BURNOUT SYNDROMESが掲げる“青春文學ロック”の本当の意味が詰まった1st FULL ALBUM 『檸檬』

BURNOUT SYNDROMES | 2016.11.10

 まるで小説家のようなミュージシャンだ。BURNOUT SYNDROMESの全ての楽曲の作詞作曲を手がけるボーカルの熊谷和海は、完成したニューアルバムについて、「梶井(基次郎)の短編小説「檸檬」のように、人の心の動きを書きたかった」と言った。だから、アルバムのタイトルは『檸檬』だ。かと思えば、そのアルバムはクラシックの引用を持ち込んだほか、様々な世界観の音が溢れていて、そのサウンドのこだわりを語るとき、熊谷は実験精神に富んだミュージシャンの顔にもなる。そんな熊谷を中心にバーンアウトが完成させた『檸檬』は、とても文学的でありながら、一方で聴き手の心をガツンと揺さぶる泥臭いロックアルバムになった。今年3月にアニメ『ハイキュー!!』の主題歌「FLY HIGH!!」でメジャーデビューを果たしたバーンアウト。なぜ、このバンドは青春を叫び、文学に魅せられるのか。今作にはバーンアウトが掲げる“青春文學ロック”の本当の意味が詰まっている。

EMTG:いままで以上に、言葉と音楽の持っている力とが一体になったアルバムですね。
熊谷和海(Vo・G):それは目指したところですね。いままでいちばん一生懸命書いたアルバムだと思います。気を遣ったというか。自分が何を書くかというよりも、聴く人にどう届くかっていうところに重心を置いたんです。たとえばミックスに関しても、わざわざそのへんの雑誌を読みながら、ボーッと聴いて、「ん?いまのところ気になる」みたいな。どうもおかしいと思ったところだけをピックアップして直したんです。いままでは音符の1個まで聴いてたんですけど、そんな聴き方をする人はいないと思ったんですよね。
EMTG:客観的な聴き方が必要だと思ったきっかけはあったんですか?
熊谷:いままでシングルを2枚出してわかったことなんですよね。たくさんの人に聴いてもらう以上は、特定の聴き方をする人間だけが良いと思える音源を作っちゃダメだなと。それよりも一般的な耳で聴くとどうなるのかっていうのは考えて作りましたね。
EMTG:メンバーは作り上げてみて、どんな作品になったと思いますか? 
廣瀬拓哉(Dr・Cho):いろんな人に聴いてもらいたいアルバムになりましたね。今回は熊谷が作ってくるドラムとかベースの打ち込みの完成度がさらに高くなってきたんですよ。そのままデモを出してもいけるんじゃないかっていうぐらい。だから逆にプレッシャーをもらいながら、もっと良くなるものを提案していきたいなっていう感じでやりました。
EMTG:『FLY HIGH!!』のインタビューのときに、もともとはセッション的な作り方をしてたけど、「最近、打ち込みを覚えた」っていう話がありましたもんね。
廣瀬:そこから長い期間があったので。何を覚えてきたのか……。(熊谷は)たぶん俺を人間じゃないと思ってる、そういう打ち込みを作ってくるんです。
全員:あはははは!
熊谷:VS 機械ですよね(笑)。こいつ(廣瀬)の持ち味のひとつは技術だと思ってるので、ちゃんと僕が作ったデモを越えるニュアンスを出してくるのを信じてるんです。 
廣瀬:けっこう時間がない中だったんですけど、白目になりながらやりましたね(笑)。
石川大裕(B・Cho):僕らはどんな曲があって、どんなアルバムになるのかっていうのを、熊谷からデモがあがってくるまでわからなかったんです。1曲ずつ送られてくるたびにピースがハマっていく感じで。結果、マスターピースができたなと思ってます。
EMTG:バーンアウトの制作は、熊谷くんの頭の中の世界をバンドとして構築していくものだけど、もともと熊谷くんの中に今回のアルバムの全体像はあったんですか?
熊谷:ほぼほぼこのままの形でイメージしてました。この13曲を録るっていうのは、半年ぐらい前には考えてたんです。とにかく名盤を作ろうっていうのがテーマでしたね。
EMTG:半年前からイメージはあるのに、メンバーに聴かせるのはギリギリ?
廣瀬:完成するまで出してくれないんですよ。で、とうとうレコーディングの3週間前ぐらいになって、そろそろヤバいから、「1曲でも2曲でもいいから送ってくれる?」って言って、やっと。そこから「フレーズつけろ」って言われるんです(笑)。
EMTG:大変だね(笑)。熊谷くんはどうしてメンバーに途中経過も教えないの?
