中屋智裕(Gt)も火を吹くようなギターソロを放って、あっという間に会場の空気を自分たちのモノにする。これだよ、これ。やっぱり、この4人はライブハウスでロックンロールを泥臭く掻き鳴らす姿が似合う。
そう、昨年秋のアコースティックセルフカバーアルバム『Dress up』のレコ発で見せたラグジュアリーな雰囲気とは打って変わって、今回のツアーはTHE PINBALLSが主戦場としてきたライブハウスでの開催。久々に慣れ親しんだ場所へ帰ってこられた喜びが音からビシビシ伝わってきて、観ているこちらも非常に感慨深い。また、イントロのドラムの連打に合わせて青のフラッシュが投下された「神々の豚」、次はステージが赤い照明に染められた「アダムの肋骨」と、古川のハスキーなボーカルとキャッチーで勢いのあるメロディを活かした曲が続く中、バンドの驚くべき変貌ぶりも露わになっていく。
すなわち、もともとTHE PINBALLSが持ち合わせているパワフルなノリは健在のまま、演奏に凛としたしなやかさがプラスされた。それによって、バンドのアンサンブルがまさに“強靭”という言葉がふさわしいものへと進化を遂げていたのである。『Dress up』『millions of oblivion』の制作を通して得たそんなキレッキレのパフォーマンスに加え、「Lightning strikes」まではノンストップで繋ぐ、瞬きする間がもったいないと思うほどのアッパーチューン揃いだったため、序盤にしてもう圧倒されまくり。至極シンプルなセット(バックドロップには“THE PINBALLS millions of memories”の文字とおぼろげな少女の姿を映した鏡)で見せるステージも潔く、オーディエンスは身体を揺らしたり拳を突き上げたりと、今できる最大のリアクションで応えていた。
怒涛の15分が過ぎ、場内がひときわ温かい光でやさしく照らされた「放浪のマチルダ」でようやく少しホッとできた気がする。ゆるやかな曲調と心地よい旅の歌に酔いしれるうち、アルバムリリース時のインタビューで語ってくれた古川の「この3人が一緒に居てくれて、俺が最高だったらもう大丈夫」、中屋の「4人で音を合わせたときは間違いなくかっこいい自信がある」という言葉が頭にふと浮かんだ(参照記事:セルフカバーを経て結実した最高傑作、圧倒的な音像とメッセージの背景に迫る。 https://music.fanplus.co.jp/special/20201216414e6c46d)。激しい曲とはまた異なるグルーヴにワクワクしたこと、そしてこの曲の持つ包容力がメンバー同士の信頼感を連想させたのかもしれない。
最初のMCでは、さまざまな制約があって大変だったツアーを振り返りながら「そもそも声を出してほしくて、僕らはライブをやってたわけじゃないですか」と胸の内を明かし、これまで観に行った中でいちばん感動したライブ(お客さんがほとんどいないにもかかわらず、パンツ一丁でシャウトしていたボーカルをすごくかっこいいと思った)について懐かしそうに話した古川。この状況において、おそらく自分の原点を再確認することが多かったのだろう。素直な言葉とともに、バンドが強くなったという自信も覗かせていた。
辺りにスモークが立ち込め、コロナ禍の苦しみを癒すように届けた「ストレリチアと僕の家」からのブロックは、ミドルテンポのナンバーでじっくりと聴かせ、インディーズ時代の「(baby I’m sorry)what you want」など、なかなか披露する機会のないレアな楽曲も堂々と鳴らされた。こういうディープな流れでこそ、飛躍を遂げたアンサンブルの真価が際立つし、THE PINBALLSならではの物語性の強い詞世界が沁みるというもの。モータウンビートが映える「SLOW TRAIN」のプレイ前には、「またゼロになった気持ちで、昔大好きだった歌を愛してます!」という古川の晴れやかな意思表示も。結成15周年の今、バンドが大きい変革期を迎えているのは間違いなさそうだ。
「コロナの状況になって、1人で音楽をやる時間が増えまして。それも楽しいなって思ったんだけど、やっぱりツアーを回ることのうれしさをもう一度感じました。石ちゃん、モリ、中屋がいてくれて、みんなが来てくれて、この会場を作ってくれてる。ここにある時間と場所がすごくありがたいですね。だから、ハッピーな歌を一緒に歌いたいです」。
古川のそんな前置きがあっての「惑星の子供たち」では、前半のブルースハープを石原が吹き、フォーキーなサウンドの中、<君がのばした 燃えるような 真っ赤な手に/柔らかい空気があたりますように>というやさしい歌が颯爽と響きわたる。「本気で楽しみたいから、みんな一緒にジャンプしようぜ!」とアウトロで誘う古川。O-EASTが振動でハッピーに揺れたとき、なんだかすごく生きている感じがした。同じようなことを思ったオーディエンスもきっと多かったのではないだろうか。
