セルフカバーを経て結実した最高傑作、圧倒的な音像とメッセージの背景に迫る。

THE PINBALLS | 2020.12.18

 THE PINBALLSがメジャー2ndフルアルバム『millions of oblivion』を完成させた。本作には、TVドラマ『闇芝居(生)』オープニングテーマの「ブロードウェイ」、TVアニメ『池袋ウエストゲートパーク』オープニング主題歌の「ニードルノット」を含め、轟く爆音がまぶしい「ミリオンダラーベイビー」から、奥行きのある美しいロッカバラード「オブリビオン」まで、聴きごたえ十分の全10曲を収録。3形態でのリリースとなっていて、初回限定盤のBlu-rayでは10月3日に神奈川・Motion Blue YOKOHAMAで行ったワンマンライブ「Dress up 2 You」の模様が楽しめる。また、初の試みとして古川貴之(Vo/Gt)が執筆を手がけた64Pにわたるポエトリーブック『前世の記憶の少女』が初回限定盤スペシャルパッケージに付く。

 収録曲に耳を傾けてみると、ささくれ立った調子で<yeah>と叫ぶ「ニードルノット」「神々の豚」にしても、<もう それ以外は くだらねえよ 意味がねえよ>と歌う「マーダーピールズ」にしても、余計なものを削ぎ落としたような至極シンプルで鋭いワードが際立っていたり、<星空にも 月にも 見放されたけれど/良かったよ 大事なものが 輝いてみえる>という「放浪のマチルダ」の一節が以前とは違う次の境地に至ったことを感じさせたりと、どの楽曲にもどこか吹っ切れたムードが漂っている。はたして、その背景には何があったのか? メンバー全員に話を訊いた。

