東日本大震災や、それを発端とした原発事故。それらに伴う経済の大打撃等々、未曾有とも思える歴史的な事象が立続いた2011年。その震災事後、多くのアーティストが、“今成すべきもの”をチャリティやベネフィット、自身の作品を通して、鼓舞し、励まし、応援し、一緒に頑張ろうと運動を起こした。このHilcrhymeも然り。震災直後から、”今、自分たちに何が出来るのか?”“何を成すべきか?”を推敲。新曲「no one」の発表を始め、アクションを起こした。

　あれから9ヶ月。この歴史的な1年もクローズするその寸前に間に合わすかのように、彼らから3rdアルバム『RISING』が届けられた。まさに震災以降、彼らが伝えたがっていた各々のアイデンティティや現状、そして今という時代を切り取ったかのような楽曲が立ち並んだ今作は、まさに2011年ならではの1枚に仕上がっている。

EMTG : 前作から約1年ぶりのアルバムですが、かなり順調なリリースタームですね?

TOC : そう見えるでしょ?　だけど、実際はギリギリでしたよ(笑)。特に今回は、どうしても今年中にリリースしなくちゃならない理由もあったし。今、聴き返すと"焦ってるな、俺"って部分も多々あるけど、それらも含めスキルや心情等、今の自分たちがキッチリ見せれたかな。

KATSU : 改めて聴き返すと、”若干偏ってるなぁ…”って。もっと、抜くところは抜いても良かっただろうし。もっと遊べたし。今となっては、”もっとこうした方が良かったな…”ってところばかりが耳についちゃいますね(笑)。

EMTG : とは言え、バランス的には非常に良いと思うんですが。

TOC : バランスは良いと自分でも思います。その辺りはかなり気をつけましたからね。

KATSU : トラックは夏以降に一気に作ったんですが、“重いのが続いたんで、軽いものを入れよう”や、“ここらで明るいものも入れたいな”等、考えながらだったんで、バランス的には良いと思いますよ。

EMTG : 今作は作風にしても、雰囲気にしても、凄くシングル「臆病な狼」以降って感じがするんですよ。

TOC : まさにその通りですね。特に今回はあの震災以降にインスパイアされて作った曲が多いし。

EMTG : あと、アイデンティティのアピールや問われている曲が多い感じも。

TOC : その辺りは、今作がこの激動の2011年に作られたことが大きいと思うんです。震災があり、それに付随する事件も沢山あった。それを受けて「二〇一一日本ニテ記ス」や、シングルの「no one」が出来ましたからね。

EMTG : 今おっしゃった2曲は対照的ですが。

TOC : そうなんです。「no one」は震災直後に、あの時期、誰一人傷つけることなく、優しい、泣いてまた笑顔になれる曲を作りたくて。逆に「二〇一一~」の方は最近、それこそ締め切りのギリギリに出来た曲で。今年を振り返り、ちょっと毒づいたポリティカルな曲です。このネット社会の中、あの震災が起こり、”そうなるとこんな現象になるのか?”を情報の交錯も含め描いたんです。いわゆるタイプ的には両極だけど、自分の中では、どこか繋がってるんですよね。

EMTG : 今作は全体的にストイックなトラックが増えた印象も受けました。

KATSU : 今作は今まで以上にミッドやローが効いた曲が増えましたからね。とは言え、重そうなものには、あえて軽い上ものや美しいメロディやキラキラした真逆なものを乗せることでのバランスは意識しました。

EMTG : 確かに今作は、美しさと強靭さの同居といった、正反対の要素が融合され、一つのものとして上手く形成されている曲が目立ちます。

TOC : 今回もデビュー以来ずっとやってもらってるエンジニアさんだったんで、ほぼお任せだったんです。もちろん、音像のイメージは伝えたりしましたが、今回もそれをキチンと具現化し、想像以上のものを引き出してくれましたね。あそこまでくるともう一つの職人芸ですよ。あれだけローもが強いのに、うわものがキチンと聴こえる。まさに一流の料理人です。

EMTG : 当初は今作の着地点をどのようなところに?

