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Suck a Stew Dryが恵比寿リキッドルームで見せた“孤独”と“光”

Suck a Stew Dry | 2015.11.24

 Suck a Stew Dry(サック ア ステュー ドライ)の楽曲は暗い。いや、サウンド自体はポップで華やかな曲調もあるが、その歌詞を紐解けば、深い孤独と、生きづらさ、人間嫌いな厭世観がどこかしらに漂うのだ。そんなバンドの作風に、穏やかな変化の兆しを見せたのが、9月リリースした最新ミニアルバム『Wake me up!』だった。深くて暗い沼の底から微かな光を見るような、固く閉ざした心の氷をじんわりと溶かすような1枚。その作品を引っさげた秋のツアー「夢中でがんばれない君へエールを」(かの有名なレオパレスのCMソングのフレーズを捩ったタイトルがSuck a Stew Dryらしい)で、全国7都市をまわってきた。その東京公演、恵比寿リキッドルームで彼らが見せてくれたのは、『Wake me up!』でバンドが新たに獲得した表現の可能性をライブで体現する、いまだかつてないSuck a Stew Dryだった。

 1曲目「僕らの自分戦争」の4つ打ちのポップサウンドにのせて、カラフルな照明がステージいっぱいに溢れ出すと、シノヤマコウセイ(Vo,G)の少年のような歌声がリキッドルームに響き渡った。ハジオキクチ(G)、フセタツアキ(G)、スダユウキ(B)、イタバシヒロチカ(Dr)という4人のメンバーが奏でる軽やかなバンドサウンドにのせた「世界に一人ぼっち」では、まるで人生の迷い子のような悲しみのロックミュージックがフロアに降り注いでゆく。「僕は明るい人間じゃありません。だけど、こういう人間だから作れる曲があると思うんです」。シノヤマがそう言って披露された「エヴリ」は、濃紺に染めたほの暗いステージから繰り出す強いビートに、寂しげなメロディがのる。それは、《悲しみに溢れるこの世界で》必死に「生きたい」と訴える叫び声に聴こえてならなかった。

 中3のときに飛び降り自殺を見た、そのときのことを思い出して書いたという「七階」、不穏な3拍子にのせてアイデンティティの在り処に悶々とする「二時二分」と、中盤で披露された、バンド初期のナンバーほどそこで歌われている闇の根は深い。演奏を終えて、「リキッドルームが静まりかえってる(笑)」と、フセ。「なんでだろう?」と、シノヤマは恍けるが、言うまでもなく4人が生み出したエモーショナルな演奏こそが、リキッドルームの800人が固唾を飲んで見守る、そんな静寂を生み出したのだ。

 「殺伐とした世の中だけど、ほっとしたいときもある。そんなときに聴いてください」(シノヤマ)と言って、アコ―スティックギターの弾き語りから歌い出した「泣きたくなったら」は印象的だった。それまでのダークなトーンを抜け出して聴こえてきたのは、決して太陽のような眩しい光ではないが、暗闇に灯す小さな灯のように、安心感を与えてくれる歌だった。そして、カラフルな光が溢れたタイトルトラック「ウェイクミーアップ」から怒涛のラストスパートへと突入する。フロアを一体にするシンガロング。バンドからの感謝の言葉。終わりへの予感が色濃くなるなか、「お前らと俺らの距離はゼロだから、これからも一緒に歩き続けてください!」と、フセが力強く伝えて、ラストナンバー「ハローグッバイ」へ。《僕は死ぬまで 僕を生きていく》。いくつもの自己否定を重ねてきた果てに辿り着いた肯定のメッセージは、その過程を知ればこそ強い説得力を持つものだった。

 アンコールでは、今ツアーの東日本の会場限定でリリースされている最新シングル「Focus on my heart」を披露した。Suck a Stew Dryの楽曲のなかでも、とりわけ激しい曲調に、フセの鮮やかなライトハンドが炸裂すると、最後にシノヤマは静かに語りかけた。最近、知り合いの結婚パーティでバンドの曲を歌ってくれと言われたが、その場に相応しい曲がなかった、だがそこで自分が歌う意味に気づいたと言う。「最初から何を歌うかを決めていたわけじゃないけれど、こうやって並べた時に、自分が歌いたいのは、世の中の理不尽、不条理なことなのかなって。そうやって自分のために歌ったことが、あなたのためになったら、ステキなことじゃないかと思いました」と言うと、「あんまり使わない言葉なんですけど」と前置きして、強い口調で「今日は楽しかったです!」と笑顔で客席を見渡した。

 そもそも人生とは、苦しみ8割、よろこび2割、そんなバランスだと言われたりもする。まさにSuck a Stew Dryのライブはそんな感じのバランスだった。夢の一歩手前、希望の通り道にある迷いを、誰よりも生々しく歌う代弁者、それがSuck a Stew Dryだ。きっと彼らは、この先も希望を歌わずに希望を与える、そんな異質な存在としてシーンに広がっていくのだろう。

【取材・文:秦理絵】
【撮影:白石達也】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル Suck a Stew Dry

リリース情報

Wake me up!

Wake me up!

2015年09月09日

ラストラム・ミュージックエンタテインメント

1. エヴリ
2. ウェイクミーアップ
3. さよならリトルスパイダー
4. 泣きたくなったら
5. 誰にでも当てはまる良くできた言葉で君を好きだと言っても
6. ハローグッバイ

お知らせ

■ライブ情報

Suck a Stew Dry 秋のリリースツアー2015「夢中でがんばれない君へエールを」
2015/11/25(水)金沢vanvan V4
w)Mrs.GREEN APPLE、LEGO BIG MORL

あゆみくりかまき Presents 尊敬という名のGIG Vol.4
2015/12/08(火)clubasia
出演:あゆみくりかまき/Suck a Stew Dry

MERRY ROCK PARADE 2015
2015/12/20(日)愛知県ポートメッセなごや

COUNTDOWN JAPAN 15/16
2015/12/31(木)幕張メッセ国際展示場1~11ホール、イベントホール

LIVE DI:GA JUDGEMENT 2015
2015/12/31(木)渋谷CLUB QUATTRO/TAKE OFF 7(渋谷)

Suck a Stew Dry presents
「Stew Party vol.1」

2016/01/16(土)代官山UNIT
出演:Suck a Stew Dry、phatmans after school、and more...

CLUB UPSET 10th ANNIVERSARY “広がる波紋”
2016/01/25(月)名古屋CLUB UPSET
出演:Suck a Stew Dry / SHE’S / Ivy to Fraudulent Game

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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