――10月にMotion Blue YOKOHAMAで行われた『Dress up』のレコ発が本当にいいライブだったんですけど、ニューアルバム『millions of oblivion』はさらに素晴らしい仕上がりで驚きました。
古川貴之(Vo/Gt):おー、よかったあ! うれしいです。
――初回限定盤に付属のBlu-rayにそのライブ映像が収録されるので、まずは9月と10月に開催した神戸と横浜の公演を振り返っていただけますか?
石原天(Dr):楽しかったですねえ。ライブ自体ができたのも7ヵ月ぶりとかだったので、無事にやれたことが何よりでしたし。普段とは違うラグジュアリーな会場、初めてゲストミュージシャンを迎えた大所帯編成で、とてもいい経験になりました。ああいう試みはまたやれたらなって。
古川:ね。アコースティックで見せるのも楽しかったし、またぜひやりたいです。
石原:久々のライブすぎて、緊張がハンパなかったけどね(笑)。神戸でやった最初の公演は硬かったな、我ながら。
森下拓貴(Ba):うん。神戸の昼公演は異様に緊張した(笑)。本番を迎えるまではそうでもなかったんですけど、いざステージに上がって楽器を構えたら「うおっ!」と張り詰める空気があって。やってるうちに感覚がだんだんと蘇ってくるみたいな経験でしたね。またいつできるかもわからない編成と、またいつできるかもわからないライブを噛み締めながら演奏する、すごく大切な時間というか。楽しさを取りこぼしたくない想いも強かったです。
中屋智裕(Gt):ゲネプロで自分の周りを要塞的にするのが好きなんですよ、僕。椅子に座って手の届く範囲に、飲み物も含めて全部が揃ってるのが。今回は座りスタイルだったので、本番のステージでもそのモードでやれて新鮮でしたね。あとは、すごく久しぶりにライブができて、お客さんやスタッフも久しぶりにライブを観る人がほとんどで、そんな中で「やっぱり音を出すのっていいよね」と改めて思いました。ゲスト参加してくれたミュージシャンも、普段ならいろんな現場で毎日のように活動してるはずなのが、「コロナの影響で飛んじゃったよ」という方が多くて。だから、ああやってみんなで演奏できたのがまず純粋にうれしかったです。「楽しい」よりも「うれしい」と言ったほうがしっくりくる公演だったかな。
古川:そうだね。ゲストの方たちとライブができたのは大きな経験でした。ピアノ、バイオリン、サックス、パーカッションと生で共演するのって普段なかなかないので、すごく気持ち良かったです。
――ライブレポートで書いたんですけど、アルバムやライブに「Dress up」=「着飾る」というタイトルを冠していたじゃないですか。でも、あの公演ではむしろ、逆にバンドの素の部分、結束力の強さみたいなものがすごく見えた気がするんですよ。(参照記事:特別な非日常空間で贈られたラグジュアリーショウ“Dress up 2 You”徹底レポート! https://music.fanplus.co.jp/liveReport/202011162269c773f
古川:まさに、おっしゃるとおりで。この4人でかれこれ15年くらい一緒にいるから、そんだけ時間を共にしてればムカついたりすることだってあるんですよ(笑)。だけど、なんだろうな……もう、そういう好き嫌いを超越して「こいつら、頑張ってきたよな」みたいな感情になってきたんです。
森下:たしかに、その感じは出てきたね。
古川:この前のライブでもゲストミュージシャンにサポートしてもらいつつ、必死に演奏に取り組んでるメンバーを見てたら、改めて感謝の気持ちが湧いてきたり。しかも「みんな最初から同じやつじゃん!」という事実にもハッとして。
――メンバーチェンジをせずにここまでやってきましたもんね。
古川:例えば、デッド・ケネディーズはメンバー間で対立があって裁判になっちゃったりしましたし、バンドによっては「何代目のボーカル」みたいなケースも珍しくないじゃないですか。だけど、僕らは15年前と同じ人間にそう思えてる。これって、結構すごいことだなと。やっぱり、セルフカバーアルバム『Dress up』の制作が大きかったですよね。昔の楽曲をリアレンジするにあたって、今までにないくらい意見を戦わせましたから。作品を良くしたいがために本気でぶつかれるのは、よくよく考えたらとてもいい話し合いで。結果として最高のテンションが生まれて、『millions of oblivion』に繋がったんじゃないかな。
――では、新作の話に入りましょう。自分が聴かせてもらった印象としては、1曲目の「ミリオンダラーベイビー」からめちゃくちゃエネルギッシュな音像がグオッと迫ってくる感じで痛快でした。アルバム全体を通して、演奏も一段とグルーヴィになっていて、荒々しさもかっこよく際立っているんですが、特に思ったのはどの曲もそこはかとなく清々しいというか。ものすごく吹っ切れたようなムードがあることなんです。

古川:吹っ切れたと思いますね。『Dress up』の前後で過去を振り返ったりした中で、ひとつ成長できた気がするんです。これまでは僕が曲の原型を作ってるので、どうしても自分の脳内にしかない理想のものを作ろうとしがちで。音楽は明快な正解なんてないものなのに、メンバーに求めるものも大きかった。でも、なんかそういうのが独りよがりだったんじゃないかって。要するに、ボーカリストとしての覚悟が足りてなかったんですよ。
――覚悟?
古川:ぶっちゃけて言ってしまうと、「ボーカルのために後ろの3人はいい音楽を鳴らしてほしい」みたいな考え方だったんですよ。そうやって正解を求めがちだったんですけど、『Dress up』でTHE PINBALLSの楽曲を振り返ったとき、こいつらとジャキンと音を出してることがもう正解なんだなと思って。今さらながら、中屋とモリ(森下)と石原は自分のオケを作ってくれる人たちじゃなくて、いっしょに感動したい同志なんだっていうのもわかったんです。だったら、俺はこの3人を感動させられるボーカリストにならないとなって。
――なるほど。
古川:俺が最高のロックンローラーになって、背中でドンと見せれば、こと細かに理想を求める必要もなく、音は自然と出来る。そんな手ごたえを掴みかけてるんでしょうね。言い換えれば、メンバーを感動させる自信がここに来て生まれてる。それがアルバムに流れてる清々しさなんだと思います。この3人が一緒に居てくれて、俺が最高だったらもう大丈夫だなっていう。
森下:フル(古川)に限らず、全員がそうなってきたと思いますね。より尊敬というか、認め合うような関係性に。今まではたぶんどこかしら意固地な部分が4人ともあった気がします。演奏する人間として熱意を持つことはもちろん大切なんですけど、エゴになってしまうのは違うじゃないですか。
古川:そうそう。そうなんだよ!
森下:メンバーに対して憧れられるようになった感じ。それは『Dress up』という作品のおかげかもしれないです。
古川:とはいえ、今作の「ニードルノット」でもモリと意見を戦わせたりしましたけどね。僕はユニゾンやルートを弾くアプローチが結構好きで。「ベースのイントロのフレーズは変化をつけないでくれ」って話をしたのがあったじゃん?
森下:あったね。

