“生きること”をテーマに掲げた、SHE’Sの2ndシングル「Tonight / Stars」
SHE’S | 2016.10.17
ピアノの美しい旋律と感情を剥き出しにしたエモーショナルな演奏、洋楽をルーツにした奥行きのあるサウンドスケープを武器に、新世代に登場した大阪の4人組ピアノロックバンド、SHE’S。今年6月に「Morning Glow」でメジャーデビューを果たして以来、今夏は多くのフェスやイベントに出演したことで、彼らはロックシーンを中心にじわじわと広がりを見せつつある。そんなSHE’Sが10月19日にリリースする2ndシングル「Tonight / Stars」は、人間の心にある弱さを掘り下げることで、「生きること」の意味をあぶりだした1枚だ。今回はEMTG MUSIC初のメンバー全員インタビュー。結成から5年。音楽を仕事にすることで、より音楽が好きになっているという4人に新作について存分に語ってもらった。
- EMTG:EMTGではSHE’Sの4人全員インタビューは初めてですね。井上くんは他の媒体でもソロのインタビューが多いですけど、他のメンバーは読むんですか?
- 広瀬臣吾(Ba):かかさず読んでます!
- 井上竜馬(Vo・Key):絶対に読んでないやろ(笑)。
- EMTG:今回のシングル「Tonight」は、メジャーデビューシングルだった「Morning Glow 」とは全くイメージが変わって。初期のSHE’Sっぽい薄暗いイメージですね。
- 井上:デビュー曲の「Morning Glow」はガンッとアッパーでいって、2作目はバラードでいこうっていうのは話してたんです。全部を対照的にしたかったというか。シングル2枚を出したあとはアルバムを出したいなっていう願望があったので。だから今回は内容も夜にして(「Morning Glow」は朝焼けの意味)。しかも壮大なバラードというより、みんなが気軽に聴けるバラードを作ろうって。今まで僕らはサビでボンッといかないと気が済まなかったんですけど、あえてドラマチックにしないっていうのを考えましたね。
- EMTG:なるほど。これは言おうか迷ったんですけど……正直、「Tonight」は、いつものサビのドラマチックさがあまり無い分、最初に聴いたとき「シングルとしてはちょっと地味かな?」と思ったんです。でも何回も聴いていると、どんどん好きになっていって。
- 広瀬:僕らもそうです(笑)。
- 井上:作りながらも「ほんまにこれシングルで出していいんか?」と思ってたぐらい、パッと聴いたときは地味やと思ってました。全員が戸惑いながらやってた感じですね。
- 木村雅人(Dr):ずっと一定のリズムで叩いたので、「こんな感じで良いのか?」って。
- 広瀬:キムがそうなら、僕もそうなんです。サビで「んー!」(手をおさえて我慢する仕草)っていう瞬間はいっぱいありました。すごく音を引き算してるんです。
- 井上:この曲のダイナミクスは変えられないなかで、どうやってこの曲の良さを伝えたらいいんやろうと思ったときに、「俺らは何が強みなん?」って考えたんです。それがピアノやなと思ったから。ピアノと歌をド中心に据えて肉付けをしていきました。
- 木村:できあがったときには良い感じに仕上がったと思いましたね。
- EMTG:こういう静かに熱量を持った曲でも、ちゃんと言いたいことを伝えるって大事ですよね。本当の曲の良さは第一印象だけでは決まらない。そういう挑戦でもある?
- 井上:そうですね。サビでめっちゃボーンって音を出して、声を張ってみたいな方が、耳にはインパクトはあるんですけど。それ以外にも良い曲はあるし、自分にとって大事だと思う曲も名曲も、世界中にいっぱいあるから。バーンっていくだけが必要じゃない。そっちで納得させてみたいなっていのもありました。なによりもダラッと続いていくことは、歌詞で表現したかった内容とも意味が一致したんです。
- EMTG:……それにしても、ダラッとか、地味とか。このインタビュー、大丈夫かな?
