航海の先にある、肯定という名の希望へ―さユり『ミカヅキの航海』インタビュー

さユり | 2017.05.17

メジャーデビューから2年弱。満を持してリリースされるさユりの1stアルバム『ミカヅキの航海』で彼女がテーマに掲げたのが、「肯定したい」という想い。彼女の後悔は、自身の中でそれぞれどのような形に姿を変えたのか。そして彼女自身に起きた変化とは。“今”のさユりが、その想いを語る。

EMTG:今回のアルバムタイトルは昨年のライブと同題ですが、どんな意味を込めたのでしょう?
さユり:“ミカヅキ”っていうのは自分を象徴したり表現する言葉で。デビュー曲の「ミカヅキ」自体がそういう歌なんですけど、自分には欠けている部分や足りない部分があるけど、それでも進むっていう想いをこのタイトルにも込めています。それと“航海”は“後悔”ともかけていて。自分は曲を後悔から作ることが多いんですけど、そうして生まれた曲で「救われた」って言ってくれる人に活動していくなかで出会えたんです。そのおかげで自分はそんな後悔に、悲しい気持ちや過去に意味を持たせられたから、「後悔しながらでもそれを背負って進んでいく」っていう意味を込めてこのタイトルをつけました。
EMTG:そんな今回のアルバム、曲順にはどんな意図があるのでしょうか?
さユり:最初に、1曲目の「ミカヅキ」と、最後に置いたリード曲「birthday song」が決まったんです。「ミカヅキ」で歌っている“欠けている自分だけど”っていうところで私と聴いてくれているみんなとは繋がっていると思ったし、デビュー曲でもあるのでまずはこの曲を聴いてからアルバムに入っていってもらいたいなと思ったので、1曲目に。あと「birthday song」は10代最後にできた曲なので、この曲で締めることで自分の10代への別れや20歳としてこれからに向けて進んでいくという、世界に対しての「私はこういうふうに生きていきたい、向き合っていきたい」っていうメッセージを込めたくて。しかもそれは自分に対しての決意を歌った「ミカヅキ」からの変化も表れているし、繋がってもいるんです。なので、活動したなかで生まれたひとつの答えを示せるように、その2曲は最初に決めました。
EMTG:最初と最後以外にも、その変化は感じられるのでしょうか。
さユり:そうですね。2曲目の「平行線」は最新シングルで、TVアニメ『クズの本懐』のEDテーマとしてこの作品のために作った曲なんですけど、同じくアニメのEDテーマだった「ミカヅキ」は元々あった曲を採用してもらっていたので、そこにも変化が顕著に出ていると思うんです。それに、歌をうたい始めるきっかけになった、15歳のときに作った「るーららるーらーるららるーらー」も入っているので、そこから20歳の自分までの変化を感じてもらえる、自分の成長記録みたいなアルバムになっていると思います。
EMTG:さて、先ほどお話に出たリード曲「birthday song」ですが、10代の区切りとしてこの曲を作っているときはどんな気持ちだったんでしょう?
さユり:本当に20歳になる直前に作った曲なんですけど、そのときはすごく不安で。ひとつ数字が増えるだけなのに、漠然と何かに見放されるような、何かを失ってしまうような気がしていたんですよ。そんななかで、曲を作ってるときに「ハッピーバースディ」っていう言葉がメロディとともに出てきて、「これが、自分が言われたかった言葉だし、言いたいメッセージなんだ」って思ったんです。
EMTG:そこを基盤にして、曲を作っていった。
さユり:はい。その言葉で「『生まれてきて、よかったんだよ』って言われたかったんだな」って思ったところから、作り始めていきました。私、ずっと「前に進みたいけど進めない」とか「忘れたい 忘れられない」とか、両極の感情の中でずっとどっちにも目盛りを振れずに居場所を探していたのが10代で。でもその「ハッピーバースディ」という言葉とともに、今の自分で示したひとつの答えが、「birthday song」なんです。なので、20代を目前にして今までの自分を「なんで自分はこういう人間で、なんで歌ってきたんだろう?」みたいに今一度振り返って、見つめ合う作業をしながら作りました。
EMTG:そうやって、10代までの総決算の曲ができた。
さユり:そうですね。
EMTG:では、“中2さゆり”との物語にひとつの答えがでるというMVも、10代の区切りになるものに?