古川:「このダダダダッ、ウッウ~ン♪が肝なんだからやってくれよ」みたいなさ。モリが考えてきた別のフレーズも良かったんで、かなり話し合いましたね。さっきも言ったとおり、新しいものを作ってるのでどっちも正解じゃないですか。でも『Dress up』でうまくいった経験があったからこそ、俺も「頼むよ!」って強く出ちゃったのかな。で、モリも「わかった」と折れてくれて。
――ダークなリフを2つ組み合わせたような感じも含めて、印象的なイントロになりましたよね。
古川:どっちのギターもメインってくらい、バッキングもリフっぽいのがいいなと思ってます。シンプルなフレーズなんだけど、どっしりした音になってますし。あの「ダダダダッ」に俺らの強みが出てる気がして、あそこにはすごくプライドがあるんです。それは曲作りのときに力説したよね?
森下:うん。イントロの部分については、折れたというよりかは……それこそ、やっぱり正解なんてないってことなんですよ。アレンジを詰めるときには自分のほかにボーカル、ギター、ドラムがいるわけで。「ニードルノット」の場合、曲の完成図がまだ見えてない段階で僕がひとりで作ったものだったし、ただ単純に弾きたいフレーズを持ってきただけだから。ま、以前なら「ふざけんな!」「俺はこう弾きたいんだ」と押し通したかもしれないけど(笑)。そのへんの考え方は変わりましたね。
――エゴに縛られてない感じで。
古川:「折れさせた」って言い方は違うか。むしろ、何かひとつ認めてくれた感じが残るやりとりでしたね。
中屋:メンバーが「人間的にどうだ」とか「許せねえ」とか、そんなエゴは正直どうでもよくなってきましたね。「嫌い」という感情がもうないんです。20代の頃はあったかもしれないけど、最近は「わざわざ怒るほどのことなんてある?」みたいな(笑)。
古川&森下&石原:あはははは(笑)。
中屋:だって、この3人は俺にできないことができるんですよ。前からずっとそう感じてて、そのリスペクトが、THE PINBALLSが今も続いてる理由なんだと思います。例えば、石原のドラムのみをピックアップしたとして、それがかっこいいかどうかは知らないけど、4人で音を合わせたときは間違いなくかっこいい。そこに絶対の自信があるだけなんです。
石原:レコーディングのとき、ベーシックは全員で録ったんですけど、「あっ、今までと全然違う!」と思うくらいすっごく気持ち良かったんですよね。あとから聴き返しても唸ってしまうような感動の大きいアルバムですね、『millions of oblivion』は。めちゃくちゃ自信作です。
――「ミリオンダラーベイビー」のギターが超デカく聞こえるミックスとか、ワイルドで衝動的ですごくいいなと思いました。
古川:「WIZARD」や『Dress up』も担当していただいたエンジニアの畠山耕平さんに混ぜてもらったんですけど、この人のミックスのアイデアが俺はたぶん好きなんですよね。音の配置はあまり興味があるほうじゃなかったんですが、今作のミックスを通して自分のツボが感覚的にわかってきたような気もしてて。
――そのあたりも変化が。
古川:はい。あと、畠山さんのミックスが素晴らしいのも、僕らが畠山さんに自ずと伝えられてるメッセージがいいものだからなんだろうなと思いました。特に「パンクっぽくしてください」とか言葉でリクエストしたわけじゃないですけど、姿勢やマインドの部分がしっかり作用し合ったというか。いいボールを投げると、いいボールが返ってくるみたいな。そんな感覚が今回はありましたね。このダイナミックな音、すごく気に入ってます。
――ギターソロなし、2分弱で聴かせる「ブロードウェイ」の削ぎ落としっぷりも潔かったです。