熊谷:さっき「できるだけ一般的に解釈される作品にしたい」っていう話をしたんですけど、それはメンバーに聴かせてからの話なんです。それまでは自分のエゴのみなんですね。そのときは1音1音聴いて、自分の中で「これなら大丈夫」って思えるまで詰めるんですよ。そうじゃないと正しく広げていくことはできないなと思ってて。そこをラフにしちゃうと、その先の長い行程でメンバーとかスタッフの間に解釈の違いが生まれちゃうと思ったんです。だから3週間ぐらい前までデモを死ぬほど聴いてましたね。
EMTG:そうなると、バーンアウトがバンドである意味が薄れてきませんか?
熊谷:いや、自分の中で9割9分は作ってはいるんですけど、そこからはみんなに委ねてるんです。それをメンバーが100じゃなくて、120にしてくれるんですよね。
廣瀬:何をやっても、結局自分の音は、自分しか出せない音なんですよ。僕が関わった以上は、ちゃんとBURNOUT SYNDROMESになるっていう自信があるんです。
熊谷:逆にみんなに投げてからは、どの曲もいろんな人の意見を入れてるんです。そのアイディアを聞いた瞬間は、「大丈夫か?それ」って思うこともあるんですけど、とりあえず入れてみる。たとえば「君のためのMusic」は、石川のラップが入ってるんですけど、これはもともと自分でやろうと思ってたんですね。でも……。
石川:僕は嵐が好きなので、櫻井(翔)くんみたいなラップがやりたくて。
熊谷:じゃあ言い出しっぺがやればいい。「俺がやるから!」とは言わないんです。
EMTG:なるほど。そうやって熊谷和海というソングライターのエゴをバンドがより広げながら、かつ一般的に聴きやすい作品にっていうのを両立させていった。
熊谷:そうですね。もともとアーティスティックな部分は無意識にも出るので。そうじゃなくて、意識しないとできないこと--それは一般的にサラッと聴けるっていうことですけど、今回はそういう部分をすごく考えながら作っていったんです。
EMTG:ちなみに、さっき「名盤を作りたい」って言ってたけど、バーンアウトが思い描いていた“名盤像”みたいなものはあったんですか?
熊谷:具体的に言うと、自分が中学校ぐらいのときにバカみたいに聴いたやつ。いま聴いても、その中学生のころの心に戻れる、一種のタイムカプセルみたいなものですね。
EMTG:アルバムには「タイムカプセルに青空を」っていう曲もありますね。
熊谷:そう、その曲はそういう気持ちで書いたんです。タイムカプセルになるようなアルバムを作りたいなって。いま『檸檬』をたくさん聴いてくれてた人が、10年後に聴いても、「あの頃こうだったな」って情景が鮮やかに蘇る作品が作りたかったんです。
EMTG:今回のアルバムを聴いて思ったのは、いままで以上に、言葉と音がきちんと調和してることなんですね。「Bottle Ship Boys」はアイリッシュパンクにのせた船上の冒険者だったり、「アタシインソムニア」は歌謡ロックで眠らない夜の街を描いてたり。
熊谷:それは昔から目指してたところではあるんです。結局、音楽はそういうことだと思うんですよね。歌詞だけで勝負したら、文学には絶対に勝てないし。かといって、音だけで何かしようとしても、それこそ映画には勝てないのかなと思っていて。音楽の持ちうる武器って何だろうと思ったときに、サウンドとメロディの融合、そこにストーリーの起伏が合わさることで、一種のカタルシスが生まれるんじゃないかなっていうのはあって。だから今回の『檸檬』を作ってみて、そこに一歩近づいたなっていうのはありますね。
EMTG:1曲1曲の世界観を作り上げるうえで、メンバーが大変だったことはあります?
廣瀬:「Bottle Ship Boys」は、デモの段階のドラムは一定のリズムを打ってるんですよ。そこにどうやって海を感じさせるか、波を作っていくかは考えましたね。
熊谷:このドラムはエンジニアさんも(プロデューサーの)いしわたり(淳治)さんも「海が見える」って絶賛してました。ただ、それを打ち消すようなクラップを……。
廣瀬:そう、あとで入れられたんですよ(笑)!
熊谷:「クラップをバカみたいな音量で入れよう」って。でも、もとのドラムがこうだから、良い感じにうねったんじゃないかと思ってますけどね。
EMTG:「アタシインソムニア」のダークな感じは、バーンアウトらしいかな。
熊谷:昔から応援してくれてる方は、「バーンアウトっぽくて好き」とか言ってくれますね。どれだけ暗い曲が好きなんだと思いますけど(笑)。うちの十八番です。この曲も途中で出てくるワーミーのベースが良いんですよ。特にデモには入れてなかったんですけど。
