アカシックがファーストフルアルバム『凛々フルーツ』をドロップ

アカシック | 2016.03.03

 変化球で攻めていた技巧派ピッチャーが伸びのあるストレートも手に入れ、さまざまな球種で鮮やかにバッターを打ち取っていく。昨年6月にミニアルバム『DANGEROUSくノ一』でメジャーデビューしたアカシックのファーストフルアルバム『凛々フルーツ』は、そんな成長をみせる意欲作だ。バンドとしての一体感も増し、ボーカルの理姫が綴る「ギャル×文学」な歌詞はちょっぴりレディー指向に。全体的に垢抜けてポップバンドとして覚醒を果たした一枚となった。一度聴いたら病みつきになるキャッチーさを持つ本作はどのようにして生まれたのか。メンバー全員にその制作背景を語ってもらった。

EMTG:今回はどんなアルバムをめざしたんですか?
バンビ:J-POPだよね。
奥脇:今回はポップスをやろうと。自分たちが今までJ-POPだと思ってたものが意外とロックだったんで、もっと聴きやすく作ろうと思ったんです。
EMTG:実際、90年代J-POPのようなキラキラ感や疾走感があるなと思いました。
奥脇:今までは奇をてらってたんですよね。トリッキーなことをいっぱいやって「どうだ、面白いだろ?」っていう作り方だったんですけど、意外と自分と聴く人の聴きやすさの基準が違うっていうことに気づけたんで、もっとスッと入れるように曲を作ろうと。今回はわりとシンプルな方に行ったかなと思います。
EMTG:加えて、バンド感もずいぶん増した気がしました。
バンビ:確かにバンドとしてギュッとした感じがする。この5人になって2枚目っていうのもあるし。
Hachi:ドラムのコジコジ(山田の愛称)とキーボードの私はレコーディングについては『DANGEROUSくノ一』からの参加なんで。年月を一緒に過ごすことで酸いも甘いも乗り越えて、一体感とかバンド感がアルバムに出たんじゃないかなって思います。
EMTG:たとえば「夢遊」は、楽器隊の個々のプレイが際立ちながらも、すごく一体感があるなと思ったんです。これはどんなイメージで作ったんですか?
奥脇:かなりバンド初期の方にできた曲で、もともとはもうちょっとゴチャっとしててロケンローな感じだったんですけど、録音してる途中でシンプルになっていったんです。思ったより厳かな曲になっていって。
バンビ:レコーディング中に変わっていくことはよくあるんです。プリプロして1回カタチになってるけど、本番のレコーディングで「ここをこうしたほうがいい」とか「フレーズを変えよう」とか。「夢遊」に関してもそうだった。
奥脇:そういうときに普段はわりと足し算になりがちだけど、「夢遊」は引き算だったんです。ギターも最初は終始ペケペケ弾いてたんですけど、ないほうがかっこいいなって。「あ、俺、やっと引き算できた」って思いました(笑)。
山田:足し算傾向にあるもんね、達也は。
奥脇:そう。だから、これからはもっと引いていこうと思います(笑)。
EMTG:「ギャングスタ」「うたかたの日々」と、Hachiさん作曲のナンバーが初めて入ったのも1つの変化ですよね。バンドに新しい風を入れてるし、「ギャングスタ」なんて「アカシック、こういう曲もやるんだ」と思いました。
Hachi:「ギャングスタ」は理姫ちゃんのアイデアで。
理姫:伴奏がピアノだけの曲をやりたかったんです。
Hachi:「わかった。ちょっとやってみるね」ってやってみたら「採用ー!」って。
理姫:イメージ通りの曲を作ってくれたんで即採用でした。「うたかたの日々」も私が気に入ったので即採用。
EMTG:「うたかたの日々」もすごくカオティックなサウンドで面白かったです。これはどんな音像をイメージして作ったんですか?
