パスピエの独自性を改めて力強く世に示す、ミニアルバム『ネオンと虎』

パスピエ | 2018.04.04

 ミニアルバム『ネオンと虎』は、パスピエの独自性を改めて力強く世に示す作品だ。サイバーな近未来感を醸し出しつつ、どこか懐かしい風味も漂わせるこのようなサウンドを奏でるバンドは、おそらく他にはいないだろう。耳を傾けながら想像を無限に膨らませる喜びも噛み締めさせてくれる全7曲――昨年から新体制となったことに伴う変化、生まれている一層の柔軟性も反映された今作は、どのようにして完成したのか? リリース後に控えている全国ツアーへの意気込みも含め、メンバーたちに語ってもらった。

EMTG:どのようなことを考えながら制作を進めました?
成田ハネダ(Key):“今、自分たちが追求するべきこと”と“やりたいこと”の両方であるものを作りたいと思っていました。そういう中から生まれたのが「ネオンと虎」や「マッカメッカ」です。作ってみてから、“やっぱり根源にあるのはニューウェーブとプログレッシブなんだな”と感じました。
大胡田なつき(Vo):私は、“もっと自分を出してみようかな”というのがありました。今までの歌詞だったら喩え話で書いていたようなことを、かなり実体験に寄せたり、“言葉が伝わる声音”っていうものにもこだわりましたね。“この言葉は、どういう声で、どういう風に歌ったらいいかな?”っていう試行錯誤をしましたから。
三澤勝洸(Gt):前作はデータのやり取りをメインにして作ったんですけど、今回はスタジオで合わせることが多かったんです。だから“バンドっぽいロック感”みたいなのが出ていると感じています。ドラムの佐藤謙介くんは、去年からずっとパスピエをサポートしてくれて、今回も全曲で叩いてくれているんです。そういう積み重ねもありつつの、今回の1枚ですね。
露崎義邦(Ba):僕らのルーツにあるニューウェーブ、プログレの要素に、肉体の熱量のあるバンド感が上手く加わって、共存できている作品になったと思います。
EMTG:リスナー側からの印象を申し上げるならば、パスピエの音楽の“色の濃さ”みたいなものをすごく感じる作品です。例えば1曲目の「ネオンと虎」も、イントロの時点で、ものすごく耳に残るインパクトの強さがありますから。
成田:こういうアプローチをやることが、今、逆に新鮮なのかもしれないですね。最近またシティポップの系譜が注目されていて、それはジャンルとしてニューウェーブに属されたりすることもありますけど、この曲のようないわゆる“シンセポップ”っていう、ちょっとテクノも入ったレトロ感って、パスピエらしさでもあるのかなと思うので、存分に出しています。
EMTG:パスピエの楽器隊って、全員上モノと言って良いくらい前に出てきて、主張が強いのも刺激的です。
成田:そこら辺は新体制になって、より顕著になったところかもしれないです。
EMTG:厚みのあるバンドサウンドであると同時に、どこか懐かしくなる素朴な空気感が漂うのも不思議なところです。
大胡田:成田さんは80年代の機材を使ったりしているけど、露さんと三澤さんはヴィンテージとか使っているわけじゃないよね?
三澤:うん。
露崎:そうですね。
大胡田:それで「ネオンと虎」みたいな80年代感みたいなのを出すっていうのは、どういうことなの?
成田:急に司会者になった大胡田(笑)。
EMTG:僕もそれ、知りたいです(笑)。
露崎:でも、レコーディングの時は、古めのヴィンテージのアンプをお借りしたりもしたんです。出音が変わると弾き方も変わるので、そういう中で好きなプレイヤーを思い浮かべたりしてやった結果、こういうサウンドになったのかもしれないですね。
大胡田:なるほど。
成田:渋いサウンドのギターとかに対して最新のシンセで強烈なメロディラインを弾くようなバンドはいますけど、パスピエはその逆なんですよね。そういうところは今回の「ネオンと虎」にも表れていますし、打ち出していきたいところです。
EMTG:「オレンジ」のシンセの音色も、80年代っぽいですからね。
成田:そうですね。「オレンジ」もギターのカッティングに対してブラスシンセ的なものを弾きながら、80’s感を意識して作った曲です。
三澤:ギターは時代感を出そうとし過ぎると、“~っぽい”みたいなものになってしまいがちなんです。だからギターは“雑味係”みたいな感覚が今回ありました。例えば「ネオンと虎」もクリーンな音色で弾き過ぎると、フュージョンみたいなものになったと思うんです。いい感じの中間地点を探す感じでした。
EMTG:今さら言うのも変ですけど、パスピエって、各楽器の立ち位置が非常に独特なバンドですよね?
成田:そうですよ(笑)。こういう編成のバンドはたくさんいるんですけど、各楽器の立ち回り方は他とかなり違うと思います。
EMTG:だからパスピエってフェスとかも含めて、どこの場に行っても、良い意味で浮くんだと思います。“浮き続けて9周年”だなと。
大胡田:それって、良いんでしょうか?(笑)。
EMTG:素晴らしいことです。
成田:異質なままでもありたいし、溶け込みたい気持ちもあるっていう両軸でやっていきたいんですよね。
EMTG:音にのせる言葉の面でも、他のバンドにはない雰囲気がすごく出ているバンドですし。例えば「ネオンと虎」も“ネオン”という無機質なものと“虎”っていう野性的な動物が組み合わさっていて、なんだか妙に気になるムードを醸し出しています。
大胡田:“隣にいるようでいて隣にいない”っていう両方のものが欲しい感覚あるんです。つまりパスピエは“欲張り集団”で“浮き続けて9周年”?
