back number、究極のポップアルバム『ラブストーリー』!インタビュー[前編]

back number | 2014.03.20

 4thアルバム『ラブストーリー』を聴くと、back numberのことがますます好きになる。収録されている全12曲は、どれもが生々しい息吹に溢れた物語。悩み、傷つき、あるいは誰かを傷つけ、しかし時には深く愛し、何もかもが輝いて見える時もある……様々な感情が複雑に連なり合いながら進む我々の人生と鮮やかにシンクロするメロディ、サウンド、言葉を届ける1枚だ。ソングライティングはもちろん、演奏やアレンジの劇的な進化も実感させられる。今作はどのようにして生み出されたのか? インタビューの前編である今回は、彼らの音楽に対する意識の変化など、制作の背景を中心に語ってもらった。

EMTG:アルバムの全体像に関して何かイメージしていたものはありました?
清水依与吏(Vo・G):大まかな「こうしたい」っていうのはなかったんですけど、今思うと、「高嶺の花子さん」を作ったのをきっかけに、何となく見えてきたことはあったのかもしれないです。蔦谷(好位置)さんと出会ったことで楽曲に対する向き合い方が変わったので。「最終的にはこうなるはずだから、逆にここはこうしてみよう」みたいな、楽曲をより良いものにするための仕組みに関して蔦谷さんからすごく刺激を受けたんです。「より掘り下げつつも、それをマニアックに聴かせない。ポップスとして聴かせる」みたいなことに対して、今回、すごく夢中になっていたかもしれないです。
EMTG:サウンドや描く内容も含めて、コアでディープなことをやりつつもキャッチーに聴かせる側面は元々ありましたよね?
清水:そうですね。でも、「なんかすごくロックになっちゃうんだよな」とか、作った直後にアラみたいなのを感じることもあったんです。前作の『blues』の時もプロデューサーさんに入っていただいた曲と自分たちだけでやった曲を聴き比べて、そういうことを感じたりもしましたし。
EMTG:back numberってキャッチーなイメージが先行している部分もあると思いますけど、そこを変えたいという想いはあります?
清水:どうでしょう? このアルバムに『ラブストーリー』というタイトルをつけている時点で、変えようとは思っていないんでしょうね(笑)。歌詞に関してはより挑んで、脱いでいると思いますけど。今までの特にシングルの曲って、女の人から「かわいい男性だね」って言われることが多くて。でも、生きていく中で存在するのは、かわいいことだけではない。ひどいことをすることもあるわけですから。そういう点に関しては、より挑んだアルバムになったと思います。
EMTG:栗原さんは今回のアルバムについてどのようなことを感じていますか?
栗原寿(Dr):まず、自分で「いいな!」と素直に思える1枚ができました。それが率直な感想です。今までよりも3人の中心に楽曲があって、「その楽曲に向けて3人がどうしていくのか?」っていうことに関してより濃い話し合いができるようになったんですよね。「より楽曲のために!」という意識で制作に挑めたんです。自分たちの成長も詰め込めたと思います。
EMTG:歌詞で描いている風景、心情とサウンドのリンクの仕方もすごいアルバムです。
栗原:ありがとうございます。それはやはり蔦谷さんとの出会いが大きかったです。「高嶺の花子さん」で初めて一緒に制作したんですけど、素晴らしいものを提示してくださって。3人の音が絶妙に絡み合っていて、よくよく聴くと結構すごいことをやっているんだけど、それが結果的にポップスとして聞こえるという。今回はそういう経験をセルフプロデュースの楽曲にも反映したいという気持ちがあったんですよね。
EMTG:小島さんはいかがですか?