古川:イメージとして、ちょっとだけパティ・スミスが頭にあったんですよ。朗読するうちにどんどん熱く高ぶって、詩が音楽になっていくような。それでああいうソリッドなテンションの、駆け抜けたままズバッと終わる曲になりました。
――MVで古川さんが弾いてるグレッチは、コロナの自粛期間中に買ったんでしたっけ?
古川:そうです。この曲のために買いました。そもそもはエピフォンブロードウェイで「ブロードウェイ」を弾けたら面白いなと思って、楽器屋さんで試し弾きもしてみたんですけど、エピフォンブロードウェイはボディが想像以上にデカかったんですよね。
中屋:エピフォンブロードウェイって、17インチでしょ? そんなにデカい感触なんだ。アーチトップのやつなら、それがスタンダードサイズだよ。
古川:へえ~、俺はフェンダーに慣れてるせいかデカく感じたな。ちょっと合わないと思ったんだよね。で、試奏してたときにたまたまグレッチが目に入ったんです。自分はBLANKEY JET CITYの浅井健一さんを見て音楽を始めたので、大好きだからこそ今まで触ってこなかったんですけど、バンドも15年やってきたし、この機会に箱モノを弾いてみてもいいのかもなって。
――すごく似合ってると思いましたよ。
古川:本当ですか!? ありがとうございます。浅井さんが大好きなあまり恐れ多くて、自分の中で禁じ手にしてたんですけど、ずっと憧れのギターではあったんですよね。ひとつ縛りをなくしてみたら、自由な気分になれた感じもして。こういうところも変化かもしれません(笑)。
――『millions of oblivion』は“生と死”や“思い出と忘却”など、対になるものをテーマとしているそうですが、そこに至った経緯も聞かせてください。
古川:まず、1曲目の「ミリオンダラーベイビー」が、この1年かけて練り上げてたアルバムの核となっている曲で。ファンタジーなタッチにはしてますが、パーソナルな恋も含めて僕の記憶や気持ちが詰まってて、過去を回想しながら歌ってるような曲なんです。アニメ『池袋ウエストゲートパーク』のオープニング主題歌の依頼をいただいて「ニードルノット」を作ってるときに、ふと昔のことを思い出したのが発端と言いますか。まだCDデビューする前かな。ドラマ版でもロケ地だった池袋西口公園でよく弾き語りをしてたんですけど、道行く人が誰も立ち止まってくれない日があったんですよ。それで「自分は音楽をプレイしてはいけないほど必要とされてないんだな」と感じて。でも、同時にすげえ悔しくて認めたくなかったんで、勢いに任せてミッシェル・ガン・エレファントの「武蔵野エレジー」っていう曲をおもいっきり歌ったんです。
――<バンバンバン バババンバン>ってやつですね。
古川:そうそうそう。そしたら、遠くで海外の4~5歳くらいの小さい女の子が僕の歌に合わせてクルクル回りながら踊ってたんですよ! きっと親にほったらかしにされて、退屈してたんでしょうね。だけど、たとえそんな理由だったとしても、自分はあのとき「よかったー! ひとりだけ喜んでくれた人がいた」とものすごく救われたので。『池袋ウエストゲートパーク』の楽曲を作るタイミングで、どうしてもそのことで頭がいっぱいになっちゃったんです(笑)。
――今もはっきりと覚えてるものなんですか?
古川:いや、頭の中で美しく残ってはいるものの、あの子がどんな服を着ていたか、どんな顔だったかまではもう定かではないですね。でも、忘れたくないから今も思い出そうとします。服はたしかピンクっぽかったはずなんですけど、その記憶もなんとなく信用できなかったりするし、ともすれば「本当に経験したことなのか?」みたいにすら錯覚してくる。それくらいどんどん消えていっちゃうんですよ、記憶って。間違いなく真実なのに。
――それが“思い出と忘却”というテーマに繋がるわけですね。
