plenty、制作とライブを重ねる中で、彼らの表現力が凝縮されたニューシングル
plenty | 2015.08.18
- EMTG:「よい朝を、いとしいひと」、対照的なサウンドの間を行き来するアレンジが印象的だったんですけど。
- 江沼:結構最初からこんな感じだったよね?
- 中村:うん。デモの段階からこのイメージはあったと思う。でも、一筋縄では行かない要素も入れたくて、音作りはいろいろ試しましたね。
- 新田:個人的には今回、5弦のベースを初めて使いました。一太と話し合って、使ってみることになったんですけど。ドラムとの絡みをすごく考えた曲です。最近、そういうのをいろいろやれるようになっているんですよ。
- EMTG:一太さんが入ってから、リズム隊のパワーアップ度合いがすごいと思います。
- 江沼:「リズム以外、別に何も重要じゃないです」っていうことを最近思うんですよ(笑)。
- EMTG:(笑)「メロディとかは重要じゃないの?」ってビックリする読者もいそうですが、言わんとすることはよく分かります。リズムって、実は曲の雰囲気をすごく左右しますからね。「このメロディがいい。歌詞が泣ける」とかいう観点で音楽について語られる場合が多いわけですけど。
- 江沼:メロディがどうこうとか、あれは嘘ですね。いや、まあ嘘ではないけど(笑)。歌詞も適当ではないですし、メロディが良くなければそもそも「この曲いいな」って思うこともないんだろうけど。でも、曲の展開、雰囲気とかってリズム、グルーヴ次第でしかないから。
- 中村:江沼ってリズムをすごく聴いているギターボーカル。それは僕も感じています。
- 新田:僕も頑張んないといけないなと思ってやっています。郁弥も一太もリズムに敏感なので、いろいろ意見を言ってもらえるのが嬉しいし、助かりますよ。
- 江沼:ベースって「地面」だから。歌って音楽の中でレンジ的に上の方じゃないですか。ぶらさがっている上の方が揺れてもあんまり関係ないけど、地面が揺れたら立っていられない。ベースってそういうものだと思っていて。だからそもそも音楽で一番難しくて重要なのはベース。ベースが下手だと歌が聞こえないですから。
- EMTG:この3人のアンサンブルに世武裕子さんのピアノが加わっているのも、「よい朝を、いとしいひと」の聴きどころです。世武さんは『re(construction)』にも参加していたし、江沼さんは彼女のブルーノートのライブにも出演しましたよね?
- 江沼:はい。今回のこの曲、元々のデモもピアノが入っていたから世武さんとやりたいなと思っていたところで「ブルーノートのライブを一緒にやらない?」っていう連絡が来たんです。だから「やります! ところで、1曲、録りたいんですけど」と。ブルーノートのライブも、良い経験になりました。スーパーバンドでしたから。宇宙を見させて頂きました。
- EMTG:アンサンブルの話にも繋がる部分ですけど、すごいプレイヤーたちの醸し出す世界って、「宇宙」って感じですよね。
- 江沼:そうなんですよ。ああいう経験をしちゃうと、もっとグルーヴを求めたくなります。
- EMTG:今、ふと思ったんですけど、P-FUNKとかプログレとかのグルーヴの鬼みたいなバンドが宇宙的なコンセプトのアルバムを作りたくなる理由もそこなのかも。
- 江沼:なるほど(笑)。
- 中村:パーラメントとか、ジャケットからそんな感じですもんね(笑)。
- EMTG:すごいアンサンブルの中でプレイする体験って、なんか只ならないものを感じるんだろうし、それを言葉にすると「宇宙」なんだろうなと。
- 江沼:たしかに宇宙はありますよ(笑)。音楽自体が原始的なものじゃないですか。言葉みたいなことを超越したものだから。何かと繋がっちゃう感じ。「命と繋がっちゃう」みたいな。そういう感じが「宇宙」っていうことなんでしょうね。
- EMTG:それってプレイヤーだけじゃなくて、リスナーも味わう感覚ですよ。良い音楽に触れた時って、何か根源的なものにふれた感じがしますから……あんまりこういうことを言い過ぎると、思想的に何かしらの団体とかと関係があると怪しまれそうですけど(笑)。
- 江沼:(笑)でも、ほんとそんな感じなんですよね。音楽って目に見えないですし、感じ取るものだからそういう感覚になるんだと思います。ゴスペルとか、まさにそういうものの一例なのかも。