その後は「赤い羊よ眠れ」「マーダーピールズ」など、再び激しくタフな曲で畳みかける展開へ。「あったまってきたぜ! 今日はここが世界の中心だ!!」と古川が叫んで始まった「ブロードウェイ」は、疾風の如く2分弱でソリッドに駆け抜けながらも、ブレイクのタイミングを含め、4人の息がぴったりで素晴らしい。さらに、間髪入れず「蝙蝠と聖レオンハルト」と続け、血湧き肉躍るキラーチューンを連発。超ラウドな演奏なのにずっと聴いていたい感じがするのは、やっぱりバンドの調子が、音のバランスがすこぶるいいからなのだと思う。
「本当のことを言うと、いいステージがやれるかどうかちょっと怖かった。だけど、みんなのおかげでまたひとつ先が見えて、限界を超えられた気がするんだよね。1人じゃできなかったと思います」と語る古川。感謝の想いをそのまま乗せたような「ひとりぼっちのジョージ」、爽やかなメロディと切ない郷愁にグッとくる壮大なナンバー「銀河の風」で、場内のムードはドラマティックに高まっていった。
「すげえ最高でした、ありがとう。だけど、今もう1回ここに誰もいない気持ちで、もう1回お前らを振り向かせたい気持ちで歌いたいんですよね。またゼロになって。よろしくお願いします!」――古川がそう勇ましく告げてガツンと放たれた本編ラストの「ミリオンダラーベイビー」は、バンドを始めたばかりのような清々しさと興奮に満ちあふれたパフォーマンスが眩しすぎて、全身に鳥肌が立つくらいの衝撃を覚えた。メンバーの楽しそうな充実した表情も忘れられない。アンコール1曲目「オブリビオン」のテーマが“記憶の忘却”であろうと、この日の感動はしっかりと刻まれたはずだ。困難な状況であってもライブハウスへと足を運んだ観客たちの胸に。
アンコールでも「またゼロからやっていきたい」とファンに決意を繰り返し伝えていた古川。そして「もう一度、今ライブが始まった気持ちで」と、「毒蛇のロックンロール」を凄まじい熱量と獰猛性をもって聴かせる。歓喜の渦に包まれた「片目のウィリー」では、「笑って帰ろうぜ!」とフロアに呼びかけたり、もっと笑顔を引き出そうとメンバーに歩み寄って顔を突き合わせたりする森下の姿が印象的だった。
ライブは予定外のダブルアンコールにまで突入。そこでポロッと出た石原の「本当に生きててよかったなって思います」、古川の「こんなに幸せにライブができるなんて、昔は考えられなかったからね」という言葉に、バンドの現状すべてが集約されていた気がする。ラストはこの流れにドンピシャな彼らのデビュー曲「アンテナ」で、意義深いツアーを締めくくった。ピークを迎えているTHE PINBALLS。最高の更新はまだまだ止まらない。
【取材・文:田山雄士】
【撮影:白石達也】
リリース情報
millions of oblivion
2020年12月16日
日本コロムビア
02.ニードルノット
03.神々の豚
04.放浪のマチルダ
05.赤い羊よ眠れ
06.マーダーピールズ
07.ストレリチアと僕の家
08.惑星の子供たち
09.ブロードウェイ
10.オブリビオン
<初回限定盤スペシャルパッケージ付属ポエトリーブック>
古川貴之・作『前世の記憶の少女』64P
<初回限定盤Blu-ray収録内容>
2020.10.3 Acoustic session Live “Dress up 2 You” @Motion Blue YOKOHAMA ライブ映像
セットリスト
THE PINBALLS Live Tour 2021
“millions of memories”
2021.04.08@渋谷TSUTAYA O-EAST
- 01.ニードルノット
- 02.神々の豚
- 03.アダムの肋骨
- 04.Lightning strikes
- 05.放浪のマチルダ
- 06.ストレリチアと僕の家
- 07.花いづる森
- 08.(baby I’m sorry)what you want
- 09.SLOW TRAIN
- 10.欠ける月ワンダーランド
- 11.惑星の子供たち
- 12.統治せよ支配せよ
- 13.赤い羊よ眠れ
- 14.マーダーピールズ
- 15.ブロードウェイ
- 16.蝙蝠と聖レオンハルト
- 17.ひとりぼっちのジョージ
- 18.銀河の風
- 19.ミリオンダラーベイビー 【ENCORE】
- EN1.オブリビオン
- EN2.毒蛇のロックンロール
- EN3.片目のウィリー 【W.ENCORE】
- WEN1.アンテナ