アニバーサリーシングルは闇から光を求めるthe pillowsらしいバースデー・ソング

the pillows | 2013.09.13

 美しいロックンロール・リフから始まって、すぐにボーカルの明るいメロディに引き込まれる。が、《引き金引くのは指じゃなく心》という不穏なリリックが耳にひっかき傷を残す。サビは《ハッピーバースデー 思い出したんだ 生きていること》という不思議な呪文になっている。
 誕生日に自分の生を確かめるとは、なんともキンキーなthe pillowsらしいお祝いの仕方だ。『ハッピー・バースデー』は、結成20周年にして初の武道館ライブを行なうなど、信念の堅固さとその苦難を示したthe pillowsが、24回目の結成記念日2013年9月16日にリリースするシングルだ。この秋、山中さわお(Vo・G)、真鍋吉明(G)、佐藤シンイチロウ(Dr)、 サポートメンバー鈴木淳(B)の4人は、いよいよ25thアニバーサリー・イヤーに突入する。休憩期間を終えての活動再開の口火を切るこのシングルについて、ソングライターの山中に話を聞いてみた。

山中さわお:20周年の武道館の時は、ベストアルバムも出したりしたから、アニバーサリーを人一倍感じて張り切ってたんですけど、それに比べたら25周年って、メン バーにとってアニバーサリーの意識は薄いんですよ。でもスタッフからそう言われて、スルーするのも淋しいし、やるとなったら楽しもうかっていうことで。
EMTG:あはは、正直だなあ。24年前の9月16日のことは憶えてる?
山中:はい。僕は20才の若者でした。KENZI&THE TRIPSのベースの上田ケンジ、ドラマーの佐藤シンイチロウと、ペルシャのギタリストの真鍋吉明と、コインロッカー・ベイビーズのボーカルだった僕が、真鍋の部屋に集まって、バンド名を決めていた。これからとてつもないことが起こるんだろうなって興奮してましたね。よく憶えてます。だから「ハッピー・バースデー」は、the pillowsの24才の誕生日の歌です。でもこの歌の作り始めは、ものすごく暗くて。
EMTG:暗い誕生日の歌だったの?
山中:いえ、そういうことじゃなくて。この曲はthe pillows用に書いたものではなかったんですよ。その頃、自殺の妄想をしていて…こんな暗い話してて、いいんですか?
EMTG:この歌に関係あることであれば、大丈夫です。
山中:うーん、自殺未遂を繰り返す人ってどんな人なんだろうって考えてた。ほとんどが確実に死ぬ方法を取らずに、自傷行為である場合が多い。ただそこに、本人にしかわからない心の闇があるのは確かだって思ったんです。結局、死んでないじゃんって嫌味を言いたい気持ちもあるんだけど、僕自身その闇にハマる気持ちがわかるところもあった。ただ自分には、本当に死んでしまうまでの絶望感はない。せいぜい二日酔いで目を覚ますくらい。そんなところから出発した歌です。
EMTG:何もかもは嫌になって、たくさん酒を呑むことはあるよね。で、翌日目覚めて、《思い出したんだ 生きていること》ってなるわけだ(笑)。
山中:そういう妄想から覚めると、「なんでそんなこと考えてたんだろう」って、すっかり忘れていたりするんですよ(笑)。
EMTG:何回も生まれ変わる感じだね。それが「ハッピー・バースデー」に通じてるわけだ。
山中:そんな感じです。そんな風に作ってて、the pillowsが活動を再開するし、25周年になるんだなって気付いたら、これをシングルにするのがいいかなって。
EMTG:すごい紆余曲折だね(笑)。でも、どうしてそんな妄想に陥ったんだろう?
山中:自分でもわかっているのは、たぶん僕は成功が苦手な人間だってこと。
EMTG:成功が苦手?
山中:武道館やって、すごく達成感や到達感があったんですけど、その後、想像していなかった退屈感に襲われた。たくさんCDが売れて、常にでかいコンサートをやることを、自分は目指してたわけじゃなかったんだなって。成功に向いてないっていうか。
EMTG:みんな成功を目指してやってるのに、向いてないって(笑)。
山中:でも、そうなんですよ(笑)。 何か足りないものがあって、それを満たそうとするエネルギーが、僕を前進させてきたっていうことに気が付いたんです。妄想は、今ではすっかりなくなりました。
EMTG:「ハッピー・バースデー」って、the pillowsにしては珍しくストレートなタイトルだなって思ってたけど、いろいろあったんだなあ。
山中:そう、タイトルはいつも、オリジナリティのある言葉を考えるんですけど、でもこの曲はあえて日常の言葉、たとえば「バイバイ」とか「ありがとう」っていうくらいわかりやすいタイトルにしたかった。暗闇の中で作り始めて、その闇の中から遠くに見える光を猛烈に求めながら作った歌です。
EMTG:それはとってもthe pillowsらしいバースデー・ソングだね。そしてカップリングの2曲は?
山中:「都会のアリス」は、カップリングとして書下ろしました。
EMTG:この曲は、マイナー(短調)とメジャー(長調)のつながり方が、普通のJ-ROCKやJ-POPと違ってて、すごくカッコいい。
山中:ありがとうございます。僕のソロのツアー中に、ツアーが終わったらthe pillowsと して動くことが決まっていたので、the pillows用の曲を作ってたんですよ。マイナーとメジャーの混ざり方については、単純に僕が普段聴いてる洋楽のニュアンスが入ってるから、J-ROCKやJ-POPよりロッ クンロール寄りの作りになっているかもしれないです。
EMTG:一方で「クオーター 莫逆の友」は、フォーキーな曲だね。“莫逆”って何?
山中:“バクゲキ”とも“バクギャク”とも読むんですけど、“莫逆の友”はお互いの気持ちがピッタリ合う友人のことです。the pillowsはずっと“3”をテーマにやってきたんだけど、サポートの鈴木を含めて、4分割(クオーター)で考えた新しい歌です。
EMTG:そして11月からはツアー“LOSTMAN GO TO CITY”に出る。
山中:これはシングルのツアーじゃなくて、マニアックなものになります。ライブで1回しかやってない曲とかを積極的に取り上げるツアーです。ただし、久しぶりのツアーだから、「Funny Bunny」とかのメジャー どころもやりますよ。
EMTG:楽しみにしてます!

【取材・文:平山雄一】

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2013年09月16日

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[CD]
1.HAPPY BIRTHDAY
2. 都会のアリス
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1. ハッピーバースデー(ミュージックビデオ)
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最近やっぱり自分がこの歳なので後輩と呑むことが多いんですが、そうすると「さわおさん、さすがにかっこいいところ知ってるな」と思われたいので…。調べるよねー。しかも心の中では「毎回同じ場所でもいいんだよな」って思ってるんだけど、「詳しい!」とか言われたいから、変えなきゃいけないみたいな感じで、どんどん店詳しくなってます(笑)。これを見た後輩ミュージシャンは「あ、意外と苦労してるんだな」と思っていただいて、よろしくお願いします!


■ライブ情報

the pillows TOUR 2013 “LOSTMAN GO TO CITY”
2013/11/16(土)東京 SHIBUYA-AX
2013/11/22(金)名古屋 CLUB DIAMOND HALL
2013/11/24(日)福岡 DRUM LOGOS
2013/11/29(金)広島 CLUB QUATTRO
2013/12/01(日)大阪 なんば Hatch
2013/12/06(金)仙台 Rensa
2013/12/08(日)札幌 PENNY LANE 24
2013/12/14(土)東京 Zepp Tokyo

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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