KANA-BOON “起源”を意味するタイトルの3rdアルバム『Origin』をリリース

KANA-BOON | 2016.02.17

 ロックバンドにとって成功とは何だろう? 2013年にメジャーデビューをしたKANA-BOONは傍から見れば、勝ち組バンドだ。昨年リリースした2ndアルバム『TIME』はオリコン4位を獲得、日本武道館&地元・大阪城ホールでの2大アリーナ公演も大盛況だった。だが、その裏でメンバーはギリギリの状態のまま走っていたと言う。売れたがゆえに世間の批評に曝され、抱かれるパブリックイメージに苦悩してきた。それを乗り越えてKANA-BOONが作り上げたのが、この3rdアルバム『Origin』だ。“起源”を意味するタイトルのとおり、今作は、KANA-BOONがバンドを始めたころの気持ちを取り戻すために作り上げた作品でもある。自らを縛る枷から抜け出す解放のロックアルバム『Origin』。その完成を経て、ここからKANA-BOONはもう一度走り出す。

EMTG:いきなりですけど、いまのKANA-BOONって何かひとつやり切ったというか、燃え尽きたみたいな、そういう感覚ってありませんか?
古賀隼斗(G):まだまだやろ、とは思ってますけど……。
谷口鮪(Vo・G):もちろん何に関しても、まだまだなんですけど。デビューしてから、こんだけ上り調子でやってきて、ある種の満足感ではないけど、正直そこに甘んじてるような、ぬるま湯に浸かってる感覚はありましたね。
古賀:現状に甘えてるってことだよね。
谷口:これは、『Origin』にも続いていく話なんですけど、夢がどんどん叶っていくなかで、「さらに高みを目指そう」っていう熱意とか、がむしゃらな欲望とか、そういうのは褪せてしまった部分もあったりして。『Origin』ができて、それは解消されたんですけど、ダメな自分たちっていうのはどっかにいましたね、絶対。
EMTG:うん。そうだよね。アルバムの「スタンドバイミー」っていう曲は、まさに夢を見失った切なさみたいなものが書かれてるような気がして。それで最初に聞いてみたんです。
谷口:そうですね。いまデビューして3年目ですけど、夢も叶って、見る景色もずいぶん変わって、幸せのなかにおるはずなんですけど、音楽との距離が離れていってる部分もあったんです。音楽をはじめたころの純粋さが失われてきたというか。デビューしてから、メンバーもそれぞれ辛い部分があったけど、KANA-BOONはそれを1回も表に出さなかったし、出せなかったから。それで走り続けてきたことに限界が見えてきたんです。だから「ここで1回リスタートしなきゃいけない」っていう話を、レコーディングの途中でメンバーとして。その後にできたのが「スタンドバイミー」なんです。そこで初めて弱音を吐き出せたことによって、これから何をいちばん大事にしなきゃいけないのかっていう新しい目標もわかった。それを全部「スタンドバイミー」に込めました。この曲ができてなかったら、アルバムもいまみたいなかたちになってなかったと思います。
EMTG:なるほど。それはみんな共通して抱えていたものだったんですか?
飯田祐馬(B):KANA-BOONはもともと“音楽=仕事”でつながらないところがあって。そこらへんのバランスがとれてなかったんだと思います。器用じゃないバンドやから、「いや、全然楽しいですよ!」とか言っちゃうタイプで(笑)。それがウソをついてるみたいな感じで崩れかけた状態やったんです。結局バンドは4人でひとつやから、ひとりがそれを「しんどい」とか言ったら終わっちゃうような気がしてたんです。
古賀:だから口に出すっていうのが大事な作業だったんですよね。もしかしたら辛いのは自分だけかもしれないじゃないですか。万が一、そうである可能性がある限り言えなかった。だから「4人ともそうやった」っていうので安心感は得られたし、またひとつになれたというか、同じ目標に向かうっていう気持ちになりました。
小泉貴裕(Dr):レコーディングは夏ぐらいからだったんですけど、その時期は僕もガチでいちばん悩んでたので。ミスがないライブが良いライブじゃないのに、とにかくミスしないっていう意識に変わってたんです。もう音楽を100%楽しむっていう感覚ではなくて。それが自分のドラムにも影響が出てきてた。だから、そのミーティングで悩んでることを理解してもらって、それからのライブは気持ちがラクになりました。本当にその話し合いがなかったら、いまどうなってたかなと思いますね。
EMTG:なるほど。だから、「スタンドバイミー」では《飛び出せ世界もう一度》って歌ってて、ここからリスタートする決意が込められているんですね。
谷口:そうですね。すごくポジティヴなんですよ。いままで、そこをないがしろにしちゃってたから。強がって強がって、全然傷ついてない、痛んでないふりをしてきたので。そこを素直に認められたうえで、もっと強くなっていこうっていう気持ちですね。
EMTG:その結果、KANA-BOONがKANA-BOONの枠を超えたというか。ロックバンドとしてより自由に進化したアルバムになったわけですけど、その手応えはありますか?
谷口:そこは自信がないままですね。『TIME』のときみたいに、「良いものができました!ドーン!」みたいな感じはないんですよ。それは悪いことじゃなくて。去年1年間を経て、音楽的にも人としても成長したし、慎重になれてるというか。満足点が高くなってると思います。古賀がよく言ってるんですけど、『Origin』は求められてるKANA-BOONをあんまり考えずに、好きなことをやってる。だからこそ不安というか、自信がないというか……。
