「ゴスペラーズよ、お前もか？！」という声が聞こえそうなタイミングでのカバーアルバムのリリースだ。が、そこはゴスペラーズのこと。最近氾濫するお手軽なカバーとは一線を画す内容の、素晴らしいアルバムを作り上げた。
　日本最古のアカペラ「猫騒動」のカバーでは、歴史的な要素を加味。今や世界の注目を集めるシンガー、ブルーノ・マーズの「Just The Way You Are」では堂々の英語詞カバーと、そんじょそこらの イージー企画とはレベルが違う。これまでもすぐれたカバーを発表してきた５人ならではの楽しさ満載の傑作になった。
　しかも初回生産限定盤の特典DVDに 入ってる「猫騒動」と「ロビンソン」（スピッツのカバー）の映像がそれぞれに面白い。そのあたりを中心に話を聞いてみた。間もなく始まる「ゴスペラーズ坂ツアー2013?2014“ハモ騒動”」のリハーサルスタジオで行なわれたインタビューは、アルバム・タイトルどおり騒々しいものになったのだった（笑）。

EMTG：特典のDVDに入ってる「猫騒動」が楽しかった。特に酒井くんの猫のモノマネが上手で、びっくりした。昔、猫だったことがあるの（笑）？

酒井雄二：あ、はい、小さい頃（笑）。 昼間は家族が畑に出てしまっていたので、僕は猫に育てられたようなモンなんですよ。猫が乳母がわりっていうか（笑）。

EMTG：ホントかなあ（笑）。

酒井：ホントにホントです（笑）。 部屋で相撲取ってたりすると、足首を咬まれたりして、猫に叱られてました。

EMTG：あははは、それはありそう。基本的に猫好きなんだね。

酒井：そうです、そうです。だから猫の鳴きマネをよくしてました。そういう意味で言うと、ドラムの口（くち）マネしてたら、それがヒューマン・ビート・ボックスになったりっていうのと同じです。昔っから好きでやってたことが役に立つっていうパターンです。

EMTG：でも、育ての親の猫マネって面白い（笑）。このDVDを見ると、酒井くん以外のメンバーも猫の動きのマネをしながら歌ってたりするのがすごく面白かった。

安岡 優：だからこの「猫騒動」は、音源だけの芸じゃないんですね。見せる芸の要素もあったんじゃないかなあ。

村上てつや：楽しくて、自然と体が動くっていうか。

安岡：自分たちが楽しくやらないと、楽しいテイクにならないんですよ。僕らにとっての“遊び”でなくちゃいけない。正しくやろうとすると、 つまらないものになっちゃうんです。なのでフレッシュな状態でやりたかったんで、プリプロの段階からスタジオに入るたびに毎回２、３回ずつ歌ってた。ダメだったら、また次の日にやればいいし。

北山陽一：猫のキャラになりきらないと面白くない（笑）。

EMTG：DVDに入っているのが、CDに収録されているOKテイク だったの？

黒沢 薫：そう、OKテイクです。あの日の２テイク目で、実は１テイク目はマネージャーがカメラを回すのを忘れていて。

村上：ま、でも、あのテイクがよかったんで、それを撮ってくれていてよかったんですけど（笑）。

北山：アカペラの歴史に関わることだからね。

EMTG：えっ、歴史??　そもそも、なんでこの曲をやることになったの？

黒沢：村上がハーモニー・グループの歴史を調べていて、「猫騒動」を見つけて、今回のカバー・アルバムの企画会議に「これ、やりたいんですけど」ってみんなの前に持ってきた。その場で満場一致でやることになりました。

村上：それまで日本のアカペラのスタート地点は、1951年に録音されたダークダックスさんの「田舎のバス」だと思ってたんですよ。でも調べてみたら、それより遥か以前に「猫騒動」があることを３年前に知った。それでもつまらないものだったらやらなかったけど、これが面白かったわけですよ。

EMTG：確かに大切な歴史だ！　引っ越しのときに、会ったこともないひいおじいちゃんの写真が出てきたみたいな感じなのかね。

北山：そうですね（笑）。なんとなく懐かしくて、うん、わかるみたいな感じで。

EMTG：DVDに入ってるもう１曲の「ロビンソン」も楽しかった。「猫騒動」は日々の録音の映像だからラフな格好をしてるのに、「ロビンソン」はちゃんとした衣装を着て、弦カルテットと一緒に歌ってる風景が気持ちいい。

村上：「猫騒動」が“リアル”なら、こっちは“リアルっぽい”っていうものですね。

安岡：「猫騒動」はレコーディング現場そのものの映像ですけど、「ロビンソン」はレコーディングした音に合わせて歌ってる。ただし、弦も実際に音を出して撮影していたので、盛り上がって撮影をやってます。

北山：弦カルテットと歌だけでやるのは初めてだったから、その場で音楽が立ちあがってくる歓びの中に僕らはいるわけです。

EMTG：それで、この映像を見てると気分がアガってくるんだね。

北山：そうかもしれないです。

EMTG：一方で、スターダスト☆レビューの「夢伝説」のカバーには、スタレビのメンバーも参加して豪華なハーモニー・サウンドになってる。

北山：今回、「夢伝説」のレコーディングには、全部で16人が参加してるんです。ゴスペラーズの5人、 トライトーンの5人と、スタレビさんとサポートの方で6人。さらに多重録音してるので、16人でも再現できないんですよ。

安岡：だから「夢伝説」は、この音源で楽しんでください。

黒沢：そうです、ライブでできないですから（笑）。

EMTG：でも、そんな最新テクノロジーを駆使した「夢伝説」と、最古の「猫騒動」が同じアルバムに入ってていいの？

村上：だからアルバムの最初と最後なんじゃないですか（笑）。

EMTG：なるほど…って、曲順には苦労したんだ。

北山：カバーアルバムだから、オリジナル・アルバムを作るときのように、コンセプトをガチっと固めて作るわけじゃないので、あれも入れよう、これも入れようって楽しくやってるうちに「どうなるんだろうな、これは」ってなるんですよね。だから「曲順でまとめるしかない」ってことになったんです（笑）。

EMTG：アルバム・タイトルどおり、制作はけっこうな騒動だったんだね。

北山：そういえば最初、アルバム・タイトルが『ハモ騒動』になる前に…。

安岡：『猫伝説』っていうひどい案も出たんですけど（笑）。

黒沢：二択でこっちになりました（笑）。

EMTG：その意味じゃ、『ハモ騒動』がちょうどいいのかな。

北山：全体に、楽しんで歌うとOKが出るっていうレコーディングでした。

黒沢：でもね、ゴスペラーズらしさをカバーで出すのって、 けっこう大変なんですよ。オリジナル作るよりも大変かも。

EMTG：結果、本当にゴスペラーズらしいカバーになったね。他の誰にも、こんなアルバムは作れない。

全員：ありがとうございます。ぜひ、聴いてください！！

【取材・文：平山雄一】