EMTG:その通りだと思います……って、なんか悪口みたいになってきていますけど(笑)。でも、気になる単語や描写も散りばめられているから、いろいろな想像ができるんです。
大胡田:「ネオンと虎」は80年代ニューウェーブへの憧れを詰め込んだら、こういう歌詞になりました。私が思い描くニューウェーブ感です。
成田:80年代に生まれた音楽は、今でも残っているものがたくさんありますし、シンセサイザー弾きとしては、あの頃のサウンドに対する憧れがあるんですよね。そういうのがいろんな形でパスピエには表れているんだと思います。
EMTG:パスピエが80年代初頭にデビューしたら、どうなっていましたかね?
成田:どうなんでしょう?
大胡田:売れる!
成田:そうなればいいけど(笑)。
EMTG:(笑)「トビウオ」も、不思議なムードです。“爽やかだなあ”って耳を傾けていると、なんとなく不穏なものが滲み出してきますから。
大胡田:そうなんです。パッと聴いた感じはストレートなんですけど。
成田:ストレートに作り過ぎると“このままで良いのかな?”っていうことを感じるんです。“パスピエで演奏して歌う必要性”っていうのを考えると、こうなるんだと思います。これは、わりと自分の曲作りのテーマなんですけど、“単純に明るいとか暗いとか定義できないものでありたい”というのがあるんです。「トビウオ」も、まさにそれですね。
EMTG:しかも、タイトルが「トビウオ」ですからね。曲タイトルとしては、見慣れないタイプの言葉です。
大胡田:“飛ぶ”っていうイメージとか、“生まれ変わって、また前へ進んで行く”っていうのは、いろんな他の曲でも描かれる普遍的なテーマだと思うんです。でも、成田さんも言う通り、そういうのを真っ直ぐ表現するのは、パスピエのやることじゃない気がするんですよね。いろんな角度から攻めつつも、聴いた後に残るものが普遍的であったら良いなと思って歌詞を書いているので、こういう言葉が出てくるんです。
EMTG:やっぱり、パスピエって“気になる”の宝庫なんですよ。ジャケットのアートワークも、CDショップでものすごい存在感を毎回放っていますし。今までは女の子の絵だったのに、今回は虎なんですね。
大胡田:女の子を描かなかったのは初めてですし、虎を描いたのも初めてです。今回、作品全体に虎のイメージがあるんです。“獣的”っていうことだけじゃなくて、“いろんな方向に飛んで行けるしなやかさ”“力強さ”とかが、この作品に合うんじゃないかと思って、虎を描く練習をしました。
EMTG:女の子は、いつかまた帰ってくるんですかね?
大胡田:女の子は、CDショップの店舗別特典のステッカーにいますので、よろしくお願いします(笑)。
EMTG:(笑)「かくれんぼ」や「恐るべき真実」とか、プログレにも通ずる斬新な展開を遂げる曲も、今作の聴きどころです。
成田:今はループミュージックに耳が慣れてきている時代ですし、そういうもののかっこよさももちろんあるんですけど、変拍子でバンドとして昇華できるのは日本独自のバンド文化だと僕は勝手に感じているんですよね。そういうアプローチをパスピエも絶やさずに追求しつつ、“それでも踊れるものとは?”っていうのを探したいんです。
EMTG:「マッカメッカ」も不思議な風味ですね。歌メロのインパクトがものすごいですから。
成田:こういうメロディラインに、人間的な心情を出している新しさもある曲だと思います。
大胡田:曲を聴いてすごく色が見えたんです。だから歌詞には、そういうものを入れました。
EMTG:真っ赤な嘘をつき合ったり、顔色を窺い合ったり、顔色を変えたりしつつも、心地よい場所を共に作り合うような、“虚実が入り混じった人間の世界の機微”みたいなものを感じました。
大胡田:やっぱり私は、こういう相反するものを入れるのが好きなんですよね。「マッカメッカ」は“嘘と誠”とか“赤と青”とか“表と裏”とかですし。速くて印象的なメロディの曲でもあるので、韻を踏むことにも重きを置きました。だから、パッと聴いて気持ちいいと感じるものにもなっていますし、聴いていく内に何かを一緒に考えられるものにもなっていたら嬉しいです。
EMTG:今回、新鮮さという点で挙げるならば、「Matin?e」ですね。
成田:初めて生のストリングスを入れましたからね。メンバー以外のパートを入れるっていうのは、今までになかったんですけど、新体制になってからサポートのドラムを迎えるようになりましたし、“なんでもやってみよう。なんでもできるかも”っていう時期に入っているんだと思います。
露崎:柔軟になりました。前作を経て今回の『ネオンと虎』に関しても、そういうことができたので、ずいぶんと濃密な1年を過ごしてきたんだなあって感じます。
EMTG:今作のリリース後はツアーがありますが、後半は各地で2 DAYSの公演をやるんですね。
成田:はい。去年、『OTONARIさん』を出した後に東名阪を回るツアーをやったんですけど、東京で初めて2 DAYSでやったんです。会場の規模を広げて1日だけやるのも良いんですけど、お客さんと近い距離でやるのが、今のパスピエにとって大事なのかなと思ったので、こういう形にしました。“どうなるんだろう?”っていう楽しみがすごくあります。
EMTG:“ネオン編”と“虎編”っていうタイトルを掲げているということは、1日目と2日目で内容も変わるんですか?
成田:そうですね。『ネオンと虎』のリリースツアーという本筋は変わらないんですけど、セットリストとか見せ方をどうするか、今、考えているところです。
大胡田:早くライブをやりたいです。『ネオンと虎』の曲たちが私たちの中でどういうものになって、お客さんの中でもどういう風になっていくのか、すごく楽しみにしています。