古川:はい。「もう1回、あの場面を見たい」「思い出したい」って気持ちがすごくありました。あと、それとは別の時期の話で、自分がいちばん夢を追いかけて頑張ってたときに好きだった昔の恋人への美しい記憶が入ってます。なんか僕の中で、その2つの出来事が不思議とダブってるというか。小さな女の子も昔の恋人も、自分を救ってくれた天使みたいなイメージで。忘れそうになってるけど、忘れたくない――「ミリオンダラーベイビー」はそんな想いが作らせたような曲ですね。で、誰しも人生が終われば、記憶ってなくなっちゃうものじゃないですか。そう考えたりするうちに、「ミリオン」という言葉からちょっと韻を踏んだ「オブリビオン」がひらめいて。
――“生と死”のテイストはそういう流れで。
古川:頭の中にたしかにあっても、死んだら忘れ去られてしまうっていう。このアイデアから「ミリオンダラーベイビー」と「オブリビオン」は生まれた感じですね。それを1曲目と10曲目に置いて、各曲が対になるように全体像を作っていけたら面白いなと思ったんです。たとえば、2曲目の「ニードルノット」と9曲目の「ブロードウェイ」は制作時期も一緒で、共に場所のことを歌った曲になっていたりする。そのへんの話は初回限定盤のスペシャルパッケージに付くポエトリーブック『前世の記憶の少女』(古川が執筆)でも補足してますので、よかったらチェックしてみてください。
――ポエトリーブックも楽しみです。しかし、各曲が対を成す作りになっていたとは……! 気づかなかったし、驚きました。
古川:3曲目の「神々の豚」は「世界は醜いものだ」と吐き捨てたトーンの曲なんですけど、8曲目の「惑星の子供たち」では相反するように、今も新たに生まれてくる人たちに「世界は美しいものだよ」と言いたい気持ちを歌ってるんです。絶望的な状況だとしても、そう表現したい自分もいて。
――横浜での『Dress up』のレコ発で「way of 春風」を歌う際に「自分が嫌いで悩んだりすることもあるけど、あまり完璧じゃなくていい。自由な気持ちでいてほしい」と古川さんが話していたんですが、フォーキーなノリの「惑星の子供たち」はそういうやさしさを感じる曲でした。世の中が混沌としているからこその曲だったりもするのかなって。
古川:そうですね。殺伐としたものをやり切りたかった「神々の豚」を経て、「惑星の子供たち」では「大丈夫だよ」「世界はクソだけど、それがどうしたの?」「いいことがきっと起きるから」みたいな希望を込めてます。
――「惑星の子供たち」に<行こうぜ>という歌詞がありますけど、これはロックバンドに今いちばん歌ってほしい言葉かもしれないです。
古川:おお、実はロックンロールの熱量もかなり入ってるんですよ! それこそ<気にするな ジョニー ジョニー ジョニー/行けよ ジョニー>のところは、みんながバイブルのように聴くチャック・ベリーの「ジョニー・B.グッド」を意識した言葉ですしね。「ジョニー・B.グッド」の<Go! Go!>でワーッとテンションが上がる、上げたいみたいな感じで歌ってます。
――ほかの曲も対になっているんですよね。
古川:4曲目の「放浪のマチルダ」に<ワルチングマチルダ>って歌詞があるんですけど、毛布ひとつ持って放浪するのをそう呼ぶらしいんですよ。そんな旅の歌と対になってるのが、7曲目の「ストレリチアと僕の家」で。ワルチングが“ing”だから、「カミングホーム」という仮タイトルを思い浮かべつつ、家に帰ることがテーマの曲を作ってみました。
――音もそんじょそこらのバンドが出せない感じになってきてますよね。コード進行はシンプルなのに、深みがあったりしますし。特にミディアムナンバーの「ストレリチアと僕の家」「惑星の子供たち」、この温度感や曲の世界観はTHE PINBALLSならではだと思いました。