さユり:そうですね。たとえばデビュー前に撮った紙芝居を使ったMVを彷彿とさせるシーンがあったり、教室や誰もいない都会とか今までのMVに出てきた場所にそれぞれいたりと、過去を振り返るような作品になってると思います。Blu-rayでは発表した順にMVが並んでいるので、よりそのストーリーも楽しんでもらえると思いますし、まとめて観たら「birthday song」のMVの意図をよりダイレクトに感じてもらえるんじゃないかな、って思います。
EMTG:そこに至るまでの曲もバリエーション豊かなのですが、まずタイトルが目につく「ケーキを焼く」をどう着想したのかが気になりました。
さユり:この曲は、初めてタイトルを決めてから作った曲なんです。シャッフルで音楽を聴いてるときに、急に「ケーキを焼く」って表示されて、「なんだろう?」と思ったら、スピードラーニングのプログラム名だったんです(笑)。それがすごく違和感があったし字面も面白かったので、そこから膨らませて作っていきました。
EMTG:聴き手を肯定してくれる、心を軽くしてくれるような印象がありました。
さユり:みんなが気軽に口ずさめるお守りみたいな曲になればいいなと思ったんですけど、ケーキを“食べる”じゃなくて“焼く”ところが、自分の中ではいいなと思っていて。憂鬱なときってつい何もしたくなくなったりしちゃうけど、そういうときこそ何か作ったり動いたほうが心が軽くなることって、あるなって思うんです。そういう、ポジティブな想いを込めた曲になりました。
EMTG:同様に、「オッドアイ」に出てくる「それでいいよ」という言葉にも肯定感がありました。
さユり:そうですね。やっぱりアルバムを通して、「肯定したい」っていうのは大きなテーマなので。
EMTG:となると、「十億年」もそこに結びついていたり?
さユり:します。この曲はモード学園のCMのお話をいただいてから作ったんですけど、入学を考える人たちは私と同い年ぐらいだと思うので、その人子たちみんなが抱えている期待と不安、その両方を肯定したいなと思ったところから作り始めて。それと、ライブの空間に、私の歌を聴きに来てくれているお客さんと私がいるっていう空間も思い浮かべながら。
EMTG:なるほど。そういう目線も含まれている。
さユり:そうなんです。お客さんってライブ中は楽しそうにしてるけど、私の音楽を聴きに来るっていうことはやっぱり何か欠けているところがあるのかもしれないな、と思っていて。私と同じで、やっぱりどこか不安を抱えながら生きているのかな、だから私の曲を聴くのかな、と思うんです。そこはアルバムタイトルに込めた気持ちとも通じるんですけど、欠けているものがあるからこそ、私とその人は繋がれる。そんな皆さんと同じ場所に居合わせることって、すごい奇跡みたいに思えるんですよ。だからその瞬間と、それまで生きてきた人生をめいっぱい肯定して祝福するような曲になったらいいなと思って作った曲なんです。
EMTG:そして明るめというか、穏やかな感じを受けたのが「夏」です。
さユり:自分は音楽を匂いから作るので、この曲も夏の匂いを閉じ込めた曲なんです。自分が夏だなって思う瞬間が、暑くなったらというよりは、クーラーを入れた瞬間だったりするんです。あの冷たい感じが始まったら、「夏だな」って思うんですよね。夏特有の外との気温差がすごくある不思議な感じとか、それをちょっと肌で感じる気持ち悪さみたいなところがこびりついていて。“部屋と外”という隔たりも、“自分の心の内側と世界”みたいなところと通じたりしていて、その距離感みたいなところを曲に落とし込んでいます。そう考えると、全曲通して自分と世界との距離を歌ってるんだな、って思いますね。
EMTG:特に冒頭の夏が始まる部分の描写はとても細やかで、素敵だなと思いました。
さユり:季節っていうものが、自分の中ですごく大切なところで。季節って、毎年形を変えないじゃないですか? その土台が変わらないから、変化したものが見えやすいと思うんですよ。まわりの人との環境は変わるから見失っちゃうものも多いけど、季節自体が不変だからこそ大事な感情がそこにこびりついていて、人それぞれに季節を感じたときに思い出すものがあるんだと思うんですよね。
EMTG:それを結構終盤の、大事な位置に置かれた。
さユり:そうなんです。あと全国ツアーが夏なので、夏を感じる曲があったらいいなという想いも込めて。
EMTG:そんな曲もありつつ、「蜂と見世物(サーカス)」や「knot」という曲もございます。このあたりの曲も、書いていきながら心の内を投影していったのでしょうか?
さユり:「ケーキを焼く」と「夏」は今年作った曲なんですけど、「蜂と見世物(サーカス)」と「knot」はどっちも昔作った曲なんです。やっぱりそのときは、自分が曲を作る視線も閉鎖的だったので、怒りや悲しみの感情をそのまま閉じ込めた2曲だな、と思います。
