安岡 優ソロアルバム『バラードが聴こえる』をリリース

安岡 優 | 2015.10.21

 昨年12月にデビュー20周年を迎え、ベストアルバム『G20』をリリースした後、全都道府県を巡るツアーを行ったゴスペラーズ。その余韻も冷めやらぬ中、メンバーの安岡 優がソロアルバム『バラードが聴こえる』をリリースする。以前からソロ活動をコンスタントに積み重ねてきたが、CDパッケージという形で作品をリリースするのは今回が初。ライブのステージを共に作ってきたバンドメンバーたちと響かせるサウンドの数々が心地よい。表現力豊かな歌声をリスナーの心へと届ける1枚だ。今作の制作の背景にあるもの、各曲に込められている想い、作詩に対する考え方など、様々な事柄について彼に語ってもらった。

EMTG:CDというパッケージで作品を出すのは初めてですよね?
安岡:初めてです。以前、本を出させて頂いた時に付録として9曲入りのCDをつけたことはあったり。あと、お芝居形式のソロライブの時、パンフレットにそのお芝居の主題歌を3曲入りのシングルみたいな形でつけたこともあったんですけど。
EMTG:制作は、どのように始まったんですか?
安岡:昨年末にゴスペラーズが20周年を迎えて、その後にツアーを回ったんですけど、大きな節目の後は大体長めの休みがあるんですよ。だから、そこを見越して5年くらい前から狙っていました(笑)。
EMTG:(笑)このアルバム、全体的にバンド感が出ているのが印象的です。
安岡:バンドスタイルでライブを重ねてきた中、「バンドのボーカルに収まる」という気持ちよさをすごく感じていたんです。ロック少年だった10代の頃の感覚を思い出しました。だから音楽的には、そういうものを真ん中に据えたプロダクトをしたいと思っていました。
EMTG:例えば「Border line」は、すごくパンチの利いたバンドサウンドですね。
安岡:ゴスペラーズでも携わってもらっている同世代の宇佐美くん(宇佐美秀文)がイメージする「バンドでやる安岡 優」を形にしてもらいました。まさに生バンドありきの曲ですね。
EMTG:「DOOR」の温かなバンドサウンドも、心地よかったです。
安岡:バンドのキーボードの大坪さん(大坪稔明)さんが曲を作ってくださいました。新曲を作ったら、まずステージに乗せてバンドと一緒になって歌ってみて、お客さんの反応を見つつさらにアレンジを加えていくことをしていたんですよね。だから今回の曲の大半は、バンドメンバーと一緒に練り上げていったものです。
EMTG:「Welcome to the brand new world」は、お客さんが手拍子をして盛り上がっている風景が思い浮かびます。
安岡:ゴスペラーズでもギターを弾いて頂いている福原さん(福原将宜)の作曲です。ゴスペラーズでもいろんなジャンルの音楽をやっていますが、僕がソロで歌うならば、やはりロックではないかとおっしゃってくださったんです。
EMTG:ハーモニーを形成しながら歌うゴスペラーズと、バンドサウンドの中で歌うソロ。シンガーとしての感覚の違いは何か感じていますか?
安岡:ゴスペラーズは全員がリードボーカルもバックコーラスもやるので、押し引きの両方ができないといけないんです。それに対してソロって「押す」っていう部分がクローズアップされるのかと思っていたんですけど、そうではないと感じるようになったんですよね。ソロの歌は、シンガーの押し引きによって表情が生まれるんです。だから強弱、抑揚をより繊細につける必要があるんだと思います。
EMTG:例えば「もっと君と話したい」は、まさに繊細な表現力が発揮されている歌ですね。
安岡:今回唯一、詩先で作った曲です。5年前に本を出させて頂いたんですが、それはいろんな映画を観て綴ったエッセイ。それぞれの映画の主題歌を勝手に作ってしまおうっていうことをやったんですけど。
EMTG:『ぴあ』の連載ですよね?
安岡:そうです。その本に載せた歌詩の中で実際に聴いてみたい曲を、みなさんに投票して頂いて、最も票を集めたのが「もっと君と話したい」でした。この歌詩は、『マイ・ブルーベリー・ナイツ』を観て書いたもの。曲先だったら、このメロディは出てこなかったと思います。この20年間で様々な曲の書き方をしてきたんですけど、いろんなやり方を通じて自分の歌詩の世界に落とし込むというルートを確立できたような気もしていて。いろんな方々の作品にも触れて1から勉強してきた中、職業欄に「歌手」とは別に「作詩家」と書けるように徐々になってきたのかなと感じています。