- 井上:あはははは!でも、実際そうなんですよね(笑)。
- 服部栞汰(Gt):ダラッとでも退屈しない感じにはなっていると思うんですよ。聴いてて心地良くなるように、ギターソロで色を変えてみたりとかはしてるんです。
- 井上:のんびりローリングしていく感じやな。この曲はディレクターからの提案が情景やったんですよ。終電に飛び乗った男の子が窓にもたれながら考え事をしてるような…。でも、最初に出した曲に対して、「これは深夜じゃない。夜中2~3時ぐらいの曲を書いて」って言われて。「この人ヤバイな」と思いましたけどね(笑)。
- EMTG:それは褒め言葉の意味でね(笑)。最高のディレクションじゃないですか。
- 井上:うん、それが上手くできたと思いますね。頭のエイト(ビート)の感じとかも、電車のガタンコトンっていう感じが出せたと思います。
- EMTG:この曲で歌いたかったのは、「誰かと一緒に生きる」ということ?
- 井上:こころの病気になってしまった友だちに向けて歌ったんです。(その友だちに)「生きて、生きて」って何回も言っているうちに気づいたことなんですけど。ダラッと続いてく生活が何より苦しいんですよ。何も変わってくれない、病気も治らない。そういう意味で今回はドラマチックにはせずにダラッと続かせる曲の方が、僕のなかではぴったりと一致したというか。この曲は絶対にこのままいこうと思いました。
- EMTG:なるほど。そんなダラッと続く日常の苦しみにも、最後はちゃんと救いがあって。
- 井上:最後に救いがあるのは、僕のクセですね。ずっとクラシックを聴いてたから。クラシックって入りは暗いけど、絶望から歓喜に変わる瞬間がいっぱいあるんです。
- EMTG:ラスサビ前の《僕らは生きてこそだ》という部分ですね。
- 井上:そういうドラマチック感は好きで、歌詞に反映させたいんです。もちろんずっとポジティブばっかりを歌っていたくないっていうのもあるんですけどね。
- EMTG:あと、サビでは《この声を頼っていいから/どこにいたって傍へゆくよ》っていうフレーズがあって。ここはSHE’Sが音楽を鳴らす意味にも通じると思いますけど。
- 井上:そうですね。
- EMTG:メジャーデビューしてから、自分たちが音楽を鳴らす意味に変化はありましたか?
- 井上:音楽を鳴らす意味を自分のなかで探そうとしないっていうのを決めましたね。環境が変わって、「これからどんな曲を書いていくのか」を考えたときに、音楽の意味って、人によっても、その時その時でも感じ方が違うじゃないですか。でも、音楽に何を求めているかっていうと、たとえばライブのときに、悲しいも、楽しいも含めて「生きている」って感じられること、その感覚を求めてるんやなって思ったんです。だから、そこに対して自分が感じたことを、もっと素直に捉えるアンテナを張っていられたらなと思ったのが、ここ最近の感覚なんです。そうしたら、今回のシングルは「Tonight」だけじゃなくて、3曲とも「生きること」っていうのが大きなひとつのテーマになっていったんです。
- EMTG:2曲目の「Stars」はドラマ『拝啓、民泊様。』のオープニングテーマです。これは書き下ろしになるんですか?
- 井上:そうです。日数がなかったので、曲を書いたあとすぐにメンバーと構成を詰めて、その2日後にレコーディングをしながらアレンジを考えて。それで、次の日に作詞をして、その次の日がプリプロで、その次の日が歌録りって感じですね。
- 広瀬:しかもレコーディングの2日後が山口でフェスやったんですよ。
- 井上:追い込まれてるから、逆にいつものSHE’Sの感じしかできなかったんです。メロディで勝負してる曲なので。ある種メロコアぐらいにシンプルさが出てると思います。
- 服部:今までやってた僕ららしさが出てるよね。
- EMTG:タイアップであることは、あんまり意識して作ったわけではないんですか?
- 井上:最初は台本も全部は読めてなかったので、歌詞を書くときに改めて全部読んだんです。それで作品とも絡めつつ書きましたね。でも書き下ろしなんだけど、ちゃんと自分の歌にしたいなっていうのはあったので。8月の「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2016」から仙台のライブに向う途中のフェリーで、男4人で船の甲板で夜空を見たことがきっかけで書いたんです。
- EMTG:だから出だしが《船から広がる景色は》なんですね。 広瀬:気持ち悪いでしょ(笑)。
- EMTG:仲が良いんだな、と思いました(笑)。
- 井上:ペルセウス座流言群が見えたよな?