小島和也(B):全員が「音楽」「音」というものに対してより向き合えたアルバムだと思います。寿が言っていたように、「3人の中心に楽曲がある」っていう感覚が僕にもあって。今まで曖昧な感覚でやっていたことが明確になって、「この楽曲に対してはこっちの方がいい」とか、「こう思うんだけど、どうかな?」っていう話し合いがすごくできたんです。そういう点でも意味のあるアルバムになりましたね。
EMTG:このアルバムの曲って、映像のカメラワークで喩えるならば、俯瞰だったり、寄りだったり、引きだったり、いろんな距離感、アングルがある印象でもあるんですよ。ライティングとかも、曲に応じて的確に変えている感じですし。
清水:そういうところは意識していたかもしれませんね。「これはどういう場面で、どこから主人公を捉えているんだ? カメラと主人公の距離は?」っていうような感じで。そういう風に作っていくのが楽しかったんですよね。今までやってこなかったやり方です。今までは「とにかく主人公の気持ちを曝け出す!」みたいな作り方だった気がします。でも、質感とかも自分たちでプロデュースできるようにならなきゃ駄目だろうなと。だから例えば「頬を濡らす雨のように」みたいな歌詞の書き方もしているんです。少し抽象的な言葉も使うんだけど、その中には強い祈りのようなものがこもっているっていうような。まどろむような雰囲気でストーリーが流れていく、こういう曲は今までにやったことがなかったです。映像もクリアなものにも8ミリみたいな粗い質感にも、それぞれの良さがあるじゃないですか。それと同じように、曲の描き方や編曲も含めて様々でいいんだと思います。
EMTG:例えば、アルバムのオープニングを飾る「聖者の行進」は、俯瞰から捉えた物語ですね。高層ビル街を上空から映しているようなイメージが湧きます。
清水:自分が正しいと思っていることだけをやれている感覚は、みんななかなか持ちにくいじゃないですか。でも、1人で葛藤しながら歩いているつもりでも、俯瞰から見たら他の人も一緒に歩いているただの行列にしか過ぎず、そこに意思はないように見える……っていうことをイメージした時、「何か嫌だなあ」って思ったんです。「自分の主観で葛藤して歩いているんだ!」ということを何とかして示したいなと。それでふと思い出したことがあって。岡本太郎さんの本を読んだ時に「情念に流されるのはいい。ただ、“流されている”という自覚を持つのなら」というようなことが書いてあったんですけど、ほんとその通りだなと思ったんですよ。
EMTG:なるほど。自覚しているっていうのは、流されていることに対して諦めていないという可能性も含んでいますよね?
清水:はい。この曲の主人公もそういうことじゃないかと。彼はたしかに流されているんです。でも「流されている」という自覚を持ちながら葛藤しているんですよね。それってただ単に流されているのとは違う。だから多分、こいつは何かしらの殻を破って、その行列から脱け出すんじゃないかなと。そういう強い意思を1曲目で描きたかったんです。『ラブストーリー』っていうタイトルのアルバムだからこそ、そういう強い意思表示をまずしたかったんです。例えば「光の街」とかで始まると、それはいかにもって感じだなと(笑)。『ラブストーリー』っていうタイトルをつけるからには、ラブストーリーっていう言葉を定義することにもなる。だからまずはこういうものも描きつつ、「これもラブストーリーって呼んであげたい」っていうものを示したかったんですよ。
EMTG:「聖者の行進」は先程もお話したように、まさにサウンドと言葉、世界観が絶妙にリンクしている曲でもあると思います。
小島:やっぱり、話し合いがすごくちゃんとできたからですね。お互いのフレーズとかも考えつつ、思いっきりやれたので。「この楽曲ではこれがいい!」っていうのがハッキリありながら弾けました。
