Halo at 四畳半 渡井(Vo&Gt)テキスト連載【発条式短篇奇譚】第2回「朝のない惑星」

Halo at 四畳半 | 2017.07.10

発条式短篇奇譚 第2回
2017年7月号
「朝のない惑星」



この惑星(ほし)には朝という概念が存在しなかった。夜と呼ばれる時間もない。明るいとも暗いともとれる中途半端な明るさが延々と続いていく。だから「朝」や「夜」という区分すら必要がないのだ。この惑星はいつだって朝を過ぎた頃にいて、夜に辿り着くことはない。

騒がしさに目を覚ますと、部屋には彼だけが残っていた。珈琲を片手に、文庫本を反対の手に、親指で器用にページを捲っている。身体を起こした僕に気付くと、その両方をテーブルに置いた。

「皆はどこへ?」

寝癖を手櫛で直しながら彼の向かいに座る。彼は声を発することなく後ろを振り向き、窓の外を指差した。ぶっきらぼうな答え方ではあったが、視線が彼の指に追いつく頃には「なるほど。」と小さく呟いていた。

普段であれば橙色で仄暗いはずの景色が、熟れた葡萄の様な紫色に染まっていたのだ。

この惑星の上空にはひとつの大きな球体があり、自転も公転もせずただそこに存在している。それは太陽と呼ばれ、街一帯を四六時中橙色に照らし続けていた。

しかし今、視線の先に浮かぶそれは橙色とは似ても似つかぬ不気味な紫色をしている。

窓辺に歩み寄り外の様子を伺った。沢山の人が声を張り上げながら辺りを駆け回っている。「ここにはなさそうだ」「そっちはどうだ」「向こうにある可能性が高いらしい」どうやら何かを探しているようだった。

「花だよ。」

彼が短く発する。

「花?」

思わずそう聞き返すと、彼は珈琲を一口飲んでからゆっくりと話し始めた。

莫大な財産を抱えている街一番の資産家が多額の懸賞金をかけて花を探させていること。それはこの世に一輪しか存在せず、太陽が元に戻る頃には枯れてしまうということ。

彼は最後にテーブルに置いてあった一枚の絵をこちらに差し出してきた。一輪の花が描かれている。これが探されている花なのだろう。確かに見たこともない花だった。

「街中の人間が血眼になって探している。」

淡々と呟いて彼はテーブルの下に屈んだ。

「似た花と見間違え、奪い合い、何人もの負傷者が出ている。」

テーブルの下から何かを取り出す。

「はじめは僕も探しに出ようと思った。」

彼の手にはたった今見た絵と全く同じ花が抱えられていた。

「造花だよ。全くそっくりに出来ている。」

「これだけの人間が探し続けても見つからない。元となる情報も描かれたものでしかなく、信憑性に欠ける。」

「きっと、そんな花は存在しない。」

「平行線なんだ。まるで空の色が変わる前までのこの街のように。」

彼は花を抱えて外へと歩き出していく。僕は慌てて彼の後を追った。こちらを振り返りもせず彼は続ける。

「彼らは思ったのだと思う。空の色が変わるのを見て。平行線を曲げられないものかと。」

道ゆく人々が彼の抱えた花を見て息を呑む。

「思い馳せたのだと思う。どこか遠い惑星では、空の色が目まぐるしく変わっていくのではないかと。」

落胆した表情の人々は、せめて見届けようと思ったのか、はたまた隙あらば奪い去ろうとしているのか、彼の後に続く。

「だからこんな方法で、この街の”正常”を捻じ曲げた。とても成功だとは思えないけれど。」

街の中央にある広場まで来て彼の足は止まった。
抱えていた花を優しく地面に置いて彼は続ける。

「でも、僕は思う。」

ポケットからライターを取り出す。

「待っていても終わりは来ないし、単調に過ぎる毎日は身体に毒でしかない。」

ライターに炎が灯る。

「空の色にせよ、架空の花にせよ、待つ者に前進も後退もないんだ。幸も不幸も誤差でしかない。」

彼は身体をかがめ、ゆっくりと炎を造花に近付けた。
あっという間に燃え移った炎は、じわじわと広がっていく。それに合わせるようにして、後に続いた人々の悲鳴や溜息は増えていった。

炎が花を包み込むのとほぼ同時に、空は紫から炎とよく似た橙色に染まっていった。


テーマ「紫陽花(@mao1005_rock)」







【テキスト連載】発条式短篇奇譚(ゼンマイシキ タンペン キタン)

Halo at 四畳半の渡井翔汰(Vo&Gt)がお送りするテキスト連載企画!毎回お題をTwitter上で募り、その中でインスピレーションを受けたワードから、短編小説をつくりあげます。 いったいどんなキャラクターが、風景が、彼から描かれていくのか?
一緒に物語の行く末を見届けていきましょう。

◆Twitterでお題募集中!
Twitterから下記のハッシュタグを付けてお題をつぶやいてください。
#ゼンマイシキタンペンキタン

★第3回テーマ募集期間:2017年7月10日~7月31日23:59まで
★第3回掲載予定日:2017年8月10日




【Halo at 四畳半(ハロアットヨジョウハン)プロフィール】
千葉県佐倉市出身、渡井翔汰(Vo&Gt)、齋木孝平(Gt&Cho)、白井將人(Ba)、片山僚(Dr&Cho)の4人組ロックバンド。独特な歌詞の世界観、圧倒的な楽器の演奏力は、正統派ギターロックバンドの中でも大きな存在感を放つ。

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リリース情報

Animaplot

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2017年09月20日

SPACE SHOWER MUSIC

1.クレイマンズ・ロア
2.ステラ・ノヴァ
3.ユーフォリア
4.劇場都市
5.発明家として
6.トロイカの箱
7.点描者たち

お知らせ

■ライブ情報

Halo at 四畳半 ワンマンツアー 2017
11/04(土) 広島CAVE-BE
11/05(日) 福岡Queblick
11/18(土) 仙台MACANA
11/19(日) 新潟GOLDEN PIGS RED STAGE
11/22(水) 札幌COLONY
11/25(土) 梅田CLUB QUATTRO
11/26(日) 名古屋CLUB QUATTRO
12/02(土) 渋谷TSUTAYA O-EAST


polly sou release tour 「花束を渡すまで」
07/12(水) HEAVEN’S ROCK Utsunomiya VJ-2

MURO FESTIVAL 2017
07/22(土) お台場野外特設会場

Sound Stream sakura 17th ANNIVERSARY 記憶の軌跡
07/30(日) Sound Stream sakura

大ナナイトvol.108
08/04(金) 高崎club FLEEZ

WILD BUNCH FEST.2017
08/20(日) 山口きらら博記念公園

『MUSIC GOLD RUSH First』
08/27(日) TSUTAYA O-Crest

RADIO BERRY ベリテンライブ 2017 ~HEAVEN’S ROCK Utsunomiya VJ-2~
09/01(金) HEAVEN’S ROCK Utsunomiya VJ-2

Saucy Dog カントリーロード RELEASE TOUR FINAL SEREASE
「ずっと ~東名阪対バンツアー~」

09/10(日) CLUB UPSET(名古屋)

TOKYO CALLING2017
09/16(土)~18(月)
下北沢、新宿、渋谷

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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