Suck a Stew Dry 1年半ぶりのセカンドフルアルバム『N/A』完成
Suck a Stew Dry | 2016.05.25
2ndフルアルバム『N/A』で描かれているのは、必ずしも希望に満ちた事柄ではない。世の中に確実に存在する闇の部分も、ありのままに歌われている。しかし、聴き終えた時の感覚はとても爽やかだ。現実を直視させられる曲に触れつつ、人生との向き合い方のヒントを見つけることができるのが、この作品の醍醐味だと言えるだろう。耳を傾けていると胸が躍るキャッチーなメロディ、多彩なサウンドも発揮されている今作は、どのようにして生まれたのか? 篠山コウセイ(Vo & G)、ハジオキクチ(G & Cho)に訊いた。
- EMTG:どんなアルバムにしたいと思っていました?
- 篠山:最初の段階では特に考えていたことはなかったんですけど、作っている途中で思ったのは、「あんまり着飾らないものにしたいな」とか「自分からズレないように」ということでした。ライヴで歌っていて「なんか違う」っていう感覚になることが時々あったんですよ。嘘は歌っていないんですけど、「なんか違うな……」と。自分をそのまま曲にするって難しいんですけど、今回、それが今までで一番できたと思います。
- EMTG:ハジオさんはいかがですか?
- ハジオ:アルバムを作ることによってバンドとしてもっと前進できたらいいなということを最初の頃に思っていたんですけど、狙って作ったものは自分らしさを感じられなかったんですよね。だから「自分が心から作りたいものを作った方が、良いものになるんじゃないかな」と思いながら作っていったのが今作です。
- EMTG:シノヤマさん、ハジオさん、フセさん、スダさんの曲が収録されているアルバムでもありますね。4人の曲が1枚に入ったのって、もしかしたら初めて?
- 篠山:スダっちの曲が加わって4人になっただけではあるんですけど、初めてですね。でも、意識的にそうしようと考えていたわけではなかったです。そういう点でも自然体のアルバムだと思います。
- EMTG:全体的に世の中の闇の部分がストレートに描かれているアルバムだという印象も受けたんですが。
- 篠山:前までは「光の部分も描こう」みたいな気持ちがあったんですけど、そういう部分はなくてもいいのかなと。例えば1曲目の「GOEMON」は、最後まで何も解決しない曲ですし(笑)。あんまりこちらから光の部分を提示し過ぎると、みんなそっちに持っていかれてしまう違和感を覚えたことがあったので。僕は「聴いてくれる人を救おう」とかは思わないのに、そういう人だと思われ始めているような気がしていたんですよね。
- EMTG:篠山さんが就職できなくて悶々としていた頃に始まったバンドですし、誰かを救うことを目指して始めたバンドではないですもんね。
- 篠山:はい。なし崩し的に流れで始まったバンドですから(笑)。「何か確固たる意志がないといけないんじゃないか?」と考えていた時期もあったんですけど、そういうものはないので、「ないんだからそれはそのままでいんじゃん」って思うようになったんですよ。
- EMTG:「GOEMON」、まさにその姿勢が出ていますね。絶望、憂鬱、失望、暗闇が、ひたすら絶え間なく自宅に配達されるこの曲、ヘヴィな内容ですけど、笑っちゃいました。
- 篠山:『世にも奇妙な物語』じゃないですけど、喜劇にも感じられる曲だと思います。
- EMTG:ハジオさんは、篠山さんの歌詞の描き方について何か感じています?
- ハジオ:篠山くんってそんなにネガティブな面を持った人ではないですと思っていたんですけど、このアルバムを聴いてみると「そうでもなかったのかな?」と(笑)。でも、篠山くんが持っている世界をそのまま描いている今回の曲たちって、すごく伝わるものがあると思います。
- 篠山:曲を聴いてもらって、「勇気づけられました」とか言って頂くのは嬉しいんですけど、「篠山さんは私のことを勇気づけようとしてくれているんだ」みたいなことになると、「俺はそういう人間じゃない」って感じていたんですよ。
- EMTG:だからこそ、「レフストアンブルフィ」みたいな生々しい曲も生まれたんでしょうね。これはネット上で飛び交う無責任な批判とかについて描いていますが。
- 篠山:「なにをそんなに怒るんだ?」っていう感じの曲ですが(笑)。まあ、僕はもともと音楽を作る時のエネルギーは、怒りのことが多い人間なので。
- ハジオ:「レフストアンブルフィ」は、懐かしい感じがしました。1stアルバムの頃とかは世の中に対する不満とかをかなり曲にしていましたから。
- EMTG:ネガティブな要素をありのまま描いている曲といえば、「トロイメライ」もそうですね。《君は世界とは関係ない》とか《僕も世界とは関係ない》というフレーズが出てきますし。
- 篠山:はい(笑)。「自分が世界をどうこうできる」と思うことが必ずしも良いとは思わないんですよ。そう考えることによって何かができる人もいますけど、どう頑張っても変えられないものもありますから。そして、変えられないからといってそれはマイナスではなくて、プラスでもないという。「自分は世界とは関係ない」と思うことで寂しいと思う人もいるでしょうけど、安心できる部分もあると思うんです。
- EMTG:世の中の闇やシビアな現実を描きつつ、キャッチーな曲として提示できているのが、今回のアルバムだと言うこともできるんじゃないでしょうか?
