ニューシングル「僕と花」にまつわる、サカナクション山口一郎ロングインタビュー。まずは前後編の前編を!
サカナクション | 2012.05.30
すでに名曲と評判の高いニューシングル「僕と花」は、テレビドラマ『37歳で医者になった僕 ?研修医純情物語?』の主題歌だ。
メロディを中心に置いて展開されるポップな曲で、サカナクションをダンサブルなバンドとして捉えてきた音楽ファンは意外なイメージを抱くかもしれない。一方で、♪僕の目 ひとつあげましょう♪と歌い出す切れ味鋭いリリックは健在だ。
テレビドラマ主題歌というマジョリティを対象にした楽曲作りは、マイノリティからの支持の多いサカナクションにとってどんな挑戦だったのか、山口一郎に率直に聞いてみた。すると話は彼らのメディア戦略にスピルオーバーしていく。論客・山口のよどみない口調をダイレクトに味わってもらうために、今回はロング・インタビューの形式を取ってみた。しかも、続編あり! まずはその前半を楽しんでいただこう。
- EMTG:「僕と花」を聴いていて、なぜか僕はずーっとファースト・アルバムの「フクロウ」っていう歌のことを思い出していた。
- 山口:「サカナクションの曲がドラマ主題歌になったときに、どういうふうに着地したらいちばん美しいか」ってメンバー同士で話し合ってたときに、実際に会話に出たのが、まさに初期のアルバム。ファーストのテイストを出して“今のサカナクション”として受け入れられるのがいいなと。今までサカナクションを追っかけてきてくれた人からすると、“帰ってきた”っていう印象になるし、最近のサカナクションしか知らない人は、なんか新しい感じ、“次のサカナクション”って感じがするっていうふうに受け取れられる。サカナクションをまったく知らない人が聴いたときには、“ポップなもの”として受け取ってもらえるなっていう。その着地の仕方が、いちばん美しいものになるんじゃないかっていう。そこからこの曲を作り始めたのが、ホントに第一歩でしたね。だから平山さんは、まさにサカナクションの術中にハマってくれた(笑)。
- EMTG:なんだ、そういうことか(笑)。
- 山口:(笑)でもそこを見抜くのってさすがです。
- EMTG:ドラマのスタッフ側とはどんな話をしたの?
-
山口:今回、ドラマの主題歌のお話をいただいて、ドラマの制作サイドから、「楽曲を書き下ろして欲しい」っていう依頼があったんですよ。そこで制作者サイドの要望を聞いたときに、僕の中でドラマの内容と曲のテイストが一致してなかったんですね。「『アドベンチャー』とか『アイデンティティ』みたいな、ちょっと元気のいい曲を」ってお話をいただいてたんですけど、内容や出演陣を見させていただいた段階で、もっと違う曲調のほうが合うのではないかって思って、ファースト・アルバムの「夜の東側」って曲を挙げて、「こういうテイストのほうがしっくりする気がするのですが」と相談をしたら、「ぜひそれでお願いします」、「じゃあ、それで作らせていただきます」っていう話になったんです。
ドラマの内容が37歳の男性が新しく人生やり直すっていうので、最初は背中を押す、元気のいい曲をお願いしますってことだった。でもそれは、ドラマの内容に僕らが書き下ろす曲のテイストとしてはうまく合わないのでは、という懸念点をちゃんとお伝えして。逆に僕もドラマっていうものをもっと信用して参加したかった。もともとドラマの主題歌をやるミュージシャンっていうのは、僕にとって“敵”だったから、そこに飛び込んでいくからには、やっぱりちゃんと相手側をリスペクトしてやりたかった。 - EMTG:ドラマ主題歌を歌う奴は敵だったのか(笑)。
- 山口:はい(笑)。「ドラマを利用する」っていう意味で。だから、自分たちがドラマの世界に貢献するっていうことをちゃんとやった上で、じゃあ、ドラマの主題歌をやるっていうことはどうなのかって批評できるようになろうと思った。やらずに批評するのはズルだから。やってみて、ちゃんと批評できるんだったらいいなっていうふうに思いましたね。
- EMTG:そして、実際にやってみてどうだったの?