TOC : 全く考えてませんでした(笑)。逆に予定外だったのは、みんなが好きで自分たちに求められているであろうラブソングを、今回は全く入れられなかったところで。

EMTG : あえて今回はその辺りを外したのかと思ってましたが違うんですね。

TOC : もちろん最近は、あえて拒否していたところもあったけど、自分の中には恋愛的な要素も確かにあるわけで。そこを曲として出せなかったのは、やはり心残りですね。どうしても視野が一直線になっちゃって、自分たちにそれらが求められていることに最近まで気づいてなかったところもあって。まもなく30代に突入しますが、いい感じで子供っぽいリリックが残せたかなと(笑)。

EMTG : お兄さん的なKATSUさんから見て、今回のTOCさんのリリックはいかがですか(笑)?

KATSU : ひたすら俺はトラックを作り続けてきましたけど、一受け手としては、”こう来たか!?”って感心することが多かったかな。

EMTG : そんな中でも、「マイクリスマスキャロル」は、ポップなクリスマスソングに仕上がりましたね。

TOC : クリスマスの曲って沢山あるじゃないですか。だけど、この曲は夏終わりから作っていたんで、それをそのまま歌詞にしたんです。今自分がやっていることをあえて歌詞にしてみたというか。世にクリスマスソングは数あれど、こういったアプローチは無いんじゃないかな。歌内容的には、ほのかなクリスマス感漂うというか。嬉しいと思うんですよね、この歌のような男性がいたら。

KATSU : トラックも新しいと思うんです。クリスマスのスタンダードナンバーのフレーズを色々と散りばめてるし。これがクリスマスだけしか聴けないのが残念なので、みなさん是非今のうちに聴き溜めといて下さい(笑)。

EMTG : ちなみにお２人は、彼女にサプライズ的なものを用意してあげるタイプですか?

TOC : 実際は曲を書いたことも、ラップしてあげたこともないけど、サプライズは好きで。僕はやってあげちゃうタイプですね。

KATSU : 僕は逆かな。それこそ、してあげなくちゃヤバいんじゃないか?と思うぐらい、全くしないし、したことないな(笑)。

EMTG : 僕と同じ、「釣った魚にエサはやらない」タイプですね(笑)。M-2の「友よ」はいかがですか?

TOC : この曲はシングルのカップリング曲だったんですが、これがアルバムにあるのとないのとじゃ印象が全然違うし、この曲が入ることで良いバランスが取れたかなと。

EMTG : 「ポンビラ」は、若干のコミカルさを有してますね?

TOC : この曲はまさにクラブ讃歌です。クラブでの出来事を歌にしているというか。

EMTG : 「Extraction」は、インスト曲ですが、これはKATSUさんがお１人で?

KATSU : 作りました。「何なのアレ?」って言われるぐらい色々なおいしい要素をミックスしてます(笑)。今流行りの要素も含め、ジャンル不問で色々好きだったものを自由に組み合わせてみました。なので、自分でもジャンルは説明できません(笑)。

EMTG : ラストの「RISING MARCH」は、これからのツアーに向けての布石のような曲ですね。

TOC : ツアーのテーマソングであり、全国行脚の曲です(笑)。みんなで歌いたい曲で、サビはみんなで歌えるようにしました。これから新しいチームで回る前の挨拶ソングですね。実は前ライヴDVDのオフショットとも色々とリンクしているんです。

EMTG : 今回のアルバムタイトルに込めた意味を教えて下さい。

TOC : 元々僕らって、リリックでもよくRISEって言葉を使っていたし、2011年を表わすなら、この「昇っていく」ってタイトルがピッタリだなと。自分たちにとってもみんなにとっても色々なことがあったからこそ、あとは上がって行くしかないですからね。

KATSU : Hilcrhymeの名前自体が「上がっていく」「昇っていく」って意味もありますからね。そう考えると、なるべくしてなったタイトルかなと。

EMTG : 最後に聴きどころを教えて下さい。

KATSU : シングル曲もマスタリングを変えたし、並びも違うとまた違った新鮮な聴き方が出来ると思うんで、その辺りも楽しんで下さい。

TOC : まさに2011年のアルバムだと思います。この年に出たアルバムなので、この年を忘れないで、この年にHilcrhymeが、このような曲たちを書いたというのを意識して聴いて欲しいですね。

EMTG : なるほど、それは締め切りをぶっち出来ないはずだわ。

TOC : そうなんです。2011年に出さなくちゃ意味がないアルバムでしたから。なので、ギリギリでも2011年にリリースが間にあって、ホント良かった (笑)。

【 取材・文：池田スカオ和宏 】