Hachi:それは映像にしてお伝えしたいところで(笑)。私が監督して撮るしかないと思ってるんですけど、理姫ちゃん以外の4人は白衣で研究室の個室みたいなところに閉じ込められてるんです。で、ドラムのコジコジは感情を無くした人、ベースのバンビくんは言葉を失った人、ギターの達也くんはずっとギャーと叫んでる壊れた人、私はずっと泣きながら笑ってる人なんです。そんな個室が4つ並んでて、それぞれを理姫ちゃんは見てる。で、ボタンを押すと、ガスが出てきて私たちが見えなくなってきて、そのあと死んでるのか生きてるのかわからない、みたいな。そんなイメージだったんです。
山田:だから、「ドラムはもっと淡々と叩いて!」みたいに言われて。
Hachi:そう。「こんなんじゃ人間だよ! 達也くん、もっと狂ってよ」って言いながらレコーディングしてました。
EMTG:しかも、歌と演奏のグルーヴも微妙にズレてるし。
Hachi:だから全員違う。でも全員イカれてる、みたいな。そういう感じを出したかったんです。
EMTG:歌詞の話をすると、今回も前作同様に楽曲の主人公はすべて女性ですが、描きたい女性像に変化はありましたか?
理姫:今回の女性像のほうが私は好きで。さっき90年代のJ-POPって言ってくれましたけど、歌詞もそういう雰囲気で書いたんです。イメージは今どきの最先端な女の人というよりも、ちょっと時代遅れだけどそれでいいんだ、みたいな人。
奥脇:つまり、横浜の人ってこと?
理姫:いや、東京の人。ドロッとしてるというよりも、どちらかと言ったらハツラツとしてるイメージなんです。
EMTG:描かれている女性の恋心はちょっと情緒不安定。犬山紙子さんが本作に寄せたコメントで「理姫ちゃんが描く世界は硬派な乙女心」と評していらっしゃいますが、まさにそうだと思いました。甘えたいんだけど強がったりしていて。
理姫:そうですね。不安定ながらも楽しく過ごしたほうがいいんで。なんだかんだ言っても最後は楽しそうっていうのは忘れないようにと思ってました。
EMTG:リード曲「8ミリフィルム」は、珍しく理姫さんの作詞作曲ナンバーですね。
理姫:もともとは達也にデモをもらって、達也がメロディーを作ってたんですけど、「なんかこのメロディーは違うな」と思っていて。でも、イントロやコード感はとても良いし、諦めるのはもったいないからちょっと頑張ってみようと思って。で、部屋でオケを流しっぱなしにしてたらメロディーと一緒にサビの頭の歌詞が降りてきて、そこからバーッと、すごく早くできたんです。
EMTG:内容は、未練がありながらも、時間の経過と共に気持ちが徐々に薄れていく女性を歌っていて。でも、歌詞になぜ急に「桃」が登場するんですか?
理姫:フルーツの名前とか食べ物の名前とか、みんなの中で具体的な定義があるものを歌詞に入れていくのが面白いなと思った時期だったんです。だから、ブドウとかリンゴとか、そういうのを入れようと最初から思っていて。だけど、やっぱり私はピンクが好きだし、桃って可愛いし。あとは「桃」っていう映画をちょうど観たんです。男女が桃を食べながら超イチャイチャしてて、それともちょっとリンクしたところがあって、「桃」にしたんです。
EMTG:僕は「桃」を深読みしたんですよ。この曲の歌詞には《赤》という言葉が印象的に使われてますよね。たとえば1番での《赤》は、運命の赤い糸っていう。
理姫:そうですね。
EMTG:だけど、女性の気持ちが薄れていく話だから、赤が薄くなっていってピンク=桃なのかなって。
理姫:うわ、すごくないですか、その解釈。そこまで考えてなかったです(笑)。でも、すごくいいですね、それ。これからそう言っていきますね(笑)。
EMTG:奥脇さんに伺います。今回のアルバムで自分たちの持ち味が発揮できたという「これぞアカシック」という曲は?
奥脇:「飴と日傘」ですね。
理姫:わかる。私もそれ。
奥脇:わりとみんなが得意なことをやってるし1個も無理してないですね。
EMTG:反対に、これは新しい顔だぞっていう「これもアカシック」という曲は?
奥脇:「8ミリフィルム」ですね。聴く人からすれば、もしかしたらそんなにアカシックのイメージから外れてないかもしれないですけど、俺ら的にはストレートさとかポップさを打ち出したという意味で、結構振り切ってる曲なんです。
EMTG:では、理姫さんに。アルバムタイトルはどんな発想で付けたんですか?