EMTG:「作詩」って、どのような表現だと思っています?
安岡:これは僕の意見ですが、作詩って「字を書いてる」ではなくて、「音を書いてる」なんですよね。だから歌詩カードはありつつも、読まなくても伝わるのが歌詩。そして、文章に句読点があるように、歌詩にも句読点のようなニュアンスのものがあるんです。話す時に息継ぎをしないと話し続けられないのと同様、実は耳も息継ぎのようなことをしながら聴き続けているんですよね。その息継ぎを上手に理解してその通りに届けたり、敢えてズラしてびっくりさせたり。それが作詩だと僕は思っています。
EMTG:僕、1曲目の「Luz」の言葉の響きの心地よさにまず魅了されたんですけど。シンプルな表現の歌詩ですけど、奥行き深い感情が伝わって来ます。
安岡:ありがとうございます。「Luz」はスペイン語、ポルトガル語でも同じ綴りなんですが、「光」っていう意味。曲先でメロディをまず作って、その時に何となく浮かんだのがこの言葉だったんですよ。だからタイトルだけつけて、数年置いておきました。
EMTG:それが、今回形になったわけですね。
安岡:そうです。アルバムを作るにあたって「入り口であり出口でもある曲が欲しいな」と。このアルバムのタイトルは『バラードが聴こえる』ですが、バラードって本来「しっとりしている」とか「ゆっくりなテンポ」ということではなくて、「吟遊詩人が話すことをメロディに乗せて歌として届ける」っていうことなんですよね。だから、各曲が一篇の物語のようになったらいいなと思いながらも、アルバム全体からも1つの物語が浮かび上がるようなものにしたかったんです。
EMTG:このアルバム、1人の大人として紡ぎ出したものが、すごく自然に反映されている作品でもあると感じたんですが。
安岡:僕が10代の頃とかも、リアルタイムの自分とリンクする音楽でなくても、「こうなりたい」っていう大人像や憧れを抱かせてくれたんですよね。そういうポップスが、今、減っているようにも感じていて。大人は子供をしていた時期があるから、無理しなくて子供の頃のことが分かっているし、「分かっている」って殊更に言わなくてもいいと思うんですよ。それよりも大人しか表現できないことをして子供の憧れになる方が、ポップスとしてあるべきスタンスなのかなと。僕は阿久 悠さんを尊敬していて、ゴスペラーズでも1曲作詞をして頂きましたが、「“等身大”という言葉が増えすぎてる。せっかく、どんな魔法でもかけられる音楽という世界なのに、“等身大”しか存在しなければ、ステージの上から灯り、光が消えてしまう。だから僕らは現実、もしくは自分では手が届かないものを提供しなければいけないのかな」っていう旨のことをおっしゃっていて。それは僕も共感します。
EMTG:例えば「あなたのせいさ」は、大人の世界ですよね。往年の歌謡曲のような哀愁も感じます。
安岡:昔の歌謡曲って悲しみを悲しみのまま歌にした曲がたくさんあったんですよね。今は「悲しい時に元気にならなきゃいけない」っていう世の中になっているのかもしれない。でも、人間は「悲しい」という気持ちのまま終わりたい夜だってあるし、「私の代わりに泣いてくれる歌」というものだって必要。そういう歌を書きたいと思っていました。
EMTG:あと、今回、唯一のカバー曲が「坂道のうた」ですね。
安岡:作曲をされた千住 明さんのコンサートに昨年、ゲストとしてゴスペラーズを呼んで頂いたんです。その時にこの曲を歌わせて頂きました。作詞は覚和歌子さん。震災後に新しく作られた幼稚園の園歌として作られた曲です。「津波が来たら坂道を登れ」という先人の言葉が100年後もなくならないようにという想いがこめられた曲ですが、園児が笑顔で歌える歌として形にした歌詞、笑顔で歌いたくなるメロディが、この曲にはあるんですよね。コンサートで歌わせて頂くにあたって、家で1人で譜面を見て練習をしたんですけど、歌いながら涙がこぼれてきました。簡単に言葉では言い尽くせない様々な感情が、「笑顔」というたった1つの出口から伝わって来る歌です。自分が「歌手」という職業をしていることに関して使命があるとすれば、この曲を歌って誰かの胸にバトンを渡すこと。「この曲がある」っていうことが伝わればいいなと、まず何よりも思っています。
