3作目『Bremen』で米津玄師が描く新しいヴィジョン
米津玄師 | 2015.10.16
- EMTG:タイトルはグリム童話の「ブレーメンの音楽隊」からですね。
- 米津:はい。アルバムの曲作りを始めて半分ぐらいで、「ウィルオウィスプ」という曲を作ってる時に何となく「ブレーメンの音楽隊」の話が浮かんで。今いる場所に疲れた動物たちが、もっと楽しい場所ブレーメンに行って音楽隊でもやって暮らそうぜっていう話じゃないですか。それが、今自分が考えてたこととか、アルバムを作るにあたってイメージしていた映像みたいなのとすごくリンクしていて。それは廃墟になった街の、使わなくなった高速道路の上を、まだ生きている街の光を背に進んでいくっていうイメージ。それがすごくブレーメンと似てるなと思って。
- EMTG:それは先行シングル「アンビリーバーズ」のテーマと重なりますか。
- 米津:そうですね。「ウィルオウィスプ」は「アンビリーバーズ」を作る前からあって。「アンビリーバーズ」は、そうやって進んでいく人たちの、一番先頭にいる人間の曲。
- EMTG:「ウィルオウィスプ」も自立を促す歌ですよね。それはそれは米津さん自身が、新しいところに向かっているということと重なる決意表明みたいにも思えたんですけど。
- 米津:ああ、「ウィルオウィスプ」という曲に限って言えば、致し方なく進んでいく子供達というイメージなんです。いろんな流れに押し出されて、しかし後に戻ることもできず前に進むしかないっていう。それは決意とは違うのかな。それは自発的であったにしろ、そうせざるを得ない状況になったとしろ、原因はどうであれ、そこから自分たちがどうするか。それには前を向かなければならないという点では一緒かなと思います。
- EMTG:PVが公開された「フローライト」。フローライトとはホタル石のことで、子供のような心を蘇らせるパワーストーンらしいですけど。
- 米津:フローライトって元々好きで。光によって色が変わったりするらしいんですけど。石とか、目に見える実際そこにあるものに対して、ふとした瞬間に昔のこととか思い出したりする瞬間とかあるじゃないですか。例えばコーヒー飲んだ時に、コーヒー好きだったあいつのことを思い出すとか。コーヒーを通してあいつの顔を見ているとか。そういうものでは、形にならないものが、形になる瞬間というのがあって。それを一つ曲にしてみたいと思いました。
- EMTG:「メトロノーム」はピアノと弦が入って、米津さんとしては新機軸かと?
- 米津:昨今のR&Bというか、そういうものが好きな自分もいるんで、自分がそういうものを作ったらどうなるかなっていうのがあって。
- EMTG:自分の曲をこういう音にしてみてどうでした?
- 米津:すごいいい曲になったなと思う。極端なことを言えば、僕はメロディと歌詞とコードさえ100%よければ、あとはどうにでもなると思ってるんです。それはある種自分の強みだなと思ってる。その3つに対してものすごく自信があって。この3つさえちゃんとしてれば、どれだけ振れ幅が大きいアレンジになっても、結果自分の曲になるという自負がある。
- EMTG:そうすると、逆にいろんな音を入れてみたかったり、自分の曲を生かす音を模索したくなったり。
- 米津:そうですね。『YANKEE』の時とかは、バンド幻想があって、そこに対するコンプレックスもあったから、そこにこだわっていたんですけど。『YANKEE』を作り終わって、ある程度それがフラットになって、「Flowerwall」からそうですけど、もうバンドに縛られる自分というのが薄れて、すごい自由になったのかなと思います。
- EMTG:その自由さからか、ハチ名義の曲をツアーで演奏して、もう1回自分にすり合わせてるイメージもありましした。この新作も米津さんの自分の過去に対する許容性みたいなものが出てるような気がするんです。
- 米津:あるいはそうかもしれない。でも根本的には自分では違うと思ってて。自分の考え方とか意識の違いなんですけど、昔ボーカロイドで作ってた頃の打ち込みの曲というのは、いろんなものをシャットダウンして、自分が思う美しさとか、そういうものを求めて、作っていて。最近の打ち込みっていうのはそうではなくて、いろんな、なんていったらいいんだろうな、ボカロの頃のシャットダウンしたツケをすべて取っ払ってフラットになった上での、打ち込みなんで、結果としては確かに一緒ですけど、形としてはそうかもしれないですけど、自分としては根本的に違うもの。
- EMTG:アップデートして上書きしていくみたいな?