古賀:いや、違うよ!自信はあるやろ?自信は100%あるんですよ。めちゃくちゃ良いのが録れたと思ってます。でも、今回のアルバムは、お客さんのニーズには応えてないので、どう捉えてくれるかが不安なんです。その不安が来るのは、自分らが好きなことをやったからなんですよ。それをすごく言いたいです、僕は。
飯田:かっこいいな(笑)。
古賀:自信はあるやろ?だって。
飯田:おれは、その言葉にすごく救われたんですよ。「なるほど!」と思って。
古賀:自分らのなかではいままでいちばん良いものを作ったっていう自信は絶対的にあります。それがみんなの心に届くかが、いま不安なんですよね。
EMTG:たしかに、いままでのKANA-BOONにないタイプの曲が多い作品ですよね。なかでも、わたしは「インディファレンス」がすごく好きですよ。
飯田:この曲人気やなあ(笑)。めっちゃマイナーなやつや。
EMTG:《悲しみをトレンドにしてしまう》っていうフレーズが印象的でした。
谷口:タイミング的に“悲しみ”っていうことに敏感になってたんです。その……パリのテロがあって。いままでは悲しい出来事に対してもポジティヴなメッセージをのせないといけないっていう自分がいて。そういうことを歌うには、責任も伴うから、歌えなかったんです。それを、どういうかたちなら無責任にならずに歌えるかなと思ったときに、自問自答していく。悲しみが流れてしまうのも、結局は誰のせいでもなくて、自分のせいじゃないかっていうかたちで書くことにしたんです。
EMTG:いま言った「悲しみもポジティブに持っていかなくてはならなかった」っていうのは、改めて鮪くんの口から語られると酷ですよね。
谷口:まあ、でもKANA-BOONはそういうバンドやし。ポジティブに変換していくバンドやと思います。それは、いままでの活動のなかで自分たちが作ってきたイメージでもあるし、作られてきたところでもあるし。だから今回はそこから抜け出したいっていうところですよね。いつだって元気にやっていくっていうのは絶対にウソやし。強がることも大事やけど、認めてあげることも大事やってことに気づけたんです。
EMTG:鮪くんがソングライターとして開放されていく様子をメンバーはどう見てます?
谷口:あんまり変わらんかな……(笑)?
飯田:うーん、前までは、「俺はこう思う、まあ(伝わらなくても)いいけど」みたいな感じの、なんて言うんですかね。これ言っていいんかな……「あなたたちにはわからないでしょうね」みたいな。そんな投げやりじゃないんですけど……難しいな、言葉って(笑)。
EMTG:自分のなかで完結してたというか、どこか内に向いていた感じ?
谷口:そう。それが、もうちょっと外に広がってきたなっていうのはありますね。外に出すっていうのは責任感がいることだから、人間的にも強くなったんじゃいかなと思います。また出したあとに叩かれるんかな……とかは心配ですけど。
古賀:でも、音楽ってそういうのが大事やったりすると思うんです。いまの時代って周りを気にして音楽をつくるというか。音楽は唯一周りを気にせずに言葉を発信できるツールやったのに、それさえも言えない空気になってる。みんなに賛同を得る歌詞ばかりになってしまうのはやりたくないので。こういう鮪のぶっこみというか……。
谷口:ぶっこみ!?
古賀:まあそういう(笑)、攻撃的な歌詞が出てきたのはうれしいですね。平和的な歌詞ばっかりやと、自分が音楽をやってるモチベーションにも関わってくるし。僕はギターでしか表現できないから、言葉として発信できる鮪の歌詞は頼りにしてます。
EMTG:で、その骨太になってきた歌詞を支えるのがサウンドの変化ですよね。いままではKANA-BOONといえば疾走感だったけど、今回はサウンドがすごく重たい。
小泉:今回はレコーディングをするときに、ズシンとパワー感があるイメージっていうのは鮪から言われてたんです。それで、鮪がイメージする洋楽を聴いたりして。そのためにドラムセットも違うものを使って、全曲でドラムが力強く構えてるっていうのをイメージしてるので、それをわかってもらえるのはうれしいですね。
EMTG:ちなみにモチーフにした洋楽は?
谷口:フーファイ(ターズ)です。ずっとKANA-BOONのサウンドに劣等感みたいなのがあったんです。重さがないっていう。そこが気がかりやったから、今回のアルバムでは、パワーのあるものを作りたいなっていうのは早い段階から思ってましたね。
EMTG:フー・ファイターズっていう名前が出るってことは、いまKANA-BOONは本当に力強くて、王道のロックアルバムを作る、みたいなところに向かってる?
谷口:どうでしょうね。やっぱり去年ぐらいから、いわゆる邦楽ロックはメインストリームじゃなくなっていくんじゃないかっていう感じがあるんです。ぼくらと同世代だと、(水曜日の)カンパネラとか、Suchmosとかシギー(Shiggy Jr.)とか、ワイキキ(Ykiki Beat)とか、いろんなタイプの音楽がどんどん出てきてて。
EMTG:ジャンルレスなバンドが増えてますよね。
谷口:そういうなかで、KANA-BOONの良さ、自分たちの居場所というか、成るべく姿を考えたときに、ど真ん中がいいなって。つまり、王道で進んでいくこと。昔からこの気持ちは変わらないですけど、それが最近は鮮明になってきたと思います。
EMTG:まさに、そこに向かってる作品だと思います。では最後に、一度は夢を見失いかけたKANA-BOONですけど、いま改めて思い描く夢はありますか?
谷口:今回の話し合いがあって、アルバムに向き合いながら出てきたテーマは、「音楽をもう一度楽しむ、はじめたときの気持ちを取り戻す」、そういうところだったんです。楽しみながら、好きなことを自由にやっていくには、どうしたらいいのか。そういうことをいま考えてます。もっといろんなことに干渉しながら、なおかつ自分たちに責任を持ってやっていこうっていう。もう1回夢を取り戻したいんです。