- 山口:ドラマってなんだろうって思ったときに、テレビっていうメディアの中のひとつのツールなんですよね。“主題歌”は、そこに伝統的にあるタイアップっていう手法なんですよ。でも僕らって、今、自分たちのメディアをすでに持ってるんですよね。Ustreamだったりツイッターがある。だからドラマの主題歌をやるっていうのは、一方的に、無作為に広がるだけじゃなくて、自分たちを追いかけてくれてる人たちに、なぜそれをやったのかとか、やっているその裏側を伝えることができる。それを自分たちのUstreamってメディアで発信できる。それでどれぐらい面白いことができるか。音楽にさほど興味がない、健全な若者たちに、ドラマという部分で音楽を提供しつつも、音楽に興味がある、僕たちの“同志たち”に対して、どういうリアルなワクワクを与えれるかっていう部分も、今回、考えざるをえなかったところでしたね。それをやってこそ、バランスがとれる。
- EMTG:サカナクションがテレビドラマの主題歌をやる意味が出てくる。
- 山口:そう、現代的だなと思ったんです。今の時代に音楽を外に広めていくことを考えると、90年代や2000年代のバンドのスタイルとして、表に一切出ないっていう美学があった。でも僕らはそこから一歩先に行って、すべてをやるけど、やり方を考えていく。“受けの美学”っていうか。今回、そこに一歩踏み込めるんじゃないかと思ったし、僕らがもし成功すれば、若いバンドも外に出て行くっていうことに対しての戦略を、もっと考えるようになるんじゃないかと思った。そのキッカケになったらいいとも思ったし。
- EMTG:考えて断ることもできるし、引き受けることもできる。選択肢の幅ができるよね。
- 山口:ドラマは当たり前ですがオープンなメディアで、ひとつのものに対して興味がない人もたくさん集まってきてしまうメディアだけど、Ustreamはドラマに比べると圧倒的にクローズドなぶん、あるものに興味がある人が、今どれぐらいいて、何人見てるかっていう真実の数字が把握できると思うんですよ。Ustreamを僕らのメディアとしてちゃんと利用していくのは、ミュージシャンのひとつの技術だったり、チームとしての戦略の要因になる気がしてる。それをどれぐらい上手に使えるか、どれぐらいの規模感でやれるかっていうのが、これからの僕たちのひとつのテーマだと思う。今回、ドラマをやってみてすごく考えさせられたし、僕たちが動けるチャンスがきたかなと思いました。
- EMTG:なるほど。そこで同志たちに送るメッセージは?
- 山口:僕らの少年時代は、インターネットがなかったから、ラジオや音楽雑誌でオーバーグラウンドに現れてきた“マイノリティ・バンド”を見て、ワッと騒いだりしてたんですよ。だけど今の時代の高校生や大学生ってそうじゃない。じゃあ、何にワクワクするのかなと思ったとき、クラスの音楽の好きな2、3人が、次の日、学校に行って、「昨日のあれ見た?」とか「あれ聞いた?」って騒ぐのって、Ustreamのような気がしたんですね。そのUstreamで、どんなワクワクができるのか。つまり、テレビ局の作る音楽番組じゃなくて、Ustreamを使って自分たちの思う最高に面白い音楽番組を作る。その中で自分たちの作品を発表していけば、オーバーグラウンドの世界にしか興味がない人たちに対してもアプローチしていけると思った。マイノリティ・バンドには、外に出ていく理由もあるし、内にこもる理由もある。そこが、僕はリアルなワクワクになっていくんじゃないかと思う。隠す必要がなくなってきた時代に、どう隠すか。今のロックバンドっていうか・・・あ、僕、自分たちのことをロックバンドだと思ってないけど。
- EMTG:思ってないんだ(笑)。
- 山口:思ってないんですけど(笑)。ただロックバンドとカテゴライズされる立場として、それはやっていかなきゃいけないことかなって思う。僕の思うロックのかっこ良さは、90年代、2000年代から引き継がれてるものとはちょっと違うベクトルにある。もっと論理的だし、もっと衝動的だし、もっとリアルなものを提示したいなっていうのはありますね。