古川:うれしい! 僕もその2曲の流れがすごく好きで、思い入れが強いんですよね。「ストレリチアと僕の家」は自分が去年ポリープで歌えなくなったとき、手術前に聴いた浜田省吾さんの「悲しみは雪のように」に影響を受けてる部分があって。
――というのは?
古川:「悲しみは雪のように」の<君は怒りの中で/子供の頃を生きてきたね>という歌詞にグッときて、思わず泣いてしまったんです。実際に自分も世の中を反抗的に生きてきたようなところがあったので、俺自身に言われてる気がして。もともと有名な曲だから知ってはいたけど、今までは2番の歌詞をあまり意識して聴いてなかったんですよね。
――「ストレリチアと僕の家」も「悲しみは雪のように」も、ひとりで人知れず戦ってる人に向けた感じの曲ですよね。
古川:今、傷ついてる人に「1回休んでいいよ」って言いたかったんです。浜田省吾さんにそういう温かい気持ちをもらったので、歌詞を引用させていただきながら、俺もこのやさしさを受け継ぎたかったんですよね。世界がこれだけしんどい状況だし、いろいろ焦っちゃうと思うんですよ。でも、無理なときは全然休んで大丈夫。自分の体験を踏まえて、<涙を流してもいい><立ち止まってもいい>と歌いたかった。家の歌だから、自宅でひと休みするみたいな感じで表現してみました。
――5曲目の「赤い羊よ眠れ」と6曲目の「マーダーピールズ」は?
古川:「赤い羊よ眠れ」と「マーダーピールズ」は回文みたいになってて。「赤い羊よ眠れ」を英語で言うと「SLEEP REDRUM」じゃないですか。これは映画『シャイニング』で鏡に映る文字の引用なんですけど、逆から読むと「MURDER PEELS」になるんです。ここから世界が逆さに進行していくようなイメージを含ませつつ、レコードのA・B面を切り換えるときにクルッと裏返すという、折り返し地点の意味合いもあります。
――そういう仕掛けがわかった上で聴くと、さらに深みが増しますね。
古川:裏テーマ的な感じなんですけど、つい言いたくなってインタビューで話しちゃいますね(笑)。説明しないで、隠しておいたほうがかっこいいのに!
――最後に、アルバムの気に入ってる点など挙げてもらえたらうれしいです。
古川:すいません……! 俺がしゃべりすぎて時間がなくなっちゃったんで、みんなに聞いてください。
中屋&森下&石原:あっはっは(笑)。
森下:もう全部、フルが言ってくれましたけどね。
石原:だよね(笑)。そうだなあ……個人的なところだと、曲で好きなのは「ブロードウェイ」ですね。短い曲とはいえ、意外とブレイクが多めで。僕としてはブレイクを入れないパターンを最初は考えてたんですけど、メンバーと話し合う中で「ブレイクがいい」という形になったんですよ。それが大正解だったなと思います。ベースもやってて気持ち良くて。
森下:まるで君がベースを弾いてるかのように言うね(笑)。
石原:はははは(笑)。
森下:いろんな意図を込めて、趣向を凝らしてはいるんですけど、捉え方はそれぞれの自由だから、純粋に音楽を楽しんでもらえればいいなと思います。今作は初回限定盤スペシャルパッケージを含めて3形態のリリースで、ディープに浸ることもできるし、ただただ衝動的に聴くこともできるので。曲のバリエーションもあって、THE PINBALLSというバンドがよりリアルに伝わるのは間違いないですね。僕ら史上最高のアルバムになりました。
中屋:僕はとにかく、「聴いてください」「聴けばわかる!」ってことですね。
古川:言いっぷりが頑固オヤジみたいだってば(笑)。
森下:もうちょっと、ヒントくださいよ。
中屋:高校生の頃に雑誌でさ、Charさんのインタビューを読んでたら「聴けばわかる」って答えてたことがあったのよ! それが超かっこよかったんだよね。モロに影響されちゃってますけど(笑)。でも、本当にそのくらい自信があるアルバムなんです。