【取材・文:秦理絵】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル KANA-BOON

リリース情報

透明造花

透明造花

発売日: 2020年04月22日

価格: ¥ 238(本体)+税

レーベル: RO JAPAN RECORDS

収録曲

01.透明造花

ビデオコメント

リリース情報

Origin(初回生産限定盤A)[CD2枚組]

Origin(初回生産限定盤A)[CD2枚組]

2016年02月17日

Ki/oon Music

[DISC 1]
1. オープンワールド
2. 机上、綴る、思想
3. なんでもねだり
4. ランアンドラン
5. anger in the mind
6. インディファレンス
7. talking
8. グッドバイ
9. 革命
10. ダイバー
11. スタンドバイミー
12. Origin

[DISC 2]
KANA-BOONが人間をつくります。
1. 見たくないもの
2. 目と目と目と目
3. MUSiC
4. ピアスを開けた
5. talking
6. うそばっかり
7. クローン
8. かけぬけて
9. 僕らはいつまで経ってもさ
10. Construct Connect

お知らせ

■ライブ情報

KANA-BOONの格付けされるバンドマンツアー 2016
2016/04/16(土)千葉 幕張メッセ国際展示場9~11
2016/04/26(火)愛知 日本ガイシホール
2016/05/03(火・祝)大阪 インテックス大阪 5号館
2016/05/04(水・祝)大阪 インテックス大阪 5号館
2016/05/11(水)広島 BLUE LIVE HIROSHIMA
2016/05/12(木)広島 BLUE LIVE HIROSHIMA
2016/05/14(土)福岡 福岡国際センター
2016/05/31(火)新潟 新潟LOTS
2016/06/01(水)新潟 新潟LOTS
2016/06/03(金)宮城 仙台PIT
2016/06/04(土)宮城 仙台PIT
2016/06/10(金)札幌 Zepp Sapporo
2016/06/11(土)札幌 Zepp Sapporo
2016/06/16(木)石川 金沢EIGHT HALL
2016/06/17(金)富山 MAIRO
2016/06/22(水)岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
2016/06/24(金)高知 CARAVAN SARY
2016/06/25(土)香川 高松 festhalle ※新ライブハウス
2016/07/03(日)沖縄 ナムラホール
2016/07/09(土)香港 Music Zone@E-MAX
2016/07/10(日)台湾 THE WALL

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る