- 篠山:そうかもしれないですね。それはずっと変わっていないところだと思います。やっぱりキャッチーで耳馴染みの良いメロディのものが好きですから。
- EMTG:サウンドのアレンジも冴えていますね。「GOEMON」はハジオさんの作曲ですけど、面白い仕上がりです。
- ハジオ:ありがとうございます。最初「リフものがやりたいな」と思っていて、イントロのギターを考えたんです。オシャレなサウンドになるつもりだったんですけど、実際に弾いてみるとどうも垢抜けなくて(笑)。でも、何となく感じたその滑稽な感じからふくらんでいきました。
- EMTG:和の要素もあるし、中華っぽさもなんとなく感じたり、多彩な要素が入った無国籍サウンドになっているのが面白いです。
- ハジオ:メロディは和メロですけど、いろいろやっていますからね。ある程度サウンドができ上がった段階で篠山くんに渡したら、ああいう面白い歌詞を書いてきました。そして、メンバーやプロデューサーさんと一緒にさらに面白くしていったんですよ。
- 篠山:みんなで面白くしていった結果、すごくクオリティの高い曲になったと思っています。
- EMTG:ゲストコーラスがチリヌルヲワカのユウさんですが、これはどういう経緯で?
- 篠山:サビにコーラスを入れたくて、「女性がいいな」と思っていろんな方々を候補に考えたんですけど、そこでユウさんが浮かんだんです。僕はGO!GO!7188が大好きでしたし、あのバンドも和メロの曲がいろいろありましたから、「GOEMON」のコーラスを歌ってもらえたら良いなあと。お願いしたら快諾して頂けました。
- EMTG:さっきもちょっと触れましたが、この曲の歌詞、すごく完成度が高いですよ。歌詞も含めて、ソングライティングの切れ味が上がっているとご自身でも感じているのでは?
- 篠山:いや。あまり自信はないです。基本的に自信がないので(笑)。
- ハジオ:僕は最近、篠山くんを褒めて、たくさん曲を作ってもらうようにしています(笑)。実際、まだリリースしていないものも含めて、いい曲がいろいろ上がってきているんですよ。
- 篠山:僕はもともと多作な方なんです。ハードルを上げられるとゼロになっちゃう(笑)。
作ったどの曲が良いのか自分では分からないので、いっぱい作るんですよね。「100曲作って1曲良いのがあればいいのかな」という感じです。 - 篠山:僕はもともと多作な方なんです。ハードルを上げられるとゼロになっちゃう(笑)。
- EMTG:「CMソングにしたいので、渾身の1曲をぜひ!」とかいう話が来たらどうするんですか?
- 篠山:やったことがないから分からないですけど、そこは事務所の人にたくさんの曲の中から選んで頂いて、「渾身の1曲です!」と言ってもらおうかと(笑)。
- ハジオ:「渾身の100曲」ってことだよね?
- 篠山:そういうことです(笑)。裏を返せば全曲が「渾身の1曲」っていうことなので。そもそも「渾身」ってどういうことなのか分からないですし、時間をかければ良いというわけでもないですから。そういえば、ツイッターで見たんですけど、「自分の長所を探すなら自分が楽にできることを探す方がいい」という主旨のことを任天堂の前社長の岩田さんが言っていたらしく。ほんとそうなんだろうなと思います。「楽にできる」と言うと誤解を生むかもしれないですけど、自然に自分から出てくるものの方が良いんでしょうね。
- EMTG:「失恋、失恋。」のような女性目線の曲の歌詞も、自然に出てくるんですか?
- 篠山:こういうのもそうですよ。僕は他の人から聞いた話をいろいろ集めて歌詞を書くことがよくあるんです。本とかを読んでインプットするより、人と話すのが好きなので、そこから曲になっていくんです。
- EMTG:ハジオさんの恋の話から曲になったりも?
- 篠山:あったかな?
- ハジオ:ないんじゃない?(笑)。篠山くんは恋バナが大好きなんですよ。恋愛と生死の話って人間の本質が最も出ますから。でも、僕、恋愛の話は嫌なんです。篠山くんと仲がいい分、そういう話は恥ずかしいです(笑)。
- EMTG:(笑)ハジオさんがめちゃくちゃ赤面しているところで、まとめに入りましょう。このアルバムに関して改めて感じていることは何かありますか?
- 篠山:着飾ってないアルバムなので、反応が来ることは今までの作品以上に嬉しいでしょうね。着飾ってないものを「良い」と言ってもらえると、自分のことを評価してもらえている感覚になるでしょうから。評価してもらえなくても、着飾っていないものである分、受け入れられると思います。
- ハジオ: 5人で作ったアルバムですけど、「この曲は篠山くんが作った」とかいうのではなく、全部に対して「自分で作ってる」っていう手作りの感覚があるんですよ。それがすごく嬉しいです。
- 篠山:その感じ分かるなあ。変な言い方ですけど、「Suck a Stew Dryって自分とはまた別のもの」みたいな感じが前まではなんとなくあったんですけど、「自分のことだな。このアルバム、自分で作ったな」って今回は感じています。だから今度のツアーは、改めてSuck a Stew Dryってどんなバンドなのか自己紹介に行くようなものになると思っています。
【取材・文:田中 大】
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