- 米津:ああ、アップデートして上書きしてるのは、確かにそうですね。俺が勝手に思ってる、基本的にものを作る人間の姿勢というのは、やっぱり過去のものをある程度否定しなければ前に進めないというのがあって。それは過去のものが嫌いというわけではなくて、現に昔作った『diorama』とか『YANKEE』の曲とか今も聞いたりするし、いい曲だなと思ったりするし。でもそこにとどまり切ってはいなくて、そのために、それを否定しきれなければ、新しい曲を作っても意味ないから。
- EMTG:前の取材で、お引越しされてから、すごく曲ができるようになったとおっしゃっていました。その成果が本作?
- 米津:そうですね。さっき言ったような、廃墟の街や使われなくなった高速道路を進んでいくというイメージも、今俺が住んでいる街から来てるなあというのはありますね。俺の目のフィルターを通した街ですけど、そういう風に見えるなって。
- EMTG:このアルバムは起承転結的な流れがあるようにも思えたんですが?
- 米津:起承転結では考えてなかったんですけど、アルバムを通してグラデーションを描いていくというか。最初に作ってる時に、曲同士で対話をさせたいと思っていて。単純な二律構造にすると、明るいものと暗いもの、ものすごく明るい曲があれば、ものすごい暗い曲があるという。そういう音とか言葉を同じアルバムに入れ込むことによって、結果どういう着地点につくのか、自分でも見てみたかったというのはあります。曲ごとにというわけではないんですけど、”どこかに行く”というのと、”どこにも行けない”というのを、ひとつのアルバムの中に入れたり。
- EMTG:最後の「Blue Jasmine」で、その対比がひとつに落ち着く感じがします。
- 米津:アルバムの最後にできた曲で、1曲前の「ホープランド」で”いつでもここにおいでよ”と歌ってるんですけど、ここってどこなんだと自分で思ったんですよ。精神的な拠り所ならいいけど実際の場所として自分が提示することができなくて。このアルバムを聴いてくれた人は自分の住んでいる街で暮らしていかなければならない。そうなった時に「ホープランド」で提示した”ここ”に変に縛り付けてしまうかもしれない。それで「ホープランド」の後に、自分の半径5メートル以内にあるものを100%大事にする曲を作って、そういう呪縛を解く必要があるかなと思って作りました。
- EMTG:ブレーメンの街にはいかないけれど落ち着ける場所を見つける、童話と通じる感じがしますね。
- 米津:100%自分の理想が再現できる王国なんてものは存在しなくて、いろんなものと衝突しながら、いろんなものと妥協しながら生きていく必要があって。だから理想の反対側にある、すごく肉体的な、目の前にいる人間に、能動的な、今回は愛の言葉ですけど、そういうもので働きかける表現で、このアルバムは終わらなければならないと思いました。
- EMTG:米津さんは明快な目標というか行動理念をお持ちですよね。目指すところはどこなんでしょう?
- 米津:基本的には音楽ですけど、作ってるのは。ジブリっておじいちゃんも幼稚園児もわかるもので。それは作品として、ものすごい驚異で、ものを作るという点でものすごいものだと思う。ゆくゆくはそういう存在になれたらと思いますね。
グリム童話「ブレーメンの音楽隊」のように新天地を目指す、米津玄師の3作目『Bremen』。先行シングル「アンビリーバーズ」で歌った、既存のものを信じないことで自分たちの信じるものを見出す、というテーマの先にあるのは理想郷ではなく、目の前にある大切なものだ。それを歌った「Blue Jasmine」は、美しいラヴソングだが、そこでも彼は”変わらなければならない”と歌う。バンド編成にこだわらず自ら手がけた多彩なトラックやストリングスやピアノを入れた幻想的なナンバーなど、これまで以上にカラフルな14曲が変わり続ける彼を浮かび上がらせる。穏やかな口調で『Bremen』が描く新しいヴィジョンを、米津は語ってくれた。
【取材・文:今井智子】
リリース情報
配信リリース「J-POPは終わらない」
発売日: 2019年08月07日
価格: ¥ 250(本体)+税
レーベル: WM Japan
収録曲
01.J-POPは終わらない
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浦沢直樹
たまたま、「MONSTER」という作品を友達から、面白いって勧められて。他に好きな漫画は、「NARUTO」とか「ONE PIECE」とか。最初に好きになったのは、その辺ですね。
■ライブ情報
米津玄師 2016 TOUR / 音楽隊
2016/01/09(土) Zepp DiverCity
2016/01/12(火) 徳島club GRINDHOUSE
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2016/01/31(日) BLUE LIVE 広島
2016/02/03(水) Zepp Sapporo
2016/02/06(土) Zepp Tokyo
【追加公演】
2016/02/11(木・祝) 東京 豊洲PIT
2016/02/12(金) 東京 豊洲PIT
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
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