- EMTG:「よい朝を、いとしいひと」も、そういう何か根源的なものに触れてくる曲です。
- 江沼:「移り変わり」みたいなことを表現したかったんですよね。歌詞に関しては《よい朝を、いとしいひと》というのが出て来て、一気に広がったんですけど。「外は朝なんだけど、寝ぼけてる」みたいな感じって、水中にいるようなボヤっとした、光が揺らいでいるようなイメージ。そんなことを思っていました。「~が好き」とか「~が嫌い」っていうような言語っぽいものよりも、もっと魂に近い側のことを最近描きたくなっているんですけど、この曲はそういうことの取っ掛かりですね。
- EMTG:《水槽》っていう言葉がすごく印象に残ります。
- 江沼:これは音の響き、言葉の響き、言葉の意味が丁度ぴったりきたんです。でも《水槽》っていう意味が大事なわけではないし、鳴っているものとの関係性があった上でのことなんですけど。これがつまり……宇宙ですね(笑)。
- EMTG:(笑)では、 2曲目の「さよならより、優しいことば」のお話へ。リズムの変化が面白かったです。カッチリした打ち込みっぽいノリから始まるけど、どんどん人間っぽいビートになっていくじゃないですか。
- 江沼:最初の方はシンセが入っているから、たしかに打ち込みっぽいよね?
- 中村:うん、そうだね。
- EMTG:「エレクトロっぽい感じの曲?」と思っていたら、どんどん人間が露わになっていくのが刺激的です。
- 江沼:リズム自体もチェンジしていますからね。でも、それを聴いて難しい曲みたいな印象にならないように心がけました。「チェンジした!」ってなるんじゃなくて、「気づいたら変わってた」っていう感じにしたかったんです。
- 新田:デモの段階から面白い雰囲気を持っていた曲です。リズムが変わっても、1つの波として繋がっているようなニュアンスがあるので。
- 中村:始まりと終わりの雰囲気の対比みたいなことも考えました。最初はマシンのような感じですけど、終わった時には気持ちが楽になるような柔らかい感じにしたくて。
- 江沼:「いい違和感」っていうことだね。朝、髪の毛をセットとして家を出て、夜帰って来た時に同じ状態なはずないじゃないですか? その感じ(笑)。そういう違和感を確認したくなって、また最初から聴きたくなるような曲が、自分もリスナーとして好きなんですよ。
- EMTG:これ、ユニークな要素はありつつも、とてもキャッチーな曲です。
- 江沼:はい。キャッチーだと思います。でも、入っている音の1個1個を抜いていくと、実はすごく奇抜なことになっている、っていう(笑)。それは「ポップ」の1つのあり方だと思います。前にもお話したことがありますけど、分かりやすいのがポップなのではなく、あんまりみんなが分からないことを分かりやすくしてあげるのがポップ。そこに自分たちなりにチャレンジしていきたいんです。
- EMTG:リズムチェンジが自然に聞こえる上で、ベースが果たしている役割が、かなり大きい曲でもあると思います。
- 江沼:そうですね。やっぱりベースって難しいですよ。
- EMTG:新田さんは、ベースがすごく重要なバンドで長年やってきたわけですね。
- 新田:まあ、楽しくやらせてもらっています。
- 江沼:青春真っ只中、ずっとベースをやってきたんだね?
- 新田:うん(笑)。ベースのことばかりを考えてやってきました。家でベース弾きながら寝ちゃって、起きた時に「何してたんだっけ?」ってなったり。そういうことが続く時期もありましたね。
- 江沼:ちゃんと寝た方がいいよ。
- 新田:その通りだと思います(笑)。
- EMTG:(笑)改めて言うのも変ですけど、plentyってメンバー個々が、すごく音楽への情熱を持っているバンドですね。
- 江沼:でも、どの職業も、ほんとはそういうことなんだと思いますよ。楽することばかり上手になっても仕方ない。生きているからには、みんな命懸けなわけですから。でも、好きなことが仕事になっているのは幸せです。1日中音楽をやっていても、誰からも怒られないですからね。俺はもうそれだけで幸せ。だから寝なくていい身体が欲しいくらいですよ。
- EMTG:今、アルバムを作っているんですよね?