【取材・文:田中 大】

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リリース情報

ネオンと虎

ネオンと虎

2018年04月04日

ATLANTIC JAPAN / WARNER MUSIC JAPAN

1.ネオンと虎
2.マッカメッカ
3.Matinee
4.かくれんぼ
5.トビウオ
6.オレンジ
7.恐るべき真実

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■ライブ情報

パスピエ TOUR 2018 "カムフラージュ"
05/13(日) 川崎 CLUB CITTA’
05/16(水) 柏 PALOOZA
05/18(金) 高松 DIME
05/20(日) 広島 SECOND CRUTCH
05/21(月) 京都 MUSE
05/26(土) 新潟 GOLDEN PIGS RED STAGE
05/27(日) 山形 ミュージック昭和 Session
05/29(火) 埼玉 HEAVEN’S ROCK さいたま新都心 VJ-3
06/03(日) 静岡 SOUND SHOWER ark
06/09(土) 福岡 DRUM Be-1 -ネオン編-
06/10(日) 福岡 DRUM Be-1 -虎編-
06/16(土) 仙台 MACANA -ネオン編-
06/17(日) 仙台 MACANA -虎編-
06/23(土) 札幌 DUCE SAPPORO -ネオン編-
06/24(日) 札幌 DUCE SAPPORO -虎編-
06/29(金) 大阪 UMEDA CLUB QUATTRO -ネオン編-
06/30(土) 大阪 UMEDA CLUB QUATTRO -虎編-
07/05(木) 東京 EX THEATER ROPPONGI -ネオン編-
07/06(金) 東京 EX THEATER ROPPONGI -虎編-
07/14(土) 名古屋 CLUB QUATTRO -ネオン編-
07/15(日) 名古屋 CLUB QUATTRO -虎編-

uP!!! SPECIAL ライブナタリー
04/19(木) TSUTAYA O-EAST

rockin’on presents JAPAN JAM
05/04(金)~ 05/06(日)
千葉市蘇我スポーツ公園

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