- EMTG:それは、考え方としてすごく新しい。
-
山口:シングルがあって、アルバムがあって、ライブやって、そのツアーDVDが出て。そしてまたシングル出して、アルバム出してっていうひとつの一環した流れがあるじゃないですか。だけど、今、これだけツールが増えてるのに、表現の手法がそれだけで収まっている、フォーマット化されているのがすごく嫌だなと思う。もっと新しいことができるはず。ミュージックビデオ、レコーディング、ライブ映像だけじゃない、新しい、もうひとつのフォーマットがあるはずだと思うんですよ。
それはUstreamのデメリットだった部分をどんどんクリアにしていくことで可能になる。Ustreamって、「見てしまった!」っていうゲリラ性があるんですよね。自分が見てビックリしたものを、他の人が見てなかったときに、人って誇張して伝える。その誇張して伝えるってことで広まっていくのが良いことであれば、僕はすごい武器になるなと思う。 - EMTG:「昨日のあれ見た?」じゃなくて、「あれ、見なかったんだ」っていうふうに伝えるってことだよね。
- 山口:そうそう。「えっ、見てないの? あれマジ、すごかったんだよね」ってふうに伝えたがる。僕もそうだから、その感覚ってすごくよくわかる。それが起こりえる現象を作っていくっていうことが、僕にとってのリアルなワクワクっていうか、音楽の楽しさになっていくような気がする。
- EMTG:もっと踏み込むと、自分たちの音楽表現と同等に、“制作の裏側”も表現だと思っている?
- 山口:はい、全部表現だと思います。例えばひとつの作品が世に出たときに、それに触れた人が、この作品にはどんな人が関わっていて、どういうふうなやり取りで、どう作られているのかとか、知れば知るほどその素晴らしさがわかるし、意味がわかってくる。例えば、今もツイッターで、「あの役者さんは、誰々のバーターだよね」とか、「あのタイアップは、あの俳優が出てるから、同じプロダクションの若手ミュージシャンが主題歌を歌ってる」って、もう、みんなわかってるんですよね。
- EMTG:裏側の仕組みをね。
- 山口:はい。僕はそれは別に悪いことじゃないと思ってて。それもひとつの手法で、表現なんだと思う。だから「それをやらない」っていう美学をとるのか、「あえてやる」っていう美学でいくのか。それが好きか嫌いかっていうとこだけだと思うんですけど。
- EMTG:さっき言ってた、見せるのか隠すのか。どっちもできるからね。
-
山口:こちら側は隠していてもリスナー側は知っているっていう前提でそれを表に出す方法もあるけど、リスナーはまったく知らなくて、騙して出すっていうと、意味合いが違ってくる。僕はみんな知ってるっていう前提で、戦略としてどんどん裏側を出していくほうが面白いと思う。「そこまでバラすの?」って言われるけど、「だってみんな、知ってんじゃん」みたいな。ちょっと考えればわかるでしょっていう。「あなたの立場が僕の立場だったら、同じこと考えるでしょ?」っていう。
例えば絵画を見るとき、“見る技術”がないと、その絵の面白さがわからない。だから絵のジャンルはマイノリティだと思うんですけど(笑)。僕は、そこをもっと知らせていきたい。そうすることで面白さが増すと思う。この間、Ustreamで、“CDやBlu-ray、配信とDVDの音質の違い”みたいなものを放送したんですけど、みんな、「え、そうなんだ」って、びっくりしてた。だけどそこから、「私はDVDを買うよ」とか、「家にないから買わない」とかの選ぶ理由が生まれてくるんですよ。チョイスっていうのは、そういうことだと思う。今の世の中って、そういうことが曖昧になりすぎてると思う。
【取材・文:平山雄一】
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