- 江沼:はい。良いものになりそうなので、楽しみにして頂けたらと思います。
- EMTG:今年はすごく制作に没頭している日々になっていますよね? ワンマンライブは10月31日の日比谷野音だけじゃないですか。
- 江沼:昨年(2014年)、一太が入ってからミニアルバムを作って、ツアーをして。その流れのまま作品を作りたかったんですよ。だから「制作の年にしよう」って。でも、フェスとか対バンは多いんです。今まではあんまりそういうのはしてなかった……っていうか誘われなかったんですけど(笑)。
- EMTG:そうなんですか?
- 江沼:多分、一太が入ったことによって、バンドに見えてきたんだと思います。ユニットだと思われていたところもあったのかも(笑)。フェスとか、対バン、楽しいですよ。自分たちのことをよく知らないお客さんの前でやるっていう厳しさが、興奮するんです。それって音楽本来のあり方っていうか。ジャズだって、NYとかでやって下手だったらビール瓶とか飛んでくるでしょ?
- 中村:ありそうだね(笑)。
- 江沼:フェスはそこまでじゃないけど、そういう感じもある。「自分たちはどんなもんなのか?」っていうことができる経験なんですよね。だから今年の夏、いろいろな場所に出れるのを楽しみにしています。
透明感に溢れるギターと清らかなピアノの調べ/歪んだギターと力強いビートの高鳴り……対照的なサウンドの間を行き来しながら奥行き深い空間を描き上げる「よい朝を、いとしいひと」。リズムがダイナミックな変化を遂げる内にメロディの輝度が劇的に増していく「さよならより、優しいことば」。研ぎ澄まされ抜いた2曲による両A面シングルが完成した。昨年(2014年)から3人編成となり、作品制作とライブを重ねる中で深まっている彼らの表現力が鮮やかに凝縮された作品だ。plentyが今後世に送り出す楽曲にも繋がりそうなエッセンス、切り口も窺われる今作について江沼郁弥(Vo・G)、新田紀彰(B)、中村一太(Dr)が語る。
【取材・文:田中大】
リリース情報
ルイユの螺旋
発売日: 2019年02月13日
価格: ¥ 250(本体)+税
レーベル: キングレコード
収録曲
01.ルイユの螺旋
リリース情報
お知らせ
■マイ検索ワード
●江沼郁弥(Vo・G)
豚肉 食べられなくなる
豚肉が食べられなくなるらしいっていう話があるんですよ。豚の知能がイルカやチンパンジー並みに高いからっていう理由なんですけど。そういう運動も起きつつあるみたいです。俺、とんかつが大好きだから……嫌だなと(笑)。豚が知能が高いというのもショックでした。「人の会話とか、理解してたのかな?」って思うと、ぞっとします。実家の近くに豚小屋がいっぱいあったから、子供たちがよく「汚ねえ。くせえ?」とか言っていたんです。それを聞いて胸を痛めていたのかもしれないなと(笑)。
●新田紀彰(B)
スーツケース
どこかに行くのに必要だなと。今持っているのがでかいので、コンパクトなやつを買おうと思って検索しました。手頃な値段で、丈夫で、カギが付いていればいいので、そんなすごいこだわりがあるわけじゃないんですけど。今年のフェスに行く時とかにも使いたいです。
●中村一太(Dr)
ケネス・ウェイラム三世
サックス奏者です。最近、日本でも人気が出ているピアニストのロバート・グラスパーのファミリーです。今、新作を楽しみにしているミュージシャンの1人なんですよ。
■ライブ情報
RockDaze! 2015 Sun Summer Special THE BACK HORN×plenty×tricot
2015/08/21(金)福岡DRUM LOGOS
w/ THE BACK HORN, tricot
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w/ クリープハイプ, THE BAWDIES, SHISHAMO, and more...
plenty 2015年 唯一のワンマンライブ
2015/10/31(土)東京 日比谷野外大音楽堂
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
●江沼郁弥(Vo・G)
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