EMTG:このアルバムに収録されることが、曲の存在を広める機会になって欲しいということですか?
安岡:はい。単純に1人のシンガーとしてこの曲を再生する「再生機」としての役割が自分に回ってきたのだと感じています。レコーディングしてメジャーレーベルからリリースすることには、僕の歌に価値はなかったとしても大きな意味があるんじゃないかなと。
EMTG:なるほど。そして、ラストを飾る「The Birthday Song」が素敵です。
安岡:最初にバンドメンバーとツアーを回った後、「年に1回は集まってライブをやりたい」っていうことになって、僕の誕生日ライブを毎年やるようになったんですけど、毎年自分の誕生日にライブをやるというのは何だか気恥ずかしい。どうせ気恥ずかしいならば行くところまで行って、バースデーソングも作ってしまおうと(笑)。でも、ライブを続けたことでバンドメンバーとの縁が続きましたし、僕のライブに来てくれるお客さんとの縁も続いたんですよね。その縁がアルバムに繋がったと思うので、今回収録させて頂きました。
EMTG:さて。このように素敵な曲がたくさんある中、「チャネリング☆ファンク」は、何と申し上げましょうか……独特の存在感を放っていますね(笑)。
安岡:すみません(笑)。
EMTG:作曲と編曲はDANCE☆MANさん。安岡さんはTHE☆FUNKS(ミラーボール星の兄弟デュオ)のプロデューサーでもありますが、そのご縁で?
安岡:そうです。THE☆FUNKSプロデュースでも1曲やりたかったので、DANCE☆MANさんにお願いしました。ファンクの良さって、どこまでもラブ&ピースの感性で遊べるところなんですよね。そこをメジャーレーベルの限界まで楽しみました。言葉の響きも含めた遊び心を感じて頂ければと(笑)。
EMTG:(笑)このアルバムのリリースと同タイミングでツアーがありますが、今後の活動のビジョンは?
安岡:まずツアーを僕も楽しみにしています。あと、僕はソロでは「単独公演」というお芝居形式のライブもやっているんです。そういう自分なりのスタイルや今回のアルバムが、また何か新しい物語に繋がっていけばいいなと思っています。ありがたいことにゴスペラーズで忙しくさせて頂いているので、その合間を縫っての積み重ねになると思うんですけど、まだまだいろいろやっていきたいですね。ゴスペラーズとして挑戦を続ける中で、僕にしかできない挑戦もさらに見えてくるはず。ゴスペラーズとしての挑戦と僕にしかできない挑戦、その両方が強い光になれるように頑張っていきます。年に数回の活動になるとは思いますが、見放さずお付き合いください(笑)。

【取材・文:田中 大】

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ビデオコメント

リリース情報

バラードが聴こえる

バラードが聴こえる

2015年10月21日

Ki/oon Music

1. Luz
2. Border line
3. もっと君と話したい
4. あなたのせいさ
5. Door
6. 坂道のうた
7. Welcome to the brand new world
8. チャネリング☆ファンク
9. The Birthday Song

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お知らせ

■ライブ情報

安岡 優 ソロツアー“バラードが聴こえる”
2015/10/20(火)東京・Mt.RAINIER HALL
2015/10/21(水)東京・Mt.RAINIER HALL
2015/10/24(土)Billboard Live OSAKA
2015/10/25(日)名古屋ブルーノート

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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