EMTG:特に「knot」はテンポもどんどん変わる、心がそのまま出てきたような曲になっています。
さユり:この曲は『ミカヅキの航海』の中でいちばん後悔を担っている部分の曲だと思うんですが、やっぱりそこは、不安定な心を表しているのかな、って今気づきました。
EMTG:聴き手の後悔によって聴こえ方の変わってくる部分もあると思いますし、既存曲含めてアルバムを通してどう心が揺さぶられるのかというのも、楽しみな方も多いと思います。
さユり:そうですね。歌詞にも音楽的にも、昔の曲からの変化を結構感じてもらえると思うので、皆さんの反応が楽しみですし、そこから気づくこともいろいろあるのかな、と思っていて。でもやっぱり、聴いてくれた人の中で何か変化があると嬉しいですね。聴く前と聴いたあととで、何かが変わっていてほしいって思いながら作った1枚なので。
EMTG:そして今回、音源だけではなく初回生産限定盤Aの装丁もすごく作り込まれていて。歌詞カードが曲ごとに1枚ずつに分かれていて、さらに3種の枠もついているんですよね。
さユり:そうなんです。好きな歌詞や絵を表紙にしてもらったら、その人のそのときの気持ちで表紙を作れるんです。なのでぜひ、実際にCDを手に取ってもらいたいですね。
EMTG:今の中高生ぐらいだと、こういう作り込まれたパッケージって逆に新鮮かもしれないですね。
さユり:たしかに。予約会やリリースイベントをやってると「初めてのCDです」って言ってくれる子がいるんですけど、「CDを買わない」が「買う」になったって考えると、それが本当にうれしくて。あと、この曲順にも意味があるから、1曲目から順番に聴いてほしいなっていう想いもあります。1枚通してアルバムを持つ意味を、共有できたら楽しいだろうなって思っています。
EMTG:そしてこのアルバムを引っさげての全国ツアーが、この夏開催されます。
さユり:はい。前回は追加公演という位置づけだったので、全国ツアーとしては今回が初なんです。去年は「後悔しながらも航海を続けてきたよ」とこれまでを見せるという意味合いのほうが強かったんですけど、アルバムができたら少し視野が未来にまで広がって、「これからもっと、いろんなことができるんじゃないか?」って少しずつ思えてきて。だから去年よりも意味の大きい、過去だけじゃなくて未来も見ながら皆さんと一緒に航海していくようなライブにできたらなと思っています。
EMTG:そんな今回のツアー、どんなツアーにしたいですか?
さユり:それぞれが自分のことを肯定できるような気持ちになれたら、という想いでアルバムを作ったので、ライブもそういうものにしたいです。「自分の好きなように生きていいんだ」って自分の過去を肯定して、その瞬間をめいっぱい楽しんでもらえたら嬉しいですね。大それてしまうんですけど、この瞬間のために生きてきたって思ってもらえるようなライブができたら……というのが、目標です。
EMTG:お客さんもそれをこの先への活力にされるでしょうし、逆にそんな姿を見ると、それはさユりさんの今後の活力にもなっていくのでは?
さユり:そうですね。やっぱり、人と関わって自分が変化していくっていうところは面白いなって思うので、どんどんライブをやったり人と関わって、さらに変化していきたいです。

【取材・文:須永 兼次】

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リリース情報

ミカヅキの航海

ミカヅキの航海

2017年05月17日

アリオラジャパン

1.ミカヅキ 
2.平行線 
3.十億年 
4.ケーキを焼く
5.フラレガイガール 
6.蜂と見世物
7.るーららるーらーるららるーらー
8.オッドアイ
9.それは小さな光のような
10.来世で会おう
11.knot
12.アノニマス 
13.夏
14.birthdaysong

お知らせ

■コメント動画



■ライブ情報

「ミカヅキの航海2017~夜明けの全国ツアー~」
07/21(金) 福岡 DRUM Be-1
07/28(金) 名古屋 Electric Lady Land
07/30(日) 仙台 MACANA
08/11(金・祝) 渋谷 TSUTAYA O-EAST
08/13(日) 札幌cube garden
08/25(金) 大阪 BIGCAT

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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