廣瀬:石川はけっこう独自のセンスを持ってる。
熊谷:そういうところをしっかり埋めてきよるんです。
石川:寝ころびながら直観で入れたフレーズですけどね(笑)。
EMTG:あと何曲か収録曲について聞ければと思います。「人工衛星」はロケットの発射音が入っててダイナミックな曲だけど、とてもパーソナルなことを歌ってて。
熊谷:この曲は自分の曲として書いてますね。うちらのことを“青春文學ロック”って、たくさんの人に言ってもらえるようにはなったんですけど、実際に青春時代って--まあ、僕はいまでも青春だと思ってるんですけど、一般的に青春と言われる10代中盤ぐらいは、自分の中で良い印象がないんです。ある種、そこの評価に対する違和感はあるんですね。だから、そこに対するアンサーとして。青春の中に良い思い出がない自分が、なぜ青春を歌うのかっていう答えが歌詞になってます。
EMTG:たとえば、バーンアウトの青春っぽい曲は、今回の『檸檬』だと、「ナイトサイクリング」とか「君は僕のRainbow」「君のためのMusic」あたりですよね?
熊谷:青春三部作。
石川:あ、そうなんや(笑)。
EMTG:それとは違う青春が自分にはあるということ?
熊谷:そうですね。「人工衛星」では《絶望 点火して発射寸前の君のラジオに向かって》って歌ってるんですけど、それが僕のなかの信念というか。僕と同じように、あんまり自分の青春に良い感情を抱いてない人はたくさんいると思うんです。そういう人に対して、「いや、そんなことないぜ」って言ってあげたいなと思って。君のそれも必ず後から振り返ってみたら、輝く時間に変わるんだよっていうのを、この曲ないし、いろんな曲で言えたらなっていうのが、このアルバムの中にある青春っていうことなんです。
EMTG:あとは1曲目の「檸檬」。デビューシングル『FLY HIGH!!』のカップリングに入っていた「サクラカノン」と同じく、クラシックの名曲を引用していますね。
熊谷:「展覧会の絵」っていう組曲から「プロムナード」の一節ですね。「展覧会の絵」は、ロシア人のムソルグスキーの楽曲で、作者が、死んだ友だちが遺作で開いた絵画の個展を見ていくっていうお話なんです。僕はそれが大好きで。そのメロディひとつで1曲書けないかなと思ったんです。オープニング、エンディング、サビ、ギターソロ、全部があのメロディで成立させるっていう、ひとつのアイディアとして書いた曲です。
EMTG:突然クラシックを持ってくる熊谷くんの思考回路にメンバーは慣れましたか?
廣瀬:そうですね(笑)、これが初めてだと突っ込んでたと思うんですけど。
熊谷:もうメンバーは脳味噌がバグッてるんですよ。
廣瀬:11年かけて徐々に(熊谷に)洗脳され続けてますから(笑)。
全員:あはははは!
熊谷:たぶんこのアルバムを聴いて、このふたりは普通だと思ってる(笑)。
EMTG:1曲目がクラシックを引用したアカペラで、♪雨は零時過ぎに~で始まるなんて、相当のひねくれ者が作った変わったアルバムなんですけどね。
熊谷:そうですよね。もともと「檸檬」は中間に持ってこようとしてた曲なんですけど、あまりのパンチの強さに1曲目以外はしんどかったんですよね。バーンアウトすぎる。
石川:サビ、サビ、サビ、サビの曲だから。
熊谷:こんなのが中盤にきたら、わけがわからん(笑)。僕らは曲によってバーンアウト成分の濃度があると思ってて。A、B、サビ、A、B、サビ、サビっていう曲はバーンアウト成分が限りなく薄い。Aメロがラップだとか、クラシックが入るような曲はバーンアウト成分が濃いんです。だから今回のアルバムはバーンアウト成分が濃い順に並べてあって。
EMTG:なるほど、本当だ!
熊谷:バーンアウト成分は高いほど(聴くのが)しんどいんですよ。だから、耳が疲れてくる頃にそれがくると、完全にバーンしちゃうので(笑)。最初の方に「アタシインソムニア」とか「エレベーターガール」みたいなイカれたやつがきて、最後のほうは「エアギターガール」「タイムカプセルに青空を」みたいな馴染みのいい曲にしてるんです。
EMTG:その発想も斬新(笑)。では、最後の曲「Sign」についてですけど、これが入ることで、雨に始まり、雨に終わるというアルバムのストーリーも完結するんですよね。
熊谷:そうですね。書いてて「雨が好きなんだな、自分」と思いました。自分の中で人生は雨なんですよ。基本的には、あんまり良いものではなくて。でも、そのあとに陽の光が射したり、一瞬かかる虹がきれいだったりするのが良いのかなって思ってる。だから雨っていうワードをよく使うのかなと思います。