栗原:「この曲をどうしよう?」っていうことへのビジョンが明確だったんですよね。それぞれのアイディアを踏まえつつ、「じゃあ、自分はこうするべきだ」っていうのがすごくできたんです。3人の楽曲に対する意思がまとまっていたんだと思います。
EMTG:このアルバムって、back numberのチームワークもより緊密になれた作品っていうことですね。
清水:そういうことだと思います。以前よりも精度が上がっていますよ。
EMTG:精度が高いからこそ、リスナーに刺さってくる度合いがどの曲もものすごいんだと思います。先行シングルの「繋いだ手から」とか、大事なものが分かっているはずなのに、なぜか手放してしまう人間の愚かさ、不可解さを描くタッチが強烈ですし。『fish』の取材の時に申し上げた喩えを再び使うなら……自分の中にある愚かさ、古傷のカサブタをめくってくるような曲ですよ。
清水:これはカサブタで言うならば、笑顔でめくるような感じでしょうか。それくらいドSな感じが出せたのは、演奏による部分も大きいと思います。「ポップにカサブタをめくる」みたいなことが上手にならないといけないんですよ。笑顔で近づいて油断させておいて「スッ!」ってめくるような(笑)。
栗原:うわっ!(笑)。
小島:怖い怖い(笑)。
清水:そういうのが大事だと思います(笑)。そのためにも演奏の精度を上げないと。ノーストレスで心に入っていくものにするのって、すごく難しいんですよ。「ノーストレスで心に直撃!」みたいなものが、多分みんなが言う「ポップス」。これからもそこは追求したいです。そういうことに関して「繋いだ手から」は、もう一歩進めた感覚があります。
EMTG:素敵なポップスって自分の心の奥底にあるカサブタを鮮やかにめくりつつ、淀んだ膿を出してくれるような。そういう浄化作用も持っていますよね?
清水:そうですね。今までもカサブタをめくったりはできていたんですけど、そこに塩を塗っちゃったりもしていたかも。でも、よりポップになるには菩薩にならなきゃいけないと思っていて(笑)。あるいは千手観音のような。音楽とか、いろんなカルチャーは、最終的には人が幸せになるためにあるものだと思うので。だから描かれる結末がポジティブじゃなかったとしても、結果、それを聴いた人がポジティブになれるようなものを作るのがすごく大事。それは「人のため」とかいうことではなく、自分がワクワクできて救われるものを追求すると自ずとそういうものになっていくのかなと。そこは追い求めていますね。「ポップ菩薩」というか「ポップ観音」というか(笑)。
EMTG:「ポップ菩薩」「ポップ観音」って、いい言葉ですね(笑)。
清水:千手観音ってすごいと思うんです。あれを作った人ってすごい。僕、ライブの時に「千手観音になりたい」っていつも思いますもん。千手観音って1人1人とちゃんと手を繋げるじゃないですか。でも、僕は2本しか腕がない。しかも運の悪いことにギターを弾いているんですよ。手が余っていない(笑)。だから「手がいっぱいあればなあ。手がいっぱいあれば伝わるかなあ?」とか思うんです。でも、言葉を研ぎ澄ませて、メロディで手を伸ばせば、それに代わることができるのかなと。だから目指しているのは「ポップ千手観音」です(笑)。
EMTG:ポップカルチャーってたしかに千手観音ですね(笑)。音楽に限らず良い作品って、すごく手を差しのべながら心に迫って来ますから。
清水:例えば物語だったら主人公の体温を感じますよね? フィクションであったとしても、そこにその人がいるように感じる。それは作り話かドキュメンタリーか関係ない。作り話であったとしても、そこには真実があって、その人が生きている。それってすごいことだなと。だから「back numberは事実しか歌わないです」みたいなことを言っていた時期もありますけど、それ以上に大事なことがあるんじゃないかと。そういうことを考えるようになっています。

