ゴスペラーズ 50枚目となるシングルで、世界的プロデューサーとの深化系コラボが実現

ゴスペラーズ | 2018.02.20

 イントロが流れてくるだけでうっとりとスウィートな気持ちになれるゴスペラーズの新曲「ヒカリ」。あの「永遠(とわ)に」でタッグを組んだグラミー常連の世界的プロデューサー、ブライアン・マイケル・コックスとパトリック"J.Que"スミスを再び迎え、今だからこその深化系コラボが実現した。M2の「まっすぐな橋」は、映画しまじろう『まほうのしまの だいぼうけん』のテーマソング。ほぼ8分音符だけの美しいメロディと、2つのメロだけのシンプルな構成ながら、なんともいえない高揚感に満ちていて新しい。記念すべき50枚目のシングルに相応しい意欲作だ。

EMTG:まず、「ヒカリ」で、かのプロデューサー陣と再びタッグを組むことになった経緯を教えてください。
村上:去年リリースしたアルバム『Soul Renaissance』が、ツアーを回っていくなかで非常にいいリアクションを得ることができたので、90年代ソウル/R&Bというあの方向性を、もう一歩深めてみたいという気持ちになっていました。もちろん、同時にステップアップもしたい。要は新しい人たちと組むか、一度組んだ人たちの「今」に託すかだったんですけど、今回は後者を選びました。たまたまですが、特にJ.Queは、ここ数年SHINeeやEXOなどK-POPにも進出していて、日本で活動する基盤も整いつつあった。
安岡:よく知る僕らと再び組むことは、彼にとっても歓迎すべきことだったようで、いいタイミングでした。
村上:米国音楽市場で、去年初めてR&B/ヒップホップの売り上げがロックを上回った。そんなムードのなかで、トップを獲った人たちとやれるのは単純にうれしいし、やり甲斐のあることですよね。僕ら自身は錆びてないつもりでも、彼らの目にどう映るかはわからないから、いい意味でピリッともしますし。
EMTG:バラードというリクエストはしていたんですか?
安岡:実は、いろんなタイプの曲を書き下ろしてくれたんですよ。
村上:そこから今回「ヒカリ」を選んだのはスタッフです。
安岡:50枚目のシングルに最も相応しいという意見で。
酒井:送られてきたデモ音源はどれも、そのまま「これ、ください」と言いたくなるクオリティでした。
北山:実際、愛聴してますよ。
安岡:つまり、リアルタイムの良質なR&Bを。
黒沢:オーダーメイドで何曲も書いてくれたわけです。
EMTG:以前の出会いがあってこそなんでしょうね。
黒沢:少なくともイヤな思い出じゃなかったようですね(笑)。
村上:「永遠(とわ)に」は、J.Queのプロフェッショナルとしての1stキャリアと呼べるものだし、お互い初顔合わせの作品があれだけ多くの人に届くってこともそうない。印象深かったんだと思います。そうそう、今回来日したとき、彼が自宅の居間で踊る娘さんの動画を見せてくれたんですよ。
安岡:そこに、当時我々がプレゼントしたゴールドディスクがたまたま映り込んでました。
北山:「この人たちと仕事しに日本に行ってくるね」と、そのゴールドディスクを指して娘さんに言ったら、「スゴい。頑張ってきて!」と言われたそうです。
EMTG:双方の歴史を感じる可愛いエピソードですね。さて、曲が決まってから作詩の作業はどのように?
安岡:ゴスペラーズのための曲だから、タイトルも内容もすべて任せると言ってくれたんですけど、やはり曲が生まれたときのフィーリングは大事にしたかったので、デモの英語詞も参考にしました。タイトルは「enough for us」。愛に満ち溢れているという内容で、僕はその象徴として光を思い浮かべたんです。光って何か受け止めてくれるものがないとカタチを現さないですよね。夜空に懐中電灯を向けても光は見えなくて、建物や地面に向けて初めて見える。それと同じで、僕のこの愛も、受け止めてくれる君がいて初めてカタチになる。そんなスウィートなラブソングにしたいと思いました。
村上:最近の日本の音楽シーンにその枠はなかったなと。そこをやってきた我々としては、現状に一種の悔しさも感じるし、だからこそチャンスだとも思う。スウィートなラブソングを届ける存在でいなきゃなと、また気持ちを新たにしたところはありますね。
EMTG:J.Queさんとのやりとりは、以前とはまた違いましたか?
黒沢:J.Queが来日する前のプリプロで曲への理解度が高まっていたからか、大きなダメ出しをされることはほぼなく、ホント、僕らを尊重して見守ってくれているという感じでした。時折ある指摘に対する僕らの対処も早くなっていたようで、「なんでそんなにすぐできるんだ?」ってビックリしてましたね。2000年にアトランタで一緒にやったときは、相当ボコられましたけど(苦笑)。
北山:要所要所で的確なアドバイスをくれつつ、僕らのやり方もアリだよと言ってくれる。褒めゴロシというニュアンスすら受けてしまうほど信頼してくれてるのがうれしかったです。