石川:暗い学生時代を過ごしたんだなあと思いますよ。
EMTG:この曲がアコースティックギターだけの編成になったのは?
熊谷:もともとノーリズムというか、たとえばピアノを弾ける人だったら、ピアノの弾き語りだけでいっちゃうような曲を書きたいなと思ったんです。それで僕なりに作ったのを、いしわたりさんに出したら、「これで良いよ」って言われて。デモのときは仕上がりが薄くならないか心配だったんですけど、実際に生音で録ってみると良い感じになったんですよね。いしわたりさんはそこを最初から見越してて、結果的に音が膨らむと思ってくれてたんだなって。長くやってこられた方しか出せない味が生まれたのかなと思います。
EMTG:これはラブソングと言っていい?
熊谷:はい、ラブソングです。
EMTG:そのなかで平和だとか命について考えさせられる曲ですね。
熊谷:ここ最近は本当に暗いニュースが多いなと思ったんです。その暗いニュースの当事者になる想像力が必要だなっていうのと、そういう大きな不運に巻き込まれたときに大事なのは、結局、人間の絆かもしれないと思うことができたんですね。それがいまの時代には必要なんだっていうことを最後に置いておきたかったんです。
EMTG:とても意味のあることだと思います。アルバムのタイトルを『檸檬』にしたのは、梶井基次郎の作品の感銘を受けて、ということですね。
熊谷:そうですね。あの梶井の『檸檬』はストーリーが何気ないんですけど、広くいろんな人に支持されていて。それは主人公の心の描写が緻密で共感が持てるからかなと思うんです。ストーリー云々っていうのもすごく大事なんですけど、そうじゃなくて、人間の心の動き。人には必ず何かを決意する瞬間とか、何かを切り捨てる瞬間があって、それを描くのが文学の役割なのかなと思ったんです。それを書きたい。あとは、このアルバムを聴いたときに何かビックバンを起こすような、爆弾になってほしいなっていうことですね。
EMTG:『檸檬』という作品でも、最後にレモンが爆弾のように描かれますからね。
熊谷:そういうアルバムにしたいと思ったんです。
EMTG:うん。とても良いアルバムだと思います。初めてバーンアウトを聴いたとき、とても言葉に力があるバンドだから、それで単純に“文学ロック”だと思ってたんですね。
熊谷:はい。
EMTG:でも、いま『檸檬』が完成して、「文学は心である」っていう踏み込んだ話まで訊くと、実は本当の意味での文学を体現するのが、バーンアウトなんだと思いました。
熊谷:それは、僕も最近思うんですよ。結局、語彙力じゃないんですよね。もちろん語彙力も大事なんだけど、簡単な言葉で、すごく深いことが言えるときもあるから。そういう芯の部分を大事にしていきたいなと思ってるんです。わかりやすい言葉で、しっかりした信念を言葉にする。ときには難しい言葉を使わないと表現できないところはそれでいくっていう。そうやって適切な言葉で表現することが、文学の正体だと思うんです。

【取材・文:秦 理絵】

tag一覧 シングル 男性ボーカル BURNOUT SYNDROMES

リリース情報

檸檬[通常盤]

檸檬[通常盤]

2016年11月09日

Epic Record Japan

1.檸檬
2.Bottle Ship Boys
3.FLY HIGH!!
4.アタシインソムニア
5.エレベーターガール
6.ナイトサイクリング
7.君は僕のRainbow
8.君のためのMusic
9.ヒカリアレ
10. 人工衛星
11. エアギターガール
12. タイムカプセルに青空を
13. Sign

お知らせ

■ライブ情報

「ヒカリアレ~未来への祈りを合図に火蓋を切る~」
2016/11/11(金) 愛知・ell FITS ALL
2016/11/13(日) 宮城・enn 3rd
2016/11/16(水) 大阪・梅田クラブクアトロ
2016/11/20(日) 新潟・CLUB RIVERST
2016/11/25(金) 東京・渋谷クラブクアトロ
2016/12/03(土) 広島・BACK BEAT
2016/12/04(日) 福岡・Queblick

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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