【取材・文:田山雄士】

tag一覧 J-POP アルバム 男性ボーカル THE PINBALLS

リリース情報

millions of oblivion

millions of oblivion

2020年12月16日

日本コロムビア

01.ミリオンダラーベイビー
02.ニードルノット
03.神々の豚
04.放浪のマチルダ
05.赤い羊よ眠れ
06.マーダーピールズ
07.ストレリチアと僕の家
08.惑星の子供たち
09.ブロードウェイ
10.オブリビオン

<初回限定盤スペシャルパッケージ付属ポエトリーブック>
古川貴之・作『前世の記憶の少女』64P
<初回限定盤Blu-ray収録内容>
2020.10.3 Acoustic session Live “Dress up 2 You” @Motion Blue YOKOHAMA ライブ映像

お知らせ

■配信リンク

『millions of oblivion』
https://lnk.to/PINS-millionsofoblivion



■マイ検索ワード

古川貴之(Vo)
弘田三枝子さん
さっきコロムビアのロビーにレコードが飾ってあるから「どういう人なんだろう」と思って、全然聴いたことがないんで、あとで調べてみようと思ってます。

中屋智裕(Gt)
ペンケース
僕が持ってるペンケースは鉛筆と赤鉛筆が2本入ってジャストサイズくらいの、万年筆とかを1本入れるくらいのサイズのもので、サイズ感が同じようなものをいくつも買って、ギターケースに入れてたり、いろんなところに置いとくんですよ。で、前に買ってたやつが無くなっちゃって、ペンケース同じものを3個くらい持ってるんですけど、もう1ヵ所置きたい場所ができたので、同じサイズ感のものを調べてました。まだ見つかってないんで、今日帰ってからも調べると思います(笑)。

森下拓貴(Ba)
シャープ 加湿空気清浄機
2、3年前に買ったやつの加湿機能だけが壊れちゃってて。説明書とか捨てちゃってたんで、ネットで取り扱いを調べてずーっと直してました。別にそんなに変な使い方してないんですけどね。フィルターとか買い替えてセットしたんですけど、エラーになっちゃって……もう諦めました(笑)。

石原天(Dr)
きつね フォックス
なんで調べたのかよくわかんないんですけど、履歴に出てきました(笑)。



■ライブ情報

THE PINBALLS Live Tour 2021
“millions of memories"

02/05(金)千葉 LOOK
02/13(土)福岡 CB
02/14(日)岡山 ペパーランド
02/19(金)宮城 仙台MACANA
02/21(日)北海道 札幌SPiCE
03/06(土)大阪 Banana Hall
03/13(土)香川 高松DIME
03/14(日)愛知 名古屋Electric Lady Land
03/27(土)長野 J
03/28(日)石川 金沢vanvan V4
04/08(木)東京 渋谷TSUTAYA O-EAST

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る