- 広瀬:そう、たまたまその日やって。
- 井上:すごくキレイでした。
- EMTG:この曲は《いつか僕の命が果てても/この歌も同じように君を照らす》っていう、星と自分たちの音楽を重ねてるところに想いが込められてますよね?
- 井上:そうですね。流れ星って宇宙の塵が燃えて、爆発したときの光が何千年もかけて地球に来てるっていうので……その、なんて言うんですかね。俺らの歌も同じような感覚があるというか。それは別に死んでから評価されるっていう意味ではなく、その瞬間の輝きが強いものであれば、いつまで続いていくんやろうな、歌も伝わるやろうなっていう。そういうことをずっと歌いたいなと思ってるんです。でも、星の歌を書く機会があんまりなくて。こういうことを妄想だけで書きたくなかったんですよね。
- EMTG:3曲目の「Isolation」はロックでシンプルにかっこいい曲ですね。
- 井上:「Tonight」があったから、激しい曲を書こうっていうのはありましたね。
- 広瀬:僕らのなかでたまに出てくるやつですね。
- 井上:そういうタイプの曲のなかでも、けっこう鬼気迫ってる感じだと思います。
- EMTG:広瀬くんのベースも「Tonight」ではだいぶ我慢をしてたけども。この曲では……。
- 広瀬:もう力いっぱい歪ませてます!
- 服部:ギターもこんなに潰れるかってぐらい潰してますね。それも、この曲に良い感じに当てはまったので。間奏のセクションもすごくロックですよね。
- 井上:ロックの王道みたいなことはしてます。ピアノも弾いてないしね。僕らにとってはそれほど新鮮な曲ではないけど、僕らの曲を聴いたことのない人が聴いて、かっこいいなと思ってくれたら嬉しい。それができたら、この曲は勝ちな気がします。
- EMTG:歌詞では正しさとは何か、自分らしく生きるとは何かっていうことを、どことなく怒りの感情も含めてぶつけてる感じがしますが?
- 井上:それぞれの生活があって、それぞれの立場があって、それぞれの役割があって、仕事があって。その正しさに従わんといけない、納得できない瞬間ってあるじゃないですか。でも、それを言ってしまうことによって、中学生であればイジメにつながるし、会社員であれば無視されるとか、出世できないとかもあると思うんですけど。「そういうことのために生きてどうするんやろうな?」って。自分の正しさは自分で決めたくて。僕らはミュージシャンっていう、普通の会社に属してる人間じゃないので、わからないですけど。それで悩んでる友だちとかもいるし、自分もそういう理不尽な正義を振りかざされてるときに怒りを抱くことがあるので。この曲ができたときは、そのことを歌おうと思いました。
- EMTG:わかりました。ところでメジャーデビューしてから、SHE’Sは初めて大きな夏フェスにもたくさん出るっていう経験をしましたよね。それはどうでしたか?
- 広瀬:初めて尽くしでしたね。
- 井上:海は広いなって感じでした。俺、『ONE PIECE』を読んでるところなんで(笑)。この海には強い敵が多すぎて。やっとそこに触れられる場所に立てたし、そういう人らと同じ日に演奏できるっていう場所まで来られたので。それがひとつ良かったっていうのと、メインステージでバシバシ多くの人を魅了してるバンドに早く追いつかないとなとも思いました。楽しさも悔しさもありましたね。
- EMTG:他のメンバーは?
- 広瀬:すべてが初めて尽くしで。「あの人おる!あの人おる!」って(笑)。普通のお客さんみたいにテンション上がってました。
- 井上:まだまだ俺たちが小者っていう証拠やな。
- 広瀬:小者っぷりを実感させられた。
- 井上:もうそこで感動していくのをやめよう(笑)。
【取材・文:秦 理絵】
リリース情報
Tonight / Stars
2016年10月19日
ユニバーサル ミュージック
■CD収録内容■
1.「Tonight」
2.「Stars」
3.「Isolation」
■DVD収録内容■
Document”The Everglow -chapter.1-”
※2016年7月に行われた東名阪クアトロ対バンツアーのドキュメント映像を収録!
1.「Tonight」
2.「Stars」
3.「Isolation」
■DVD収録内容■
Document”The Everglow -chapter.1-”
※2016年7月に行われた東名阪クアトロ対バンツアーのドキュメント映像を収録!
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