【取材・文:田中 大】

tag一覧 アルバム 男性ボーカル back number

リリース情報

ラブストーリー (初回限定盤A)[CD+DVD]

このアルバムを購入

ラブストーリー (初回限定盤A)[CD+DVD]

発売日: 2014年03月26日

価格: ¥ 5,800(本体)+税

レーベル: ユニバーサル シグマ

収録曲

[CD]
1. 聖者の行進
2. 繋いだ手から
3. 003
4. fish
5. 光の街
6. 高嶺の花子さん
7. MOTTO
8. 君がドアを閉めた後
9. こわいはなし
10. ネタンデルタール人
11. 頬を濡らす雨のように
12. 世田谷ラブストーリー

[DVD]
2013年9月7日に日本武道館で行われたback number live at 日本武道館-stay with us-の模様を全曲ほか、メイキング映像も完全収録。

リリース情報

繋いだ手から (初回限定盤)[CD+DVD]

このアルバムを購入

繋いだ手から (初回限定盤)[CD+DVD]

発売日: 2014年03月19日

価格: ¥ 1,500(本体)+税

レーベル: ユニバーサル シグマ

収録曲

[CD]
1.繋いだ手から
2.003
3.遠吠え
4.繋いだ手から(instrumental)
5.003 (instrumental)
6.遠吠え(instrumental)

[DVD]
「繋いだ手から」music video
making of “繋いだ手から”music video
roots of back number 〜そうだ、群馬へ行こう。〜

関連記事

ビデオコメント

お知らせ

■マイ検索ワード

●清水依与吏
1952年製テレキャスター

今もフェンダーのテレキャスターを使っていて、フェンダージャパンとフェンダーUSAの1952年製タイプはもう持っているんですけど、「本当に1952年に製造されたやつはいくらするのかな?」と。テレキャスターっていう名称で最初に出たのが1952年なんです。それで値段を調べたら、まあそれなりの値段でして。車が買えるような値段なんですけど、「こいつ、走らないしなあ」って(笑)。容易には手が出ないなあと思っているところです。

●小島和也
花粉情報

「今日の花粉」みたいなことを毎日調べていますね。今年こそ花粉症を抑えるために体質改善をしようと思ってヨーグルトを試したりしているんです。今のところ「成果が出てる!」と信じています。今朝もくしゃみと鼻水が止まらなくて、「ついに来たか!」って思ったんですけど収まりました。モーニングアタックだったみたいです。もともと鼻炎なので、その影響なんだと思っています(笑)。

●栗原寿
たこ焼き器

この前、3人で僕の家で鍋パーティーをやって、「家飲みって楽しいな」って思ったんです。だから「次はたこ焼きパーティーをしましょう!」って言ったんですよ。ネット通販とか、家電屋さんへ行ったりもして、たこ焼き器を調べています。「大きすぎてもアレだし、小さ過ぎてもなあ」と。いろいろ調べつつもまだ買わないのが最近楽しいです。あと、「和也くん、たこ食べられないしなあ」とか考えたり(笑)。


■ライブ情報

FM802 25th ANNIVERSARY 802GO! SPECIAL LIVE -REQUESTAGE12-
2014/04/29(火)大阪城ホール

back number love stories tour 2014
2014/05/14(水)【群馬】太田市新田文化会館 エアリスホール
2014/05/16(金)【群馬】伊勢崎市文化会館
2014/05/18(日)【埼玉】大宮ソニックシティ 大ホール
2014/05/23(金)【鹿児島】鹿児島県文化センター 宝山ホール
2014/05/25(日)【福岡】福岡サンパレス
2014/05/31(土)【岡山】岡山市民会館
2014/06/01(日)【広島】上野学園ホール
2014/06/06(金)【静岡】アクトシティ浜松 大ホール
2014/06/08(日)【兵庫】神戸国際会館 こくさいホール
2014/06/14(土)【北海道】札幌市民ホール
2014/06/20(金)【新潟】新潟県民会館
2014/06/21(土)【石川】本多の森ホール
2014/06/28(土)【宮城】東京エレクトロンホール宮城
2014/06/29(日)【岩手】盛岡市民文化ホール 大ホール
2014/07/04(金)【大阪】オリックス劇場
2014/07/05(土)【大阪】オリックス劇場
2014/07/13(日)【愛媛】松山市民会館 大ホール
2014/07/15(火)【香川】サンポートホール高松 大ホール
2014/07/19(土)【愛知】名古屋国際会議場 センチュリーホール
2014/07/23(水)【東京】中野サンプラザホール
2014/07/25(金)【東京】NHKホール

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る