黒沢:家族の話、筋トレの話、ラーメンの話など、音楽以外の話もいろいろしましたね。もちろん、「次はメロディから一緒にコライトしたいね」という話も。和やかながら得るものが多い作業でした。
EMTG:歳月を経ての実りがあったようですね。さて、「まっすぐな橋」にもまた、新しい感動をおぼえました。作詞、作曲は酒井さん。
酒井:映画のお話がきたときに、この曲が似合うんじゃないかというスタッフの推しもあって選んでいただけました。映画制作サイドからは、「クライマックスで使いたいので、どんどん盛り上がる感じにしてください」というリクエストもあって。それに対して、シネマティックなストリングスで常套的に応えるのではなく、「ゴスペラーズはそれを声でやります」というカタチにしたところが、この曲の面白さになってるんじゃないかと思います。
EMTG:まさに! 削ぎ落とした音符の数で、こんなに美しいメロディになるんだとも思いました。
酒井:全体的に具は少なめですね(笑)。オルゴールのイメージに近いかもしれないです。
EMTG:子供たちや親御さんを意識したりは?
酒井:曲の着想時、僕自身にそれはなかったんです。ただ、歌詞に関しては、子供にも大人にも届くものをというところで、かなり悩みました。シンプルさでちびっ子の耳を、「可愛い子には旅をさせろ」的な部分で親御さんの耳をキャッチできたらと。
村上:親離れ、子離れを考えさせられますよね。昔から僕らを応援してくれる人たちは、歳は下でも母のような気持ちでいてくれてると思うので、そこでも響くものになったんじゃないかなと。
EMTG:タイトルには、震災復興をきっかけに、よりみなさんの近くにと始まった『橋ツアー』がかかっていたりもしますか?
酒井:意識はしてませんでしたが、冒険に出る側と出す側の見えないリンクを言葉で表そうとして「橋」になったのは、もしかしたら『橋ツアー』をやってるからかもしれません。僕のなかでのイメージは、アポロ宇宙船とヒューストン管制センター。何も頼りのない側とただひとつの頼りとなる側をつなぐものですよね。
安岡:いろんな受け取り方ができる歌詞だと思います。実際僕も、レコーディングの最終チェックのとき、それまでとは違った意味に聞こえてハッとしました。長く歌っていくなかで、さらに新たな意味がついてくるんじゃないかと楽しみになりましたね。
EMTG:ウーアーのコーラスによる盛り上がりにもグッときました。
黒沢:繊細ですよね。混じり合ったフワッとした響きで支えるという意味で、ひとつの到達点かも。アレンジは酒井と北山?
北山:酒井さんのイメージをアレンジャーの平田(祥一郎)さんが翻訳して、さらにそれを僕がゴスペラーズ方向に翻訳したという感じです。すぐに出口が見えなかった分、新しい引き出しが開く瞬間をより強く味わうことができました。曲を作った当初の酒井さんの衝動を、うまく引き継ぐカタチで新しいことができた気がします。
EMTG:サビの最後のディストーション・ギターがまた、高揚感に拍車をかけていますね。
村上:あれはもう平田さんのおかげですね。
酒井:僕はフワフワしたことしか言わないのに、平田さんはそれを理解して、それ以上の音にしてくださってます。「ヒカリ」ではアメリカのトップをいくブライアンとJ.Queと再びタッグを組み、「まっすぐな橋」では日本の人材で、日本独自の新しいR&Bと呼べるものが生まれた。そんな気がしています。
EMTG:本当に記念すべき50枚目のシングルになりました。
村上:次のステップにいくというところで、49枚目じゃしまらないですからね。図らずもゴスペラーズのゴ(5)で、きっかり50枚目。なんかまだ持ってるくさいぞと(笑)。
EMTG:そんな村上さんが、初回生産限定盤の特典映像「私がゴスペラーズじゃなかったら」の第四弾に登場。予告をお願いします。
村上:いやー、寒かった。観たらきっと、「ヒカリ」がさらによく聞こえてくると思います(笑)。お楽しみに!

【取材・文:藤井美保】

tag一覧 シングル 男性ボーカル ゴスペラーズ

リリース情報

ヒカリ

ヒカリ

2018年02月21日

Ki/oon Music

M1 ヒカリ
M2 まっすぐな橋

お知らせ

■ライブ情報

20th Anniversary ゴスペラーズコンサート2018 in Naeba
02/23(金)、24(土)、26(月)、27(火)
新潟・苗場プリンスホテル ブリザーディウム

一青窈謝音会〜アリガ十五〜
03/21(水祝)東京国際フォーラムホールC

ニプロハチ公ドーム20周年記念事業大館 MUSIC SPRING 2018
05/04(金・祝)秋田・ニプロハチ公ドーム(大館樹海ドーム)

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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