理姫:「凛々」という言葉を昔からタイトルにつけたくて、ずっと取っておいたたんです。「凛々」という漢字が好きなんですよ。で、アルバムの曲を見返したときに「桃」って入ってることだし、フルーツの盛り合わせみたいだなと思って。いろんな味があって、色とりどりで、だけど、ひとつのお皿に乗ってる、みたいな。それでどっちも譲れなかったので、2つをくっつけちゃいました。
EMTG:「凛々」という表記は、凛々しい(りりしい)とも使いますが、そういうイメージもあったんですか?
理姫:ありました。凛としている、みたいな。人は凛々しくあったほうがいいと思うし。
奥脇:かっこいいですよね、凛々って。勇気凛々みたいな。
理姫:アンパンマンみたいな(笑)。
EMTG:でも、「りんりん」という響きには、すごく女子感とか可愛らしさがあるんですよね。だから、凛々しさと女子感を共存する言葉を持ってきたところに理姫ワールドをすごく感じたんです。しかもフルーツは恋=甘酸っぱいものというメタファーにもなってるから、見事なタイトルだなって。
Hachi:いやー、誉め上手ですね。そんなに持ち上げなくてもいいですよ(笑)。
EMTG:最後になりますが、初のフルアルバムを作り終えて、今後のアカシックの方向性などは見えてきましたか?
奥脇:このアルバムを作ったことによって、俺たちのできる幅が広がったんで、今後はフルーツどころじゃない盛り合わせができるような気がしてますね。
EMTG:じゃあ、次は満漢全席ばりな?(笑)横浜と言えば中華料理だし。
奥脇:そうそう(笑)。毎回、僕、アルバムを作り終わった直後って、全部吐き出したって思うんですけど、初めてかも。このアルバムをつくって、不完全燃焼なわけじゃないですけど、「あ、俺、まだやれるわ」って思えたから。
山田:『DANGEROUSくノ一』をつくったときは「ネタ、切れた」とか言ってたもんね。
奥脇:そう。「終了したわ、俺。俺の才能、枯れた」って思ってたから。理姫に「8ミリフィルム」のデモを持っていったときも「じゃあ、才能の尽きた達也くんに代わって私がメロをつけましょう」って言われて。
理姫:そんなこと言ったっけ?(笑)
奥脇:言いました。だから、何コイツ?と思って(笑)。
EMTG:ただ、そこで理姫ちゃんがメロディーを作ったことで発奮したわけでしょう?
奥脇:そうなんです。それでやる気が焚きつけられて。そういうときに怒るヤツもいるでしょうけど、怒っても無駄だし、いいものを作るしかないと思って頑張ったんです。だから、まずはこのアルバムを多くの人に手にとってもらいたいですね。絶対いいから!って思ってるし。
理姫:あと、このアルバムでイメチェンなんです。今回は奇をてらってるわけでもないし、ジャケ写の私もスナックからキャバクラくらいにイメージが上がったし、下品な世界観というよりも、ちょっと大人になっていて。それにちょっと気持ちが優しくなってると思うんです。この感じでアカシックを頑張っていきたいと思っているので、ここからリスタート。今までのアカシックを1回ちょっと忘れてもらって、このアルバムから始めて欲しいなって思ってます。

【取材・文:猪又 孝(DO THE MONKEY)】

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お知らせ

■ライブ情報

日本凛々ツアー
2016/05/06(金)横浜club Lizard ※対バン有
2016/05/21(土)名古屋ell.FITS ALL ※対バン有
2016/05/22(日)大阪ROCK TOWN ※対バン有
2016/06/11(土)福岡graf ※対バン有
2016/06/25(土)東京キネマ倶楽部 ※ワンマン

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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